不動産会社のインボイス対応は、居住用の家賃は非課税でインボイスが関係しない一方、事業用の家賃・駐車場・仲介手数料・管理料は課税で、相手が課税事業者ならインボイスを求められる、という区分から始めます。2026年10月1日からは、免税事業者からの仕入れに使える経過措置が80%から70%に下がり、2割特例も2026年9月30日を含む課税期間で終わります。この記事では、取引ごとの課税・非課税、大家・仲介会社・管理会社それぞれの対応、経過措置と特例の期限を、国税庁の資料と条文で確かめた範囲で説明します。
インボイス制度の基本
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、2023年10月1日から始まった消費税の仕入税額控除のしくみです。買い手が仕入税額控除を受けるには、原則として、売り手が交付したインボイス(適格請求書)と、一定の事項を記載した帳簿の両方を保存する必要があります。
インボイスに必要な6つの記載事項
消費税法57条の4第1項は、インボイスの記載事項を次のように定めています。
- インボイス発行事業者の氏名または名称と登録番号
- 取引の年月日
- 取引の内容(軽減税率の対象であればその旨)
- 税率ごとに区分した対価の額の合計額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付を受ける事業者の氏名または名称
小売業・飲食店業・タクシー業・駐車場業(不特定かつ多数の者に対するもの)などは、6の宛名を省いた簡易インボイス(適格簡易請求書)を交付できます。
登録すると免税事業者ではなくなる
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし国税庁のタックスアンサー(No.6501)が示すとおり、インボイス発行事業者の登録を受けている場合は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されません。登録するかどうかは、この納税負担と取引先からの求めを比べて決めることになります。
不動産取引の課税・非課税の区分
インボイスが問題になるのは課税取引だけです。非課税の取引には、インボイスを交付する場面がありません。不動産会社が扱う主な取引を、国税庁のタックスアンサー(No.6201、6213、6225、6226)で確かめた範囲で整理します。
| 取引 | 消費税 | 注意点 |
|---|---|---|
| 住宅の家賃(居住用) | 非課税 | 貸付期間が1か月未満の場合や、旅館業法の旅館業に当たる施設の貸付け(ホテル・貸別荘・民泊など)は非課税になりません |
| 住宅の共益費 | 非課税 | 共用部分の費用を入居者が負担する共益費は家賃に含まれます |
| 事務所・店舗などの家賃 | 課税 | 事業用の建物の貸付けは課税です |
| 住宅に付属する駐車場 | 非課税になる場合あり | 1戸あたり1台分以上が割り当てられ、家賃とは別に駐車場代を取らない場合など |
| 駐車場(区画・舗装・フェンスなどの設備あり) | 課税 | 地面の整備や区画などをして駐車場として使わせる場合は課税です |
| 土地の貸付け(更地) | 非課税 | 貸付期間が1か月未満の場合や、駐車場などの施設として使わせる場合は課税です |
| 敷金・保証金 | 返還する部分は課税の対象外 | 返還しない部分は権利の設定の対価として課税(住宅の場合は非課税) |
| 土地の売買 | 非課税 | 建物部分の売買は、事業者が行えば課税です |
| 仲介手数料 | 課税 | 媒介という役務の提供の対価です |
| 管理料 | 課税 | 管理業務という役務の提供の対価です |
住宅の貸付けかどうかは、契約で用途が「居住用」と明らかにされているかで判断するのが原則です。契約で用途がはっきりしない場合は、貸付けの状況から人の居住に使われていることが明らかなものに限って非課税になります(タックスアンサーNo.6226)。新しく契約書を作るときは、用途欄を空けないようにします。
大家(貸主)の対応
居住用だけを貸している場合
家賃・共益費が非課税なので、借主にインボイスを交付する場面はありません。課税売上がなければ、インボイス発行事業者の登録をする理由は乏しくなります。
事務所・店舗・駐車場も貸している場合
借主が課税事業者で原則課税を選んでいれば、仕入税額控除のためにインボイスを求められます。貸主が登録しない場合、借主は後で説明する経過措置の範囲でしか控除できなくなるため、賃料の交渉や退去の理由になることがあります。登録するかどうかは、事業用の借主が何社あり、それぞれが課税事業者かどうかを確かめてから判断します。
家賃を口座振込で受け取っている場合
毎月請求書を出さない賃貸借では、インボイスの記載事項の一部が書かれた契約書と、取引の年月日などが分かる銀行の振込金受取書などをあわせて保存すれば、借主は仕入税額控除の要件を満たせます(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問95)。2023年10月1日より前に結んだ契約で登録番号などが書かれていない場合は、不足している事項を別に通知し、契約書と一緒に保存してもらえば差し支えない、とされています。
借主の側は、貸主が登録をやめていないかを、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確かめておく必要があります。
仲介会社の対応
受け取る仲介手数料
仲介手数料は課税なので、依頼者が課税事業者であれば、インボイスを求められます。売買の売主が個人で事業者でない場合でも、仲介会社が受け取る手数料は課税です。請求書や領収書の様式を、6つの記載事項がそろう形にしておきます。
2026年10月1日から変わった点が1つあります。国税庁の「令和8年4月 消費税法等の改正」のパンフレットによると、非居住者に対して行う、国内にある不動産の売買・交換・貸借の代理や媒介は、相手の居住地にかかわらず課税の対象とされ、輸出免税の対象外になりました。2026年10月1日以後に行う取引から適用されます。海外在住の売主・貸主から依頼を受けている会社は、請求の扱いを見直してください。
支払う側:紹介料や業務委託費
他社や個人に紹介料や業務委託費を払う場合、相手が登録していなければインボイスは受け取れません。この場合も、経過措置の範囲では控除できます。支払いの前に、相手の登録番号を公表サイトで確かめる流れを作っておきます。
販売用の建物を個人から買い取る場合
宅地建物取引業者が、インボイス発行事業者でない者から販売用の建物を購入する取引は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引に入っています(タックスアンサーNo.6496)。この場合、帳簿への記載事項が通常と異なるため、国税庁のQ&Aで確認してから記帳します。
管理会社の対応
管理料の請求
オーナーから受け取る管理料は課税です。オーナーが課税事業者(事業用物件を持つ法人など)であれば、管理料のインボイスを求められます。毎月の送金明細で管理料を差し引いている場合は、その明細をインボイスとして使えるよう、6つの記載事項がそろっているかを確かめます。ウルスタくんのオーナーへの送金明細のように管理料・修繕費を差し引いた明細を出している場合も、登録番号や税率ごとの消費税額が載っているかを、自社の様式で照らし合わせてください。
事業用家賃の集金を代行している場合
事業用の家賃は、本来は貸主(オーナー)がインボイスを交付します。管理会社が請求と集金を代行している場合は、「媒介者交付特例」(消費税法施行令70条の12)を使うと、管理会社が自社の名称と登録番号でインボイスを交付できます。国税庁のQ&Aでは、請求書の発行事務や集金事務だけを委託している場合も対象になるとしています。
要件は次の2つです。
- オーナー(委託者)と管理会社(受託者)が、どちらもインボイス発行事業者であること
- オーナーが管理会社に、自分が登録を受けている旨を取引の前までに通知していること(管理委託契約に登録番号を書く方法でもよい)
管理会社は、交付したインボイスの写しを保存し、その写しを速やかにオーナーに渡す必要があります。件数が多い場合は、精算書などで代えることもできますが、その精算書の写しも保存します。
修繕業者・清掃業者からの請求
工事や清掃の発注先が登録していない場合、その費用の消費税は経過措置の範囲でしか控除できません。オーナーに立て替え分として請求するのか、自社の仕入れとして処理するのかで、誰が控除するかが変わります。管理委託契約の精算条項とあわせて整理しておきます。
経過措置は2026年10月から70%に
インボイス発行事業者でない者(免税事業者や消費者など)からの課税仕入れは、本来は仕入税額控除ができません。ただし経過措置として、一定の割合を控除できます。令和8年度の税制改正で割合と期間が見直され、国税庁のQ&Aでは次のとおりとされています。
| 課税仕入れを行った期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 仕入税額相当額の80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 仕入税額相当額の70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 仕入税額相当額の50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 仕入税額相当額の30% |
| 2031年10月1日以後 | 控除できない |
1つの相手からの仕入れには上限がある
1つの免税事業者等からの、経過措置の対象となる課税仕入れの合計額(税込み)が一定額を超えると、超えた部分には経過措置を使えません。国税庁のQ&Aでは、2024年10月1日から2026年9月30日までの課税期間は10億円、2026年10月1日以後の課税期間は1億円とされています。大規模な工事を同じ免税事業者に続けて発注する場合は、この上限に注意します。
帳簿に書くこと
経過措置を使うには、区分記載請求書と同じ記載事項を備えた請求書等を保存し、帳簿には通常の記載事項に加えて、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を書く必要があります。国税庁のQ&Aでは「80%控除対象」「免」といった記載例が示されています。2026年10月1日をまたぐ月は、どちらの割合を使う取引かが帳簿で分かるようにしておきます。
仮の数字で計算例を示します
以下は説明のための仮の数字です。免税事業者の内装業者に、2026年10月に税込み110,000円の工事を発注したとします。消費税相当額は110,000円×10/110=10,000円です。経過措置の割合は70%なので、控除できるのは10,000円×70%=7,000円です。同じ工事を2026年9月に発注していれば、80%で8,000円でした。
2割特例・3割特例・簡易課税・少額特例の期限
| 制度 | 使える事業者 | 期限 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 免税事業者がインボイス登録をしたことで課税事業者になった事業者など | 2026年9月30日を含む課税期間まで |
| 3割特例 | インボイス登録で免税事業者から課税事業者になった個人事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下) | 2027年分・2028年分 |
| 簡易課税 | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、届出をした事業者 | 期限なし(届出は原則として適用を受ける課税期間の初日の前日まで) |
| 少額特例 | 基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者 | 2023年10月1日〜2029年9月30日の課税仕入れ |
2割特例は法人も個人も同じ時期に終わる
2割特例は、納付する消費税額を売上の消費税額の2割にできる制度です。国税庁の令和8年度税制改正特集では、2026年9月30日を含む課税期間までとされています。3月決算の法人なら、2026年4月1日から2027年3月31日までの事業年度が最後です。
個人事業者については、2027年分と2028年分に、納付税額を売上の消費税額の3割にできる「3割特例」が設けられました。適用を受けるには、確定申告書にその旨を付記します。法人には3割特例はありません。
簡易課税では不動産業は第6種
簡易課税では、売上の消費税額にみなし仕入率を掛けて仕入税額を計算します。不動産業は第6種でみなし仕入率は40%です(タックスアンサーNo.6505)。一度選ぶと、原則として2年間はやめられません。
仮の数字で比べます。課税売上(税抜き)が800万円で、売上の消費税額が80万円の仲介会社だとします。2割特例なら納付額は80万円×20%=16万円、簡易課税なら80万円×(1−40%)=48万円です。2割特例が終わったあとに簡易課税か原則課税かを選ぶときは、実際の経費の内訳で両方を計算して比べてください。
少額特例
税込み1万円未満の課税仕入れであれば、インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる特例です。1万円未満かどうかは、1回の取引の金額で判定します。鍵の交換部材や消耗品など、細かい購入が多い会社には関係が深い特例です。
いま確認しておきたいこと
- 賃貸借契約書の用途欄が、居住用・事業用のどちらか分かる書き方になっているか。
- 事業用の借主・駐車場の借主に、登録番号を通知しているか(2023年10月より前の契約を含む)。
- 仲介手数料・管理料の請求書や送金明細に、6つの記載事項がそろっているか。
- 海外在住の依頼者からの仲介手数料を、2026年10月1日以後は課税で処理しているか。
- 集金代行をしている事業用物件で、媒介者交付特例の要件(双方の登録・事前の通知・写しの保存と交付)を満たしているか。
- 支払先の登録番号を公表サイトで確かめ、免税事業者からの仕入れを帳簿で区別しているか。
- 2026年10月1日以後の免税事業者からの仕入れを、70%で計算しているか。
- 2割特例を使ってきた場合、次の課税期間に簡易課税と原則課税のどちらを選ぶかを、届出の期限までに決めたか。
税額の計算や届出の判断は、顧問の税理士に確認してください。この記事は制度の全体像をつかむためのものです。
よくある質問
Q1. 居住用のアパートだけを貸している大家も登録が必要ですか?
居住用の家賃・共益費は非課税なので、借主にインボイスを交付する場面はありません。登録すると基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務が生じるため、課税売上がほとんどない場合は登録の必要性は低くなります。ただし、課税の駐車場や事業用の区画がある場合は別に検討します。
Q2. 2026年10月1日から何が変わりましたか?
免税事業者等からの仕入れの経過措置が80%から70%になり、1つの相手からの仕入れの上限が1億円になりました。また、非居住者に対する国内不動産の媒介などが課税の対象になりました。2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わります。
Q3. 法人でも3割特例は使えますか?
使えません。3割特例は個人事業者を対象とした制度で、2027年分と2028年分に限られます。法人は、2割特例の終了後は簡易課税か原則課税で計算します。
Q4. 管理会社の名前でオーナーの家賃のインボイスを出せますか?
オーナーと管理会社の双方がインボイス発行事業者で、オーナーが登録を受けている旨を事前に通知していれば、媒介者交付特例により管理会社の名称と登録番号で交付できます。交付したインボイスの写しの保存と、オーナーへの写しの交付が必要です。
Q5. 敷金から差し引く原状回復費用は課税ですか?
敷金のうち返還する部分は課税の対象外です。一方、原状回復の工事を業者に発注した費用は、工事という役務の対価なので、発注した側にとって課税仕入れになります。借主に負担を求める金額の扱いは、契約の内容によって異なるため、税理士に確認してください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「消費税法」(第6条、第57条の4、別表第二)
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」(経過措置、2割特例、3割特例)
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問95(口座振替・口座振込による家賃の支払)
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」適格請求書の交付方法(媒介者交付特例)
- 国税庁「令和8年4月 消費税法等の改正」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6226「住宅の貸付け」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6225「地代、家賃や権利金、敷金など」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6213「駐車場の使用料など」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6501「納税義務の免除」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6505「簡易課税制度」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
