令和8年8月31日、国土交通省が「建築着工統計調査報告(令和8年7月分)」を公表しました。新設住宅着工は前年同月比8.2%の増加。持家・貸家・分譲住宅がそろって増えています。ただし同じ発表資料は、季節調整済年率換算値では前月比1.6%の減少とも書いています。そして同日の参考資料「新築に関する住宅投資予定額の推計について」を開くと、貸家の投資予定額は4,577億円・前年同月比19.2%増。戸数は10.0%増なのに、金額は19.2%増えています。差の8.3%は、1戸あたりの工事費予定額が1,401万円から1,517万円へ上がった分です。
8月31日に出たのは、着工の月次と投資の年度見通しの2本です
令和8年8月31日、国土交通省の報道発表に不動産の実務へ効く資料が2本並びました。どちらも総合政策局情報政策課建設経済統計調査室が出しています。同じ日に同じ部屋から出ているのに、見ている時間の幅が違います。
| 資料 | 見ているもの | 時間の幅 |
|---|---|---|
| 建築着工統計調査報告(令和8年7月分) | 建築工事届が出た戸数・床面積・工事費予定額 | 令和8年7月の1か月 |
| 令和8年度(2026年度)建設投資見通し | 全建設活動の出来高ベースの投資額の推計 | 令和8年度の1年 |
着工統計は届出の集計で、速報性が高いかわりに完成までの間にずれます。建設投資見通しは「1年でどれだけの工事が実際に進むか」の推計です。前者は入口の数、後者は流れの量。混ぜると話が合わなくなります。
【要点】3つの数字と、3つの読み違え
| 数字 | 中身 | やりがちな読み違え |
|---|---|---|
| 8.2%増 | 令和8年7月の新設住宅着工戸数の前年同月比(66,439戸) | 「住宅着工が回復した」とまでは言えません。同じ資料に季節調整済年率換算値で前月比1.6%減と書いてあります |
| 19.2%増 | 貸家の住宅投資予定額4,577億円の前年同月比 | 貸家が19.2%「多く建った」わけではありません。戸数は10.0%増で、残りは1戸あたりの値段です |
| 1,517万円 | 令和8年7月の貸家1戸あたりの工事費予定額 | 建物の工事費で、土地代は入っていません。また着工時の届出額であって、完成時の金額ではありません |
この3つを押さえておけば、社内でこの報道を共有するときに事故が起きません。とくに2つめは、記事の見出しが「貸家の投資額19.2%増」と正しく書いていても、伝言のあいだに「貸家が19.2%増えた」に化けます。戸数と金額は、別のものを数えています。
令和8年7月の数字を、そのまま並べます
加工前の数字を置きます。出典は同日公表の参考資料「新築に関する住宅投資予定額の推計について」です。戸数・1戸あたり工事費予定額・投資予定額の3つが同じ表に載っているのは、この参考資料だけです。
| 利用関係 | 令和7年7月 着工戸数 | 令和8年7月 着工戸数 | 令和8年7月 1戸あたり工事費予定額 | 令和8年7月 投資予定額(前年同月比) |
|---|---|---|---|---|
| 貸家 | 27,412戸 | 30,164戸 | 1,517万円 | 4,577億円(19.2%増) |
| 持家 | 17,665戸 | 17,730戸 | 3,186万円 | 5,648億円(3.9%増) |
| 分譲住宅 | 15,886戸 | 18,208戸 | 2,580万円 | 4,787億円(46.1%増) |
| うち分譲マンション | 5,971戸 | 7,448戸 | 3,837万円 | 2,858億円(81.3%増) |
| うち分譲戸建て | 9,709戸 | 10,578戸 | 1,803万円 | 1,908億円(13.3%増) |
| 給与住宅 | 446戸 | 337戸 | 2,579万円 | 87億円(1.2%増) |
| 総計 | 61,409戸 | 66,439戸 | — | 15,099億円(19.5%増) |
総戸数は61,409戸から66,439戸で8.19%の増加(本稿の計算)。報道発表の「8.2%の増加」と一致します。ここまでは資料のとおりです。
問題は、戸数の伸びと金額の伸びが、どの利用関係でも一致していないことです。貸家は戸数10.0%増に対して金額19.2%増。分譲マンションは戸数24.7%増に対して金額81.3%増。金額のほうが必ず大きい——ここに読み方の分かれ目があります。
貸家の19.2%を、戸数と単価に分けます
参考資料の脚注に、推計の式がそのまま書かれています。「住宅投資予定額」=住宅着工統計の統計表第34表「1戸あたり工事費予定額」×「新設住宅着工戸数」。つまり金額は、戸数と単価の掛け算です。分けられます。
掛け算で戻ります
| 要素 | 令和7年7月 | 令和8年7月 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 貸家 着工戸数 | 27,412戸 | 30,164戸 | 1.1004倍(10.04%増) |
| 貸家 1戸あたり工事費予定額 | 1,401万円 | 1,517万円 | 1.0828倍(8.28%増) |
| 掛け合わせ | 3,840億円 | 4,577億円 | 1.1915倍(19.15%増) |
1.1004×1.0828=1.1915。資料に載っている19.2%増と一致します(すべて本稿の計算で、資料にこの分解はありません)。増えたぶんの半分近くは、部屋が増えたのではなく、1部屋あたりの値段が上がった分です。
寄与は54.6%と45.4%です
掛け算の寄与を対数で分けると、戸数の寄与が54.6%、単価の寄与が45.4%になります(本稿の計算)。もうひとつの見方として、もし単価が前年のまま1,401万円だったなら、30,164戸でも投資予定額は4,226億円にしかなりません。実際は4,577億円ですから、351億円が単価上昇による上乗せです。
社内の会話で言えばこうです。「7月は貸家の着工が1割増えました」は正しい。「貸家の市場が2割伸びました」は半分だけ正しい——後者は、値段が上がったことも「伸び」に数えています。
利用関係によって、増え方の中身がまるで違います
同じ「増えた」でも、持家と貸家では起きていることが違います。並べると、はっきりします(増減率はすべて本稿の計算)。
| 利用関係 | 戸数の伸び | 1戸あたり工事費の伸び | 投資予定額の伸び |
|---|---|---|---|
| 持家 | +0.37% | +3.54% | +3.9% |
| 貸家 | +10.04% | +8.28% | +19.2% |
| 分譲戸建て | +8.95% | +3.98% | +13.3% |
| 分譲マンション | +24.74% | +45.34% | +81.3% |
| 給与住宅 | -24.44% | +33.97% | +1.2% |
持家は、戸数がほとんど動いていません。17,665戸から17,730戸で、65戸の差です。金額が3.9%増えているのは、ほぼ単価の話です。
給与住宅は、戸数が24.4%減ったのに金額が1.2%増えています。単価が34.0%上がって、減った戸数を打ち消しました。ただし337戸です。大きな社宅が1件着工しただけでこうなります。
分譲マンションの単価は45.3%上がっています
7月でいちばん大きく動いたのは分譲マンションです。1戸あたりの工事費予定額が2,640万円から3,837万円へ、45.34%の上昇(本稿の計算)。戸数の24.74%増と掛け合わせると1.812倍、資料の81.3%増と一致します。
ただし、この数字はそのまま「マンションの建築費が45%上がった」とは読めません。国土交通省自身が、建築着工統計の「利用上の注意」にこう書いています。
「前年に大きなプロジェクトなどの大規模工事が着工されたりすると、その影響で伸び率が小さくなったりすることがある」。逆も同じです。月次の分譲マンションは7,448戸しかありません。都心の高額物件が1棟入れば、平均単価は跳ねます。
令和7年度の分譲マンション1戸あたり工事費予定額は2,731万円でした。7月の3,837万円とは40%以上開いています。月次の単価は、年度の水準と比べてから使ってください。
令和7年度の貸家は、戸数13.5%減で投資額6.5%減でした
月次から離れて、年度で見ます。同じ参考資料に年度次の表が載っています。貸家に絞ると、こうです。
| 年度 | 着工戸数 | 1戸あたり工事費予定額 | 投資予定額 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 330,752戸 | 1,024万円 | 33,885億円 |
| 令和4年度 | 347,427戸 | 1,100万円 | 38,227億円 |
| 令和5年度 | 340,431戸 | 1,205万円 | 41,036億円 |
| 令和6年度 | 357,074戸 | 1,299万円 | 46,401億円 |
| 令和7年度 | 308,906戸 | 1,405万円 | 43,386億円 |
令和6年度から令和7年度にかけて、貸家の着工戸数は13.49%減りました(本稿の計算)。ところが投資予定額は6.50%減にとどまっています。単価が8.16%上がって、減った戸数の半分以上を打ち消したからです。
0.8651×1.0816=0.9357。減り方が6.4%になります(本稿の計算。資料の▲6.5%と一致します)。
金額ベースの統計を見ていると「貸家市場は微減」に見えます。しかし現場で動いている戸数は1割以上減っています。管理受託の新規供給や新築時の仲介の母数は、金額ではなく戸数のほうです。
1戸あたりの工事費は、4年で37.2%上がっています
貸家の1戸あたり工事費予定額を、年度で並べ直します。
| 年度 | 1戸あたり工事費予定額 | 前年度からの上昇率 |
|---|---|---|
| 令和3年度 | 1,024万円 | — |
| 令和4年度 | 1,100万円 | +7.42% |
| 令和5年度 | 1,205万円 | +9.55% |
| 令和6年度 | 1,299万円 | +7.80% |
| 令和7年度 | 1,405万円 | +8.16% |
| 令和8年7月(単月) | 1,517万円 | — |
令和3年度から令和7年度で37.21%、令和8年7月の単月と比べると48.14%の上昇です(いずれも本稿の計算)。4年連続で7%台から9%台の上昇が続いていて、下がった年が1度もありません。
ここは、オーナーとの会話でいちばん外れやすいところです。令和3年ごろの実績を「うちの相場」として持っているオーナーは、いまの見積りを見て「ふっかけられている」と受け取ります。全国平均で5割近く上がっている、という前提を先に置かないと話が進みません。
「工事費予定額」に何が入っているのかを確かめます
1,517万円という数字を人に出す前に、これが何の金額なのかを確かめておきます。国土交通省の「建築着工統計調査」用語の定義に、そのまま書かれています。
定義に書いてあるのは、主体工事費と建築設備です
「建築工事に要する予定額であって主体工事費及び建築設備(建築基準法第2条第3号の定義によるもの)の工事費を合算したもの」。これが定義の全文です。
土地代は入っていません。建築工事の予定額なので、当然です。設計料や外構がどう扱われるかは、この定義文には書かれていません。本稿は、書かれていないことを断定しません。オーナーに出す資料では「建物の工事費で、土地代は含みません」までにとどめるのが安全です。
着工した月に、全額が計上されます
利用上の注意に、こう書かれています。「この統計では、建築物の床面積や工事費予定額は着工月に全額計上される」。工期に応じて按分されません。だから、7月の15,099億円は「7月に15,099億円ぶんの工事が進んだ」ではなく「7月に着工した工事の総額が15,099億円」という意味です。
同じ理由で、この統計は出来高ベースの建設投資見通しとは足し引きできません。数え方が違う2つの資料が、同じ日に出ています。
届出時点の予定額なので、完成時とは異なります
もうひとつ、利用上の注意にこうあります。「建築着工統計調査の工事費予定額はあくまで建築工事届け時点の予定額であり、完成した時点では工事額が異なることが多い」。実績をとらえるには補正調査の結果を使う必要がある、とも書かれています。
つまり1,517万円は、着工時点の見込みです。資材価格や労務費が動けば、完成時は上にも下にも振れます。上振れのほうを見ておくのが実務的です——ただし、それは本稿の見立てであって、資料に書かれていることではありません。
あわせて、床面積10㎡以下の建築物は統計に含まれていません。
「8.2%増」と「前月比1.6%減」が同時に出ている理由
報道発表の1行目と2行目は、こうです。「全体で前年同月比8.2%の増加となった。また、季節調整済年率換算値では前月比1.6%の減少となった」。並んで書かれています。矛盾していません。前者は去年の7月と比べた数字、後者は今年の6月と比べた数字です。
| 指標 | 比べている相手 | 7月の結果 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| 前年同月比(原数値) | 令和7年7月 | 8.2%増 | 季節変動を避けて、1年前と比べる |
| 季節調整済年率換算値の前月比 | 令和8年6月 | 1.6%減 | 足元の勢いを見る |
国土交通省は、利用上の注意でこう説明しています。「一般に建築工事は梅雨明けの夏から秋に着工が集中し、寒冷地では秋以降着工が減少するなど統計数値は季節によって変動があるため、原数値の前月比を利用することは問題がある」。だから前年同月比を使い、足元は季節調整値で見る——という設計です。
参考資料の月次表を見ると、令和7年7月の住宅投資予定額は前年同月比3.8%減でした。低かった月と比べれば、伸び率は大きく出ます。8.2%増は「勢いがついた」ではなく「去年の7月が低かった」という読み方も同じだけ成り立ちます。
社内共有では、「1年前より8.2%多い。ただし先月より勢いは落ちている」で足ります。片方だけ切り取ると、次の月に説明が破綻します。
オーナー提案に落とすと、月3.29万円の話になります
1,517万円という単価を、賃料に翻訳してみます。建物の工事費だけを分母にして、表面利回りを置いた試算です(本稿の計算。土地代・諸費用・空室・経費を含みません)。
| 1戸あたり工事費 | 利回り6%なら | 利回り8%なら | 利回り10%なら |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 1,024万円 | 月5.12万円 | 月6.83万円 | 月8.53万円 |
| 令和7年度 1,405万円 | 月7.02万円 | 月9.37万円 | 月11.71万円 |
| 令和8年7月 1,517万円 | 月7.58万円 | 月10.11万円 | 月12.64万円 |
利回り8%で置くと、令和3年度は月6.83万円で成立していた計算が、いまは月10.11万円必要になります。差は月3.29万円です。
これは正確な事業収支ではありません。土地代も空室率も運営経費も入っていません。使い方は1つだけ——「工事費が上がったぶん、賃料がどれだけ上がらないと同じにならないか」を桁で示すためです。
この3.29万円が地域の家賃相場で吸収できるかどうかが、そのままオーナーの判断になります。吸収できない地域では着工しない。令和7年度に貸家着工が13.5%減ったことの、少なくとも一部はこれです(因果は資料に書かれていません。本稿の見立てです)。
新築が止まっても、改修の投資は伸びています
同じ8月31日に出たもう1本、令和8年度建設投資見通しを開きます。ここに、新築が減ることの裏側が載っています。
| 項目 | 2024年度 (実績見込み) | 2025年度 (見込み) | 2026年度 (見通し) |
|---|---|---|---|
| 民間住宅建築投資 | 176,900億円 | 176,900億円 (0.0%) | 180,200億円 (+1.9%) |
| 民間建築補修(改装・改修)投資 | 120,500億円 | 141,500億円 (+17.4%) | 145,900億円 (+3.1%) |
| 民間非住宅建築投資 | 111,700億円 | 113,400億円 (+1.5%) | 123,200億円 (+8.6%) |
2025年度、民間住宅建築投資は横ばい(0.0%)でした。同じ年、民間の建築補修投資は17.4%増えています。そして2026年度の見通しは、民間建築補修が14兆5,900億円。民間住宅建築投資18兆200億円の80.97%にあたる規模です(本稿の計算)。
ここでいう建築補修(改装・改修)投資は、建設投資見通しの注記によれば「建築補修工事のうち、民間の改装・改修工事に該当する投資額を推計したもの」です。原状回復、設備更新、共用部の改修——賃貸管理会社が日々発注しているものです。
新築の着工戸数が減っても、既存ストックに手を入れる仕事は減っていません。むしろ、新築より速く伸びた年があります。
令和8年度の建設投資見通しは81兆4,700億円です
全体の規模も置いておきます。2026年度の建設投資は81兆4,700億円、2025年度比2.9%増の見通しです。内訳は政府投資26兆6,000億円(構成比33%)、民間投資54兆8,700億円(構成比67%)。昭和35年度から毎年度つくられている推計です。
2026年度の伸び率は「令和8年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(令和8年1月23日閣議決定)および「令和8(2026)年度内閣府年央試算」(令和8年7月30日)の指標から算定されている、と注記されています。
つまり見通しの数字は、政府の経済前提を置いた推計です。前提が変われば動きます。実績ではありません——この一言を添えずに社外資料へ載せると、あとで説明に困ります。
段取りに落とすと、変わるのは3か所です
ここまでの数字を、実際の作業に落とします。増えるのは3か所だけです。
| 場面 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| オーナーへの建替え・新築提案 | 「全国平均で貸家1戸あたり1,517万円(建物のみ)」を最初に置く | 令和3年度比で48.14%上がっている。過去の実績を相場だと思っているオーナーとの前提差が最大の障害になる |
| 市場資料の作成 | 戸数と金額を、必ず分けて書く | 貸家は戸数10.0%増・金額19.2%増。片方だけ載せると、どちらの向きにも読めてしまう |
| 今期の受注構成の見直し | 改修・設備更新の比重を数字で確認する | 2025年度、民間住宅建築は0.0%、民間建築補修は+17.4%。伸びている側に手が回っているかを見る |
逆に、増やさなくていいことも書いておきます。月次の着工統計を毎月追う必要は、中小の管理会社にはほとんどありません。月次で振れるのは分譲マンションと給与住宅で、どちらも管理会社の受注とは直結しません。年度の数字と貸家の単価だけで足ります。
やりがちな誤解4つ
誤解1:「住宅着工が8.2%増えたので、市場が回復している」。同じ資料に季節調整済年率換算値で前月比1.6%減と書かれています。1年前と比べれば増、先月と比べれば減。どちらも本当です。
誤解2:「貸家の投資が19.2%増えたので、貸家の供給が2割増えた」。戸数は10.0%増です。残りは1戸あたりの工事費が8.28%上がった分で、部屋は増えていません。
誤解3:「1戸1,517万円あれば建つ」。これは建築工事の予定額で、土地代が入っていません。また着工届出時点の見込みで、国土交通省自身が「完成した時点では工事額が異なることが多い」と書いています。
誤解4:「分譲マンションの建築費が45%上がった」。月次の分譲マンションは7,448戸です。大規模なプロジェクトが1件入れば、平均は跳ねます。令和7年度の年度平均は2,731万円です。
今日からできる3つの準備
1つめ。オーナー向けの説明資料に、貸家1戸あたり工事費予定額の年度推移(1,024万円→1,405万円)を1枚入れてください。「値上がりしている」と言うより、4年連続で7〜9%台という並びを見せるほうが早く伝わります。
2つめ。社内で使う市場資料のテンプレートを、戸数欄と金額欄に分けてください。1つの欄に「19.2%増」とだけ書く様式は、次に誰かが読んだ時点で必ず誤読されます。分けて書けば、間違いようがありません。
3つめ。改修・設備更新の売上が、自社の総売上に占める割合を出してください。建設投資見通しでは、民間建築補修が民間住宅建築の80.97%の規模まで来ています。自社の構成比がこれとどれだけずれているかは、それだけで検討材料になります。
よくある質問
Q. 8.2%増と1.6%減は、どちらが正しい数字ですか。
A. どちらも正しく、比べている相手が違います。8.2%増は令和7年7月と比べた原数値の前年同月比、1.6%減は令和8年6月と比べた季節調整済年率換算値の前月比です。同じ発表資料に両方が書かれています。
Q. 1戸あたり工事費予定額に、設計料や外構は入りますか。
A. 用語の定義には「主体工事費及び建築設備の工事費を合算したもの」とだけ書かれています。設計料・外構の扱いは定義文に書かれていないため、本稿は断定しません。正確な内訳が必要な場合は、統計の所管である国土交通省総合政策局情報政策課建設経済統計調査室にご確認ください。
Q. 貸家の着工が減っているのは、建築費が上がったからですか。
A. 資料は理由を書いていません。本稿の利回り試算は、建築費の上昇が賃料でどれだけ吸収される必要があるかを示すだけのもので、因果を証明するものではありません。金利・地価・世帯数など、ほかの要因も同時に動いています。
Q. 建設投資見通しの数字を、そのまま社外資料に載せてよいですか。
A. 2026年度の伸び率は、閣議決定された経済見通しと内閣府の年央試算の指標から算定された推計値です。実績ではありません。載せる場合は「見通し」であることと、その前提を併記してください。
出典
| 本文で使った内容 | 資料 |
|---|---|
| 令和8年7月の新設住宅着工が前年同月比8.2%増、季節調整済年率換算値で前月比1.6%減、民間非居住建築物の増加 | 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年7月分)」(令和8年8月31日) |
| 利用関係別の着工戸数・1戸あたり工事費予定額・住宅投資予定額(月次および年度次)、推計式 | 国土交通省「(参考)新築に関する住宅投資予定額の推計について」 |
| 工事費予定額の定義、利用関係の定義、着工月への全額計上、届出時点の予定額と補正調査、季節調整値の考え方、10㎡以下の除外 | 国土交通省「建築動態統計調査【建築着工統計調査】用語の定義・利用上の注意」 |
| 令和8年度建設投資見通しの公表と作成の目的(昭和35年度から毎年度) | 国土交通省「令和8年度(2026年度)建設投資見通し」(令和8年8月31日) |
| 建設投資81兆4,700億円、政府・民間の内訳、民間住宅建築投資と民間建築補修(改装・改修)投資の投資額と伸び率、経済前提の注記 | 国土交通省「令和8年度(2026年度)建設投資見通し 概要」 |
| 建設投資見通しの公表主体(総合政策局情報政策課建設経済統計調査室)と公表日 | 国土交通省「令和8年度(2026年度)建設投資見通し」記者発表資料 |
| 令和8年8月の報道発表一覧(8月31日に2本が同日公表されていること) | 国土交通省「報道発表資料(2026年8月)」 |
| 土地・不動産・建設業関係の直近の公表状況 | 国土交通省「土地・不動産・建設業関係報道発表資料」 |
書かなかったこと
都道府県別の着工動向を書いていません。今回参照した参考資料は全国計のみです。地域の数字が必要な場合は、e-Statの建築着工統計調査の集計結果を直接ご確認ください。
民間非居住建築物の詳細を書いていません。報道発表は「事務所、店舗、工場、倉庫が増加したため、全体で増加」とだけ書いています。増加率も棟数も確かめていません。
着工戸数が減っている理由を書いていません。金利、地価、世帯数、資材と労務の需給——どれも影響しうる要因ですが、今回の資料はどれについても因果を述べていません。資料が書いていないことを、資料の話として書きません。
建設投資見通しの土木・政府投資の内訳も省きました。概要に数字は載っていますが、賃貸管理と売買仲介の実務からは遠いためです。
最後に、この2本の公表を一行にしておきます。戸数は1割増えた。金額は2割増えた。差は値段が上がった分で、部屋ではありません。そして年度で見れば、貸家の戸数は減り続けています。「増えた」と聞いたときに、戸数の話か金額の話かを聞き返せるかどうか。差はそこに出ます。
本稿は国土交通省の公表資料にもとづく一般的な整理であり、個別の事業収支や投資判断を示すものではありません。実際の判断は、施工会社の見積り・金融機関・税理士等の専門家への確認によってください。賃貸管理と売買仲介の実務はウルスタのコラムで書いています。
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