賃貸管理 読了 17分

孤独死対応マニュアル 賃貸住宅|発見・相続人対応・残置物処理・次の入居者への告知までの実務

賃貸住宅で孤独死が起きたときは、発見、警察への連絡、相続人との手続き、残置物の処理、次の募集での告知という順番と根拠を先に決めておくと慌てずに動けます。国交省の告知ガイドライン、残置物のモデル契約条項、居住サポート住宅の制度をもとに実務を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
孤独死対応マニュアル 賃貸住宅|発見から残置物処理・告知までの実務と国交省ガイドライン
目次

賃貸住宅で孤独死が起きたときは、発見、警察への連絡、相続人との手続き、残置物の処理、次の募集での告知という順番と、それぞれの根拠を先に決めておくと、管理会社が慌てずに対応できます。告知の範囲は国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)が目安になります。残置物は、国土交通省と法務省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を入居時に使っておくと、死亡後の手続きを進めやすくなります。2025年10月には住宅セーフティネット法の改正で「居住サポート住宅」の制度も始まりました。

入居者が亡くなったとき、契約はどうなるか

最初に押さえたいのは、入居者が亡くなっても賃貸借契約は自動的には終わらない、という点です。民法896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。賃借人としての権利と義務も、原則として相続人に引き継がれます。

そのため、契約の解除、部屋の明け渡し、未払い家賃の精算、家財の引き取りは、相続人を相手に進めるのが基本です。管理会社や貸主が自分の判断で部屋の中の物を捨てると、後で相続人から責任を問われるおそれがあります。

相続人の側にも事情があります。相続人は、相続の開始を知った時から3か月以内に、承認するか放棄するかを決めます(民法915条1項)。また、相続人が相続財産を処分すると単純承認とみなされる場合があります(民法921条1号)。相続人が家財の片付けに慎重になるのは、このためです。相続人がいない場合や全員が放棄した場合は、利害関係人などの請求により、家庭裁判所が相続財産の清算人を選びます(民法952条1項)。

場面主な相手根拠・注意点
契約の解除・明け渡し相続人賃借人の地位は相続される(民法896条)
家財(残置物)の引き取り・処分相続人、またはモデル契約条項の受任者貸主が独断で処分しない
相続人が決まらない・いない家庭裁判所が選ぶ相続財産の清算人民法952条1項。時間がかかる前提で動く
未払い家賃・原状回復の費用相続人、連帯保証人、家賃債務保証会社契約書と保証契約の内容で決まる

異変に気づいてから警察に連絡するまで

孤独死は、郵便物がたまる、家賃の引き落としができない、電話がつながらない、近隣から臭いや物音の相談がある、といったきっかけで気づくことが多くなります。どれも単独では決め手になりません。気づいた時点から、日時と事実を記録しておきます。

手順の例

  1. 入居者本人に電話し、つながらなければ訪問してインターホンを押します。応答がない時刻を記録します。
  2. 契約書に書かれた緊急連絡先と連帯保証人に連絡し、最近の様子を聞きます。
  3. 室内で倒れている可能性が高いと判断したら、ためらわずに警察(110番)または救急(119番)に連絡します。生死を管理会社が判断する必要はありません。
  4. 部屋に入るときは、できるだけ警察や緊急連絡先の立ち会いのもとで入ります。
  5. 警察の対応が終わるまで、室内の物には触れません。

立ち入りの根拠を確認しておく

国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)の第16条は、火災による延焼を防ぐ必要がある場合その他の緊急の必要がある場合は、あらかじめ借主の承諾を得ずに立ち入れると定めています。借主の不在時に立ち入ったときは、立ち入った後にその旨を通知しなければならない、という定めもあります。自社の契約書に同じような条項があるかを、平時に確認しておきます。

記録には、連絡した相手と時刻、立ち会った人、部屋に入った時刻、見たことを残します。後で相続人や保証会社に経緯を説明するときの土台になります。

相続人・連帯保証人・緊急連絡先との連絡

警察の対応が終わったら、契約の後始末に移ります。最初の連絡先は、たいてい緊急連絡先か連帯保証人です。ここで、それぞれの立場の違いを整理しておきます。

立場できること・負うこと注意点
相続人賃借人の権利義務を承継する3か月以内に承認か放棄を決める(民法915条1項)
連帯保証人(個人)保証契約の範囲で支払い義務を負う個人の根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2第2項)
緊急連絡先連絡を受け、家族への橋渡しをする緊急連絡先として登録されただけでは、保証人と同じ支払い義務は生じない
家賃債務保証会社保証委託契約の範囲で家賃等を保証する死亡時の扱い、原状回復費用の対象は契約ごとに確認する

緊急連絡先の方に、費用の支払いや片付けを当然のように求めるのは避けます。お願いする場合も、法的な義務ではないことを分かったうえで、相続人につないでもらうよう依頼する形にします。

相続人が分からない場合、戸籍をたどる調査が必要になります。管理会社だけで進めるのは難しいため、早めに弁護士や司法書士に相談します。相続人が見つかっても、全員と連絡が取れるまで時間がかかることがあります。その間の家賃をどう扱うかは、保証会社や貸主と早めに相談しておきます。

残置物の扱いとモデル契約条項

単身の入居者が亡くなったとき、最も時間がかかりやすいのが家財の処理です。相続人に連絡がつかない、相続人が遠方に住んでいる、相続放棄を考えている、といった事情で、部屋を明け渡せない期間が長くなることがあります。

この問題に備えて、国土交通省と法務省は2021年(令和3年)6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しました。入居時に、入居者と受任者の間で次の2つの委任契約を結んでおく仕組みです。

  • 解除関係事務委任契約:入居者が亡くなった後、受任者が賃貸借契約を貸主との合意で解除する代理権と、貸主からの解除の意思表示を受け取る代理権を持ちます。
  • 残置物関係事務委任契約:受任者が部屋に残った家財を処理します。

モデル契約条項の主なポイント

項目モデル契約条項・Q&Aの内容
想定する入居者単身の高齢者(60歳以上の者)。60歳未満の単身者でも、推定相続人がいない、所在が分からないなど、死亡時に残置物を処理すべき者と連絡が取れないと見込まれる場合は、活用が否定されるものではないとされています
受任者推定相続人のいずれか。難しい場合は居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人などの第三者
貸主が受任者になること賃借人の利益を一方的に害するおそれがあるため、避けるべきとされています
管理業者が受任者になること管理業者が転貸人(貸主)の立場にある場合は避けるべき。そうでない場合は直ちに無効とはいえないが、貸主の利益を優先せず、賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要があるとされています
捨てない物(指定残置物)入居者が指定した物は、指定された第三者に送ります
それ以外の物死亡から一定期間(条項の例では3か月)が経ち、かつ賃貸借契約が終了したときに廃棄します。換価できる物は換価に努め、得た金銭は相続人に返します

この仕組みは、入居時に入居者本人の同意を得て結ぶものです。亡くなった後に後から使うことはできません。高齢の単身者を受け入れるときは、入居の申込みの段階で、受任者になってくれる人がいるか、地域の居住支援法人に相談できるかを確認しておきます。

特殊清掃・原状回復と費用の整理

発見までに時間がかかった場合、臭いや汚れを取り除く特殊清掃が必要になることがあります。特殊清掃や大規模なリフォームを行ったかどうかは、後で説明する告知の判断にも関わるため、作業の内容と日付を記録しておきます。

費用を誰が負担するかは、契約書、保証契約、保険、相続の状況によって変わります。一律の答えはありません。実務では次の順で整理します。

  1. 作業前の部屋の状態を写真で残します。
  2. 特殊清掃・原状回復の見積もりを、作業の内訳が分かる形で取ります。可能なら複数の業者から取ります。
  3. 相続人、連帯保証人、保証会社に見積もりを示し、負担の範囲を相談します。
  4. 貸主が加入している保険や、入居者が加入していた保険の補償対象を確認します。
  5. 作業後の写真と明細を保管します。

相続人が相続放棄をした場合、その人に費用を求めることはできません。放棄の手続き中は結論が出るまで待つ必要があるため、貸主には時間がかかる可能性を先に説明しておきます。

次の入居者への告知(国交省ガイドライン)

次の募集で何を告げるかは、国土交通省が2021年(令和3年)10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が目安になります。対象は居住用の不動産です。賃貸借取引について、ガイドラインの考え方を整理すると次のとおりです。

ケース賃貸での扱い(原則)
老衰や持病による病死などの自然死、転倒・誤嚥などの日常生活の中での不慮の死原則として告げなくてもよい
上記の死でも、長期間人知れず放置され、特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合告げる。発覚から概ね3年が経てば、原則として告げなくてもよい
上記以外の死(自死、他殺など)告げる。発生から概ね3年が経てば、原則として告げなくてもよい
隣の住戸や、通常使わない集合住宅の共用部分で発生した死原則として告げなくてもよい
事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案3年が経っても、上記の原則は当てはまらない
借主から事案の有無を聞かれた場合、社会的影響の大きさから把握しておくべき特段の事情があると認識した場合経過期間や死因にかかわらず、告げる必要がある

告げる内容と告げなくてよい内容

告げる場合は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因、特殊清掃等が行われた場合はその旨を告げるとされています。一方で、亡くなった方の氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況などを告げる必要はないとされています。亡くなった方と遺族のプライバシーに配慮するためです。

調査と記録の考え方

ガイドラインでは、仲介を行う宅建業者は、貸主に告知書(物件状況等報告書)などへの記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされています。人の死に関する事案を疑わせる特段の事情がなければ、近隣への聞き込みやインターネットの調査などを自発的に行う義務まではないとされています。

管理会社が自社で募集する場合も、仲介会社に募集を頼む場合も、発生時期、発覚時期、特殊清掃の有無を社内で記録し、告知書に正確に書けるようにしておきます。なお、ガイドラインに沿って対応しても民事上の責任を回避できるものではない、という点もガイドラインに明記されています。迷う事案は弁護士に相談します。

入居時からできる備え

孤独死そのものを管理会社が防ぐことはできません。できるのは、早く気づける仕組みと、亡くなった後の手続きが止まらない仕組みを、入居時に用意しておくことです。

  • 緊急連絡先は、連絡がつく人であることを入居時に確認し、更新のたびに見直します。国土交通省の賃貸住宅標準契約書の記載上の注意でも、緊急連絡先になることの了承や、急病・安否確認などの依頼について、契約時に伝えておくことが望ましいとされています。
  • 単身の高齢者を受け入れるときは、モデル契約条項による委任契約を検討します。
  • 自治体や居住支援法人の見守りの仕組み、民間の見守りサービスがあるかを確認し、入居者に案内できるようにしておきます。
  • 家賃債務保証会社の契約で、死亡時の扱いや原状回復費用が保証の対象になるかを確認しておきます。
  • 貸主に、孤独死に備える保険や特約の有無を確認してもらいます。

筆者は自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さずに自主管理しています。貸主の立場から見ても、受け入れを断るかどうかより、受け入れたときの手順と連絡先が整っているかのほうが判断の材料になります。

ウルスタくんの物件・入居者の管理では、入居者ごとの契約情報や連絡先をまとめて管理できます。更新が近い契約の一覧を見るときに、緊急連絡先の確認もあわせて行う、と社内の手順に書いておくと、連絡先が古いまま残ることを防ぎやすくなります。

住宅セーフティネット法の改正と居住サポート住宅

2024年(令和6年)6月5日に公布された改正住宅セーフティネット法が、2025年(令和7年)10月1日に施行されました。国土交通省の資料では、貸主が高齢者などの入居に不安を持つ理由として、孤独死や残置物処理、家賃滞納への懸念が挙げられています。改正の主な内容は次のとおりです。

改正の内容概要
居住サポート住宅(居住安定援助賃貸住宅)居住支援法人等が、要配慮者のニーズに応じて、安否確認、見守り、適切な福祉サービスへのつなぎを行う住宅。市区町村長(福祉事務所設置)等が認定します
残置物処理居住支援法人の業務に、入居者からの委託に基づく残置物処理が加わりました
終身建物賃貸借賃借人の死亡時まで更新がなく、死亡時に終了する賃貸借。認可の手続きが住宅ごとから事業者単位に簡素化されました
認定家賃債務保証業者要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国土交通大臣が認定します

地域の居住支援法人は、都道府県知事が指定しています。どの法人がどの地域で活動しているかは、所在地の都道府県に確認します。高齢の単身者の相談を受けたときに紹介できる先を、平時に調べておくと動きやすくなります。

よくある質問

Q1. 室内で病死した方がいた部屋は、次の入居者に告げる必要がありますか。

国土交通省のガイドラインでは、老衰や持病による病死などの自然死は、原則として告げなくてもよいとされています。ただし、長期間放置されて特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合は告げる対象になり、賃貸では発覚から概ね3年が目安です。借主から聞かれた場合は、期間や死因にかかわらず告げる必要があるとされています。

Q2. 相続人と連絡がつかない間に、家財を処分してもよいですか。

貸主や管理会社の判断だけで処分するのは避けます。家財は相続人が承継するのが原則です(民法896条)。入居時にモデル契約条項による委任契約を結んでいれば、受任者が処理できます。結んでいない場合は、弁護士に相談し、相続人の調査や相続財産の清算人の選任(民法952条1項)を含めて進め方を決めます。

Q3. 緊急連絡先の親族に、原状回復費用を請求できますか。

緊急連絡先として登録されているだけでは、連帯保証人と同じ支払い義務は生じません。その方が相続人や連帯保証人でもある場合は、それぞれの立場で話をします。どの立場で連絡しているのかを、相手に分かるように伝えます。

Q4. 60歳未満の入居者にもモデル契約条項は使えますか。

モデル契約条項が想定するのは60歳以上の単身者です。ただし国土交通省のQ&Aでは、60歳未満の単身者でも、推定相続人がいない、所在が分からないなど、死亡時に残置物を処理すべき者と連絡が取れないと見込まれる場合は、活用が否定されるものではないとされています。

Q5. 自社で貸主をしている物件でも、ガイドラインに従う必要がありますか。

ガイドラインは宅建業者の義務についての判断基準を示したものです。自ら貸主として貸す場合でも、仲介会社に募集を頼むときは告知書で情報を正確に伝える必要があります。また、ガイドラインに沿っても民事上の責任を回避できるものではないとされているため、判断に迷う事案は弁護士に相談します。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

実務に役立つコラムを、週1回メールで

賃貸管理・反響対応・法改正の記事を、月曜の朝を目安にお届けします。無料。いつでも解除できます。登録の前に、確認のメールを1通お送りします。