不動産会社の業務改善 読了 14分

契約書チェックに生成AIを使う範囲|宅建業法37条の記載事項の点検表と弁護士法72条との線引き

契約書のチェックに生成AIを使うなら、37条の記載事項がそろっているか、重要事項説明書と食い違いがないかといった点検の補助にとどめます。条項の有効性の判断や紛争への見解は人が行い、必要に応じて弁護士に相談します。点検表と手順を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
契約書チェックにAIを使う範囲|37条書面の点検表と弁護士法72条の線引き
目次

契約書のチェックに生成AIを使うなら、宅建業法37条の記載事項がそろっているか、重要事項説明書と食い違いがないかといった「点検」の補助にとどめ、条項が有効かどうかの判断や紛争への見解は人が行い、必要に応じて弁護士に相談します。弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件について鑑定などの法律事務を扱うことを業とすることを禁じており、生成AIを使っても、この線引きは変わりません。この記事では、生成AIに頼める範囲と頼めない範囲、37条書面の点検表、特約や保証の確認、入力時の注意を、法令と国の資料にもとづいて整理します。

生成AIに頼める点検と頼めない判断

生成AIは、長い文書から項目を探したり、2つの文書の違いを挙げたりする作業を手早くこなします。一方で、出力が正しいかを自分で保証するものではなく、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」も、ハルシネーション(事実と異なる出力)の抑制が課題であることに触れています。契約書のチェックでは、次のように分けて考えます。

区分作業の例扱い
生成AIに頼める点検記載事項の有無の確認、金額や日付の表記の不一致の候補、重要事項説明書との食い違いの候補、自社の雛形との差分、誤字の候補出力は「候補」として扱い、人が原本で確かめる
人が判断すること記載内容の確定、特約を入れるかどうか、相手方への説明宅建士が確かめ、37条書面に記名する
弁護士に相談すること条項の有効性についての見解、紛争になっている案件への対応、相手方の代理人からの主張への回答生成AIの回答で済ませない

生成AIが「問題ありません」と返しても、それは確認が済んだという意味にはなりません。出力が何も指摘しなかった箇所こそ、注記や小さな文字の部分を含めて人が読みます。

弁護士法72条との線引き

条文の要件

弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で、訴訟事件、非訟事件、審査請求などの行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない、と定めています。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は除かれます。

法務省のガイドライン

法務省大臣官房司法法制部は、2023年(令和5年)8月に「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」を、2026年(令和8年)8月21日に「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」を公表しています。どちらも主に、AIを使ったサービスを提供する事業者に向けた整理です。

令和5年のガイドラインは、個別の事案に応じて法的リスクの有無やその程度が表示される場合は「鑑定」などに当たり得る一方、言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示されるにとどまるときは違反しない、という考え方を示しています。また、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合「事件性」がないとの当局の指摘にも触れています。令和8年のガイドラインは、法的紛議が現に顕在化している案件の処理を目指して設計されたサービスの提供は違反となり得ることなどを整理し、同条の解釈・適用は最終的には法と証拠に基づく裁判所の判断に委ねられるとしています。

不動産会社の実務で気をつける場面

不動産会社が自社の媒介する契約の書面を点検するために生成AIを使うことと、他人の法律問題について見解を示すことは、分けて考えます。次のような場面は、生成AIを使うかどうかにかかわらず、72条との関係が問題になり得るため、弁護士に相談します。

  • オーナーと入居者の間で敷金の返還や原状回復の費用について争いになっている案件で、一方の代わりに相手方と交渉したり、法的な見解を示したりすること
  • 顧客から持ち込まれた他社の契約書について、報酬を受けて条項の有効性を判断すること
  • 生成AIの回答を「法的に問題ない」という根拠として顧客に示すこと

どこからが72条の問題になるかは、個別の事情によって変わります。判断に迷う場合は、自社で結論を出さずに弁護士に確かめます。

37条書面(貸借)の点検表

宅建業法37条2項は、宅建業者が建物の貸借の契約を代理又は媒介で成立させたときに、当事者に交付する書面(37条書面)に記載する事項を定めています。37条3項は、この書面に宅地建物取引士が記名することを求めています。当事者の承諾を得て、電磁的方法で提供することもできます(同条5項)。生成AIに点検させるときは、次の表を指示に含めると、出力を照合しやすくなります。

記載事項根拠生成AIに頼める点検人が確かめること
当事者の氏名(法人は名称)及び住所37条2項1号(1項1号)表記の揺れ、申込書との不一致の候補本人確認書類、登記事項との照合
建物を特定するために必要な表示37条2項1号(1項2号)所在、部屋番号、面積の書類間の不一致の候補重要事項説明書、登記、現地との照合
引渡しの時期37条2項1号(1項4号)記載の有無、契約開始日との前後関係鍵の引渡し予定との一致
契約の解除に関する定めがあるときは、その内容37条2項1号(1項7号)解除条項の有無、重要事項説明書の記載との差条項の内容の確定
損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容37条2項1号(1項8号)短期解約違約金などの記載の有無、金額の表記の不一致金額と条件の確定、有効性に疑問があれば弁護士に相談
天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容37条2項1号(1項10号)条項の有無内容の確定
借賃の額並びにその支払の時期及び方法37条2項2号金額、支払日、振込先の書類間の不一致の候補貸主との合意内容との一致
借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的37条2項3号敷金、礼金、共益費などの額・時期・目的の書き漏れの候補精算書、重要事項説明書との一致
宅地建物取引士の記名37条3項記名欄の有無宅建士が内容を確かめて記名する

点検表は法定の記載事項を確かめるためのもので、記載が有効かどうかや、当事者にとって妥当かどうかを判断するものではありません。37条の規定や施行規則は改正されることがあるため、点検表を使う前に e-Gov法令検索で最新の条文を確かめます。

重要事項説明書との突き合わせ

宅建業法35条1項は、契約が成立するまでの間に、宅建士に重要事項を記載した書面を交付して説明させることを求めています。建物の貸借では、同法施行規則16条の4の3に、台所・浴室・便所などの設備の整備の状況、契約期間及び契約の更新に関する事項、用途その他の利用に係る制限、敷金などの精算に関する事項、管理が委託されているときの委託先などが定められています。

重要事項説明書で説明した内容と、37条書面の記載が食い違っていると、説明していない条件で契約したことになりかねません。宅建業法47条1号は、相手方等の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げないことや事実でないことを告げることを禁じています。生成AIには「2つの文書で、賃料、敷金、契約期間、更新、解除、違約金、設備の記載が食い違う箇所を挙げる」と指示し、挙がった箇所を宅建士が原本で確かめます。

特約と保証の確認

連帯保証人の極度額

民法465条の2は、個人が保証人となる根保証契約(個人根保証契約)について、極度額を定めなければ効力を生じないと定めています。個人が賃貸借の連帯保証人になる契約は、賃料などの将来の不特定の債務を保証するため、個人根保証契約に当たると一般に解されています。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)も、頭書に「連帯保証人及び極度額」の欄を設けています。生成AIには極度額の記載の有無を点検させ、金額の決め方は貸主と人が相談します。

原状回復の特約

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)は、賃借人に特別の負担を課す特約の要件として、特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること、賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること、賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること、の3つを挙げています。生成AIには特約の条文を抜き出させ、この3つの点について、説明の記録や署名の位置を人が確かめます。原状回復と敷金の精算は「原状回復と敷金精算」の記事でも整理しています。

消費者契約法に関わる条項

入居者が個人の場合、消費者契約法の適用を受けることがあります。同法10条は、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項であって、民法1条2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とすると定めています。生成AIがこうした条項の可能性を挙げたときは、それを結論として扱わず、雛形を見直すきっかけとして弁護士に相談します。

点検の手順と入力時の注意

入力の前に

個人情報保護委員会は、2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」で、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力する場合は機械学習に利用されないことなどを十分に確認することを求めています。契約書には氏名、住所、勤務先、連帯保証人の情報が含まれます。宅建業法45条の秘密を守る義務もあります。使うサービスの利用規約で、入力内容の学習利用や保存の扱いを確かめ、確かめられない場合は、当事者の情報を「借主A」「保証人B」のように置き換えた版を入力します。

手順の例

  • 自社の雛形と国土交通省の賃貸住宅標準契約書を比べ、雛形の変更点を一覧にしておく(雛形を変えたときだけ行う)
  • 個人情報を置き換えた契約書と重要事項説明書を用意する
  • 37条書面の点検表と突き合わせの指示を入力し、出力を「候補」として受け取る
  • 候補を宅建士が原本で確かめ、出力が指摘しなかった箇所も読み通す
  • 条項の有効性に疑問があるものは、生成AIの回答で済ませず弁護士に相談する
  • 宅建士が記名し、点検で直した箇所と確かめた人を記録する

AI事業者ガイドラインは、AI利用者に向けて、安全を考慮した適正利用(U-2)、個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策(U-4)、提供された文書の活用及び規約の遵守(U-7)などを挙げています。手順を文書にして、担当者ごとの使い方の差を小さくしておきます。

ウルスタくんでは、賃貸借契約書や重要事項説明書など24種の書類を作成し、電子サインで締結まで進められます。物件と入居者の情報から書類を作るため、書類ごとに賃料や敷金を手で書き写す場面が減り、書類間の食い違いを点検する手間を小さくできます。最後に内容を確かめて記名するのは宅建士です。

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 生成AIに契約書の条項が有効かどうかを聞いてもよいですか

社内で論点を整理するために聞くことはできますが、回答を結論として扱わないことが大切です。生成AIの回答は誤りを含むことがあります。顧客の紛争について法的な見解を示す場合は、弁護士法72条との関係が問題になり得るため、弁護士に相談します。

Q2. 37条書面の作成を生成AIに任せてもよいですか

記載漏れの候補を挙げるなどの点検の補助には使えますが、記載内容を確定し、記名するのは宅建士です(宅建業法37条3項)。生成AIの出力をそのまま書面にすることは避けます。

Q3. 生成AIが何も指摘しなかったら点検は終わりですか

終わりではありません。出力が何も挙げなかった箇所に誤りが残ることがあります。特に、注記、小さな文字の部分、別紙、特約欄は人が読み通します。

Q4. 法務省のガイドラインは不動産会社にも関係しますか

法務省のガイドラインは、主にAIを使ったサービスを提供する事業者に向けた整理です。ただし、72条の要件である「報酬を得る目的」「法律事件」「鑑定」などの考え方を知るうえで参考になります。不動産会社が他人の紛争について見解を示す場面では、生成AIを使うかどうかにかかわらず72条を意識します。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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