不動産会社の業務効率化は、業務の棚卸し、法令で人が行う工程の確認、1業務ずつの電子化・自動化、社内への定着、定期的な見直し、の順で進めると失敗しにくくなります。このページは、各段階の進め方を詳しく説明したコラムへの案内と、段階ごとに確かめる法令のチェックポイントをまとめたものです。必要な段階から読み進めてください。
業務効率化の全体の流れ
業務効率化というと、まずシステムを選ぶことを考えがちです。しかし、何に時間がかかっているかが分からないまま選ぶと、使わない機能に費用を払い、肝心の業務は紙のまま、ということが起こります。順番は次のとおりです。
| 段階 | やること | 確かめる法令の例 |
|---|---|---|
| 1. 棚卸しと計画 | 業務を書き出し、頻度と時間、担当者、使う書類を一覧にする | 各業務の根拠条文(宅建業法、賃貸住宅管理業法) |
| 2. 書面の電子化 | 相手方の承諾を得て、書面を電磁的方法で提供する。IT重説を始める | 宅建業法34条の2第11項・35条8項・37条4項5項、賃貸住宅管理業法13条2項・14条2項、電子帳簿保存法7条 |
| 3. 自動化 | 転記・通知・集計を機械に任せ、人の確認を設計する | 宅建業法32条・35条・37条、賃貸住宅管理業法13条・16条・20条 |
| 4. システムの選定と導入 | 要件を決め、試行し、旧運用を止める | 個人情報保護法23条〜28条 |
| 5. 定着と見直し | 担当の分け方、教え方、時間の記録と見直し | 賃貸住宅管理業法12条(業務管理者)、宅建業法の宅建士の工程 |
以下、段階ごとに要点と、詳しく説明したコラムを紹介します。
棚卸しと計画
最初の作業は、業務の一覧づくりです。誰が、どの業務に、月に何回、1回どのくらいかけているかを書き出します。正確に測る必要はなく、1週間ほど各自がおおまかにメモするだけでも、転記の多い業務や、特定の人にしかできない業務が見えてきます。
一覧には、業務ごとの法令の根拠も書き添えます。電子化できる条件や、人が行う必要のある工程を後で確かめるときに使います。
- 棚卸しから3段階で電子化を進める考え方は、中小不動産会社のDXの進め方で説明しています。
- 投資の判断に使う計算の考え方は、DX投資の費用対効果の計算を参考にしてください。
書面の電子化とIT重説
2022年5月18日から、宅建業法の媒介契約書、重要事項説明書、37条書面は、相手方の承諾を得れば電磁的方法で提供できるようになりました。国土交通省の実施マニュアルは、承諾をあらかじめ書面または電子的な方法で得ること、提供するファイルについて改変の有無を確認できる措置を講じることなどを示しています。重要事項説明書と37条書面には、電子でも宅建士の記名が必要です。
IT重説は、国土交通省のマニュアルによると、賃貸取引で2017年10月1日から、売買取引で2021年3月30日から本格運用に移っています。電子契約で取り交わした契約書などの電子取引データは、電子帳簿保存法7条により、電子データのまま保存します。
- 紙の書類を減らす流れの組み立ては、不動産のペーパーレス化の設計で扱っています。
- IT重説の実施手順は、IT重説の実施マニュアルの解説を参照してください。
- 重要事項説明書の書き方は、重要事項説明書のテンプレートでまとめています。
- 電子取引データの保存は、不動産の電子帳簿保存法対応で整理しています。
自動化の設計
自動化は、作業を「機械に任せる」「機械が下書きし人が確認する」「人が行う」の3つに分けることから始めます。宅建士による重要事項説明と記名(宅建業法35条・37条)、業務管理者の管理・監督の下で行う管理受託契約の重要事項説明(賃貸住宅管理業法13条)は、人の工程として残します。広告の掲載を自動で更新する場合も、成約済みの物件や変更された条件を反映しているかの確認が要ります(宅建業法32条)。
- 仕分けの考え方と業務ごとの設計例は、業務自動化のワークフロー設計で説明しています。
- 複数のツールのデータをつなぐ方法は、不動産SaaS連携の進め方を参照してください。
システムの選定と導入
システムを選ぶときは、棚卸しで分かった対象業務に合うかどうかと、やめるときにデータを書き出せるかどうかを確かめます。導入は、経営者と責任者が先に使い、1つのチームで試行し、続けるかどうかを判断してから全社に広げる、という順番が進めやすくなります。
入居者やオーナーの個人データをクラウドサービスに預ける場合は、個人情報保護法25条の委託先の監督が関わります。個人情報保護委員会のQ&A(Q7-53)は、提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合は委託に当たらないとしているため、利用規約や契約条項でどちらに当たるかを確かめます。2026年7月17日に改正個人情報保護法が公布されており、施行に向けた動きにも注意が必要です。
- 選定で確かめる点は、不動産SaaS選定のチェックポイントでまとめています。
- Excelからの移行は、Excelから顧客管理SaaSへのデータ移行を参照してください。
- 試行から旧運用の停止までの進め方と委託先の管理は、SaaS導入の社内浸透の進め方で説明しています。
体制づくりと定着
仕組みを入れても、担当の分け方や教え方が決まっていないと、使い方が人によってばらばらになります。業務ごとに主担当と副担当を決め、手順書だけで新しい人が作業を始められる状態を目指します。
賃貸住宅管理業法12条は、営業所または事務所ごとに業務管理者を選任することを求めており、同法施行規則13条には、業務管理者が管理・監督する事項(13条の説明、14条の書面、金銭の管理、帳簿、定期報告、秘密の保持、苦情の処理など)が並んでいます。担当を分けるときは、これらの事項を業務管理者が確かめられる流れにしておきます。
- 担当の分け方は、主担当・副担当の役割分担の決め方で説明しています。
- 新しく入った人の育て方は、新人賃貸管理スタッフの育成プログラムを参照してください。
- 反響への返信の基準づくりは、反響対応の返信時間の基準づくりで扱っています。
- 賃貸住宅管理業法の全体像は、賃貸住宅管理業法の解説で、法令対応の全体は不動産のコンプライアンス実務でまとめています。
法令のチェックポイント一覧
業務の流れを変えるときに確かめたい条文を、段階に関係なく一覧にしました。変更の前に、該当する行を確かめてください。
| 場面 | 条文 | 確かめること |
|---|---|---|
| 媒介契約書を電子で渡す | 宅建業法34条の2第11項 | 依頼者の承諾を得たか |
| 重要事項説明 | 宅建業法35条1項・4項・5項・8項 | 宅建士が説明し、宅建士証を提示し、記名しているか。電子で提供する場合は承諾を得て宅建士に提供させているか |
| 契約締結時の書面 | 宅建業法37条3項〜5項 | 宅建士の記名があるか。電子の場合は承諾を得たか |
| 広告の自動更新 | 宅建業法32条 | 事実と著しく異なる表示や、著しく優良・有利と誤認させる表示になっていないか |
| 帳簿 | 宅建業法49条 | 事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のつど記載しているか |
| 管理受託契約の重要事項説明 | 賃貸住宅管理業法13条 | 契約締結までに書面を交付して説明しているか。業務管理者の管理・監督の下で行っているか |
| 管理受託契約の締結時書面 | 賃貸住宅管理業法14条 | 遅滞なく交付しているか |
| 家賃・敷金等の管理 | 賃貸住宅管理業法16条 | 自己の財産や他の管理受託契約の金銭と分別して管理しているか |
| オーナーへの定期報告 | 賃貸住宅管理業法20条、同法施行規則40条 | 1年を超えない期間ごとなどに管理業務報告書を交付して説明しているか |
| 電子取引データの保存 | 電子帳簿保存法7条 | 電子で授受した契約書・請求書などをデータのまま保存しているか |
| クラウドに個人データを預ける | 個人情報保護法23条〜26条・28条 | 安全管理措置、従業者の監督、委託先の監督、漏えい等の報告、外国にある第三者への提供 |
つまずきやすい点
段階を追って進めても、次のような点でつまずくことがあります。あらかじめ対策を決めておくと、途中で止まりにくくなります。
| つまずき | 起きること | 対策の例 |
|---|---|---|
| 複数の業務を同時に変える | 問題が起きたときに原因が分からず、紙に戻る | 1つの業務が回ってから次に広げる |
| 相手方の承諾の記録がない | 電子での提供について後から説明できない | 承諾の取り方と保存場所を最初に決める |
| 紙を望む相手方への手順がない | 電子に応じない相手方への交付が遅れる | 紙の書式と交付の手順を残しておく |
| 並行運用に終わりがない | 二重入力が続き、どちらが正しいか分からなくなる | 並行期間の終わりの日と正本を決める |
| 人の確認が形だけになる | 自動で作った書類の誤りに気づけない | 確認する項目を絞り、確認者と日付を記録する |
補助金を使う場合は、国や自治体の制度の名称・要件・対象が年度ごとに変わるため、最新の公募要領で確かめてください。補助の有無にかかわらず、自社の業務に必要かどうかで判断することが大切です。
効果の測り方と見直し
効果は、導入前と導入後で同じ方法で時間を記録して比べます。仮の数字で計算例を示します。1件15分かかる業務が月に20件あれば、月300分、5時間です。電子化の後、確認に1件5分かかるなら月100分で、差は月200分、約3.3時間です。確認の時間を0として計算しないことが、見積もりと実際を近づけるこつです。
時間のほかに、誤りの件数、相手方からの問い合わせの件数、紙に戻した作業の有無も見ると、形だけの電子化に気づけます。法令やガイドラインの改正、書類のひな形の変更があったときは、自動化した工程を一度止めて見直します。
筆者は宅地建物取引士で、自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を自主管理しています。自主管理では一人ひとりが受け持つ業務の幅が広いため、どの業務から手をつけるかを棚卸しで決めることが特に大切だと考えています。
ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、入金の記録、オーナーへの送金明細、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類と電子サイン、募集図面(マイソク)、業者間流通(ウルスタBB)、顧客管理を1つの仕組みで扱えます。段階3と4を検討するときの選択肢の1つとしてご覧ください。
よくある質問
Q1. どの段階から始めればよいですか。
棚卸しがまだなら、まず棚卸しから始めてください。すでに一覧がある場合は、回数が多く、相手方の承諾を得やすい書面の電子化から始めると、手順に慣れやすくなります。
Q2. 少人数の会社でも、段階をすべて踏む必要がありますか。
少人数でも順番は同じですが、各段階を軽くできます。棚卸しは1枚の表で足り、試行のチームは経営者と1人の担当者でもかまいません。法令のチェックポイントは規模に関係なくかかるため、一覧の表は確かめておいてください。
Q3. 電子化と自動化はどちらを先にやるべきですか。
多くの場合、電子化が先です。紙のままでは自動化の材料になるデータがそろわないためです。まず書面とデータを電子にそろえ、その後に転記や通知を自動にすると、無理なく進められます。
Q4. 法令の改正はどう追えばよいですか。
e-Gov法令検索で条文の最新の状態を確かめられます。国土交通省や個人情報保護委員会のサイトで、マニュアルやガイドラインの改訂も公表されています。年に1度、このページの法令チェックポイントの表をもとに、自社の手順書を見直すとよいと思います。
このテーマの記事
「不動産会社の業務改善」の記事のうち、新しいものから並べています。
- 不動産業の倒産が過去10年で最多
- 賃貸物件動画のAI自動生成2026
- カスタマーハラスメント対策義務化2026
- 職場の熱中症対策義務化2026
- 賃貸住宅管理業の立入検査2026
- 賃貸防犯カメラ運用2026|中小不動産会社の個人情報・告知義務
- 業者間ネットワークと業者間流通(BB)の使い方|レインズ登録義務と広告・個人情報
- 不動産の交渉がこじれたときの立て直し方|論点整理・書面化と宅建業法47条の注意点
- 顧客獲得コスト(CAC)の計算式|不動産会社の広告費・人件費の按分と報酬上限で見る採算
- 賃貸オーナー対応の型|定期報告(管理業法20条)と面談で信頼を保つ
- 賃貸管理の問い合わせ対応に生成AIを使う注意点|個人情報・宅建業法・広告表示
- 家賃保証会社の審査で見られる点と通らないときの代替策|登録制度と極度額の実務
- 借地上建物の持分に買取請求権なし|最高裁8月28日判決と仲介の実務
- 不動産開発会社が破産、負債108億円|取引先が倒れた日に管理会社が守るもの
- 賃貸住宅管理業の評価制度2026|国交省有識者会議とりまとめの論点と登録制度の見直し
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第32条・第34条の2・第35条・第37条・第49条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(第12条〜第14条・第16条・第20条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」(第13条・第40条)
- e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(第7条)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第23条〜第28条)
- 国土交通省 報道発表「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。」(2022年4月27日)
- 国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和6年12月版)
- 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」
- 国税庁「電子帳簿保存制度特設サイト 電子取引関係」
- 個人情報保護委員会「ガイドラインに関するQ&A」Q7-53
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について(2026年7月17日)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。