不動産の市場分析は、出所と時点がはっきりした公的データから始め、生成AIは集計の補助や文章の整理に使い、数字そのものを作らせないことが基本です。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」「不動産価格指数」「地価公示」、総務省統計局の「住宅・土地統計調査」は、誰でも無料で見られる公的データです。この記事では、それぞれに何が載っているか、どの時点のデータか、分析にどう組み合わせるかと、生成AIを使うときの注意点を整理します。
公的データから始める理由
オーナーへの賃料の提案や、物件の仕入れの判断では、「なぜその数字なのか」を説明できることが大切です。公的データは、作成した機関、調べ方、対象の時点が公開されているため、説明の根拠として示しやすい特長があります。
一方で、公的データには限界もあります。調査の時点から公表までに時間がかかるものがあり、個別の物件の募集賃料のような細かな情報は含まれていないことが多いです。公的データで地域の全体像をつかみ、自社の募集・成約の記録や現地の確認で補う、という組み合わせが現実的です。
不動産情報ライブラリ
不動産情報ライブラリは、国土交通省が運営するウェブサイトで、2024年4月1日に運用が始まりました。国土交通省の発表によると、次のような情報を地図上で見ることができます。
- 価格情報: 地価公示、都道府県地価調査、不動産取引価格情報、成約価格情報
- 防災情報: 洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域、津波浸水想定など
- 都市計画情報: 用途地域、防火地域など
- 周辺施設: 学校、医療機関、福祉施設など
- 人口: 将来推計人口のメッシュデータ
不動産取引価格情報
国土交通省の説明によると、不動産取引価格情報は、不動産の取引当事者へのアンケート調査をもとに蓄積された情報で、2006年4月から提供が始まりました。所在地は町・大字の単位、取引価格は有効数字2桁など、個人が特定されないように加工されています。対象は宅地(土地のみ、土地と建物)、中古マンション等、農地、林地です。売買の価格であり、賃料の情報ではない点に注意してください。
成約価格情報
成約価格情報は、指定流通機構(レインズ)が保有する取引情報を加工した「レインズ・マーケット・インフォメーション」の公表情報です。取引価格情報と出所が異なるため、2つを並べて見ると、同じ地域の価格の傾向を別の角度から確かめられます。
APIでの取得
不動産情報ライブラリには、APIの利用申請の窓口があり、データをプログラムで取得することもできます。社内の表計算やシステムに取り込む場合は、サイト上の説明と利用条件を確かめてから使ってください。
不動産価格指数
国土交通省は、不動産価格指数を「年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、全国・ブロック別・都市圏別等に不動産価格の動向を指数化したもの」と説明しています。住宅と商業用不動産の2種類があり、毎月公表されています。所有権移転の登記の情報をもとに作られ、2020年6月公表分からは、住宅・商業用ともに季節調整済の指数も公表されています。
この指数は、個別の物件の価格を示すものではなく、地域全体の価格がどちらに動いているかをつかむためのものです。オーナーへの説明では、「この地域の住宅の価格指数は上がっている」といった全体の流れの説明に使い、個別の物件の価格は、取引事例や現地の確認で別に検討します。
住宅・土地統計調査
住宅・土地統計調査は、総務省統計局が5年ごとに行う調査で、住宅とそこに住む世帯の居住状況、世帯が保有する土地等の実態を把握することを目的としています。最新の令和5年調査は、2023年10月1日を調査期日として行われました。
令和5年調査の速報集計では、総住宅数は6502万戸、空き家数は900万戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最多・過去最高とされています。空き家のうち賃貸用の空き家は443万戸でした。賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家は385万戸で、総住宅数に占める割合は5.9%です。速報のあとに確報集計も公表されているため、資料に使う場合は、どの集計の数字かを明記してください。
賃貸管理の仕事では、地域の住宅のストックや空き家の状況をつかむ材料になります。詳しい統計表は政府統計の総合窓口(e-Stat)で公開されています。5年ごとの調査なので、直近の変化を追う用途には向きません。空室対策の考え方は家賃を下げる前の空室対策の記事で整理しています。
地価公示と都道府県地価調査
地価公示
地価公示は、地価公示法に基づき、国土交通省の土地鑑定委員会が、毎年1月1日時点の標準地の正常な価格を判定し、3月に公示するものです。標準地ごとに2人以上の不動産鑑定士が鑑定評価を行います。地価公示法2条2項は、「正常な価格」を、土地について自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格と定めています。一般の土地取引の指標や、不動産鑑定の規準などとして使われています。
都道府県地価調査
都道府県地価調査は、国土利用計画法施行令9条に基づき、都道府県知事が毎年7月1日時点の基準地の標準価格を判定するものです。地価公示と時点が半年ずれているため、2つを合わせて見ると、1年の中の動きもつかみやすくなります。どちらも不動産情報ライブラリで検索できます。
4つのデータの比較
| データ | 作成者 | 時点・頻度 | 分かること | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産情報ライブラリ(取引価格・成約価格) | 国土交通省 | 随時追加 | 地域の売買価格の事例、防災・都市計画の情報 | 所在地や価格は加工されている。賃料の情報ではない |
| 不動産価格指数 | 国土交通省 | 毎月公表 | 全国・ブロック・都市圏などの価格の動き | 個別の物件の価格ではない |
| 住宅・土地統計調査 | 総務省統計局 | 5年ごと(最新は2023年10月1日) | 住宅数、空き家数、空き家率など | 直近の変化は分からない。速報と確報を区別する |
| 地価公示・都道府県地価調査 | 国土交通省土地鑑定委員会・都道府県知事 | 毎年1月1日時点・7月1日時点 | 標準地・基準地の価格と変動 | 地点ごとの土地の価格で、建物や賃料は含まない |
公的データを読むときの注意
公的データは出所がはっきりしている一方で、読み方を誤ると、根拠のある数字から誤った結論を出してしまいます。次の点に気をつけてください。
- 時点をそろえる: 地価公示は1月1日、都道府県地価調査は7月1日、住宅・土地統計調査は5年に1度の10月1日が基準です。異なる時点の数字を並べるときは、時点の違いを書き添えます。
- 速報と確報を区別する: 住宅・土地統計調査のように、速報のあとに確報が公表される資料があります。どちらの数字を使ったかを明記します。
- 水準と変化を分ける: 価格指数は、ある時点を基準にした変化を示すものです。指数の数字そのものを価格の水準として読まないようにします。
- 地点の性格を確かめる: 地価公示の標準地や地価調査の基準地は、地域の代表的な地点として選ばれたものです。対象の物件と、道路付けや用途地域が違うことがあります。
- 加工の影響を知る: 不動産取引価格情報は、所在地が町・大字の単位、価格が有効数字2桁に加工されています。細かな比較には向きません。
不動産情報ライブラリの防災情報や都市計画情報は、市場分析だけでなく、物件の説明の準備にも役立ちます。ただし、重要事項説明で区域の指定を記載するときは、自治体の公表情報などで最新の指定を確かめてください。
生成AIを使うときの注意点
数字はAIに作らせない
個人情報保護委員会は、生成AIには不正確な内容が出力されるリスクがあることを挙げています。生成AIに「この地域の平均賃料は」「空き家率は」と尋ねると、もっともらしい数字が返ってくることがありますが、出所が分かりません。数字は公的データの原資料から取り、生成AIには、取ってきた数字の並べ替えや、文章の下書きだけを任せます。
出典と時点を書く
資料に数字を載せるときは、「令和5年住宅・土地統計調査(速報集計)」「地価公示(各年1月1日時点)」のように、資料名と時点を添えます。生成AIで文章を整えると、この部分が省かれることがあるため、最後に人が確かめてください。
計算は検算する
変動率などの計算を生成AIに任せると、計算違いが起きることがあります。式を表計算に入れて計算し、結果を確かめる形にします。仮の数字で計算例を示します。ある標準地の価格が前年1平方メートルあたり100,000円、今年103,000円だった場合、変動率は(103,000円−100,000円)÷100,000円で3.0%です。このように、元の数字と式を残しておけば、誰でも検算できます。
説明では断定しない
宅建業法47条の2第1項は、契約の締結の勧誘のときに、利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供することを禁じています。生成AIは「今後も上昇が見込まれます」といった言い回しを作りやすいため、投資用物件の提案やオーナーへの説明に使う文章は、データが示す事実と、自社の見立てとを分けて書きます。47条1号は、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について不実のことを告げる行為も禁じています。
入力する情報
公的データの分析そのものに個人情報は不要です。オーナーや入居者の情報を一緒に入力しないようにし、使うサービスは、入力内容が学習に使われるかどうかを規約と設定で確かめたものに限ります。生成AIの使い方全般は不動産業務で生成AIを使える場面・使えない場面で整理しています。
分析の手順の例
賃貸住宅の地域の状況をオーナーに説明する場合の、手順の例です。
- 住宅・土地統計調査で、地域の住宅数や空き家の状況を確かめる(時点を書き添える)
- 不動産情報ライブラリで、物件の周辺の防災情報、用途地域、周辺施設、将来推計人口を確かめる
- 地価公示・都道府県地価調査で、周辺の地点の価格の推移を確かめる
- 不動産価格指数で、地域全体の価格の流れを確かめる
- 自社の募集・成約の記録や、現在募集中の近隣物件の条件で、賃料の水準を補う
- 生成AIで説明文の下書きを作り、数字、出典、時点、断定的な表現を人が確かめる
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 公的データで賃料の相場は分かりますか
この記事で取り上げた4つのデータは、主に売買価格、地価、住宅の数や空き家の状況を扱っており、個別の賃料の相場を直接示すものではありません。賃料は、自社の募集・成約の記録や、近隣の募集条件で補う必要があります。
Q2. 不動産取引価格情報と成約価格情報はどう違いますか
取引価格情報は取引当事者へのアンケート調査、成約価格情報はレインズの取引情報をもとにしたものです。出所が異なるため、両方を見て傾向を確かめると偏りに気づきやすくなります。
Q3. 生成AIに公的データを読み込ませて分析させてもよいですか
公表されているデータを整理させること自体は問題になりにくいですが、出力された数字や結論は原資料と照らして確かめてください。サービスの利用規約と、データの提供元の利用条件も確認が必要です。
Q4. オーナーへの資料で気をつけることは何ですか
数字には資料名と時点を添え、事実と見立てを分けて書きます。値上がりを約束するような断定は避け、宅建業法47条の2に当たる表現がないかを確かめます。
出典(本文で参照している資料)
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」の運用を開始します(2024年3月1日発表)
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
- 国土交通省「不動産取引価格情報提供制度」
- 国土交通省「不動産価格指数」
- 総務省統計局「住宅・土地統計調査」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果の要約」(PDF)
- 国土交通省「地価公示」
- 国土交通省「都道府県地価調査」
- 地価公示法(e-Gov法令検索)2条
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)47条、47条の2
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。