議事録や商談メモの要約に生成AIを使うときは、録音・文字起こしをすることを相手に伝え、入力してよい情報を決め、要約を元の記録と照合してから共有する、の3点を外さないことが大切です。個人情報保護委員会は、個人データを含むプロンプトを入力する場合、利用目的の範囲内かを確認し、サービス提供者が機械学習に利用しないこと等を確認するよう注意を呼びかけています。不動産会社の会議・商談で使う手順を、法令と公的なガイドラインに沿って整理します。
AI要約を使う5つの工程
生成AIに文字起こしを渡せば議事録ができる、と考えると、誤りや情報の出しすぎが起きやすくなります。会議の前から共有までを5つの工程に分けて考えます。
| 工程 | やること | 担当の例 |
|---|---|---|
| 1. 会議の前 | 録音・文字起こしをするか決め、参加者に伝える。議題と決めたいことを書き出す | 主催者 |
| 2. 会議中 | 決まったこと、保留、宿題、担当、期限を口に出して確認する | 進行役 |
| 3. 会議の後 | 文字起こしやメモを1つにまとめる。聞き取れなかった箇所に印を付ける | 記録係 |
| 4. 要約 | 入力してよい範囲に絞って生成AIに要約させる | 記録係 |
| 5. 照合と共有 | 要約を元の記録と照合し、共有相手に合わせて整えてから渡す | 記録係と主催者 |
工程2は、後の照合を楽にします。「では、賃料改定は来月の更新案内から反映、担当は○○さん、期限は○日」と口に出して確認すると、文字起こしにも残り、要約の誤りも見つけやすくなります。
録音・文字起こしの前に相手に伝えること
会議や商談の録音は、個人情報を取得する行為になることがあります。個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、個人情報に当たる例として「本人の氏名が含まれる等の理由により、特定の個人を識別できる音声録音情報」を挙げています。
個人情報保護法第21条第1項は、個人情報を取得した場合、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知し、又は公表しなければならないとしています。第18条第1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないとしています。録音を生成AIで要約することが、自社が公表している利用目的の範囲に入っているかを、先に確かめます。
実務では、法律上の要否とは別に、冒頭で次のことを伝えて了承を得ておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
- 録音(または文字起こし)をすること
- 何のために使うか(議事録の作成、言った言わないを防ぐため、など)
- 誰が見るか、外部のサービスを使うか
- いつまで保存し、いつ消すか
相手が録音を望まない場合は、手書きやパソコンのメモに切り替えます。オンライン会議のツールには、文字起こしの開始を参加者の画面に表示するものがあります。例えばGoogle Meetのヘルプは、文字起こしが有効なとき参加者全員の画面に文字起こしのアイコンが表示され、文字起こしは主催者のGoogleドライブに保存されると説明しています。表示があるからといって説明を省かず、口頭でも伝えるのが確実です。
生成AIに入れてよい情報と、入れる前の確認
個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報取扱事業者に次の2点を求めています。
- 生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。
- あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、サービスを提供する事業者が、その個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
この2点を、不動産会社の会議・商談に当てはめると次のようになります。
| 情報の種類 | 例 | 入力前の扱いの例 |
|---|---|---|
| 社内の業務情報 | 募集条件の方針、作業の分担 | 社内ルールで認めたサービスなら入力してよい |
| 顧客・入居者の個人情報 | 氏名、電話番号、勤務先、収入 | 要約に必要なければ伏せる(「入居者A」など)。必要な場合は、サービスの規約と設定を確かめてから |
| 配慮が必要な情報 | 病歴、家族の事情、滞納の事情 | 原則として入力しない。要約後に人が書き足す |
| オーナーや取引先の非公開情報 | 売却の意向、融資の条件、未公表の価格 | 守秘義務の範囲を確かめ、必要がなければ伏せる |
サービスについて確かめる点は、入力した内容が学習に使われない設定や契約になっているか、入力した内容と結果がどこに、いつまで保存されるか、管理者が利用者と履歴を管理できるか、です。個人情報保護法は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置(第23条)と、取扱いを委託する場合の委託先の監督(第25条)を求めています。個人の無料アカウントを社員がそれぞれ使う形は、これらを確かめにくくなります。
そのまま使える要約の入力例
生成AIは、文字起こしにない内容を補って書くことがあります。入力例では、補わないこと、分からない箇所を「要確認」とすることを明記します。
以下は社内会議の文字起こしです。次の決まりに従って議事録の下書きを作ってください。 ・文字起こしに書かれていないことは補わない。推測で書かない。 ・聞き取れない、または意味が二通りに取れる箇所は「要確認」と書く。 ・次の見出しで整理する:決定事項/保留事項/宿題(担当・期限)/次回の議題。 ・金額は税込か税抜かを文字起こしのとおりに書き、不明なら「要確認」とする。 ・各項目の末尾に、根拠になった発言のおおよその時刻を( )で付ける。 ・人名は「担当A」「担当B」のように、入力どおりの表記を使う。
顧客との商談メモでは、「お客様の要望」「こちらが約束したこと」「次に連絡する日」の3つの見出しにすると、後で顧客管理に転記しやすくなります。
要約を元の記録と照合する方法
照合は全文を読み直すのではなく、誤りが起きやすく、間違えたときの影響が大きい箇所から見ます。
- 決定・保留・宿題の区別:「検討する」と言っただけのことが「決定」になっていないか。
- 数字:賃料、礼金、敷金、修繕の見積額、税込か税抜か。
- 日付と期限:「来月」「次回」が具体的な日付に置き換わっていないか。置き換えたなら正しいか。
- 固有名詞:物件名、部屋番号、人名、会社名の聞き違い。
- 担当:誰がやるかが文字起こしと一致しているか。
照合の結果、文字起こしの側が聞き違えている場合もあります。そのときは要約だけでなく、元の記録にも注記を残すと、後で見返したときに混乱しません。
照合の例(架空の会議)
架空の社内会議で、空室の募集条件を話し合った場面を例にします。文字起こしと、AIの下書きを照合した結果です。
| 文字起こしの発言 | AIの下書き | 照合後 |
|---|---|---|
| 「203号室の礼金をなくす方向で、オーナーさんに聞いてみます」 | 決定事項:203号室の礼金をゼロにする | 宿題:203号室の礼金をなくすことをオーナーに相談する(担当A、期限は要確認) |
| 「募集図面の写真は来週撮り直し」 | 宿題:写真の撮り直し(来週) | 宿題:203号室の写真の撮り直し(担当B、○月○日まで)。部屋番号を補った根拠を注記 |
| 「賃料は据え置きかな。次回また話しましょう」 | 決定事項:賃料は据え置き | 保留事項:賃料の見直し(次回の議題) |
この例のように、「方向で」「かな」といった言い方は、AIが決定事項として書きやすい箇所です。オーナーの承諾が要る事項は、社内で決めただけでは決定にならない点にも注意します。
共有・保存・削除のルール
同じ会議でも、社内向けとオーナー向けでは載せる内容が変わります。社内向けには経緯や保留の理由まで、オーナー向けには決定事項と次の予定、オーナーに判断を求める事項に絞ります。
- 版を分ける:文字起こし(原本)、AIの下書き、確認済みの議事録を区別して保存する。確認済みの版だけを共有する。
- 訂正の連絡:共有後に誤りが見つかったら、訂正した版を同じ相手に送り、どこを直したかを書く。
- 保存期間:録音と文字起こしは、確認済みの議事録ができたらいつ消すかを決めておく。冒頭で相手に伝えた期間と合わせる。
- 漏えい時の対応:個人データの漏えい等で個人の権利利益を害するおそれが大きいものは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になる場合がある(個人情報保護法第26条)。
AI事業者ガイドライン(第1.2版)と社内ルール
総務省と経済産業省は2026年3月31日に「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を公表しています。生成AIサービスを業務で使う会社は、このガイドラインでいう「AI利用者」に当たります。概要資料は、AI利用者に重要な事項として、次のような項目を挙げています。
| ガイドラインの項目(AI利用者) | 議事録・商談メモでの当てはめ例 |
|---|---|
| 安全を考慮した適正利用 | サービス提供者が想定した範囲で使う。規約で禁止されている使い方をしない |
| 入力データ又はプロンプトに含まれるバイアスへの配慮 | 特定の顧客や入居者への評価を、要約の言い回しで強めない |
| 個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策 | 上の表のとおり、入力してよい情報を決める |
| セキュリティ対策の実施 | アカウントの管理、退職者の利用停止、共有リンクの範囲 |
| 関連するステークホルダーへの情報提供・説明 | 録音・AI要約を使うことを参加者に伝える |
| 提供された文書の活用と規約の遵守 | サービスの利用規約やデータの扱いの説明を読み、保存しておく |
社内ルールは長くする必要はありません。「使ってよいサービス」「入力しない情報」「照合する人」「保存と削除の期間」の4点をA4用紙1枚にまとめ、全員が見られる場所に置くことから始めます。
時間が減ったかは、照合の時間まで含めて測る
AI要約で議事録作成の時間がどれだけ減るかは、会議の長さ、文字起こしの精度、照合にかける時間で大きく変わります。効果を確かめたいときは、導入前後で「会議終了から確認済みの議事録を共有するまでの時間」と「共有後に訂正が出た件数」を記録します。要約の生成は短時間で終わっても、照合と修正に時間がかかれば効果は小さくなります。訂正が増えているなら、時間が減っても失うものの方が大きいかもしれません。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 商談を録音するのに、相手の同意は必要ですか。
この記事では、録音そのものの法的な要否は断定しません。録音に特定の個人を識別できる情報が含まれれば個人情報に当たり、利用目的の通知・公表(個人情報保護法第21条)が必要になります。実務では、冒頭で録音と利用目的を伝え、了承を得てから始めるのが無難です。
Q2. 無料の生成AIサービスを使ってもよいですか。
入力した内容が学習に使われるかどうか、保存期間、管理者による管理ができるかを確かめてから判断します。個人情報保護委員会の注意喚起は、個人データを含むプロンプトを入力する場合、事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。
Q3. 要約に「要確認」が多く出たらどうしますか。
推測で埋めず、会議の参加者に確認します。「要確認」が多いのは、会議中の確認が足りなかったか、文字起こしの精度が低かったかのどちらかです。次の会議では、決定事項を口に出して確認する工程を強めます。
Q4. AI要約の下書きをそのままオーナーに送ってもよいですか。
送らないほうがよいでしょう。照合していない下書きには、言っていない決定や数字の誤りが含まれることがあります。確認済みの版を、オーナー向けに内容を絞ってから送ります。
出典(本文で参照している資料)
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(2023年6月2日)
- 個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)
- 個人情報の保護に関する法律(第18条、第21条、第23条、第25条、第26条)
- 総務省・経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要(2026年3月31日)
- Google Meet ヘルプ Google Meet で文字起こしを使用する
この記事は2026年10月7日時点の情報です。