定期借家契約の事前説明書は、「この契約は更新がなく、期間の満了で終わる」ことを書いた契約書とは別の書面で、契約の前に貸主から借主へ交付して説明するものです。借地借家法38条3項が求める手続きで、説明をしないと「更新がない」という定めが無効になります(同条5項)。雛形は国土交通省の「定期賃貸住宅標準契約書」に収録されています。重要事項説明で兼ねるときは、重要事項説明書に決められた事項を書く必要があります。
定期借家が成り立つための要件
定期借家(定期建物賃貸借)は、借地借家法38条に定められた、更新のない建物賃貸借です。普通の借家契約では、期間が満了しても貸主に正当の事由がなければ更新を拒めませんが、定期借家では期間の満了で契約が終わります。その代わり、成立のための手続きが法律で決められています。
| 要件 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 期間を定める | 38条1項 | 期間の定めがある建物賃貸借であること。 |
| 書面で契約する | 38条1項・2項 | 公正証書による等書面で契約すること。電磁的記録で契約したときも書面によったものとみなされます。 |
| 更新がない旨を定める | 38条1項 | 契約の更新がないこととする旨の定めを置くこと。 |
| 事前に書面を交付して説明する | 38条3項 | 契約の前に、貸主が借主に、更新がなく期間の満了で終わることを書いた書面を交付して説明すること。 |
4つ目の事前説明をしなかったときは、更新がないこととする旨の定めが無効になります(38条5項)。その場合、契約は普通の借家契約として扱われることになり、貸主が予定していた時期に建物を返してもらえないおそれがあります。
事前説明書の雛形の入手先
国土交通省は「『定期賃貸住宅標準契約書』について」のページで、住宅用の定期借家の標準契約書を公開しています。平成30年3月版で、保証の形に合わせて次の2種類があり、それぞれPDFと、契約書本体・承諾書例のWordファイルが用意されています。
- 定期賃貸住宅標準契約書(家賃債務保証型)
- 定期賃貸住宅標準契約書(連帯保証人型)
PDFには、契約書の本体(頭書と条文、別表)のほか、次の書式と解説コメントが入っています。
| 書式 | 使う場面 |
|---|---|
| 定期賃貸住宅契約についての説明 | 契約の前に借主へ交付する事前説明書(38条3項) |
| 終了についての通知 | 期間満了の1年前から6か月前までに出す終了通知(38条6項) |
| 承諾書(例) | 貸主の承諾を書面で示すときの書式例(Wordでも公開) |
店舗や事務所などの事業用の建物には、国交省の住宅用の標準契約書はそのまま当てはまりません。事業用で定期借家を使う場合も38条の手続きは同じなので、この記事の事前説明書の考え方はそのまま使えます。
事前説明書に書くこと
標準契約書の事前説明書は、「借地借家法第38条第3項に基づき、次のとおり説明します」として、次の内容を書く形になっています。
- この住宅の賃貸借契約は更新がなく、期間の満了により終了すること
- 期間の満了の日の翌日を始期とする新たな賃貸借契約(再契約)を結ぶ場合を除き、期間の満了の日までに住宅を明け渡さなければならないこと
- 住宅の名称、所在地、住戸番号
- 契約期間(始期、終期、月数)
国交省の定期建物賃貸借のQ&Aでも、説明書面には、契約の更新がないこと、期間の満了により賃貸借が確定的に終了すること、契約の終了年月日などを書くことが考えられる、と説明されています。
空欄のまま使わない
事前説明書は、物件と期間を特定してはじめて意味を持ちます。物件名や契約期間が空欄のまま交付したり、契約書と期間が食い違っていたりすると、説明の効力が争われる原因になります。契約書を作るときに同じ値を写し、2つの書面の期間がそろっているかを確認してください。
説明した日と、受け取った記録を残す
38条3項は「あらかじめ」書面を交付して説明することを求めています。事前説明書には説明日と説明者を書き、借主に受け取りの署名をもらっておくと、契約より前に説明したことを後から示しやすくなります。
契約書とは別の書面にする理由
事前説明書は、契約書とは別の独立した書面にします。最高裁判所の平成24年9月13日の判決は、事前説明の書面を交付したかどうかは、契約に至る経緯や借主の認識といった個別の事情を考えずに形式的・画一的に扱うのが相当であり、契約書とは別個独立の書面であることを要する、と判断しました。国交省の標準契約書の解説コメントにも、同じ考え方が書かれています。
そのため、契約書の中に「この契約は更新がありません」と大きく書いておいても、それだけでは事前説明をしたことにはなりません。説明書面を1枚別に作り、契約書より先に渡す、という順番を守ってください。
重要事項説明(宅建業法35条)との関係
宅建業者が定期借家の仲介や代理をするときは、宅地建物取引業法35条の重要事項説明も必要です。貸借の重要事項説明では、借地借家法38条1項の適用を受ける賃貸借であれば「その旨」を説明することになっています(宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第9号)。
重要事項説明だけでは事前説明にならない
国交省の定期建物賃貸借のQ&Aは、重要事項説明は仲介者である宅建業者が行うもので、事前説明は貸主自らが行うものだと説明しています。つまり、重要事項説明で「定期借家です」と説明しただけでは、貸主の事前説明をしたことにはなりません。一方で、仲介者が貸主の代理人として事前説明をすることはできる、とされています。
重要事項説明書で兼ねるときに書くこと
国交省は平成30年2月28日、不動産業課長と住宅総合整備課長の連名で、業界団体あてに「定期建物賃貸借に係る事前説明におけるITの活用等について」という通知を出しています。業界紙の報道や業界団体の解説によると、この通知では、次の3点を重要事項説明書に書いて重要事項説明を行えば、事前説明書の交付と事前説明を兼ねることができるとされています。
- 契約が定期建物賃貸借であり、更新がなく、期間の満了により終了すること
- 重要事項説明書の交付が、借地借家法38条の事前説明の書面の交付を兼ねること
- 貸主から代理権を与えられた宅地建物取引士が重要事項説明を行う場合に、貸主が行う事前説明を兼ねること
兼ねる場合でも、宅建士が貸主から代理権を与えられていることが前提です。代理権を確認できる委任状などを用意し、重要事項説明書の控えとあわせて保管してください。この通知は国交省から業界団体あてに出されたものなので、運用の細部は所属団体の案内でも確かめることをおすすめします。
兼用はあくまで「できる」という扱いです。重要事項説明書とは別に、標準契約書の事前説明書を作って交付する方法も変わらず使えます。社内で書式を1つに決めておくと、担当者によって手続きがばらつくのを防げます。
電子での交付と、オンラインでの説明
2022年5月18日に施行された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により、定期建物賃貸借の手続きも電子化できるようになりました(法務省の案内による)。現在の38条では、次のように定められています。
- 契約を電磁的記録で結んだときは、書面で結んだものとみなされます(38条2項)。
- 貸主は、借主の承諾を得て、事前説明書の交付に代えて、書面に書くべき事項を電磁的方法で提供できます(38条4項)。この場合、書面を交付したものとみなされます。
電子で提供するときは、借主の承諾を先に得て、その記録を残してください。承諾の取り方は政令で定められているので、電子契約のサービスを使うときは手順が合っているかを確認します。
説明そのものをオンラインで行う場合、平成30年2月28日の通知は、次の4点を満たせば対面と同じように扱えるとしています。映像と音声で双方向にやりとりでき、書面と説明の内容を十分理解できる環境であること。事前説明書をあらかじめ借主に送っていること。借主が書面を見ながら説明を受けられ、貸主が説明の前に映像と音声の状態を確かめていること。代理人が説明する場合は、委任状などを示し、借主が画面で確認していること。
契約後の終了通知と中途解約
事前説明書とあわせて、契約後の手続きも雛形の段階で決めておくと漏れが減ります。
終了通知(38条6項)
期間が1年以上の定期借家では、貸主は期間の満了の1年前から6か月前までの間に、期間の満了で契約が終わることを借主に通知しなければ、終了を借主に対抗できません。この期間を過ぎてから通知した場合は、通知の日から6か月を過ぎた後でなければ終了を対抗できません。標準契約書の「終了についての通知」の書式を使い、再契約の意向があればその旨を書き添える形になっています。
借主からの中途解約(38条7項)
居住用で床面積が200平方メートル未満の建物では、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情で住み続けるのが難しくなった借主は、解約の申入れができ、申入れの日から1か月で契約が終わります。38条6項・7項に反する特約で借主に不利なものは無効です(38条8項)。
賃料の改定
定期借家で賃料の改定についての特約を定めたときは、借賃の増減額請求を定めた32条は適用されません(38条9項)。賃料を据え置くか、改定のルールを決めるかは、契約書の作成時に貸主と決めておきます。
実務の流れの例
ここまでの条文を、仲介会社が住宅の定期借家を扱うときの手順に並べると、次のようになります。あくまで手順の例なので、所属団体の書式や社内の決まりに合わせて調整してください。
- 貸主と、定期借家にするか、期間、再契約の考え方を決める。
- 事前説明を代理する場合は、貸主から委任状をもらう。
- 事前説明書(または兼用の重要事項説明書)を作り、契約書と期間がそろっているかを確認する。
- 電子で提供する場合は、借主の承諾を得て記録する。
- 契約の前に、書面を交付して説明する。説明日と説明者を書き、受領の署名をもらう。
- 契約書を交わす。
- 満了日を管理表に入れ、満了の1年前から6か月前の間に終了通知を出す。
7番目の終了通知は、契約から何年も後の作業なので、担当者が替わると漏れやすくなります。ウルスタくんの「更新が近い契約の一覧」のように、契約の終期が近いものを一覧で見られる仕組みに満了日を入れておくと、通知の期間を見落としにくくなります。
よくある質問
Q1. 事前説明書に借主の署名は必要ですか?
38条3項は書面の交付と説明を求めており、署名を要件とはしていません。ただし、契約より前に説明したことを後で示せるよう、受領の署名と日付をもらっておくのが安全です。
Q2. 事前説明書と契約書を同じ日に渡してもよいですか?
38条3項は「あらかじめ」と定めるだけで、何日前までという期限は置いていません。同じ日に行う場合も、説明が契約より先だったことを記録で示せるよう、説明の時刻や手順を残しておいてください。
Q3. 普通借家を更新のタイミングで定期借家に切り替えられますか?
切り替えるには、いったん合意して新たに定期借家契約を結び、38条の手続きをすべてやり直す必要があります。古い時期に結ばれた居住用の契約については切り替えに制限があるため、国交省の定期建物賃貸借のQ&Aを確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
Q4. 再契約のときも事前説明は必要ですか?
再契約は新しい定期借家契約なので、38条の手続きをあらためて行います。前回と同じ借主でも、事前説明書を作り直して交付してください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(第38条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の4の3)
- 国土交通省「『定期賃貸住宅標準契約書』について」
- 国土交通省「定期賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・連帯保証人型」
- 国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」
- 法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)について」
- R.E.port「ITを活用した定借の事前説明について通知」(2018年3月2日、平成30年2月28日の国交省通知の内容)
- 全日本不動産協会「定期建物賃貸借契約を有効に成立させるための留意点と対応について」(最高裁平成24年9月13日判決の引用)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。