この2枚は、設備を数える表ではありません
付帯設備表と物件状況確認書は、契約書の後ろに付いてくる添付書類として扱われがちです。営業が最後に埋めて、チェックだけ入れて出す。そういう扱いになっている会社は多いと思います。
ですが、この2枚が決めているのは「壊れたときに誰が払うか」です。契約書の本文には、そこまで細かいことは書いてありません。書いてあるのはこの2枚のほうです。
だから、埋め方を間違えると、直接お金の話になります。順番に書きます。
売買: 契約不適合かどうかは「契約の内容」で決まります
民法第562条が見ているのは、契約書に何が書いてあるか
民法第562条は、こう定めています。
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる
ここで効いてくるのが「契約の内容に適合しないもの」という言い方です。何が適合で何が不適合かは、契約書に何が定められているかで決まります。土壌汚染を例にすると分かりやすいです。汚染がないものとして売買していれば不適合になりますが、汚染がある土地として売買していれば不適合にはなりません。
つまり、あらかじめ書いておけば不適合にならないということです。そして、その「書いておく場所」が付帯設備表と物件状況確認書です。
「有・無」しかない表は、材料になりません
よく見るのは、こういう表です。
| 設備 | 有無 |
|---|---|
| 給湯器 | 有 |
| エアコン | 有 |
| 食器洗い乾燥機 | 有 |
これでは「ある」としか言っていません。引き渡し後に給湯器が動かなかったとき、この表は何も決めていないので、結局そこから交渉が始まります。
必要なのは、設備ごとに「ある/ない」と「不具合がある/ない」を分けて書くことです。
| 書き分ける項目 | 意味 |
|---|---|
| 設備の有無 | 物として付いているかどうか |
| 故障・不具合の有無 | 付いているが、動かない・調子が悪いという状態を含む |
| 不具合の内容 | 「弱運転しかできない」「水漏れあり」など、分かっている範囲で具体的に |
| 引き渡しの扱い | 付帯設備として引き渡すのか、撤去するのか、残置するのか |
「有」なのに「不具合あり」と書いてある設備は、その状態で契約の内容になります。あとから「動かない」と言われても、書いてあったことになります。書かないほうが有利だと思って空欄にすると、逆になります。
「残置物」は、引き渡す設備とは別ものです
売主が置いていくだけのものを「残置物」と書く運用があります。付帯設備として引き渡すのではなく、処分の手間を省くために置いていくという整理です。
この書き分けが曖昧なまま「エアコン 有」と書いてしまうと、付帯設備として引き渡したことになります。壊れていたときの話が変わります。置いていくだけなら、置いていくだけだと書いてください。
賃貸: 2020年4月から、賃料は請求を待たずに減額されます
民法第611条第1項が「請求できる」から「減額される」に変わりました
賃貸では、条文がもっと直接的です。民法第611条第1項は、2020年4月1日の改正民法施行でこう変わりました。
| 時期 | 賃料の減額 |
|---|---|
| 改正前 | 賃借人が減額を請求して、はじめて減額される |
| 2020年4月1日から | 賃借人の責めに帰することができない事由であれば、使用収益できなくなった部分の割合に応じて当然に減額される |
言い方が変わっただけに見えますが、実務では大きな違いです。借主が何も言わなくても、減額は起きています。管理会社が「請求されていないから発生していない」と考えていると、あとでまとめて精算する話になります。
さらに、対象も広がりました。改正前は「滅失」に限られていましたが、いまは「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」です。設備が壊れて使えないことも、ここに入ります。
日管協のガイドラインが、金額の目安として使われています
では、いくら減額されるのか。条文は「割合に応じて」としか書いていません。実務では、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」が目安として使われています。
このガイドラインは2024年10月4日に改定されました。構成はこうなっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 群の分け方 | A群を先に見て、どれにも当たらない場合にB群を見る階層になっている |
| A群 | 電気・ガス・水など、生活に欠かせないものが止まった状態 |
| B群 | トイレ・風呂・エアコンなど、生活の利便に関わる設備の不具合 |
| 表の列 | 状況/賃料減額割合(日割り)/免責日数 |
| 免責日数 | 代替物の準備や業務の準備にかかる時間として、減額の計算から除く日数 |
改定で分かりやすく変わったのがエアコンです。作動しない場合の扱いが「1か月あたり5,000円」から「10%」になりました。あわせて、発生した季節・地域、間取りや設置台数などを考慮して割合を調整するという記述が加わっています。
だから、設備表の書き方が金額に直結します
ここで最初の話に戻ります。エアコンが賃貸借契約の設備として書かれていれば、壊れたときは貸主が直す設備です。使えない間は賃料が減額されます。
一方、前の入居者が置いていったものを残置物として、修繕しない前提で貸しているなら、扱いは変わります。ただしそれは、契約時に書面で明確にしてある場合の話です。
設備表に「エアコン ○」とだけ書いてあって、残置物かどうかがどこにも書かれていない。この状態がいちばん危ないです。壊れてから、どちらだったかを話し合うことになります。
物件状況確認書に何を書くか
物件状況確認書(告知書)は、売主や貸主が知っている不具合を書き出す書面です。設備そのものではなく、建物と土地の状態を扱います。
- 雨漏り、シロアリ、給排水管の不具合など、過去に起きたことと修繕したかどうか
- 境界の確定状況、越境物の有無
- 建物の傾き、ひび割れなど、気づいている症状
- 近隣との申し合わせ事項、周辺環境で知っていること
人の死に関する事柄については、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)を出しています。何をどこまで告げるかの考え方が整理されているので、自社の書式を作るときはこちらを見てください。
物件状況確認書で大事なのは、「知らない」と「無い」を書き分けることです。「不明」という選択肢のない書式は、売主に「無い」と書かせることになります。知らないことを無いと書かせるのは、あとで誰の得にもなりません。
チェックリスト
いま使っている付帯設備表と物件状況確認書を横に置いて、順に確かめてください。
- ☐ 設備の「有無」と「故障・不具合の有無」が別の欄になっているか
- ☐ 不具合の内容を書く自由記入欄があるか(チェックだけで終わらないか)
- ☐ 付帯設備・撤去・残置の3つを書き分けられるか
- ☐ 賃貸の設備表で、エアコンが設備なのか残置物なのかが読み取れるか
- ☐ 物件状況確認書に「不明」の選択肢があるか
- ☐ 記入日と、誰が記入したかが入っているか
- ☐ 引き渡し時に、記入時点から変わっていないかを確かめる手順があるか
- ☐ 賃料減額の目安について、社内で参照する資料が決まっているか
最後の項目を入れているのには理由があります。ガイドラインは改定されます。2024年10月にエアコンの扱いが変わったように、参照先を決めていないと、古い目安のまま案内し続けることになります。
書式をどこで管理するか
この2枚は、制度が変わるたびに直す書面です。民法が変わり、ガイドラインが改定され、そのたびに欄を足したり文言を直したりします。
問題は、直したあとに古い版が残ることです。共有フォルダに「付帯設備表_最新.xlsx」と「付帯設備表_最新_修正版.xlsx」が並んでいる状態は、どこの会社にもあります。
ウルスタくんでは、付帯設備表と物件状況確認書を含む書式をクラウド上で作成・管理できます。直した瞬間に全員が新しい版を使う状態になります。書式の作成機能のページに、対応している書類の種類と、下書きから保管までの流れを載せています。
料金はスモールプランが月980円(税抜・管理99戸まで)で、全機能が使えます。初期費用は0円、30日間は無料でクレジットカードの登録も不要です。
よくある質問
Q. 付帯設備表に「不具合あり」と書くと、値引きを求められませんか。
求められることはあります。ただし、書かずに引き渡して後から不適合を主張されるほうが、金額も手間も大きくなります。民法第562条の「契約の内容に適合しないもの」かどうかは、契約書に何が定められているかで判断されます。書いておけば、その状態で合意したことになります。
Q. 賃貸で、借主から減額の請求が来ていなければ何もしなくてよいですか。
いいえ。2020年4月1日以降、賃借人の責めに帰することができない事由で使用収益できなくなった部分については、請求の有無にかかわらず賃料が減額されます(民法第611条第1項)。請求が来ていないことは、減額が発生していないことを意味しません。
Q. 日管協のガイドラインには法的な拘束力がありますか。
ガイドライン自体は業界団体が示す目安であり、法令ではありません。減額の割合は最終的には個別の事情で判断されます。ただし実務上の基準として広く参照されているため、社内の目安として置いておく価値はあります。改定があるので、参照している版を確認してください。
Q. 残置物として貸せば、修繕しなくてよいのですか。
そう整理する運用はありますが、契約時に書面で明確にしてある場合の話です。設備表に「有」とだけ書いてある状態では、付帯設備として貸したと読まれます。個別の契約でどちらになるかは、契約書と設備表の記載と実態で決まります。判断に迷う場合は顧問弁護士にご確認ください。
出典・参考資料
本記事で引用した法令・公表資料は、以下のとおりです。いずれも2026年9月5日に閲覧しました。
- 全日本不動産協会「買主の追完請求権」(民法第562条の条文と、契約の内容に適合するかどうかは契約書の定めで判断されるという考え方)
- 日本賃貸住宅管理協会「日管協版『貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン』改定のお知らせ」(令和6年10月4日改定。エアコンが作動しない場合が5,000円から10%へ)
- 同「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」本体(PDF・令和6年10月4日)(A群とB群の分け方、状況/賃料減額割合/免責日数の3列、免責日数の意味)
- 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(PDF・令和3年10月)


