入居申込書に「正しい様式」はありません
重要事項説明書には国土交通省の標準様式があります。賃貸借契約書にも標準契約書があります。ところが入居申込書には、法律で決まった様式がありません。
だから各社が自前で作ります。保証会社の指定用紙をそのまま使っている会社もあれば、20年前のExcelを直しながら使っている会社もあります。私が伴走してきた管理会社でも、申込書だけは会社ごとにばらばらでした。
様式が自由だということは、抜けても誰も指摘してくれないということです。重要事項説明書なら、抜ければ宅建士が気づきます。申込書は誰も見ていません。抜けたまま何年も回り続けます。
この記事では、抜けやすい3つを順番に書きます。どれも「書いていないと後で揉める」ではなく、「書き方を間違えると違法になる」または「制度が変わったのに古いままになる」ものです。
抜け その1: 申込金は「返せる書式」でなければいけません
返還を拒むと、宅建業法違反です
申込金、預り金、申込証拠金。呼び方はいろいろですが、契約が成立する前に受け取るお金のことです。
申込者が「やっぱりやめます」と言ったとき、このお金を返さないのは違法です。根拠は2つの条文の組み合わせです。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 宅地建物取引業法 第47条の2 第3項 | 申込みの撤回や解除を妨げる行為を禁止する。具体的に何が該当するかは国土交通省令で定める |
| 同法施行規則 第16条の11 第2号 | 相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと |
| 宅地建物取引業法 第65条 第1項 | 違反したときは指示・業務停止などの行政処分の対象になる |
つまり「預り金の返還を拒むこと」は、省令で名指しされた禁止行為です。申込書に「申込金は返還しません」と印刷してあっても、その文言のほうが効きません。
「手付金に振り替わる」と書くのも危ない
もうひとつ、よく見かける文言があります。「申込金は契約成立時に手付金に充当され、申込みを撤回した場合は返還しません」というものです。
契約が成立したあとで手付金に充当するのは問題ありません。危ないのは後半です。契約が成立していない段階での撤回に、返還しないという条件を付けている点が、上の禁止行為にそのまま当たります。
申込書に書くべきなのは、逆の文です。
申込書に置く文(例)
お預かりした申込金は、賃貸借契約が成立するまでの間、いつでも全額をお返しします。契約が成立した場合は、ご承諾のうえで初期費用に充当します。
「いつでも全額」と書くのは、こちらが損をするからではありません。書いていないと、現場が判断に迷って返さないからです。返さなかった1件が、行政処分の端緒になります。
そもそも預からない、という選択
自社では、申込金を預からない運用にしています。210戸を保有し、約100戸を自主管理していますが、申込金がなくて困ったことはありません。
申込金の目的は「本気度の確認」だとよく言われます。ただ、本気度は申込書の記入内容と保証会社の審査で分かります。返す前提のお金を預かって、返すときの手続きと振込手数料を負担するくらいなら、最初から預からないほうが速いというのが結論です。
預かる会社を否定するつもりはありません。預かるなら、返す手順まで書式に書いてください。誰が、何日以内に、どの口座へ返すのか。ここが空欄の申込書は、返さない申込書になります。
抜け その2: 在留カードの見方が2026年6月に変わりました
2026年6月14日から、特定在留カードが始まりました
出入国在留管理庁は、2026年(令和8年)6月14日から特定在留カードの運用を始めました。在留カードとマイナンバーカードを一体化したものです。対象は住民基本台帳に記録されている中長期在留者です。
申込書の本人確認欄が「在留カードの在留期間を記入」となっている会社は、ここで止まります。新しいカードの券面に「在留期間」は載っていないからです。
ただし、審査で見る項目は残っています
ここを誤解している解説をよく見ます。正確に書きます。
| 項目 | 特定在留カードの券面 |
|---|---|
| 氏名・生年月日・性別・国籍 | 載る |
| 住居地 | 載る |
| 在留資格 | 載る |
| 在留期間の満了の日 | 載る |
| 就労制限の有無・資格外活動許可 | 載る |
| 在留期間(3年などの長さ) | 載らない。ICチップにのみ記録 |
| 許可の種類および年月日 | 載らない。ICチップにのみ記録 |
| 在留カードの交付年月日 | 載らない。ICチップにのみ記録 |
入居審査で本当に必要なのは「いつまで在留できるか」です。それは在留期間の満了の日であり、券面に残っています。在留資格も残っています。つまり審査の実務は、従来どおり券面を見て完結します。
「新しいカードになると入居審査ができなくなる」というのは誤りです。読み取り機を買う必要もありません。変わったのは「3年」「1年」という期間の長さの表記が券面から消えたことだけです。
申込書をどう直すか
直すのは1か所です。
前
在留資格( ) 在留期間( 年)
後
在留資格( ) 在留期間の満了の日( 年 月 日)
満了の日で書かせておけば、従来の在留カードでも特定在留カードでも同じ欄が使えます。従来の在留カードは、施行後も有効期限までは有効です。しばらくは2種類が混在します。両方で使える欄にしておくのが、いちばん手間がかかりません。
抜け その3: 個人情報の同意欄が、実態と合っていません
申込書は「渡す前提」の書面です
入居申込書に書かれた情報は、社内で完結しません。少なくとも次の相手に渡ります。
- 家賃債務保証会社(審査のため)
- オーナー(承諾を得るため)
- 場合によっては、火災保険の代理店や、別の管理会社
個人情報保護法第27条第1項は、個人データを第三者に提供するには、あらかじめ本人の同意を得なければならないと定めています。同意なしに渡せる例外は同項に列挙されていますが、入居審査はそこに当てはまりません。
「第三者に当たらない」という整理もあります
同じ第27条の第5項には、第三者に該当しないとされる場合が3つあります。
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 第1号 | 利用目的の達成に必要な範囲内で、取扱いを委託することに伴う提供 |
| 第2号 | 合併その他の事業の承継に伴う提供 |
| 第3号 | あらかじめ定めた項目を本人に通知等したうえでの共同利用 |
オーナーと管理会社の関係を委託や共同利用として整理する運用は、実際にあります。ただし整理しているつもりで、何も書いていない会社が多いのが実情です。どちらで運用するかを決めていないまま、同意欄だけが「上記に同意します」と1行だけあるパターンです。
個別の運用がどちらに当たるかは、契約関係と実態で変わります。自社の枠組みがどちらなのかは、顧問弁護士または個人情報保護委員会の窓口で確認してください。この記事では判断しません。
申込書に置くべき同意欄
どちらの整理を採るにせよ、申込書に書いておくべき項目は共通しています。
- 何のために使うのか(入居審査、契約手続き、入居後の管理業務)
- 誰に渡すのか(保証会社名、オーナー、火災保険の引受会社)
- 何を渡すのか(申込書の記載事項、本人確認書類の写し、勤務先情報)
- 審査に落ちたときにどうするのか(保管するのか、いつ廃棄するのか)
- 問い合わせ先(開示や削除の求めをどこに出せばよいか)
最後の2つが抜けている申込書をよく見ます。落ちた人の情報をいつまで持っているかは、申込者からいちばん聞かれる質問です。書式に書いておけば、その場で答えられます。
申込書のチェックリスト
いま使っている申込書を横に置いて、順に確かめてください。
- ☐ 申込金を預かるなら、「契約成立まではいつでも全額返す」と書いてあるか
- ☐ 返すときの手順(誰が・何日以内に・どの口座へ)が書いてあるか
- ☐ 「返還しません」「手付金に振り替わるため返還しません」という文言が残っていないか
- ☐ 在留期間の欄が「満了の日」になっているか(「◯年」ではなく)
- ☐ 個人情報の利用目的が書いてあるか
- ☐ 渡す相手が具体的に書いてあるか(「関係各社」ではなく社名または種別)
- ☐ 審査に落ちたときの保管期間と廃棄が書いてあるか
- ☐ 開示・削除の問い合わせ先が書いてあるか
- ☐ 申込者が書き終わるまでに何分かかるか、実際に自分で書いてみたか
最後の項目を入れているのには理由があります。申込書は毎年少しずつ欄が増えます。増やした人は自分で全部書きません。年に一度、自分で最初から書いてみると、要らない欄が見つかります。
書式をどこで管理するか
ここまで書いてきた直しは、どれも「申込書のWordを開いて直す」で済みます。問題は、直したあとです。
直した申込書が、店舗のデスクトップ、共有フォルダ、営業のノートパソコンに散らばります。半年後、古い版で申し込みを受けた1件が出てきます。制度が変わるたびに同じことが起きます。
ウルスタくんでは、入居申込書を含む書式をクラウド上で作成・管理できます。書式を直したらその場で全員が新しい版を使う状態になります。書式の作成機能のページに、対応している書類の種類と、下書きから保管までの流れを載せています。
料金はスモールプランが月980円(税抜・管理99戸まで)で、全機能が使えます。初期費用は0円、30日間は無料でクレジットカードの登録も不要です。
よくある質問
Q. 申込金を預からないと、申込みのキャンセルが増えませんか。
自社では増えていません。ただしこれは自社210戸での運用実感であり、統計ではありません。キャンセル率は物件の競合状況で大きく変わるので、他社にそのまま当てはまるとは言えません。預かる・預からないは、返す手順を書式に書いたうえで各社で決めてください。
Q. 特定在留カードを持ってきた人には、読み取り機が必要ですか。
入居審査には不要です。審査で見る在留資格と在留期間の満了の日は、券面に記載されています。ICチップにのみ記録されるのは、在留期間の長さ、許可の種類および年月日、在留カードの交付年月日です。
Q. 従来の在留カードは使えなくなりますか。
施行前に交付された在留カードは、施行後も有効期限までは有効です。しばらくは2種類が混在します。
Q. 保証会社の指定用紙をそのまま使っています。直す必要はありますか。
保証会社の用紙は、保証会社への提供については整理されていることが多いです。ただしオーナーへの提供や、自社での保管期間については書かれていないことがあります。自社が受け取って自社で保管する以上、そこは自社の書面で示す必要があります。
Q. 「返還しません」と書いた申込書で、実際に返さなかった場合はどうなりますか。
宅地建物取引業法第47条の2第3項および施行規則第16条の11第2号に違反する行為として、同法第65条第1項の指示処分や業務停止処分の対象になります。個別の事案がどう扱われるかは、免許行政庁の判断になります。
出典・参考資料
本記事で引用した法令・公表資料は、以下のとおりです。いずれも2026年9月5日に閲覧しました。
- 出入国在留管理庁「特定在留カード交付申請について」(2026年6月14日から運用開始、対象者、申請先)
- 出入国在留管理庁「在留カードとマイナンバーカードの一体化Q&A」(券面に記載される項目とICチップにのみ記録される項目、従来の在留カードの有効期限)
- 不動産流通推進センター「賃貸の申込書に記載された『申込金が手付金に振り替わる』という文言の有効性」(宅建業法第47条の2第3項、施行規則第16条の11第2号、第65条第1項)
- 個人情報保護委員会「個人データを第三者に提供する際に本人の同意をとる必要はありますか」(個人情報保護法第27条第1項)


