民泊を続けにくくなった物件をマンスリー賃貸に切り替えるときは、「宿泊」ではなく「賃貸借」として契約・管理・広告を組み直す必要があります。住宅宿泊事業法の民泊は年180日が上限で、条例で区域や期間をさらに制限できます。大阪市は特区民泊の新規受付を2026年5月29日で終了しました。切り替えの選択肢、宿泊と賃貸の境目、定期借家で組むときの要点を、法令と行政の資料で整理します。
民泊の3つの制度と違い
「民泊」と一口に言っても、根拠になる制度は3つあります。どれで営業しているかで、規制の強まり方も、やめるときの手続も変わります。
| 制度 | 根拠 | 手続 | 日数など |
|---|---|---|---|
| 住宅宿泊事業(いわゆる民泊新法) | 住宅宿泊事業法 | 都道府県知事等への届出(第3条) | 人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないもの(第2条第3項)。条例で区域・期間の制限あり(第18条) |
| 旅館業(簡易宿所営業など) | 旅館業法 | 都道府県知事等の許可(第3条第1項) | 日数の上限はない。許可には構造設備などの基準があり、建物の用途に関するほかの法令の制限も受ける |
| 特区民泊 | 国家戦略特別区域法第13条(旅館業法の特例) | 都道府県知事等の認定 | 認定を受けた事業には旅館業法第3条第1項を適用しない(第13条第5項)。実施は区域計画の認定を受けた自治体に限られる |
住宅宿泊事業で、届出住宅に人を宿泊させる間に事業者が不在となる場合などは、住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません(住宅宿泊事業法第11条第1項)。事業者は宿泊させた日数などを定期的に都道府県知事等に報告する義務もあります(第14条)。
規制が強まっている点
条例による区域・期間の制限
住宅宿泊事業法第18条は、騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、条例で区域を定めて住宅宿泊事業を実施する期間を制限できるとしています。180日は法律上の上限で、条例がある地域では実際に営業できる期間はこれより短くなります。制限の中身は自治体ごとに違うため、物件所在地の条例を確かめます。
大阪市の特区民泊は新規受付を終了
大阪市は2025年11月28日の報道発表で、2026年5月29日をもって特区民泊の新規受付を終了すると公表しました。同日以前に認定を受けている特区民泊施設は、従来どおり営業できるとしています。
大阪市はあわせて、特区民泊の新規受付終了後に旅館業の許可を求める事業者が増えることを見込み、騒音やごみをめぐるトラブルを防ぐための措置を定める「大阪市旅館業法の施行等に関する条例」の一部改正案について、2026年5月19日から6月18日までパブリック・コメントを行い、7月31日に実施結果を公表しています。改正の内容と施行日は、大阪市の公表資料で確かめてください。
既存の物件で起きやすいこと
規制が強まると、届出や認定を受けていても、営業できる日数や時間帯が減る、近隣への説明や苦情対応の負担が増える、といった形で採算に響きます。どの程度響くかは物件と地域で大きく違うため、オーナーには実際の稼働日数と経費の記録をもとに判断してもらいます。
民泊をやめるときの選択肢
民泊を続けにくくなったときの選択肢を比べます。どれが合うかは、立地、建物の用途地域、家具の有無、オーナーが手をかけられる度合いで変わります。
| 選択肢 | 主な根拠 | 向く物件の例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 民泊を条件内で続ける | 住宅宿泊事業法 | 条例の制限が比較的緩い地域 | 日数の上限と報告義務は続く |
| 旅館業の許可を取る | 旅館業法 | 許可の基準と建物の用途の制限を満たせる建物 | 許可の基準、条例の上乗せ、近隣対応 |
| マンスリー賃貸(定期借家) | 借地借家法第38条 | 家具付きで、出張・研修・住み替えの需要がある立地 | 宿泊ではなく賃貸借として組む。契約・説明の書面が要る |
| 通常の賃貸(普通借家) | 借地借家法 | 長く住む人の需要がある立地 | 家具の撤去や原状の整備が要ることがある |
「宿泊」と「賃貸」の境目
マンスリー賃貸に切り替えても、運営の実態が宿泊なら旅館業法の許可が必要になります。旅館業法は「旅館業」を旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業とし(第2条第1項)、「宿泊」を「寝具を使用して前各項の施設を利用すること」と定めています(同条第5項)。
厚生労働省の資料「旅館業に関する規制について」は、旅館業に当たるかの判断の目安として、施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること、宿泊者がその部屋に生活の本拠を有さないことを原則として営業していること、を挙げています。日数だけで決まるものではありません。
国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」は、いわゆるマンスリーマンションなど、利用者の滞在期間が長期に及ぶなど生活の本拠として使用されることが予定され、施設の衛生上の維持管理責任が利用者にあるなど、旅館業法に基づく営業を行っていない場合には、同法の賃貸住宅に当たるとしています。反対に、住宅宿泊事業の用に供されている届出住宅は、同法の賃貸住宅から除かれています。
消費税の扱いも変わります。国税庁のタックスアンサーNo.6226は、住宅の貸付けは非課税だが、貸付期間が1か月未満の場合や旅館業に当たる施設の貸付けは非課税にならないとしています。
| 見る点 | 賃貸借に近い | 宿泊に近い |
|---|---|---|
| 部屋の衛生管理 | 入居中の清掃や管理は入居者が行う | 運営者が客室の清掃やリネン交換を行う |
| 生活の本拠 | 住民票を移す、郵便を受け取るなど、そこで生活する前提 | 旅行や短期の滞在が前提 |
| 契約 | 賃貸借契約書と重要事項説明 | 宿泊の予約と宿泊約款 |
| 期間 | 1か月以上の契約 | 1泊から受け付ける |
上の表は判断の目安で、境目の物件は物件所在地の保健所に事前に相談するのが確実です。
定期借家でマンスリー賃貸を組むときの要点
短期の賃貸を普通借家で結ぶと、借主が更新を望んだときに期間どおりに終わらせにくくなります。期間満了で確実に終わらせたい場合は、更新のない定期建物賃貸借(借地借家法第38条)を使います。条文の要点は次のとおりです。
- 書面で契約する:公正証書による等書面によって契約するときに限り、更新がない旨を定められます(第1項)。電磁的記録による契約も書面とみなされます(第2項)。
- 1年未満の期間も定められる:第1項後段により、期間を1年未満とする建物の賃貸借を期間の定めがないものとみなす第29条第1項は適用されません。
- 契約とは別の書面で事前に説明する:賃貸人は、あらかじめ、更新がなく期間の満了で終了することを記載した書面を交付して説明しなければなりません(第3項)。借主の承諾を得れば電磁的方法でも提供できます(第4項)。説明をしなかったときは、更新がない旨の定めは無効です(第5項)。
- 期間1年以上なら終了の通知が要る:期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知をしなければ、終了を借主に対抗できません(第6項)。マンスリー賃貸の多くは1年未満なので、この通知は通常は問題になりません。
- 借主の中途解約:床面積200㎡未満の居住用建物では、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情で生活の本拠として使用することが困難になった借主は、解約を申し入れることができ、申入れの日から1か月で終了します(第7項)。これより借主に不利な特約は無効です(第8項)。
なお、借地借家法第40条は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には同法第3章の規定を適用しないとしています。条文は「明らかな場合」としているため、契約書に「一時使用」と書いただけで適用されるとは限りません。期間どおりに終わらせたいなら、定期借家の要件を満たしておくほうが確実です。
料金と費用の決め方
マンスリー賃貸では、賃料のほかに光熱費、清掃費、家具・家電の使用料などを定額で受け取る形がよく使われます。何が賃料に含まれ、何が別料金かを契約書と広告で一致させます。退去時の清掃費や原状回復の範囲も、契約書に具体的に書いておくと精算でもめにくくなります。
切り替えの手順と、管理会社が確かめること
- 今後の予約を整理する:民泊の予約サイトへの掲載を止め、受付済みの予約の扱いを決める。
- 廃業の届出をする:住宅宿泊事業を廃止したときは、その日から30日以内に都道府県知事等に届け出ます(住宅宿泊事業法第3条第6項)。旅館業や特区民泊の場合は、それぞれの手続を所管の窓口で確かめます。
- 管理委託の契約を見直す:住宅宿泊管理業者への委託を終え、賃貸住宅としての管理受託契約に切り替える。賃貸住宅管理業法の登録が必要な200戸の数え方にも、新たに賃貸住宅になる戸数が加わります。
- 契約書類を用意する:定期建物賃貸借契約書、更新がないことの事前説明書面、重要事項説明書、設備・備品の一覧。
- 募集の表示を直す:宿泊の広告で使っていた「1泊○円」などの表示を残さない。賃料と定額の費用を分けて示す。
- 近隣と管理規約を確かめる:マンションの一室なら、管理規約で賃貸や短期の利用がどう定められているかを確かめる。民泊のころの苦情の経緯があれば、切り替えたことを管理組合に伝える。
管理会社にとっては、民泊の運営代行とは違う仕事になります。入居者の審査、賃料の入金管理、オーナーへの送金、退去時の精算と、通常の賃貸管理の流れに乗せられるかがポイントです。ウルスタくんのように、物件・入居者の管理、入金の記録、オーナーへの送金明細、賃貸借契約書などの書類作成をまとめて扱える仕組みを使うと、切り替えた部屋もほかの賃貸住宅と同じ流れで管理できます。
よくある質問
Q1. 1か月以上の契約にすれば、旅館業の許可は要りませんか。
期間だけでは決まりません。厚生労働省の資料は、衛生上の維持管理責任が営業者にあるか、宿泊者が生活の本拠を有さないことを前提に営業しているか、を目安に挙げています。運営の実態が宿泊に近ければ、期間が長くても旅館業に当たる可能性があります。迷う場合は保健所に相談します。
Q2. 定期借家の事前説明は、契約書に書いておけば足りますか。
借地借家法第38条第3項は、あらかじめ、更新がなく期間満了で終了する旨を記載した書面を交付して説明することを求めています。最高裁は、この書面(当時の第38条第2項、現在の第3項)について「契約書とは別個独立の書面であることを要する」と判断しています(最高裁平成24年9月13日第一小法廷判決)。契約書とは別に用意するのが確実です。
Q3. 大阪市の特区民泊は、既存の施設も営業できなくなりますか。
大阪市の発表では、2026年5月29日以前に認定を受けている特区民泊施設は従来どおり営業できるとしています。終了したのは新規の受付です。
Q4. マンスリー賃貸の賃料に消費税はかかりますか。
住宅の貸付けは非課税ですが、貸付期間が1か月未満の場合や旅館業に当たる施設の貸付けは非課税になりません(タックスアンサーNo.6226)。1か月未満の利用も受け付ける場合は、税理士に扱いを確認してください。
出典(本文で参照している資料)
- 住宅宿泊事業法(第2条第3項、第3条、第11条、第14条、第18条)
- 旅館業法(第2条、第3条)
- 国家戦略特別区域法(第13条)
- 借地借家法(第38条、第40条)
- 大阪市 報道発表資料 大阪市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業にかかる区域計画の変更認定について(2025年11月28日)
- 大阪市 「大阪市旅館業法の施行等に関する条例の一部改正(案)」についてパブリック・コメントを実施します(2026年5月15日)
- 大阪市 同改正案に対するパブリック・コメント手続の実施結果について(2026年7月31日)
- 最高裁判所 平成24年9月13日第一小法廷判決(平成22年(受)第1209号)
- 厚生労働省 旅館業に関する規制について
- 国土交通省 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方
- 国税庁 タックスアンサーNo.6226 住宅の貸付け
この記事は2026年10月7日時点の情報です。