業務を外注するか社内で行うかは、1件あたりの費用だけで決めず、量の変動、品質の確かめ方、法令の制限の3つをあわせて判断します。賃貸住宅管理業法15条により管理業務の全部を再委託することはできず、入居者の個人データを渡すなら個人情報保護法25条の監督が、1件500万円以上の工事を頼むなら建設業の許可の有無が関わります。この記事では、判断の軸、費用の比べ方の計算例、法令の確認点、外注するときに契約で決めることを順に整理します。
判断の軸
外注か社内かを決めるとき、次の軸で業務を1つずつ見ます。点数を付けて足し合わせるより、どの軸で決まるのかを言葉で書いておく方が、後から見直しやすくなります。
| 軸 | 見ること |
|---|---|
| 費用 | 社内で行う場合の人件費や道具代と、外注した場合の委託料に、指示や確認の手間を足した総額 |
| 量の変動 | 月ごと、季節ごとに件数がどれだけ増えたり減ったりするか |
| 品質 | 出来上がりを誰が、どの基準で確かめるか。手直しが出たときの扱い |
| 法令と情報の管理 | 外に任せられない業務か、任せるときに必要な手続きや資格があるか、個人データを渡すか |
| 社内に残す知見 | その業務を通じて、物件や入居者についての情報が社内に入ってくるか |
最後の軸は見落とされがちです。例えば退去時の立会いは、外注すると物件の傷み具合や入居者とのやり取りが直接には入ってこなくなります。外注する場合は、報告の形で必要な情報が戻ってくるように決めておきます。
費用の比べ方と計算例
社内で行う費用は、担当者の給与だけでなく、会社が負担する社会保険料、道具や車両、教育の時間を含めて考えます。外注の費用は、委託料に加えて、依頼の連絡、日程の調整、出来上がりの確認にかかる社内の時間を含めます。
件数が変動する業務は固定費と変動費で考える
社内で行う場合、人や道具の費用は件数が少ない月にもかかります。外注は件数に応じて費用が増減します。そのため、件数が月によって大きく変わる業務では、平均の件数だけで比べると判断を誤ります。
仮の数字で計算例を示します。退去後のクリーニングを社内で行う場合と外注する場合を比べます。
- 社内で行う場合:人と道具の固定費が月40万円、1件ごとの材料費が1万円
- 外注する場合:1件の委託料が5万円、依頼と確認に1件あたり1時間かかり、その時間の費用を3,000円とする
| その月の件数 | 社内の1件あたり費用 | 外注の1件あたり費用 |
|---|---|---|
| 4件 | 40万円÷4件+1万円=11万円 | 5万円+0.3万円=5.3万円 |
| 8件 | 40万円÷8件+1万円=6万円 | 5.3万円 |
| 12件 | 40万円÷12件+1万円=約4.3万円 | 5.3万円 |
この仮の条件では、社内の費用と外注の費用が等しくなるのは、40万円÷(5.3万円−1万円)で約9.3件です。毎月安定して10件以上あれば社内の方が安くなり、それを下回る月が多ければ外注の方が安くなります。件数が4件の月と12件の月が交互に来るような業務では、平均が8件でも、社内で抱えると少ない月の負担が大きくなります。
実際に比べるときは、自社の過去の件数を月ごとに並べ、少ない月と多い月の両方で計算してみます。多い月だけ外注を足す、という組み合わせも選択肢になります。
品質の確かめ方
外注でも社内でも、品質は「何をもって完了とするか」を決めておかないと比べられません。例えば清掃であれば、確認する箇所の一覧と、完了時の写真の撮り方を決めます。修繕であれば、工事の範囲、使う材料、完了時の確認の方法を決めます。
外注する場合は、完了報告を受け取ってから確認するまでの手順と、手直しが必要なときの連絡方法と期限を決めます。依頼してから完了までの日数や、同じ不具合で再び訪問した件数などを記録しておくと、業者ごとの違いを数字で話せるようになります。指標の定義と計算式は外部パートナーのKPI管理で解説しています。
法令で確かめること
賃貸住宅管理業法15条:管理業務の全部の再委託の禁止
賃貸住宅管理業法15条は、「賃貸住宅管理業者は、委託者から委託を受けた管理業務の全部を他の者に対し、再委託してはならない」と定めています。管理業務とは、同法2条2項で、賃貸住宅の維持保全(点検、清掃その他の維持と必要な修繕)を行う業務と、それとあわせて行う家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務をいいます。
国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」は、管理業務を複数の者に分割して再委託することを含め、管理業務の全てを他者に再委託して自ら一切行わないことは15条に違反するとしています。一方、管理受託契約に一部の再委託に関する定めがあるときは、自ら再委託先の指導監督を行うことで一部の再委託ができ、再委託先は賃貸住宅管理業者である必要はないものの、再委託先の業務の実施について管理業者が責任を負うとしています。国土交通省の賃貸住宅標準管理受託契約書13条も、一部の再委託を認めつつ一括の委託を禁じ、再委託した業務の処理について自らなしたと同等の責任を負うと定めています。
また、同法21条は管理業者と従業者に秘密を守る義務を課しており、解釈・運用の考え方は、ここでいう従業者に再委託を受ける者など直接の雇用関係にない者も含まれるとしています。外注先にも秘密保持を契約で求めておきます。
個人情報保護法25条:委託先の監督
入居者の氏名や電話番号を外注先に渡す場合、個人情報保護法27条5項1号により、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いを委託することに伴う提供は、第三者提供の制限の対象外となります。ただし、その場合でも同法25条により、委託先に対する必要かつ適切な監督が求められます。個人情報保護委員会の資料は、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握を挙げています。渡す情報は作業に必要な範囲に絞り、作業後の削除の方法も決めておきます。
建設業法:500万円の基準
建設業法3条1項は、建設業を営もうとする者に許可を求め、ただし書で、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負う者は除くとしています。同法施行令1条の2は、軽微な建設工事を、工事1件の請負代金の額が500万円(建築一式工事は1,500万円)に満たない工事などと定めています。国土交通省は、この金額に消費税及び地方消費税の額を含むと説明しています。
同条2項は、正当な理由なく契約を分割しても、合計額で判断するとしています。3項は、注文者が材料を提供する場合、その市場価格と運送賃を請負代金の額に加えるとしています。大規模な修繕や原状回復をまとめて頼むときは、この基準に照らして、依頼先が建設業の許可を持っているかを確かめます。
取適法:発注側としての義務
2026年1月1日に、下請法は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)に改められました。清掃や点検などを外注する取引が対象になるかは、取引の内容と、発注側・受注側の資本金や従業員数で決まります。対象になる場合の義務と禁止行為は外部パートナーのKPI管理で整理しています。
業務ごとの考え方
次の表は、業務ごとに判断の材料になりやすい点をまとめたものです。結論は会社ごとに変わるため、自社の件数と体制に当てはめて考えてください。
| 業務 | 外注を検討しやすい条件 | 社内に残す理由になりやすい点 | 法令の確認点 |
|---|---|---|---|
| 物件写真の撮影 | 件数が少なく、機材を持っていない | 募集を急ぐ物件ですぐ撮りたい | 広告の表示が現況と合っているか(宅建業法32条) |
| 退去後のクリーニング | 件数の変動が大きい | 件数が安定して多い | 入居者情報を渡す場合は個人情報保護法25条 |
| 修繕工事 | 専門の技術や資格が必要 | 軽い補修を即日で行いたい | 建設業法3条と施行令1条の2の500万円の基準、19条の契約書面 |
| 夜間・休日の入居者対応 | 社内で交代の体制を組めない | 入居者との関係を直接持ちたい | 管理業務の全部の再委託にならないか(管理業法15条)、個人情報保護法25条 |
| 定期清掃・点検 | 物件が点在し、移動の負担が大きい | 物件の状態を自社の目で見たい | 管理受託契約に一部再委託の定めがあるか |
| 記帳・経理 | 専門家の確認を受けたい | 日々の入金確認と一体で行いたい | 電子取引のデータの保存(電子帳簿保存法7条) |
決め方の手順
- 業務を一覧にし、担当者と月ごとの件数を書き出す
- 件数が少ない月と多い月の両方で、社内と外注の費用を計算する
- 完了の基準と確認の方法を決め、外注でも社内でも同じ基準を使えるか確かめる
- 法令の確認点(再委託、個人データ、許可)に当たるかを確かめる
- 期間を区切って試し、記録をとる
- 期間の終わりに、記録をもとに続けるか戻すかを決める
社内に戻す場合も、外注先に任せていた手順や連絡先、未完了の案件を引き継ぐ期間を設けます。新しい協力業者を受け入れる手順は協力業者の受入れにまとめています。
社内で行うときの注意
社内で行うと決めた業務にも、外注と同じように確認すべき点があります。
1人に頼らない
社内で行う業務が特定の1人にしか分からない状態だと、休みや退職で止まります。手順と確認の基準を書面にし、少なくとも2人が対応できるようにしておきます。外注先に頼んでいたときの手順書があれば、それを社内の手順の土台に使えます。
許可や資格が要る作業を見落とさない
修繕を自社で請け負う形にする場合、建設業法の許可が要らないのは、施行令1条の2の軽微な建設工事のみを請け負うときに限られます。電気工事のように、電気工事士法3条で電気工事士の免状を持つ者でなければ作業に従事できないと定められているものもあるため、社内で行う範囲を決める前に確かめます。
空き時間の使い方を決めておく
件数が少ない月に担当者の手が空く場合、その時間に何をするかを決めておくと、固定費が無駄になりにくくなります。例えば、空室の点検、募集図面の見直し、入居者からの小さな依頼への対応などに充てられます。
外注するときに契約で決めること
| 項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 業務の範囲 | 何をどこまで行うか。追加作業が出たときの連絡と承認の方法 |
| 完了の基準 | 完了とみなす条件、報告の形(写真、報告書)、提出の期限 |
| 代金と支払 | 金額の決め方、支払期日、支払方法 |
| 再委託 | 外注先がさらに別の会社に任せてよいか。任せる場合の事前の承認 |
| 個人情報と秘密 | 渡す情報の範囲、使える目的、作業後の削除、漏えい時の連絡 |
| 事故と損害 | 作業中の事故や損害が起きたときの連絡と負担 |
| 契約の終了 | 解約の申出の期限、引継ぎの方法 |
工事の請負であれば、建設業法19条1項が定める事項(工事内容、請負代金の額、工事着手と完成の時期など)を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付します。同条3項により、相手方の承諾を得て電子的な方法に代えることもできます。
よくある質問
Q1. 管理業務のうち、どこまで外注してよいですか。
賃貸住宅管理業法15条は管理業務の全部の再委託を禁じています。国土交通省の解釈・運用の考え方によれば、管理受託契約に一部の再委託の定めがあれば、自ら再委託先の指導監督を行うことで一部を再委託できます。どの業務を残すかは、契約の定めと自社の体制をもとに決めてください。
Q2. 外注先に入居者の電話番号を伝えてもよいですか。
利用目的の達成に必要な範囲で個人データの取扱いを委託することに伴う提供は、個人情報保護法27条5項1号により第三者提供の制限の対象外です。そのうえで、同法25条により委託先の監督が必要です。伝える情報を作業に必要な範囲に絞り、契約で扱い方を決めておきます。
Q3. 工事を2回に分けて頼めば、許可のない業者でもよいですか。
建設業法施行令1条の2第2項は、正当な理由に基づいて契約を分割したときを除き、各契約の請負代金の合計額で判断するとしています。分割で500万円の基準を避けることはできないと考えてください。
Q4. 外注してから社内に戻すこともできますか。
できます。そのためにも、外注している間の件数、日数、手直しの記録を残し、手順書を外注先と共有しておくと、戻すときの引継ぎが楽になります。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(第2条・第15条・第21条)
- 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」(令和5年3月31日施行)
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第25条・第27条)
- 個人情報保護委員会「委託先を監督してますか?」
- e-Gov法令検索「建設業法」(第3条・第19条)
- e-Gov法令検索「建設業法施行令」(第1条の2)
- e-Gov法令検索「電気工事士法」(第3条)
- 国土交通省「建設業の許可とは」
- 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第32条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。