協力業者の管理指標は、数を増やすより、何日から何日までを数えるのか、どの案件を対象外にするのかという定義を先に決め、業者と共有することが大切です。定義がそろえば、完了日数、期限内完了率、再訪率といった少数の指標で、業者ごとの違いや自社側の手配の遅れが見えるようになります。一方で、指標を理由に代金を一方的に減らしたり支払を遅らせたりすると、2026年1月1日施行の取適法や建設業法に触れるおそれがあります。この記事では、指標の定義と計算式を仮の数字の例とともに示し、使うときの注意点を整理します。
協力業者の仕事を数字で見る理由
賃貸管理では、清掃、修繕、設備の点検、物件写真の撮影など、多くの作業を協力業者に頼みます。国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」は、管理業務の一部を再委託した場合、管理業者が再委託先の業務の実施について責任を負うとしています。また、賃貸住宅管理業法20条は、管理業務の実施状況などを定期的に委託者(オーナー)に報告するよう求めています。
オーナーから「修繕に時間がかかりすぎではないか」と聞かれたときに、件数と日数で答えられれば、説明が具体的になります。業者にとっても、何を基準に見られているかが分かれば、改善の手がかりになります。指標は業者を責めるためではなく、自社と業者の双方の段取りを見直すための材料として使います。
筆者は宅地建物取引士で、自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。この記事の指標と計算例は、規模の小さい会社が表計算ソフトで始められる形にしています。
指標を決める前の約束事
同じ「完了日数」でも、数え方が違えば数字は比べられません。次の点を決めて、業者にも伝えます。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| 起点 | 業者に依頼を送った日。見積が必要な作業は、見積を承認した日 |
| 終点 | 写真付きの完了報告を受け取った日 |
| 日の数え方 | 暦日で数えるか、業者の営業日で数えるか |
| 対象外 | 入居者の都合で訪問日が延びた案件、部品の取り寄せ待ちの期間、自社の鍵の手配が遅れた案件をどう扱うか |
| 集計の単位 | 月ごとか、四半期ごとか。件数が少ない業者はまとめる期間を長くする |
対象外の扱いは、数字をよく見せるために使わないよう、理由を記録に残します。自社の手配の遅れで延びた案件は、業者の指標から外したうえで、自社の課題として別に数えます。
主な指標と計算式
| 指標 | 計算式 | 見るときの注意 |
|---|---|---|
| 完了日数 | 終点の日−起点の日。期間内の平均と中央値 | 長くかかった1件に平均が引っ張られるため、中央値も並べる |
| 期限内完了率 | 期限内に完了した件数÷その期間に完了した件数 | 期限は依頼時に業者と合意した日にする |
| 初回連絡までの時間 | 業者が依頼を受けてから、入居者または自社に最初の連絡をするまでの時間 | 水漏れなど急ぎの案件だけを対象にすると比べやすい |
| 再訪率 | 同じ箇所の同じ不具合で再び訪問した件数÷完了件数 | 「完了後何日以内」を再訪とみなすかを決めておく |
| 手直し率 | 完了確認で手直しを求めた件数÷完了件数 | 手直しを求める基準を、清掃の確認箇所一覧などで先に示しておく |
| 見積と請求の差 | (請求額−見積額)÷見積額 | 追加作業を承認した分は分けて記録する |
| 報告の完備率 | 写真と報告書がそろって届いた件数÷完了件数 | オーナーへの報告に使う情報がそろっているかを見る |
最初からすべてを集計する必要はありません。修繕なら完了日数と再訪率、清掃なら手直し率、写真なら差し戻しの件数、というように、業種ごとに2つ程度から始めます。
仮の数字での計算例
仮の数字で計算例を示します。ある修繕業者に1か月で10件を依頼し、すべて完了したとします。完了日数(暦日)は次のとおりでした。
2日、3日、3日、4日、4日、5日、6日、7日、9日、21日
- 平均:合計64日÷10件=6.4日
- 中央値:小さい順に並べた5番目と6番目(4日と5日)の平均で4.5日
- 期限内完了率:期限を7日とすると、7日以内は8件なので、8件÷10件=80%
- 再訪率:完了後に同じ不具合で再訪した案件が1件なら、1件÷10件=10%
この例では、平均の6.4日は21日かかった1件に引っ張られており、多くの案件は4日から5日前後で終わっています。21日の案件については、部品の取り寄せ待ちだったのか、業者の手が回らなかったのか、自社の鍵の手配が遅れたのかを確かめ、理由を記録します。
もう1つの注意は件数の少なさです。10件のうち1件が再訪になると再訪率は10%、2件なら20%と大きく動きます。件数が少ない業者は、3か月や半年でまとめて見る方が実態に近くなります。業者どうしを比べるときも、件数が大きく違う場合は率だけで判断しないようにします。
業種ごとの見方
清掃
清掃は、出来上がりの基準をそろえることが先です。確認する箇所(水回り、窓、床、換気扇など)の一覧と、完了写真の撮り方を決めて渡します。そのうえで、手直し率と、退去から清掃完了までの日数を見ます。入居者や内見の案内をした担当者から指摘があった件数も、参考として記録できます。
修繕
修繕は、完了日数、再訪率、見積と請求の差が中心になります。工事の請負では、後述のとおり建設業法19条により契約の内容を書面で交わす必要があるため、期限や金額はその書面と一致させて記録します。入居者が住んでいる部屋の修繕は、入居者への初回連絡までの時間も見ておくと、苦情の予防につながります。
写真撮影
物件写真は、依頼から納品までの日数と、差し戻しの件数を見ます。差し戻しの理由(暗い、水平でない、写すべき設備が写っていないなど)を分けて記録すると、撮影の指示書を直すきっかけになります。広告に使う写真は、現況と合っていることが前提です。
指標を使うときの法令の注意点
取適法(2026年1月1日施行)
公正取引委員会のリーフレットによれば、2026年1月1日から下請法は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)に変わり、「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」に呼び方が変わりました。資本金の基準に加えて従業員数の基準が追加され、適用の範囲が広がっています。
同法2条4項は、事業者が業として行う役務の提供の全部または一部を他の事業者に委託することを「役務提供委託」と定めています(建設業者が請け負った建設工事を他の建設業者に請け負わせることは除かれます)。管理会社がオーナーから受けた清掃や点検を協力業者に任せる取引は、これに当たる可能性があります。実際に対象になるかは、双方の資本金や従業員数によるため、公正取引委員会と中小企業庁のテキストで確かめてください。
対象になる場合、リーフレットは委託事業者の義務として、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を書面または電磁的方法で明示すること、取引の記録を作成して2年間保存すること、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めること、支払遅延等の場合に遅延利息(年率14.6%)を支払うことの4つを挙げています。禁止行為として、受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定の11項目が示されています。
指標との関係では、次の使い方は避けます。
- 期限内完了率が低いことを理由に、事前の合意なく代金を減らす
- 完了報告の不備を理由に、支払期日を過ぎても支払わない
- 依頼時に示していなかった基準で手直しを求め、その費用を業者に負担させる
- 指標が悪いことを理由に、協議をせずに次回からの単価を一方的に決める
指標は、依頼時に基準と期限を示し、結果を共有し、改善を話し合うために使います。
建設業法19条:修繕工事の契約書面
修繕が建設工事の請負に当たる場合、建設業法19条1項は、工事内容、請負代金の額、工事着手と完成の時期、検査と引渡しの時期などを書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付するよう定めています。同条2項は、内容を変更するときも書面で行うよう求め、3項は相手方の承諾を得て電子的な方法に代えることを認めています。完了日数の期限を管理するのであれば、その期限は工期として契約の書面に書いておきます。
同法19条の3は、注文者が取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約を結ぶことを禁じています。指標を単価の交渉材料にするときも、この点に注意します。
個人情報と秘密
業者に入居者の氏名や電話番号を伝える場合、個人情報保護法25条により委託先の監督が必要です。賃貸住宅管理業法21条の秘密を守る義務について、国土交通省の解釈・運用の考え方は、再委託を受ける者など直接の雇用関係にない者も従業者に含まれるとしています。集計表に入居者の情報を入れる必要はありません。部屋番号と案件番号で管理し、業者と共有する資料からも個人情報を除きます。
業者との共有と面談
指標は、業者に事前に定義を伝え、集計した結果を同じ形で共有して初めて役に立ちます。面談では次の順番で話すと、責め合いになりにくくなります。
- 集計の定義と期間を確認する
- 数字を見せ、目立つ案件(長くかかった案件、再訪になった案件)を一緒に見る
- 原因を、業者側のもの、自社側のもの(依頼内容が曖昧、鍵の手配の遅れ、入居者との日程調整)、どちらでもないものに分ける
- 次の期間に双方が変えることを1つか2つ決める
自社側の原因が多いときは、依頼の書式や鍵の受け渡しの手順を見直します。新しい業者を迎えるときの手順は協力業者の受入れに、そもそも外注するかどうかの判断は業務委託か自社運用かの判断フレームにまとめています。
集計表の作り方
専用のシステムがなくても、表計算ソフトで1案件1行の表を作れば集計できます。列は次のとおりです。
| 列 | 入れる内容 |
|---|---|
| 案件番号 | 社内で振る番号 |
| 物件・部屋 | 物件名と部屋番号(入居者名は入れない) |
| 業者・種別 | 業者名と、清掃・修繕・写真などの種別 |
| 起点の日・期限・終点の日 | 約束事で決めた日付 |
| 対象外の理由 | 入居者都合、部品待ち、自社の手配遅れなど |
| 再訪・手直し | あり・なしと、その内容 |
| 見積額・請求額 | 追加作業を承認した分は別の列にする |
| 報告の有無 | 写真と報告書がそろったか |
完了日数は終点の日から起点の日を引く式で、期限内かどうかは終点の日と期限を比べる式で出せます。月ごとの集計は、業者と種別で絞り込んで件数と平均・中央値を出します。
よくある質問
Q1. 指標の目標値はどのくらいに設定すればよいですか。
一般に通用する基準値を示した公的な資料は見当たりません。まず数か月分を同じ定義で集計し、自社と業者の現状を把握してから、業者と話し合って目標を決める方が無理がありません。
Q2. 指標が悪い業者の代金を減らしてもよいですか。
取適法の対象となる取引では、事前の合意のない減額や、協議に応じない一方的な代金決定は禁止行為に当たります。対象外の取引でも、契約で決めていない減額はトラブルの原因になります。基準と扱いは依頼の前に契約で決めておいてください。
Q3. 件数の少ない業者はどう評価すればよいですか。
率は件数が少ないと大きく動くため、集計期間を長くするか、個々の案件の経過を見て判断します。率だけで業者どうしを比べないようにします。
Q4. 指標を業者に見せると関係が悪くなりませんか。
定義を事前に共有し、自社側の原因も同じ表で示すと、一方的な評価ではなく双方の段取りを見直す材料として受け取ってもらいやすくなります。
出典(本文で参照している資料)
- 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」
- 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)
- e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(第2条)
- e-Gov法令検索「建設業法」(第19条・第19条の3)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(第20条・第21条)
- 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」(令和5年3月31日施行)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第25条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。