仲介手数料は宅建業法46条と国土交通省の報酬告示で「上限」が決まっているだけで、下限はありません。値引きに応じるかどうかは各社の判断ですが、上限額の計算と業務の中身を示し、合意した報酬を媒介契約書に書く、という順番で対応すると話がこじれにくくなります。この記事では、2024年7月1日施行の報酬告示の上限と、値引きを求められたときの説明の手順を整理します。
仲介手数料の法的なしくみ
宅建業法46条:上限は国土交通大臣が定める
宅建業法46条1項は、宅地建物取引業者が売買・交換・貸借の代理または媒介に関して受け取れる報酬の額を、国土交通大臣が定めるとしています。2項は「前項の額をこえて報酬を受けてはならない」と定め、3項で大臣は定めた額を告示し、4項で業者は事務所ごとに、公衆の見やすい場所にその報酬の額を掲示しなければならないとしています。
つまり、法律が決めているのは受け取れる額の上限です。上限より低い額で合意することは禁止されていません。「3%は法律で決まっている」という言い方は正確ではないので、顧客への説明でも使わないほうが安全です。
宅建業法34条の2:媒介契約書に報酬を書く
売買・交換の媒介契約を結んだときは、遅滞なく、決められた事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付しなければなりません(34条の2第1項)。記載事項の7号が「報酬に関する事項」です。値引きをするかどうかにかかわらず、合意した報酬の額や計算方法は、媒介契約書に書いて残します。依頼者の承諾があれば、書面に代えて電磁的方法で提供することもできます(同条11項)。
宅建業法47条2号:不当に高額な報酬の要求も禁止
47条は業者の禁止行為を並べており、2号に「不当に高額の報酬を要求する行為」があります。上限を超えて受け取ることだけでなく、要求すること自体が問題になり得ます。
報酬告示の上限額(2024年7月1日施行)
上限額は、国土交通省の告示「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」で決まっています。現在の内容は2024年7月1日に施行されたものです。以下は消費税の課税事業者の場合の税込の上限です。
売買・交換の媒介(依頼者の一方から受け取れる額)
| 売買代金のうち | 上限の割合(税込) |
|---|---|
| 200万円以下の部分 | 5.5% |
| 200万円を超え400万円以下の部分 | 4.4% |
| 400万円を超える部分 | 3.3% |
代金の額は、建物にかかる消費税を含まない額で計算します。計算例として、売買代金3,000万円の場合は、200万円 × 5.5% = 11万円、200万円 × 4.4% = 8.8万円、2,600万円 × 3.3% = 85.8万円で、合計105.6万円(税込)が上限です。400万円を超える取引では「代金 × 3% + 6万円」に消費税を加えた額と同じになります(3,000万円なら96万円 + 消費税9.6万円 = 105.6万円)。
代理の場合は、媒介の計算で出した額の2倍以内です。相手方からも報酬を受ける場合は、その合計が2倍を超えてはいけません。
800万円以下の宅地建物の特例(低廉な空家等)
売買代金が800万円以下の宅地建物の媒介では、通常の計算額を超えて、媒介に要する費用を勘案した報酬を受け取れる特例があります。上限は30万円の1.1倍、つまり33万円(税込)です。この特例を使うには、媒介契約の締結に際して、あらかじめ報酬額を依頼者に説明し、合意しておく必要があります。
計算例として、売買代金500万円の場合、通常の計算では11万円 + 8.8万円 + 3.3万円 = 23.1万円(税込)が上限です。特例を使う場合は、事前の説明と合意があれば33万円(税込)までになります。
貸借の媒介
- 貸主と借主の双方から受け取る報酬の合計は、借賃の1か月分の1.1倍(税込)以内です。
- 居住用建物の場合、依頼者の一方から受け取れるのは借賃の1か月分の0.55倍(税込)以内です。ただし、依頼者の承諾を得ている場合は除きます。
- 長期間使われていない空家等の貸借の媒介では、貸主と借主から受け取る合計で、借賃の1か月分の2.2倍(税込)まで受け取れる特例があります。借主から受け取る額は1.1倍(居住用で承諾がなければ0.55倍)までです。
上限額はウルスタの仲介手数料計算ツールで、売買・賃貸、800万円以下の特例、長期の空家等の特例を選んで計算できます。賃貸の0.55か月と承諾の実務は仲介手数料1か月分と承諾の実務で詳しく扱っています。
値引きを求められたときの説明の手順
値引きの相談は、媒介契約を結ぶ前に出ることもあれば、買主が決まった後に出ることもあります。どの段階でも、次の順番で話すと、感情的なやりとりになりにくくなります。
手順1:上限額の計算をそのまま見せる
「3%」と丸めて伝えず、告示の段階別の計算と、消費税を分けた金額を示します。相手が計算の仕組みを知ると、「どこから出た数字か分からない」という不信感が減ります。
手順2:報酬に含まれる業務を具体的に示す
媒介の報酬は成功報酬で、契約が成立するまでの業務がその中に入っています。宅建業法が業者に求めている業務だけでも、媒介契約書の作成と交付(34条の2)、指定流通機構への登録に関する事項の取り決め(同条1項6号)、重要事項の説明(35条)、契約成立後の書面の交付(37条)などがあります。これに加えて、物件の調査、広告、内見の対応、条件の調整、引渡しまでの段取りなど、自社が実際に行う業務を一覧にして見せます。
依頼者に見せる一覧は、法律で決まっている業務と、自社が任意で行っている業務を分けて書くと伝わりやすくなります。次は一覧の例です。
| 業務 | 根拠 | 値引きの相談で説明すること |
|---|---|---|
| 媒介契約書の作成と交付 | 宅建業法34条の2 | 報酬、契約の有効期間、他社への重ねての依頼の可否などを書面で決めること |
| 指定流通機構への登録 | 同条1項6号(登録に関する事項を媒介契約書に記載) | 登録の有無と時期を決めて記載すること |
| 重要事項の説明 | 宅建業法35条 | 契約前に宅地建物取引士が書面を交付して説明すること |
| 契約成立後の書面の交付 | 宅建業法37条 | 契約の内容を書面で当事者に交付すること |
| 物件の調査、広告、内見、条件の調整、引渡しの段取り | 自社の業務範囲(任意) | どこまで行うかは会社ごとに違うため、自社の範囲を具体的に示す |
表の下の段は会社ごとに違う部分です。値引きの相談では、この任意の業務のどれを減らすのか、減らさないのかが話し合いの中心になります。法律で決まっている業務は、報酬の額にかかわらず省けません。
手順3:社内の基準に沿って判断する
値引きに応じるかどうかを担当者ごとに決めると、顧客によって扱いが変わり、説明がつかなくなります。たとえば「業務の範囲を減らす場合に限り報酬を下げる」「値引きの判断は代表者が行う」など、社内の基準を先に決めておきます。基準の中身は各社の方針で、法律が決めているものではありません。
手順4:合意した内容を媒介契約書に書く
値引きをする場合も、しない場合も、合意した報酬の額と支払の時期を媒介契約書の報酬欄に書きます。後から報酬を変えるときは、変更の合意を書面に残します。
手順5:断るときは理由を短く伝える
値引きに応じない場合は、「当社はこの業務範囲でこの報酬にしています」と理由を短く伝え、他社と比べて決めてもらってかまわない、という姿勢を示します。相手に判断の材料を渡し、決めるのは相手、という形にします。
よくある場面ごとの考え方
「他社はもっと安い」と言われたとき
報酬が違えば、含まれる業務も違うことがあります。比べるときは、広告の範囲、内見の対応、契約・引渡しまでの手続きなど、業務の中身を並べてもらうよう提案します。例文:「金額だけでなく、どこまでの業務が含まれているかを並べてご検討いただけますか。当社の業務内容はこの一覧のとおりです。」
「買主(借主)は自分で見つけた」と言われたとき
相手を探す業務が少なくなる一方で、調査、重要事項の説明、契約書面の作成、引渡しまでの手続きは残ります。どの業務が減り、どの業務が残るのかを分けて説明し、減った業務に見合う範囲で判断します。
高額な物件で金額の大きさを指摘されたとき
告示の上限は代金に比例して大きくなるため、高額な物件ほど金額が目立ちます。上限額であることを説明したうえで、値引きに応じるかは社内の基準で判断します。応じる場合は、その理由を記録に残します。
賃貸の仲介手数料を下げてほしいと言われたとき
居住用の貸借では、依頼者の一方から受け取れるのは原則として借賃の0.55か月分(税込)までです。借主から1.1か月分を受け取る場合は、依頼を受けるに当たって借主の承諾を得ているかを確かめます。承諾がないのに0.55か月分を超えて受け取ることはできません。
やってはいけないこと
- 上限を超える受領:名目を変えても、媒介の報酬として上限を超える額を受け取ることは46条2項に反します。報酬とは別に費用を受け取れる場合の扱いは、国土交通省の解釈・運用の考え方で確かめてください。
- 「法律で3%と決まっている」という説明:上限の説明として不正確です。告示の段階別の計算を示します。
- 口頭だけの値引き合意:媒介契約書の報酬欄と食い違うと、後で争いになります。
- 800万円以下の特例を事後に持ち出す:特例は、媒介契約の締結に際してあらかじめ説明し、合意しておくことが前提です。
- 報酬額の掲示漏れ:46条4項により、事務所ごとに報酬の額を掲示します。
筆者は宅地建物取引士で、ウルスタ株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113653号)の代表を務めています。報酬の説明は、告示の計算をそのまま見せるのがいちばん伝わりやすいと考えています。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 仲介手数料の値引きは法律上問題ありませんか。
宅建業法46条と報酬告示が定めているのは上限で、下限はありません。上限の範囲内で依頼者と合意した額であれば、値引き自体は禁止されていません。合意した額は媒介契約書の報酬に関する事項として書面に残します。
Q2. 売買の仲介手数料の上限はいくらですか。
売買代金のうち200万円以下の部分は5.5%、200万円超400万円以下の部分は4.4%、400万円を超える部分は3.3%(いずれも税込)を合計した額が、依頼者の一方から受け取れる上限です。代金800万円以下の宅地建物には、事前の説明と合意を条件に33万円(税込)まで受け取れる特例があります。
Q3. 賃貸の仲介手数料の上限はいくらですか。
貸主・借主の双方から受け取る合計で、借賃の1か月分の1.1倍(税込)が上限です。居住用では、依頼者の承諾を得ている場合を除き、一方から受け取れるのは借賃の0.55か月分(税込)までです。長期間使われていない空家等には、貸主と借主から受け取る合計で2.2か月分(税込)まで受け取れる特例があります。
Q4. 値引きを断ったら、媒介契約を断られても仕方ないですか。
報酬は依頼者と業者の合意で決まるものなので、条件が合わなければ契約に至らないこともあります。断る場合も、上限額の計算と業務の内容を説明し、依頼者が比べて判断できる材料を渡しておくことが大切です。
Q5. 値引きした報酬額が、事務所に掲示している報酬の額と違ってもかまいませんか。
宅建業法46条4項で事務所に掲示するのは、国土交通大臣が定めた報酬の額、つまり告示の上限です。個別の取引で上限より低い額に合意することは、掲示と矛盾しません。合意した額は媒介契約書に書いて残します。
出典(本文で参照している資料)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。