空室が続いたときに家賃を下げるかどうかは、広告が正しく出ているか、募集条件が借りる人に伝わっているか、部屋の状態が募集に耐えるかを順に確かめてから判断するのが筋道です。家賃の引き下げは、一度行うと戻しにくく、毎月の収入に長く影響します。この記事では、家賃を下げる前に確かめる順番を、不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)、宅建業法32条・34条、原状回復ガイドライン、報酬告示とあわせて整理します。フリーレントや礼金の見直しを広告に出すときの注意点も扱います。
家賃を下げると何が変わるか(仮の数字の計算例)
仮の数字で計算例を示します。実際の物件や実績の数字ではありません。家賃6万円の部屋を5万7,000円に下げる場合と、家賃は6万円のまま、入居から1か月の家賃を無料にする(フリーレント)場合を比べます。入居者は2年住むものとします。
| 方法 | 2年間の家賃収入 | 計算 |
|---|---|---|
| 家賃を3,000円下げる | 136万8,000円 | 5万7,000円×24か月 |
| 家賃据え置き・1か月無料 | 138万円 | 6万円×23か月 |
| 家賃据え置き(比較のため) | 144万円 | 6万円×24か月 |
この例では、2年住むならフリーレントのほうが収入の減りは小さくなります。入居期間が短ければ結果は逆になることもあります。家賃を下げた場合は、更新後も下がった家賃が続くことが多く、物件を売るときに家賃収入から価格を考える場合にも影響します。どちらが良いかは物件ごとに違うため、オーナーに説明するときは、同じ形の表を物件の実際の条件で作って示します。
また、借地借家法32条1項は、建物の借賃が近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときなどに、当事者が将来に向かって借賃の増減を請求できると定めています。空室を埋めるために新しい入居者の家賃だけを下げる場合、同じ建物の入居者との関係も考えておく必要があります。
家賃を下げる前に確かめる順番
家賃は最後に動かすものと考え、次の順で確かめます。上から順に、費用がかからず、すぐに直せるものです。
- 広告: 物件ポータルや業者間の物件情報に、正しい情報が、見つけてもらえる形で出ているか。
- 募集条件: 礼金・敷金・保証会社の条件・入居可能時期・ペットや楽器の可否などが、借りたい人に合っているか。
- 仲介会社への情報: 仲介会社が案内しやすい資料(募集図面、鍵の手配、内見の方法)がそろっているか。
- 部屋の状態: 清掃・修繕が済んでいるか、設備の不具合が残っていないか。
- 家賃: 上の4つを直しても反響がない場合に、周辺の募集条件と比べて判断する。
判断の材料として、問い合わせ、内見、申込みの数と、断られた理由を記録しておきます。記録がないと、何が原因で決まらないのかを区別できません。
広告の表示を見直す
必要な表示事項がそろっているか
表示規約8条は、インターネット広告などで物件を表示するとき、物件の種別ごとに定められた事項を、見やすい場所に分かりやすく表示するよう求めています。中古の賃貸マンション・貸家・賃貸アパートなどは別表9が対象で、主な事項は次のとおりです。
| 区分 | 別表9の主な表示事項 |
|---|---|
| 広告主 | 名称、事務所の所在地と電話番号、免許証番号、所属団体名と公正取引協議会加盟事業者である旨、取引態様 |
| 物件 | 所在地(町または字まで)、交通の利便、構造・階数・所在階、面積、建築年月、入居可能時期 |
| 費用 | 賃料、礼金等、敷金・保証金等、損害保険料等が必要な旨、家賃保証会社等との契約が条件のときはその旨と額、管理費・共益費等 |
| 契約 | 定期建物賃貸借であるときはその旨、契約期間、取引条件の有効期限 |
| 情報の鮮度 | 情報公開日(または直前の更新日)と次回の更新予定日 |
別表9には、契約時から期間満了までに賃料・礼金・敷金・保険料・保証料・管理費以外の費用が必要なときは、その費目と額を書くという注記もあります。鍵の交換費用など、契約時に請求する費用が広告に出ていないと、申込みの後で条件が合わなくなる原因になります。表示事項の細部は媒体によって異なる場合があるため、原文の別表で確認してください。
写真と説明文
表示規約の施行規則は、取引する建物の写真や動画は取引するものを表示するよう定めており、他の建物の写真を使えるのは建築工事の完了前などの事情がある場合に限られます。中古の賃貸住宅であれば、その部屋の写真を使います。古い写真のまま設備が変わっている場合は、撮り直します。
おとり広告になっていないか
表示規約21条は、実際には取引できない物件、取引の対象となり得ない物件、取引する意思のない物件の表示(おとり広告)を禁じています。国土交通省は令和5年1月12日の通知で、成約済みの物件を速やかに削除せずに広告を続けることなどを挙げ、おとり広告は宅建業法32条で禁止されているとして、業界団体に周知を求めています。不動産公正取引協議会連合会の「おとり広告ガイドライン」は、インターネット広告の更新の期間を最長でも2週間とし、その間に契約済みと分かった物件はすぐに削除することを徹底する必要があるとしています。
空室対策で掲載先を増やすときほど、成約後の削除が遅れやすくなります。どこに掲載したかを一覧にし、申込みが入った時点で全ての掲載先を確認する手順を決めておきます。また、宅建業法34条1項により、広告には取引態様(貸主、代理、媒介の別)を明示します。
募集条件を見直す
礼金・敷金・入居時の費用
入居時にかかる費用の合計は、借りる人が物件を比べるときの材料の一つです。礼金を下げる、敷金の額を見直す、といった変更は、毎月の家賃を変えずに入居時の負担を下げる方法です。敷金を下げる場合は、退去時の精算で不足が出たときの扱いを、原状回復ガイドラインに沿って契約書に明記しておきます。
フリーレントを広告に出すとき
表示規約の本文と施行規則で、「フリーレント」という語についての個別の定めは確認できませんでした。ただし、表示規約23条は、実際のものよりも有利であると誤認されるおそれのある表示を禁じています。フリーレントを広告に出す場合は、無料になる期間、無料の対象(賃料だけか、共益費も含むか)、短期で解約したときの違約金などの条件を、誤解のないよう併せて書くのが安全です。条件の付いたフリーレントを「家賃1か月無料」とだけ書くことは避けます。
家賃の値下げを広告で見せるとき
表示規約20条は、物件の価格、賃料などについての不当な二重価格表示を禁じています。過去の価格と比べる表示が認められる条件を定めた施行規則12条は、土地や建物の販売価格を対象としています。旧家賃と新家賃を並べて見せる表示をしたい場合は、所属する公正取引協議会に事前に相談すると確実です。
契約の形や入居の条件
定期建物賃貸借(借地借家法38条)にする、ペットや楽器の可否を見直す、保証会社の条件を見直す、といった変更も募集条件の見直しです。どれも入居後の管理や退去時の扱いに影響するため、オーナーと決めた内容を募集図面と契約書の両方に正しく反映させます。
部屋の状態と原状回復ガイドライン
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、原状回復を、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することと定義し、借りた当時の状態に戻すことではないとしています。経年変化や通常の使用による損耗の修繕費は、賃料に含まれるとされます。
ガイドラインは、古くなった設備を最新のものに替えることや、次の入居者を確保するための畳の表替えなどは賃貸人の負担としています。つまり、空室対策としての設備の交換や内装の更新は、オーナーの投資です。退去時の精算と、次の募集のための工事を分けて見積もり、オーナーに「どこまでが精算で、どこからが投資か」を説明します。
また、ガイドラインは、入居時と退去時にチェックリストを作り、写真などで部屋の状態を残すことを勧めています。次の入居者の入居時に状態を記録しておくことは、次の退去時の精算をスムーズにし、空室期間を短くすることにもつながります。
仲介会社への依頼と報酬告示
仲介会社に客付けを依頼するときは、案内しやすい材料(募集図面、写真、鍵の手配方法、内見の予約方法、申込みの受付方法)をそろえて渡します。条件を変えたら、全ての依頼先に同じ日に知らせます。
報酬については、宅建業法46条に基づく国土交通省の告示(報酬告示)が上限を定めています。告示は、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、報酬とは別に受けられる場合があることを定めています。仲介会社に広告を依頼して費用を払う場合は、依頼した広告の内容と費用を書面で残しておきます。
また、令和6年7月1日施行の報酬告示では、長期間使われていないなどの「長期の空家等」の貸借の媒介について、依頼者の双方から受ける報酬の合計の上限を、借賃の1か月分の2.2倍とする特例が設けられました。適用の条件は告示の本文で確かめてください。
それでも家賃を下げるときの判断
広告・募集条件・仲介会社への情報・部屋の状態を見直しても反響がない場合は、家賃の見直しを検討します。判断の前に、次の材料をそろえます。
| 材料 | 確かめること |
|---|---|
| 周辺の募集条件 | 同じ駅・広さ・築年数の募集中の物件の賃料と入居時の費用。いつ、どこで調べたかを記録する |
| 反響の記録 | 問い合わせ・内見・申込みの数と、断られた理由 |
| 収支への影響 | 下げた家賃が数年続く前提での収入の差(仮の数字ではなく物件の実際の条件で計算) |
| 既存の入居者への影響 | 同じ建物の入居者の賃料との差(借地借家法32条) |
| 代わりの方法 | フリーレント、礼金の見直し、設備の更新など、家賃以外の方法との比較 |
決めた内容と理由は、オーナーへの報告に残します。賃貸住宅管理業法20条の定期報告の対象には管理業務の実施状況が含まれるため、募集の経過も報告に書いておくと、後から判断の経緯を説明できます。
募集図面や業者間の物件情報をそろえる作業は、道具で手間を減らせます。ウルスタくんでは、募集図面(マイソク)の作成、業者間流通(ウルスタBB)への物件掲載、お部屋探しサイト(ヘヤスタ)への掲載を、同じ物件情報から行えます。どの道具を使う場合も、掲載先ごとの更新と、成約後の削除を確実に行う手順が前提です。
よくある質問
Q1. 何か月空いたら家賃を下げるべきですか。
一律の目安はありません。空いた期間よりも、広告・募集条件・部屋の状態を見直したかどうかと、反響の記録を見て判断します。見直しをしないまま家賃だけを下げると、原因が別にあった場合に収入だけが減ります。
Q2. フリーレントと家賃の値下げは、どちらが良いですか。
入居期間によって結果が変わります。本文の計算例のように、物件の実際の条件で表を作って比べます。フリーレントを広告に出すときは、期間・対象・解約時の条件を併せて書きます(表示規約23条)。
Q3. 広告に「値下げしました」と書いてよいですか。
旧家賃と並べる表示は、表示規約20条の二重価格表示に当たるおそれがあります。過去の価格との比較が認められる条件を定めた施行規則12条は販売価格を対象としているため、所属する公正取引協議会に確認してから表示します。
Q4. 次の入居者のための内装工事の費用を、前の入居者に請求できますか。
原状回復ガイドラインは、次の入居者を確保するための工事や設備の更新は賃貸人の負担としています。前の入居者に請求できるのは、故意・過失や通常の使用を超える使用による損耗などの復旧です。
Q5. 成約した物件の広告は、いつまでに消せばよいですか。
おとり広告ガイドラインは、インターネット広告の更新の期間を最長でも2週間とし、その期間内でも契約済みと分かった物件はすぐに削除することを徹底する必要があるとしています。申込みが入った時点で全ての掲載先を確認する手順を決めておきます。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第32条・第34条・第46条)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(第32条・第38条)
- 不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」(第8条・第20条・第21条・第23条、施行規則第9条・第12条)
- 不動産公正取引協議会連合会「表示規約 別表9」
- 不動産公正取引協議会連合会「『おとり広告』の規制概要及びインターネット広告の留意事項(おとり広告ガイドライン)」
- 国土交通省「いわゆる『おとり広告』等の禁止の徹底について」(令和5年1月12日)
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)
- 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(令和6年7月1日施行)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。


