賃貸管理 読了 14分

重要事項説明書の作成で生成AIを使うときの注意点と、宅建士が確認すべき項目(宅建業法35条の記載事項)

生成AIは重要事項説明書の下書きや資料の整理に使えますが、記載内容を確かめて説明する責任は宅地建物取引士にあります。任せてよい作業と任せない作業、入力してよい情報の線引き、35条と施行規則16条の4の3の記載事項を確かめる手順を整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
重要事項説明書の作成で生成AIを使うときの注意点|宅建士が確認すべき35条の記載事項
目次

生成AIは重要事項説明書の下書きや資料の整理に使えますが、記載内容を確かめて説明する責任は宅地建物取引士にあり、出力をそのまま書面にしないことが前提です。宅地建物取引業法35条は、契約が成立するまでの間に、宅建士に書面を交付して説明させることを宅建業者に求めています。この記事では、生成AIに任せてよい作業と任せない作業、入力してよい情報の線引き、35条と施行規則で定められた記載事項を宅建士が確かめる手順を整理します。

重要事項説明は誰が責任を持つのか

宅地建物取引業法35条1項は、宅建業者に対し、取引の相手方等に「その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして」、定められた事項を記載した書面を交付して説明をさせるよう求めています。説明する人は、法律で宅建士と決まっています。

同じ条文の4項は、説明するときに宅建士証を相手方に提示すること、5項は、書面に宅建士が記名することを定めています。8項では、相手方の承諾を得れば、書面の交付に代えて、宅建士に電磁的方法で提供させることができるとしています。紙でも電子でも、書面の内容に責任を持つのは記名した宅建士です。

生成AIは、この仕組みのどこにも位置づけられていません。AIが作った文章であっても、書面に載せた時点で、宅建業者と宅建士の説明として扱われます。宅建業法47条1号は、35条1項の事項などについて「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」を禁じています。故意でなかったとしても、誤った記載は相手方の判断を誤らせ、トラブルの原因になります。生成AIは「下書きを早く作るための道具」と位置づけ、確認の工程を省かないことが出発点です。

生成AIに任せやすい作業と任せない作業

重要事項説明書の作成には、文章を整える作業と、事実を確かめて判断する作業が混ざっています。生成AIが役に立つのは前者です。後者は一次資料に当たる必要があり、AIの出力で代わりにはなりません。

作業生成AIに任せる範囲宅建士・担当者が行うこと
ひな形の点検自社のひな形と35条各号の対応表の案を作らせる対応表を条文と照らし、抜けや重複を確かめる
長い資料の要約管理規約や使用細則のうち、個人情報を含まない部分の要約案原文の該当箇所に当たり、要約の誤りを直す
説明用の言い換え専門用語を平易な言い方にした案法的な意味が変わっていないかを確かめる
確認リストの作成物件の種別ごとの確認リストの案施行規則16条の4の3などの原文で過不足を確かめる
法令上の制限・区域指定任せない役所調査、都市計画図、自治体の指定情報で確かめる
登記の内容任せない登記事項証明書で確かめる
金額・面積・日付任せない契約条件の資料から転記し、読み合わせる
「該当なし」の判断任せない該当しない根拠となる資料を確かめてから記載する

書面のひな形そのものの整え方は、重要事項説明書のひな形の記事で整理しています。

入力してよい情報の線引き

重要事項説明書の材料には、売主・貸主や借主の氏名、住所、登記の名義人、ローンの情報など、個人情報が多く含まれます。生成AIサービスに入力する前に、何を入れてよいかを決めておく必要があります。

個人情報保護委員会の注意喚起

個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表しました。個人情報取扱事業者への注意点として、次の2つを挙げています。

  • 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
  • あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反するおそれがあるため、サービスを提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること

背景には、個人情報保護法27条1項の第三者提供の制限があります。同条5項1号は、利用目的の達成に必要な範囲内で取扱いを委託する場合は第三者に当たらないとしていますが、入力した情報がサービス側の学習など別の目的に使われるなら、委託の範囲を超えます。外国にある事業者のサービスを使う場合は、外国にある第三者への提供を定めた28条も関係します。

宅建業法の守秘義務

宅建業法45条は、宅建業者が正当な理由なく、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らすことを禁じています。75条の3は、従業者にも同じ義務を課しています。個人情報に当たらない取引条件や物件の事情でも、秘密として扱うべき情報があります。

実務での線引きの例

  • 氏名、住所、電話番号、勤務先、収入などは入力しない。文章の形を整えるだけなら「借主A」「売主B」などに置き換える
  • 登記事項証明書や本人確認書類の画像を、そのまま読み込ませない
  • 会社として使うサービスを決め、利用規約や設定で、入力内容が学習に使われるかどうかを確かめる
  • 入力してよい情報と入力しない情報を一覧にし、社内で共有する

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」(第1.2版、2026年3月31日)も、AIを業務で使う事業者(AI利用者)に向けて「個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策」を挙げています。

35条の記載事項と確認に使う資料

生成AIで下書きを作っても、記載事項の中身は一次資料で確かめます。35条1項各号の主な事項と、確認に使う資料の例を整理します。必要な資料は取引ごとに異なるため、例として見てください。

35条1項各号の主な事項

号記載事項(条文の要旨)確認に使う資料の例生成AIの出力で注意する点
1号登記された権利の種類・内容、登記名義人等の氏名登記事項証明書抵当権などの記載漏れ、名義人の取り違え
2号都市計画法・建築基準法その他の法令に基づく制限の概要(契約内容の別に応じて政令で定めるもの)役所調査の記録、都市計画図制限の有無を推測で書くこと
3号私道に関する負担(建物の貸借の契約以外のとき)公図、登記、現地建物の貸借で不要な記載が混ざること
4号飲用水・電気・ガスの供給、排水の施設の整備状況供給事業者や自治体への確認、現地一般論で埋めること
6号区分所有建物の敷地の権利、共用部分の規約等管理規約、管理会社からの資料規約の要約の誤り
7号代金・交換差金・借賃以外に授受される金銭の額と目的募集条件、契約条件の資料金額の桁や名目の取り違え
8号・9号契約の解除、損害賠償額の予定・違約金契約書案契約書案との食い違い
11号支払金・預り金の保全措置を講ずるかどうかと概要社内の取扱い講じない場合の記載漏れ
13号契約不適合責任の履行に関する保証保険契約その他の措置保険・保証の書類措置の有無の誤り
14号その他、省令で定める事項施行規則16条の4の3など物件の種別ごとの抜け

このほか、工事完了前の物件の形状・構造(5号)、手付金等の保全措置(10号)、金銭の貸借のあっせん(12号)など、取引の内容によって必要になる事項があります。

建物の貸借で加わる事項(施行規則16条の4の3)

35条1項14号を受けた施行規則16条の4の3は、建物の貸借の契約では、同条の第1号から第5号まで、第7号から第12号までの事項を説明するよう定めています。

  • 1号: 造成宅地防災区域内にあるときは、その旨
  • 2号: 土砂災害警戒区域内にあるときは、その旨
  • 3号: 津波災害警戒区域内にあるときは、その旨
  • 3号の2: 水防法施行規則11条1号により市町村長が提供する図面に位置が表示されているときは、その図面における所在地
  • 4号: 石綿の使用の有無の調査の結果が記録されているときは、その内容
  • 5号: 耐震診断を受けたものであるときは、その内容(1981年6月1日以降に新築の工事に着手したものを除く)
  • 7号: 台所、浴室、便所その他の建物の設備の整備の状況
  • 8号: 契約期間及び契約の更新に関する事項
  • 9号: 定期借地権、定期建物賃貸借、終身建物賃貸借をしようとするときは、その旨
  • 10号: 用途その他の利用に係る制限に関する事項
  • 11号: 敷金など、契約終了時に精算する金銭の精算に関する事項
  • 12号: 管理が委託されているときは、委託を受けている者の氏名(名称)と住所(区分所有建物を除く)

区域の指定やハザードマップ上の位置は、自治体の公表情報で確かめる事項です。生成AIに物件の住所を伝えて「区域内かどうか」を答えさせる使い方は避けてください。指定は見直されることがあり、AIの回答が最新の指定を反映している保証はありません。

生成AIの出力で起きやすい誤り

個人情報保護委員会の注意喚起は、一般の利用者に向けて、生成AIには不正確な内容が出力されるリスクがあることを挙げています。重要事項説明書の下書きでは、次のような誤りに注意が必要です。

  • 条文番号や法令名の取り違え、改正前の内容のままの記載
  • 渡した資料にない事項を、もっともらしい文章で補ってしまう
  • 金額、面積、日付、号数などの転記違い
  • 確認していない事項を「該当なし」「特になし」で埋める
  • 売買用の記載と貸借用の記載が混ざる

いずれも、文章としては自然に読めるため、流し読みでは気づきにくい誤りです。出力の1文ごとに「どの資料のどこに書いてあるか」を言えない記載は、根拠がないものとして扱うのが安全です。

宅建士が確認する手順の例

生成AIを使う場合の確認手順の例です。自社の体制に合わせて調整してください。

  1. 一次資料をそろえる(登記事項証明書、役所調査の記録、管理規約、契約条件の資料など)
  2. 生成AIには個人情報を伏せた情報だけを渡し、ひな形の空欄に入る文章の案を作らせる
  3. 出力の各記載に、根拠とした資料の名前とページを添えさせる
  4. 宅建士が、数字、区域指定、法令上の制限、「該当なし」の記載を一次資料と照合する
  5. 35条1項各号と施行規則16条の4の3の各号について、抜けがないかを確認リストで確かめる
  6. 宅建士が記名し、宅建士証を提示して説明する。電磁的方法で提供する場合は、相手方の承諾の記録を残す

可能であれば、下書きを作った人とは別の人が照合すると、思い込みによる見落としを減らせます。テレビ会議などで説明する場合の条件は、IT重説の記事で整理しています。

社内ルールに書いておくこと

AI事業者ガイドラインは、AI利用者に向けて、安全を考慮した適正利用、提供された文書の活用及び規約の遵守などを挙げています。重要事項説明書の作成に生成AIを使うなら、少なくとも次の内容を社内ルールとして文章にしておくと、担当者ごとの使い方のばらつきを抑えられます。

  • 使ってよいサービスと、その設定(学習に使われない設定など)
  • 入力しない情報の一覧
  • 出力を書面に使う前に確認する人(宅建士)と、確認の方法
  • どの部分に生成AIを使ったかの記録の残し方
  • ルールを見直す時期(サービスの規約変更やガイドラインの改訂があったとき)

ウルスタくんでは、物件・入居者の管理と、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類の作成、電子サインを1つのクラウドで扱えます。記載内容の確認と説明は、これまでどおり宅建士が行うことを前提とした仕組みです。

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 生成AIで作った重要事項説明書を使ってもよいですか

35条は、書面をどのような道具で作るかまでは定めていません。ただし、記名して説明するのは宅建士であり、内容の責任は宅建業者と宅建士にあります。生成AIの出力は下書きとして扱い、一次資料で確かめてから使ってください。

Q2. 無料の生成AIサービスに物件資料を入れてもよいですか

個人情報を含む資料は、個人情報保護委員会の注意喚起に沿って、利用目的の範囲内か、入力した情報が機械学習に使われないかを確かめる必要があります。サービスの規約や設定を会社として確認し、使ってよいサービスを決めてから使うのが安全です。

Q3. 説明そのものをAIの音声や動画に任せられますか

35条1項は宅建士に説明させることを、4項は説明のときに宅建士証を提示することを求めています。説明は宅建士が行う必要があります。

Q4. 電子で交付するときに気をつけることは何ですか

35条8項により、相手方の承諾を得て、宅建士に電磁的方法で提供させることになります。相手方の承諾を得た記録を残してください。

出典(本文で参照している資料)

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この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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