不動産SaaSの連携は、つなぐ業務を1つに絞り、「どの項目を、どのシステムから、どのシステムへ送るか」を項目対応表で決めてから試すのが進め方の基本です。CRM・会計・ポータルを全部お互いに上書きできるようにする必要はありません。この記事では、連携の手順に加えて、個人情報保護法の委託・安全管理措置と、電子帳簿保存法の電子取引データ保存という、連携で関わることの多い公的なルールの確認点をまとめます。
最初に連携する業務を1つ選ぶ
連携の失敗でよくあるのは、CRM・会計・物件管理・ポータル掲載を一度に全部つなごうとして、どこでデータが変わったのか分からなくなることです。最初は、二重入力が多く、間違えると困る業務を1つだけ選びます。たとえば次のような業務です。
- 問い合わせを受けた顧客の情報を、CRMから物件案内の記録へ移す
- 入金の記録を、物件管理のシステムから会計ソフトへ移す
- 空室の募集条件を、物件管理のシステムからポータル掲載用のデータへ移す
選んだ業務について、今は誰が、どの画面で、何を転記しているのかを書き出します。転記している項目が分かれば、連携で減らせる作業がはっきりします。
「正本」を項目ごとに決める
同じ情報が2つ以上のシステムにあるときは、どちらを正しい値とするか(正本)を項目ごとに決めます。たとえば、物件の賃料や募集条件は物件管理のシステムが正本、顧客の連絡先はCRMが正本、仕訳は会計ソフトが正本、といった分け方です。正本でない側で値を直しても、次の連携で上書きされて元に戻ることがあります。誰がどこで直すのかを、正本と一緒に決めておきます。
項目対応表に残すこと
項目対応表は、連携の設計図です。スプレッドシートで十分なので、次の列を用意します。
| 列 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 送る側の項目名 | 元のシステムの画面やCSVの列名 | 物件管理「賃料」 |
| 受ける側の項目名 | 送り先のシステムの項目名 | ポータル用データ「賃料(円)」 |
| 形式 | 数値・文字・日付、桁数、単位、税込か税抜か | 整数、円単位、税の扱いを明記 |
| 正本 | どちらの値を正しいとするか | 物件管理 |
| 更新のタイミング | 即時・1日1回・手動など | 1日1回 |
| 空欄や不正な値のとき | 送らない・既定値を入れる・担当者に知らせる | 送らずに一覧へ出す |
| 個人情報か | 氏名・電話番号・メールなどを含むか | 含まない |
表記の揺れも、この表で吸収します。「1K」と「1K」、「㎡」と「m2」、住所の丁目の書き方、日付の和暦と西暦などは、受ける側で別の値として扱われ、重複や検索漏れの原因になります。
連携方式の違いを知っておく
連携の方式は、大きく分けて3つあります。どれが良いかは業務の量と頻度で変わるので、方式の特徴だけ押さえておきます。
| 方式 | 仕組み | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| API連携 | システム同士がプログラムで直接データをやり取りする | 件数が多く、頻繁に更新する業務 | 仕様の変更や認証の期限切れで止まることがある。止まったときに気づく仕組みが要る |
| CSVの出力・取込 | 一方からファイルを書き出し、もう一方で読み込む | 月1回や週1回など、まとめて移せばよい業務 | ファイルの置き場所と削除の時期を決める。個人情報を含むファイルがメールやPCに残りやすい |
| 手入力 | 人が画面を見て入力する | 件数が少なく、判断を伴う業務 | 転記ミスが起きやすい。入力者と確認者を分ける |
連携先が公開しているAPIの仕様書や、CSVの列の定義書は、項目対応表を作る前に入手しておきます。仕様に書かれていない項目は、連携できない前提で考えるほうが安全です。
試行は正常系と例外を一緒に確かめる
試行では、うまくいく場合(正常系)だけでなく、うまくいかない場合(例外)も同時に確かめます。本番の前に、次のような例外を意図的に作って試します。
- 同じ顧客を2回登録したとき(重複)
- 連携が途中で止まり、同じデータを再送したとき(二重登録)
- 必須項目が空欄のとき
- 正本でない側で値を直したとき
- 物件を募集終了にしたとき、ポータル側の掲載がどうなるか
- 担当者が退職し、アカウントを止めたとき
試行の結果は、日付・試した操作・期待した結果・実際の結果・対応の5列で記録します。記録があると、本番で同じ問題が起きたときに原因をたどれます。最初は1物件・1担当者など小さな範囲で始め、問題がないことを確かめてから対象を広げます。
個人情報保護法で確かめること
CRMには顧客の氏名や連絡先、物件管理のシステムには入居者やオーナーの情報が入ります。連携でこれらを別のシステムに送る場合、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)の次の条文が関わります。
| 条文 | 内容の要旨 | 連携での確認点 |
|---|---|---|
| 第23条(安全管理措置) | 個人データの漏えい・滅失・毀損の防止など、安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる | アクセスできる人の範囲、ログイン方法、CSVファイルの扱いを決める |
| 第25条(委託先の監督) | 個人データの取扱いを委託する場合、委託先に対して必要かつ適切な監督を行う | 連携先が個人データを取り扱うなら、委託先として選定・契約・状況把握を行う |
| 第27条第1項・第5項第1号 | 本人の同意なく個人データを第三者に提供してはならない。ただし利用目的の達成に必要な範囲内の委託に伴う提供は第三者提供に当たらない | 連携先が自社の目的のためだけに扱うのか(委託)、連携先自身の目的にも使うのかを確かめる |
クラウドサービスは「事業者が個人データを取り扱うか」で判断する
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(Q7-53)では、クラウドサービスの提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合は、個人データを提供したことにはならず、本人の同意も、第25条に基づく監督も不要としています。判断の基準は、データに個人データが含まれているかではなく、事業者が実際に個人データを取り扱うかどうかです。利用規約や契約で、事業者がデータにアクセスする条件を確かめておきます。
事業者が個人データを取り扱う場合は委託に当たり、同委員会のガイドライン(通則編)3-4-4 では、委託先の監督として、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における個人データの取扱状況の把握を挙げています。連携先ごとに、この3つを確かめた記録を残しておきます。
外国のサーバに保存する場合
同じくQ&A(Q10-25)では、外国にある事業者のクラウドサービスを使い、そのサーバに個人データを保存する場合、その外国の個人情報保護の制度などを把握したうえで安全管理措置を講じる必要があるとしています。本人が知り得る状態に置く事項として、事業者が所在する外国の名称や、サーバが所在する外国の名称、講じた措置の内容を明らかにすることが示されています。連携先のサーバの所在国は、導入前に確認しておきます。
会計連携で関わる電子帳簿保存法
会計ソフトとの連携では、電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)の電子取引データ保存が関わります。メールやウェブで受け取った請求書・領収書などのデータは、紙に印刷して保存するのではなく、データのまま保存する必要があります。
国税庁のリーフレット「電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください」(令和6年1月以降用)では、保存の要件として次の3つを挙げています。
- 改ざん防止のための措置をとる(訂正・削除の履歴が残るシステムを使う、事務処理規程を定めて守る、タイムスタンプを付けるなど)
- 「日付・金額・取引先」で検索できるようにする
- ディスプレイやプリンタなどを備え付ける
同じリーフレットでは、基準期間(2年または2期前)の売上高が5,000万円以下の場合などに、税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられるようにしておけば、検索要件が不要になることも説明されています。連携で会計ソフトに仕訳を取り込んだ後も、元の電子データをどこに、どの形で保存しているかを項目対応表と一緒に記録しておくと、税務調査のときに説明しやすくなります。
費用と工数は、同じ条件で測る
連携の効果を判断するには、連携前と連携後の作業時間を、同じ業務・同じ期間で測ります。連携後には、エラーの確認や設定の見直しといった新しい作業が増えるので、それも含めて比べます。
仮の数字で計算例を示します。入金の記録を会計ソフトへ転記する作業に月12時間かかっていたとします。連携後は、取込結果の確認とエラー対応で月1時間かかるとします。差は月11時間、年132時間です。ここから、連携の設定にかかった時間と、連携のための月額費用を差し引いて判断します。数字は業務ごとに大きく変わるため、自社の記録で測ることが前提です。
| 測る項目 | 連携前 | 連携後 |
|---|---|---|
| 転記・入力の時間 | 月ごとに記録 | 月ごとに記録 |
| 確認・エラー対応の時間 | 転記ミスの修正時間 | 取込エラーの確認時間 |
| 初期設定の時間 | なし | 項目対応表の作成と試行の時間 |
| 費用 | 既存システムの費用 | 追加の利用料や開発費 |
運用を始めてから見直すこと
連携は、始めた後の管理が欠かせません。情報処理推進機構(IPA)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」は、2026年3月27日に第4.0版が公開され、付録7に「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」が含まれています。連携先を増やすときの確認に使えます。運用の中では、次の点を定期的に見直します。
- 退職者や異動者のアカウントを止めたか
- 連携用のIDやキーを、必要な人だけが扱っているか
- CSVファイルが個人のPCやメールに残っていないか
- 連携が止まっていないか(最終更新日時を見る)
- 項目対応表が実際の設定と合っているか
連携の数そのものを減らすのも1つの考え方です。ウルスタくんは、物件・入居者の管理、顧客管理、書類(賃貸借契約書・重要事項説明書など24種)と電子サイン、募集図面(マイソク)、業者間流通(ウルスタBB)、お部屋探しサイト(ヘヤスタ)を同じ仕組みの中で扱うため、これらの業務の間ではシステムをまたぐ転記を減らせます。会計ソフトなど外部とつなぐ部分だけを、この記事の手順で設計できます。
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このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. すべてのシステムを双方向でつないだほうが便利ではありませんか。
双方向にすると、どちらで直した値が正しいのかが分かりにくくなり、上書きの事故が起きやすくなります。まず項目ごとに正本を決め、正本から片方向で送る形にすると、原因をたどりやすくなります。
Q2. クラウドの物件管理システムを使うと、顧客情報の第三者提供になりますか。
個人情報保護委員会のQ&A(Q7-53)では、クラウドサービスの事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合は、提供に当たらないとしています。事業者が取り扱う場合は委託に当たり、第25条の監督が必要です。契約や利用規約で、事業者がデータを扱う条件を確かめてください。
Q3. 会計ソフトに取り込んだら、元の請求書データは消してもよいですか。
メールなどで受け取った請求書データは電子取引データに当たり、電子帳簿保存法の要件に沿った保存が必要です。会計ソフトに仕訳を取り込んだことだけで保存の義務が無くなるわけではないため、元のデータの保存先と保存方法を確かめてください。
Q4. CSV連携で気をつけることは何ですか。
個人情報を含むCSVファイルが、ダウンロードフォルダやメールの添付に残りやすい点です。置き場所と削除の時期を決め、第23条の安全管理措置の一部として運用ルールに書いておきます。
Q5. 連携の試行はどのくらいの範囲で始めればよいですか。
1物件・1担当者など、問題が起きても影響を確かめやすい範囲から始めます。正常系と例外の両方を試し、記録に問題が残っていないことを確かめてから広げます。
出典(本文で参照している資料)
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索)第23条・第25条・第27条
- 個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)
- 個人情報保護委員会 Q&A Q7-53(クラウドサービスの利用)
- 個人情報保護委員会 Q&A Q10-25(外国のクラウドサービスの利用)
- 国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト
- 国税庁 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください(令和6年1月以降用)
- 情報処理推進機構 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
