家賃査定は、近隣の平均家賃をそのまま使うのではなく、条件の近い事例を選び、設備・築年数・募集時期の違いを調整し、空室が続いたときの損失と比べて決めます。ポータルサイトの平均は、間取り・築年数・設備がばらばらの部屋をまとめた数字です。平均は出発点にはなりますが、その部屋の家賃にはなりません。この記事では、国土交通省の不動産鑑定評価基準の賃料の考え方を参考にしながら、実務で使える査定の手順を説明します。
相場だけで決めると外れやすい理由
「相場」と呼ばれる数字には、いくつかの種類が混ざっています。違いを知らずに使うと、査定がずれる原因になります。
- 募集家賃と成約家賃は違う:ポータルサイトに出ているのは募集中の家賃です。長く空いている部屋ほど掲載が続くため、決まりにくい家賃の部屋が多く残って見えることがあります。
- 平均は条件の違いを混ぜる:同じ駅・同じ間取りでも、築年数、階数、向き、設備で家賃は変わります。平均に合わせると、条件の良い部屋は安く、条件の悪い部屋は高く出ます。
- 公的統計は既存の契約も含む:総務省統計局の消費者物価指数の民営家賃は、調査地区内の民営借家の世帯を対象にしており、契約中の家賃も含まれます。統計局の研究論文では、継続家賃は新規契約の家賃より動きにくいとされています。地域の流れを見る材料にはなりますが、新しく募集する家賃の根拠には向きません。
相場は「比べる物差し」として使い、その部屋との違いを1つずつ足し引きする、というのが査定の基本になります。
不動産鑑定評価基準の賃料の考え方
不動産鑑定士が賃料を評価するときのルールとして、国土交通省が不動産鑑定評価基準を定めています。管理会社の家賃査定は鑑定評価ではありませんが、考え方は参考になります。
新規賃料と継続賃料を分ける
不動産鑑定評価基準(平成26年5月1日一部改正)は、総論第5章第3節で、新たな賃貸借等の契約において成立するであろう適正な賃料を「正常賃料(新規賃料)」、賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう賃料を「継続賃料」として分けています。空室の募集家賃は新規の考え方、入居中の家賃の見直しは継続の考え方です。2つを同じ相場で語らないことが、オーナーへの説明でも大切です。
手法の名前を知っておく
同基準の本文では、新規賃料を求める手法として積算法・賃貸事例比較法・収益分析法など、継続賃料を求める手法として差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法などが挙げられています。管理会社の家賃査定は、このうち賃貸事例比較法(条件の近い事例を集めて違いを補正する方法)に近い作業です。
支払賃料だけでなく一時金も見る
同基準は、毎月支払われる「支払賃料」と、権利金・敷金・保証金などの一時金の運用益や償却額を合わせた「実質賃料」を区別しています。実務に置き換えると、比較物件の家賃だけでなく、礼金、敷金、フリーレントの有無もそろえて比べる、ということです。月の家賃が同じでも、礼金ゼロやフリーレント付きの部屋とは条件が違います。
相場に加えて見る4つの要素
設備
エアコン、独立洗面台、浴室乾燥、宅配ボックス、インターネット設備、オートロックなど、入居者が検索条件で絞り込む設備は、比較物件との差が出やすい項目です。比較物件の一覧に設備の有無を並べ、対象の部屋に無いものと有るものを書き出します。どの設備がどれだけ家賃に影響するかは地域と入居者層で違うため、金額をつけるときは自社の成約事例で確かめてください。
築年数と状態
築年数はポータルサイトの絞り込み条件にもなるため、条件の区切りをまたぐと、比較される物件が変わることがあります。一方で、内装を改修した部屋は築年数だけでは評価できません。築年数と、内装・水回りの状態を分けて書きます。
募集時期
転居が多い時期と少ない時期があり、その時期は地域や入居者層(学生、単身赴任、ファミリーなど)で違います。自社の過去の問い合わせ・申込みの記録を月別に並べると、その地域でいつ動きが多いかが見えてきます。動きの少ない時期に募集を始めるなら、決まるまでの期間を長めに見込んで、空室損失の計算に入れます。
空室損失
家賃を高めにすると、決まるまでの期間が延びることがあります。月の家賃の差と、空室が延びた期間の家賃を比べないと、高い家賃が本当にオーナーの得になるかは分かりません。次の章で計算例を示します。
| 確認する項目 | 比較物件ごとに書くこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 立地 | 最寄駅、徒歩分数、周辺環境 | 地図だけでなく、駅からの道のりを確かめる |
| 建物 | 構造、築年数、階数、向き | 改修した部屋は状態を別に書く |
| 設備 | 検索条件になる設備の有無 | 影響の大きさは自社の事例で確かめる |
| 契約条件 | 家賃、管理費・共益費、礼金、敷金、フリーレント | 月の家賃だけでなく一時金もそろえて比べる |
| 募集状況 | 掲載を始めた時期、成約したか | 募集家賃と成約家賃を区別する |
比較表は、対象の部屋を1行目に置き、その下に比較物件を並べると、違う項目がひと目で分かります。違う項目には印を付け、補正の理由を表の下に1項目ずつ書きます。調べた日付は表の上に書いておくと、後から読み返したときに、いつの状況をもとにした査定かが分かります。
空室損失と比べる計算例
仮の数字で計算例を示します。実際の地域・物件の相場を示すものではありません。
家賃6万円で募集すると1か月で決まり、6.2万円で募集すると2か月かかる、と見込んだとします。入居期間を2年(24か月)と仮定して、募集開始から25か月間の家賃収入を比べます。
- 6万円案:空室1か月、入居24か月 → 6万円 × 24か月 = 144万円
- 6.2万円案:空室2か月、入居23か月 → 6.2万円 × 23か月 = 142.6万円
この仮定では、月2,000円高い案のほうが、空室が1か月延びることで収入が1.4万円少なくなります。逆に、6.2万円でも1か月で決まる見込みが高いなら、6.2万円案のほうが収入は多くなります。どちらが得かは「決まるまでの期間の見込み」で変わるため、その見込みの根拠(過去の成約までの期間、比較物件の掲載期間など)を査定書に書いておくことが大切です。
入居期間の見込み、広告料、原状回復費用なども条件によって変わります。オーナーに示すときは、前提を表にして、どの前提を変えると結論が変わるかも添えてください。
家賃を下げる前に条件で調整する
不動産鑑定評価基準が支払賃料と実質賃料を分けているように、入居者が負担する金額は月の家賃だけではありません。家賃そのものを下げる前に、礼金、敷金、フリーレント、設備の追加といった条件で調整する方法もあります。どの方法がよいかは、オーナーが何を優先するかで変わります。
仮の数字で計算例を示します。家賃6万円の部屋で、入居期間を2年(24か月)と仮定します。
- 家賃を5.8万円に下げる案:5.8万円 × 24か月 = 139.2万円
- 家賃6万円のままフリーレント1か月を付ける案:6万円 × 23か月 = 138万円
この仮定では、2年間の収入は家賃を下げる案のほうが1.2万円多くなります。ただし、入居期間が2年より長くなると、家賃を下げた差(月2,000円)が毎月続くため、結果は逆になります。例えば入居期間を4年(48か月)と仮定すると、5.8万円 × 48か月 = 278.4万円、6万円 × 47か月 = 282万円で、フリーレントの案のほうが3.6万円多くなります。
このように、家賃を下げるか条件で調整するかは、入居期間の見込みで結論が変わります。また、入居中の家賃を後から上げるには入居者との協議が必要で、借地借家法32条の要件も関係します。募集時の家賃をどう置くかは、次の更新や次の募集にも影響するため、オーナーに選択肢として示し、前提とあわせて判断してもらってください。
| 調整の方法 | オーナーへの影響 | 確認すること |
|---|---|---|
| 家賃を下げる | 入居中ずっと月の収入が減る | 入居期間の見込み、次の更新での扱い |
| フリーレントを付ける | 最初の数か月の収入が減り、その後は家賃どおり | 短期解約時の取り決め(契約書の条項) |
| 礼金を下げる | 入居時の一時金が減る | 比較物件の礼金の水準 |
| 設備を追加する | 費用が先にかかり、家賃や決まりやすさで回収する | 費用、回収の見込み、比較物件の設備 |
査定の手順
- 対象の部屋の条件を書き出す:立地、建物、設備、契約条件、状態を、比較表と同じ項目で書きます。
- 比較物件を選ぶ:同じ駅・同じ間取り・築年数が近い部屋を、募集中と成約済みに分けて集めます。調べた日付も残します。
- 条件の違いを補正する:設備・築年数・階数・向きなど、違う項目ごとにプラス・マイナスの理由を書きます。
- 募集時期と決まるまでの期間を見込む:自社の記録で、その時期・その条件の部屋がどのくらいで決まっているかを確認します。
- 空室損失と比べて3案にする:上側・中央・下側の案を出し、それぞれの収入の見込みを計算します。
- 見直す条件を決める:何週間で、何の件数を見て、次の案に移るかを決めます。
説明の場面で、査定の結果を言い切らないことも大切です。宅地建物取引業法47条の2第1項は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為を禁じています。「この家賃なら確実に満室になります」ではなく、根拠と見込みの範囲を示してください。
筆者は自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。オーナーの立場で見ると、査定書で知りたいのは金額そのものより、比較した物件と、どの前提が変わると結論が変わるかです。
ウルスタくんの賃料査定の機能は、比較物件をそろえる作業の出発点として使えます。どの方法で出した数字でも、上の手順の3〜6は人が確認し、根拠を書き添えてください。オーナーへの説明の仕方は家賃査定でオーナーの信頼を失う説明で、提案書への落とし込み方は家賃査定をオーナー提案にまとめる型で説明しています。
よくある質問
Q1. 比較物件は何件くらい集めればよいですか?
決まった件数はありません。条件の近い物件が少ない地域では、条件を広げて集め、その分だけ補正の理由を丁寧に書きます。件数より、条件をそろえて比べられているかが大切です。
Q2. 募集家賃しか分からない場合はどうしますか?
募集家賃は成約家賃ではないため、掲載が長く続いている物件は割り引いて見ます。掲載を始めた時期を記録しておくと、後から決まったかどうかを確認でき、次の査定の材料になります。
Q3. 入居中の部屋の家賃も同じ方法で査定できますか?
入居中の家賃の見直しは継続賃料の考え方になり、新規の募集家賃とは分けて考えます。借地借家法32条や契約書の賃料改定の条項を確認したうえで、入居者との協議を前提に検討してください。
Q4. 設備を追加すると家賃はどれくらい上げられますか?
地域、入居者層、比較物件の設備の状況で変わるため、一律の金額はありません。追加を提案するときは、自社の成約事例と比較物件の設備の有無を根拠に、費用と回収の見込みを仮の数字で示してください。
Q5. 公的統計は査定にどう使えばよいですか?
総務省統計局の住宅・土地統計調査(5年ごと)、小売物価統計調査(動向編、毎月)、消費者物価指数(毎月)は、地域の水準や動きの背景を示す材料として使います。市単位・指数の数字なので、個別の部屋の家賃は、条件の近い事例から出してください。
出典(本文で参照している資料)
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」(平成26年5月1日一部改正)
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」(平成14年7月3日全部改正時の本文)
- 国土交通省「法令・不動産鑑定評価基準等」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第47条の2)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(第32条)
- 総務省統計局「統計FAQ 17A-Q05 家賃の消費者物価指数」
- 総務省統計局「消費者物価指数における民営家賃の経年減価調整」(統計研究彙報 第79号)
- 総務省統計局「統計FAQ 18A-Q19 借家の家賃」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。

