家賃査定 読了 13分

家賃査定でオーナーの信頼を失う説明とは|根拠のない数字・後からの撤回・相場変動の説明不足を防ぐ

家賃査定でオーナーの信頼を失うのは、金額が外れたときより、根拠を示さない、理由なく撤回する、相場の変化を説明しないときです。公的統計と近隣事例の使い分け、借地借家法32条、宅建業法47条の2を踏まえた説明と見直しの手順を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
家賃査定でオーナーの信頼を失う説明とは|根拠の示し方と相場変動の伝え方
目次

家賃査定でオーナーの信頼を失うのは、金額が外れたときよりも、根拠を示さない、理由を示さずに撤回する、相場の変化を説明しない、という説明の仕方に原因があることが多いです。査定額は予測なので、外れることはあります。外れたときに説明がつくように、根拠・前提・見直す条件を最初に書面で示しておくことが信頼を守ります。この記事では、根拠に使える公的統計と近隣事例の使い分け、法令上の注意、見直しの手順を順に説明します。

信頼を失う説明の3つの型

オーナーが査定に不信感を持つ場面は、おおむね次の3つに分けられます。どれも金額そのものより、説明の組み立て方の問題です。

根拠のない数字だけを出す

「6万円が妥当です」と金額だけを伝えると、オーナーはその数字が何から出たのかを確かめられません。他社がもっと高い金額を出してきたとき、比べる材料がないため、高いほうを信じるか、安いほうを疑うしかなくなります。比較した物件、比べた条件、差をつけた理由が書かれていれば、金額が違っても議論ができます。

後から理由を示さずに撤回する

募集を始めてから問い合わせが少ないと、家賃を下げる提案をすることになります。このとき「やはり下げましょう」とだけ伝えると、オーナーには最初の査定がいい加減だったように見えます。問題は下げることではなく、下げる条件を事前に決めていなかったことです。最初の提案の段階で「いつ、何を見て、どう見直すか」を書いておけば、見直しは予定どおりの手順になります。

相場の変化を説明しない

同じ部屋でも、前回の募集時と今回とでは周辺の家賃水準や競合物件の数が変わっていることがあります。前回と違う金額を出すなら、何が変わったのかを示す必要があります。逆に、周辺が動いているのに毎回同じ金額で更新や募集を続けるのも、オーナーから見ると「見ていない」と受け取られやすくなります。

根拠として示せる資料と使い分け

根拠には、地域全体の傾向を示す公的統計と、対象の部屋に近い条件の事例の2種類があります。公的統計は信頼性が高い一方で、個別の部屋の家賃を決める材料にはなりません。役割を分けて使います。

資料分かること使うときの注意
住宅・土地統計調査(総務省統計局)5年ごとの調査。借家の1か月当たり・1畳当たりの平均家賃、専用住宅は延べ面積1平方メートル当たりの家賃最新は令和5年10月1日現在の調査。地域の水準を長い目で見る材料で、直近の募集相場ではない
小売物価統計調査(動向編)(総務省統計局)毎月の調査。都道府県庁所在市と人口15万以上の市の、民営借家などの1か月・3.3平方メートル当たりの家賃市単位の平均。間取りや築年数の違いは区別されない
消費者物価指数の家賃(総務省統計局)毎月の指数。全国、東京都区部、都道府県庁所在市別などで、民営家賃と公営・都市再生機構・公社家賃に分かれる指数なので金額は分からない。契約中の家賃も含むため、新規募集の家賃より動きが鈍い
近隣の募集事例いま競合している部屋の条件と募集家賃募集家賃は成約した家賃ではない。長く空いている部屋の家賃は高めに出ていることがある
成約事例(自社の記録、業者間で見られる成約情報など)実際に決まった家賃と、決まるまでの期間件数が少ないと偏る。条件の違い(設備・階数・向き)を書き添える

査定書では、統計を「地域の流れ」、事例を「この部屋の位置づけ」として分けて書くと、オーナーが読み違えにくくなります。統計の数字を引用するときは、調査名、調査時点、地域の単位をそろえて書いてください。地域の単位がずれた数字を並べると、根拠を示しているつもりでも、かえって信頼を落とします。

査定書に書いておく前提

査定額が外れたときに説明がつくかどうかは、最初の査定書に前提が書かれているかで決まります。金額の横に、次の5つを添えておくと、後から「どこが違ったか」を確かめられます。

前提書く内容外れたときに確かめられること
調べた日付比較物件と統計を確認した日その後に競合や水準が変わったか
比較の範囲駅、間取り、築年数の幅、募集中か成約済みか比べる物件の選び方が適切だったか
補正の理由設備・階数・向きなどの差と、プラス・マイナスの理由どの補正が大きすぎた・小さすぎたか
決まるまでの見込み見込み期間と、その根拠にした過去の記録時期や入居者層の読みが合っていたか
見直す条件時期、見る指標、次の案予定どおりに見直しができたか

前提を書いておくことは、オーナーのためだけでなく、社内の振り返りにも役立ちます。査定した担当者が替わっても、前回どう考えたかを読み返せるからです。結果(決まった家賃、決まるまでの期間)を同じ表に書き足していくと、次の査定の成約事例として使えます。

相場の変化をどう説明するか

前回と金額を変えるときは、何が変わったのかを分けて説明します。変化の理由は大きく3つです。

  • 地域全体の水準が動いた:消費者物価指数や小売物価統計調査で、その市の家賃の動きを確認できます。ただし統計は月単位・市単位なので、変化の向きを示す程度にとどめます。
  • 競合の状況が変わった:近くに新築が出た、同じ間取りの空室が増えた・減ったなど。前回と今回の比較物件の一覧を並べて見せます。
  • 部屋そのものが変わった:設備の入れ替え、築年数の経過、内装の傷み。何を足し、何を引いたかを項目ごとに書きます。

消費者物価指数の民営家賃について、総務省統計局の研究論文では、調査地区内の民営借家の世帯を対象に調べていること、契約中の家賃(継続家賃)は新規契約の家賃に比べて動きにくい(粘着性がある)とされていることが説明されています。指数があまり動いていなくても、新しく募集する部屋の家賃が同じとは限りません。オーナーに統計を見せるときは、この違いを一言添えると誤解を防げます。

避けたい言い方と置き換え

説明の言葉は、法令上の注意とも重なります。宅地建物取引業法47条の2第1項は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為を禁じています。また47条1号ニは、借賃等の対価の額など相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。媒介を任せてもらうための家賃の提案でも、言い切りや都合のよい事実だけを並べる説明は避けてください。

避けたい言い方置き換えの例
この家賃なら確実に決まります比較した5件のうち、条件が近い3件はこの範囲で募集されています。この範囲の上側から始める案です
相場は6万円です同じ駅・同じ間取り・築年数が近い部屋の募集家賃は5.8万〜6.2万円でした(○月○日時点)
やはり下げましょう最初にお決めいただいた見直し条件(3週間で内見が少ない場合)にあたるため、2案目に移る提案です
他社の査定は高すぎます他社の査定の根拠を拝見できれば、比較物件の違いを確認します
相場は変わっていません市全体の家賃の指数は大きく動いていませんが、近隣で同じ間取りの空室が前回より増えています

表の金額や期間は言い方の例で、相場の目安ではありません。

査定を見直すときの手順

「撤回」に見えないようにするには、見直しを最初の提案に組み込んでおきます。手順の例を示します。

  1. 査定時に3つの案を出す:根拠の範囲の上側・中央・下側の3案を出し、オーナーに選んでもらいます。
  2. 見直す時期と指標を決める:「募集開始から○週間」「問い合わせ・内見の件数」など、何を見て判断するかを書面に書きます。
  3. 途中経過を共有する:問い合わせ、内見、申込みの件数を、決めた時期にそのまま報告します。
  4. 見直すときは差分だけを説明する:最初の査定書のどの前提が外れたのか(競合が増えた、時期がずれたなど)を示し、次の案に移ります。
  5. 結果を記録する:最終的に決まった家賃と期間を、次の査定の成約事例として残します。

この流れなら、家賃を下げることになっても、オーナーにとっては予定していた選択肢の1つです。上げる方向の見直しも同じ手順で扱えます。

入居中の家賃を見直すときの法律

空室の募集家賃とは別に、入居中の部屋の家賃を見直す提案をすることもあります。この場合は、オーナーと入居者の合意が基本です。借地借家法32条1項は、租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較で借賃が不相当となったときに、当事者が将来に向かって増減を請求できると定めています。一定期間増額しない特約があればそれに従います。

国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)の第4条3項も、同じ3つの場面で「協議の上、賃料を改定することができる」としています。定期建物賃貸借で借賃の改定に係る特約がある場合は、借地借家法38条9項により32条は適用されません。入居中の家賃の見直しを提案するときは、契約書の条項を先に確認し、どの事情にあたるのかを根拠とともにオーナーへ説明してください。

定期報告とつなげる

家賃の説明は、査定のときだけでなく、日ごろの報告でも積み上がります。賃貸住宅管理業法20条は、賃貸住宅管理業者に委託者への定期報告を求めています。同法施行規則40条1項は、管理受託契約を締結した日から1年を超えない期間ごとに、管理業務報告書を作成して交付・説明することを定め、記載事項として報告の対象となる期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況及び対応状況を挙げています。

この報告に、空室の募集経過や周辺の募集状況を添えておくと、次に査定を出すときの「相場の変化」の説明がしやすくなります。毎回ゼロから説明するのではなく、前回の報告からの変化として話せるからです。

ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を同じ画面で扱えます。賃料査定の機能も、査定書の作り方の一例として使えます。どの方法で作る場合も、根拠にした事例と調べた日付を残しておくことが大切です。

査定の手順そのものは家賃査定は相場だけで決めないで、提案書への落とし込み方は家賃査定をオーナー提案にまとめる型で説明しています。

よくある質問

Q1. 査定額が外れたら、それだけで信頼を失いますか?

外れたこと自体より、外れた理由を説明できないことのほうが問題になりやすいです。最初に根拠と見直す条件を書面で示しておけば、外れたときも「どの前提が違ったか」を説明できます。

Q2. 公的統計だけで査定してもよいですか?

公的統計は地域全体の水準や動きを知る材料で、個別の部屋の家賃を決める材料にはなりません。統計は背景として使い、金額は条件の近い募集事例・成約事例から出してください。

Q3. オーナーが他社の高い査定額を信じている場合はどうしますか?

他社の金額を否定するより、比較物件と条件を並べて違いを確認するほうが話が進みます。根拠が見られない場合は、高い金額から始めて見直し条件を決めておく案も選択肢になります。

Q4. 入居中の家賃を上げる提案はできますか?

借地借家法32条の要件にあたる事情があれば増額の請求はできますが、まずは入居者との協議が基本です。契約書に増額しない特約がないか、定期建物賃貸借の改定特約がないかを先に確認してください。

Q5. 統計の数字を査定書に載せるときの注意は?

調査名、調査時点、地域の単位(全国、都道府県庁所在市など)、金額か指数かを書き添えてください。住宅・土地統計調査は5年ごと、小売物価統計調査(動向編)と消費者物価指数は毎月と、調査の周期も違います。出典のページを示しておくと、オーナーが自分で確かめられます。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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