オーナーの解約率や入居者の継続率は、年間の平均だけでなく、契約を始めた時期ごとにまとめ(コホート)、経過月数ごとの継続率を並べて見ると、どこで離れやすいかが分かります。表計算ソフトで作れる表で十分です。この記事では、継続率と解約率の計算式、仮の数字で作るコホート表、切り口の選び方、更新や解約の契約ルールとの関係、空き家の統計を整理します。
コホート分析とは何か
コホートは、同じ時期に同じ出来事を経験した人や契約のまとまりのことです。コホート分析では、「2025年1〜3月に始まった契約」のように開始時期でまとめ、開始から6か月後、12か月後、18か月後に何件残っているかを並べます。
年間の解約率は、全体の傾向をつかむには便利ですが、新しい契約と古い契約がまざっています。開始から1年前後で離れやすいのか、何年もたってから離れるのかは、平均からは読み取れません。コホートに分けると、「開始からどのくらいで」「どの時期に始めた契約が」離れやすいかが見えます。
管理会社が見る2つの継続率
- オーナーの継続率:管理受託契約が続いている割合。裏返すとオーナー解約率です。
- 入居者の継続率:賃貸借契約が続いている割合。裏返すと退去の割合です。
どちらも同じ表の作り方で分析できます。ただし、解約の理由や契約のルールが違うため、表は分けて作ります。
継続率と解約率の計算式
- n か月時点の継続率 = 開始から n か月たった時点で続いている件数 ÷ そのコホートの開始時の件数
- n か月時点の累積解約率 = 1 − n か月時点の継続率
- 期間の解約率 = 期間中に解約した件数 ÷ 期首の件数
期間の解約率は、分母を期首の件数にするか、期首と期末の平均にするかで値が変わります。どちらでも構いませんが、一度決めたら変えないようにします。
仮の数字で計算例を示します
期首に管理受託契約が100件あり、1年の間に新しく20件を受託し、8件が解約になったとします。期末は100 + 20 − 8 = 112件です。期首の件数を分母にすると、期間の解約率は8 ÷ 100 = 8.0%です。期首と期末の平均(100 + 112)÷ 2 = 106件を分母にすると、8 ÷ 106 ≒ 7.5%です。同じ1年でも、分母の決め方で0.5ポイントほど違って見えます。
仮の数字で作るコホート表
次の表は、管理受託契約を開始した四半期ごとにまとめ、2026年9月末で集計したと仮定した例です。数字はすべて説明のための仮のものです。
| 開始時期 | 開始件数 | 6か月後 | 12か月後 | 18か月後 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年1〜3月 | 20件 | 19件(95.0%) | 18件(90.0%) | 16件(80.0%) |
| 2025年4〜6月 | 16件 | 16件(100%) | 15件(93.8%) | まだ来ていない |
| 2025年7〜9月 | 24件 | 23件(95.8%) | 22件(91.7%) | まだ来ていない |
| 2025年10〜12月 | 12件 | 12件(100%) | まだ来ていない | まだ来ていない |
表を作る手順
- 契約ごとに、開始日、終了日(続いている契約は空欄)、終了の理由を1行ずつ書き出します。
- 開始日から、開始時期(四半期など)の列を作ります。
- 終了日がある契約は終了日まで、続いている契約は集計日までの経過月数を計算します。
- 開始時期ごとに、6か月、12か月、18か月の時点で続いている件数を数えます。続いている契約で、経過月数がその時点に届いていないものは「まだ来ていない」として数えません。
- 件数を開始時の件数で割り、継続率を出します。
表計算ソフトのピボットテーブルを使うと、2〜4の作業をまとめて行えます。最初は手作業で数件を確かめ、計算が合っていることを確認してから全体に広げると安心です。
表の読み方
横に読むと、1つのコホートが時間とともにどう減っていくかが分かります。2025年1〜3月のコホートは、12か月後から18か月後の間に2件減っています。縦に読むと、同じ経過月数でコホート同士を比べられます。12か月後の継続率は、90.0%、93.8%、91.7%と並びます。
「まだ来ていない」マスの扱い
2025年10〜12月に始まった契約は、集計した時点で12か月がたっていません。このコホートを12か月後の計算に入れると、継続率を実際より高く見積もることになります。12か月後の継続率をまとめて出すときは、12か月を経過したコホートだけで計算します。
この例では、(18 + 15 + 22)÷(20 + 16 + 24)= 55 ÷ 60 ≒ 91.7%です。3つのコホートの継続率を単純に平均すると(90.0 + 93.8 + 91.7)÷ 3 ≒ 91.8%となり、件数で重みをつけた値と少しずれます。件数の少ないコホートの影響を大きくしないため、まとめるときは件数で重みをつけた計算をおすすめします。
入居者の平均入居期間に注意する
入居者の分析で「退去した人の平均入居期間」だけを見ると、今も住み続けている人が計算から外れ、期間を短く見積もることになります。継続中の契約を含めて、コホート表で経過月数ごとの継続率を見るほうが実態に近づきます。
切り口の選び方
コホートの分け方は開始時期が基本ですが、ほかの切り口を足すと理由の手がかりが見えてきます。最初から全部を作る必要はありません。まず開始時期だけで表を作り、気になる差が見えたら1つずつ切り口を足します。
| 切り口 | オーナーの継続率で見る例 | 入居者の継続率で見る例 |
|---|---|---|
| 開始時期 | 受託した四半期 | 入居した月や四半期 |
| 物件の種類 | 区分所有か1棟か、単身向けかファミリー向けか | 間取り、単身向けかファミリー向けか |
| 家賃の帯 | 物件の平均家賃の帯 | その部屋の家賃の帯 |
| 契約の形 | 管理の範囲(集金のみか、建物管理も含むか) | 普通借家か定期借家か |
| 担当 | 担当者や担当の店舗 | 募集を担当した店舗 |
切り口を足すときは、データが正しく入っている項目を選びます。物件の種類や管理の範囲が契約ごとにきちんと記録されていないと、表を作っても誤った結論につながります。
切り口を細かくするほど、1つのマスの件数は少なくなります。件数が数件しかないマスの継続率は、1件の解約で大きく動きます。率と一緒に件数を書いておき、件数の少ないマスで結論を急がないようにします。
契約のルールとデータの決め方
解約日をどの日にするか
入居者の解約には、解約の申入れの日と、実際に契約が終わる日があります。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)11条は、借主は貸主に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことで契約を解約できるとしています。申入れの日で数えるか、契約が終わる日で数えるかで、解約の月が1か月ほどずれることがあります。どちらにするかを決め、表の注記に書いておきます。
更新の時期との関係
借地借家法26条1項は、期間の定めのある建物の賃貸借で、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新しない旨の通知などをしなかったときは、従前の契約と同じ条件で更新したものとみなすと定めています。標準契約書2条は、貸主と借主が協議のうえ更新できるとしています。更新の時期の前後で退去が増えていないかを見るときは、経過月数を契約期間(2年契約なら24か月など)と並べて見ると分かりやすくなります。
定期借家は分けて数える
借地借家法38条1項は、書面で契約するなどの要件のもとで、契約の更新がないことを定められるとしています(定期建物賃貸借)。期間の満了で終わる定期借家の契約を普通借家とまぜると、継続率が低く見えます。定期借家は別の表にするか、期間満了による終了を解約と分けて数えます。
オーナーとの接点を表に書き込む
賃貸住宅管理業法20条は、管理業務の実施状況などを定期的に委託者(オーナー)へ報告することを求めています。同法施行規則40条は、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとなどに報告することを定めています。定期報告の時期をコホート表の横に書き込んでおくと、報告の前後で解約の申し出が出ていないかを振り返る材料になります。
空き家の統計で背景を見る
継続率の変化を読むときは、地域の空き家の状況も背景として押さえておきます。総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査(住宅及び世帯に関する基本集計)によると、2023年の空き家は900万2千戸で、空き家率は13.8%と過去最高でした。空き家のうち賃貸用の住宅は443万6千戸で、空き家全体の49.3%を占めています。
この調査は5年ごとに行われ、市区町村別の集計もあります。自社の管理エリアの空き家率を把握しておくと、入居者が離れた後の募集にどのくらい時間がかかりそうかを考える材料になります。ただし、統計の空き家率と自社の継続率は直接つながるものではありません。統計は背景として使い、継続率の変化の理由は自社の記録から確かめます。
筆者も自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。物件を持つ側から見ても、更新の時期や退去の申入れを一覧で見通せることは、次の手を早めに考えるために役立ちます。
毎月の見方と使い方
コホート表は、一度作って終わりにせず、毎月1行ずつ更新します。毎月の会議では、次の3つを確認すると、表を作る手間に見合った使い方ができます。
- 今月、解約や退去の申入れがあった契約は、どのコホートの何か月目だったか。
- 同じ経過月数で、直近のコホートの継続率は前のコホートと比べてどうか。
- 解約の理由(売却、管理会社の変更、自主管理への切り替え、転勤や住み替えなど)は、どれが多いか。
差が見えたら、まず理由を確かめます。たとえば12か月前後でオーナーの解約が続いているなら、その時期に何があったか(定期報告、修繕の提案、家賃の改定の相談など)を記録から振り返ります。対策は、理由が分かってから1つずつ試します。
データの置き場所
コホート表を作るには、契約ごとに開始日、終了日、終了の理由が残っている必要があります。ウルスタくんの物件・入居者の管理では、物件ごとに入居者と契約の情報を残せます。更新が近い契約の一覧も見られるため、更新の時期の前にオーナーや入居者と話す予定を立てる材料になります。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 何件くらいの契約があればコホート分析に意味がありますか
決まった件数はありません。件数が少ないと1件の解約で率が大きく動くため、四半期ではなく半年や1年でまとめるなど、1つのコホートの件数を増やす工夫をします。率と件数を並べて書いておけば、読み違いを防げます。
Q2. 年間の解約率と、どちらを見ればよいですか
両方を見ます。年間の解約率は全体の傾向や他の期との比較に、コホート表は離れやすい時期や契約の特徴を探すのに向いています。
Q3. 解約したオーナーへのアンケートだけでは足りませんか
アンケートは理由を深く知るのに役立ちますが、回答の数が限られ、思い出し方にも左右されます。コホート表で「いつ、どの契約が」離れやすいかを先に見てから、その層に絞って話を聞くと、聞くことがはっきりします。
Q4. 売却による解約も解約率に入れますか
入れたうえで、理由ごとに分けて数えるのがおすすめです。売却は管理会社の対応では防げないことも多いため、売却を除いた継続率も並べておくと、自社の対応で変えられる部分が見えやすくなります。
Q5. 管理を始めたばかりで、過去の契約の記録がそろっていません
今ある契約から開始日と状態を書き出し、これから終了する契約について終了日と理由を残すところから始めます。数か月分でも記録がたまると、最初の表が作れます。古い契約は、分かる範囲で開始日だけでも入れておくと、後で使えます。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(第26条、第38条)
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」(第2条、第11条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(第20条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」(第40条)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。