不動産業の税務確認は、青色申告特別控除・少額減価償却資産の特例・小規模企業共済の3制度を「個人か法人か」で分けると、使える制度と必要な書類がはっきりします。青色申告特別控除は個人だけの制度、少額減価償却資産の特例は個人と法人の両方、小規模企業共済は掛金を払った個人の所得控除です。この記事では、国税庁タックスアンサーの番号と要件を示しながら、申告前に確かめる順番を整理します。
3制度を個人・法人で分ける
税の制度を調べるときに最初に混乱しやすいのは、「誰の、何年分の、どの税金の話か」です。不動産業では、個人で賃貸経営をしながら法人で仲介や管理をしている方も多く、同じ人が個人の確定申告と法人の決算の両方に関わります。制度ごとに対象を先に分けておくと、調べる範囲が狭くなります。
| 制度 | 個人 | 法人 | 主な確認先 |
|---|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 不動産所得・事業所得がある青色申告者が対象 | 対象外(個人の所得税の制度) | 国税庁 No.2072、No.1373 |
| 少額減価償却資産の特例 | 青色申告をする中小企業者などが対象 | 青色申告をする中小企業者などが対象 | 国税庁 No.2100(個人)、No.5408(法人) |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 掛金を払った個人の所得控除 | 役員本人が加入する場合は、役員個人の所得控除として扱う | 国税庁 No.1135、中小機構の加入資格 |
法人の代表者が小規模企業共済に入る場合も、控除を受けるのは掛金を払った個人です。法人の決算書ではなく、代表者個人の確定申告(または年末調整)で扱う制度だと考えると整理しやすくなります。
青色申告特別控除は、個人の要件から確認する
控除額は3つの区分がある
国税庁タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」では、控除額を55万円・65万円・10万円の3つに分けています。要件は次のとおりです。
| 控除額 | 主な要件(No.2072の要旨) |
|---|---|
| 55万円 | 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること。正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳していること。貸借対照表と損益計算書などを添付し、期限内に確定申告書を提出すること。現金主義による所得計算の特例を選んでいる方は対象外 |
| 65万円 | 55万円の要件に加えて、仕訳帳と総勘定元帳を優良な電子帳簿の要件を満たして保存し届出書を出すこと、または確定申告書・貸借対照表・損益計算書などを期限までにe-Taxで送信すること、のいずれか |
| 10万円 | 55万円・65万円の要件に当たらない青色申告者 |
期限はいずれも、その年分の確定申告期限(翌年3月15日)です。期限を過ぎて提出すると、55万円・65万円の控除は受けられず10万円の区分になる、という点が実務では一番大きな落とし穴です。
不動産所得は「事業的規模」かどうかで分かれる
賃貸経営の場合、55万円・65万円の控除を受けるには、建物の貸付けが事業として行われていることが前提になります。国税庁 No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」では、社会通念上事業と称するに至る程度の規模かどうかで判定し、建物の貸付けについては、次のいずれかに当たれば原則として事業として扱うとしています。
- 貸間・アパートなどで、貸与できる独立した室数がおおむね10室以上
- 独立家屋の貸付けで、おおむね5棟以上
いわゆる「5棟10室基準」です。同じ No.1373 では、事業的規模でない場合の青色申告特別控除は最高10万円とされています。ほかにも、青色事業専従者給与(白色の場合は事業専従者控除)の適用の有無、資産損失や貸倒損失の扱いが、事業的規模かどうかで変わります。物件を買い増している途中の方は、その年の室数・棟数を年初の段階で確かめておくと、控除の区分を読み違えにくくなります。
承認申請の期限と帳簿の保存
青色申告をするには、事前に「青色申告承認申請書」を出しておく必要があります。国税庁 No.2070「青色申告制度」では、提出期限を青色申告をしようとする年の3月15日まで、その年の1月16日以後に新たに業務を始めた場合は業務を始めた日から2か月以内としています。帳簿や書類は原則7年間の保存で、請求書・見積書・納品書・送り状など一部の書類は5年間でよいとされています。
仮の数字で計算例を示します
事業的規模の不動産所得がある個人で、青色申告特別控除を差し引く前の所得が400万円だったとします。
- 期限内にe-Taxで申告した場合(65万円の区分): 400万円 − 65万円 = 335万円
- 紙で期限内に申告した場合(55万円の区分): 400万円 − 55万円 = 345万円
- 期限後に申告した場合(10万円の区分): 400万円 − 10万円 = 390万円
所得税の額は、ほかの所得控除や税率によって変わるため、ここでは控除後の所得までにとどめます。区分の違いだけで、課税の基になる所得に55万円の差が出ることが分かります。
少額減価償却資産の特例は、取得日と用途を見落とさない
10万円未満・20万円未満・特例の3段階
減価償却資産の取得価額が小さい場合の扱いは、次の3段階で考えると整理できます。個人は国税庁 No.2100「減価償却のあらまし」、法人は No.5403「少額の減価償却資産になるもの」と No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」に書かれています。
| 取得価額 | 扱い | 確認先 |
|---|---|---|
| 10万円未満(または使用可能期間1年未満) | 取得価額の全額を、業務に使い始めた年(事業年度)の経費(損金)にする | No.2100(個人)、No.5403(法人) |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産として、合計額の3分の1ずつを3年間で経費にすることを選べる | No.2100(個人)、No.5403(法人) |
| 特例の基準額未満 | 青色申告をする中小企業者などは、年300万円に達するまで全額をその年の経費にできる | No.2100(個人)、No.5408(法人) |
2026年4月1日以後の取得は40万円未満が基準
個人について、No.2100 は特例の対象を「平成18年4月1日から令和11年3月31日までに取得した取得価額10万円以上40万円未満(令和8年3月31日までに取得した場合は10万円以上30万円未満)」と書いています。つまり、2026年3月31日までに取得したものは30万円未満、2026年4月1日以後に取得したものは40万円未満が基準です。年の途中で基準が変わるため、2026年分の申告では、取得日ごとに分けて確認する必要があります。
法人については、中小企業庁のパンフレット(令和8年5月作成)が、基準額を30万円未満から40万円未満に引き上げ、適用期限を令和10年度末(2029年3月31日)までとしたことを説明しています。一方、国税庁 No.5408 は、この記事を書いた時点で「30万円未満」「令和8年3月31日までの取得」という改正前の記載のままでした。法人で適用する場合は、事業年度の始まりと取得日の関係を、最新の国税庁の資料と顧問税理士で確かめてください。
年300万円の上限と明細書
特例で一度に経費にできるのは、その年(事業年度)の取得価額の合計が300万円に達するまでです。法人は、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表16(7))を添付する必要があると No.5408 に書かれています。
仮の数字で計算例を示します。2026年5月に1台38万円の設備を8台取得したとします。7台目までの合計は266万円で、8台目を足すと304万円になり300万円を超えます。300万円に達するまでの範囲は7台分(266万円)なので、8台目は特例の対象にならず、通常の減価償却で処理することになります。
貸付けの用に供した資産は対象外になる場合がある
不動産業で特に注意したいのが、貸付用の資産です。No.2100 では、令和4年4月1日以後に取得した減価償却資産で貸付けの用に供したもの(主要な業務として行う貸付けに供するものを除く)は、10万円未満・一括償却資産・少額減価償却資産の特例の対象外としています。法人についても、No.5403・No.5408 に貸付けの用に供したものが除かれる旨の記載があります。
賃貸住宅に設置するエアコンや給湯器などは、貸付けに使う資産に当たるかどうか、また「主要な業務として行う貸付け」の例外に当たるかどうかで扱いが分かれる可能性があります。判断が分かれやすいところなので、金額が大きいときは取得前に税理士へ確認しておくと安心です。
小規模企業共済は、個人の資金計画と合わせる
掛金の全額が所得控除になる
国税庁 No.1135「小規模企業共済等掛金控除」では、小規模企業共済法に基づく共済契約の掛金(旧第二種共済契約を除く)などを払った場合、その年に払った掛金の全額を所得控除できるとしています。手続きは、確定申告書に記入し、払った掛金の証明書などを添付または提示します。No.1135 では、令和8年分以後は証明書に代えて一定の事項を書いた明細書を添付することもできるとされています。
加入資格と掛金の範囲
中小企業基盤整備機構(中小機構)の加入資格のページでは、不動産業は「常時使用する従業員が20人以下」の区分に入っています。法人の役員は、従業員数の要件を満たしたうえで、役員として登記され事業に従事していることが条件で、商業登記簿に役員登記がない場合は加入できないとされています。
中小機構の制度の概要では、掛金月額は1,000円から70,000円まで500円単位で設定でき、加入後に増額・減額できると説明されています。共済金は一括・分割・併用で受け取ることができ、一括は退職所得、分割は公的年金等の雑所得の扱いです。
仮の数字で計算例を示します。月3万円を12か月払うと、年36万円が所得控除の対象になります。ただし掛金は手元から出ていくお金です。物件の修繕や空室期間の備えとして必要な資金と比べ、無理のない月額にすることが大切です。
申告前の確認を1枚にまとめる
3つの制度は、確かめる書類がそれぞれ違います。申告の準備に入る前に、次の表を埋めておくと漏れが減ります。
| 確認項目 | 見る書類・記録 | 関係する制度 |
|---|---|---|
| 青色申告の承認を受けているか | 青色申告承認申請書の控え | 青色申告特別控除、少額減価償却資産の特例 |
| 貸付けが事業的規模か | 物件ごとの室数・棟数の一覧 | 青色申告特別控除 |
| 複式簿記で記帳しているか、e-Taxか電子帳簿か | 会計ソフトの設定、届出書の控え | 青色申告特別控除 |
| 資産ごとの取得日・取得価額・用途 | 請求書、領収書、固定資産台帳 | 少額減価償却資産の特例 |
| その年の特例適用額の合計が300万円以内か | 固定資産台帳、別表16(7)の下書き | 少額減価償却資産の特例 |
| 払った掛金の額 | 中小機構から届く証明書、または明細書 | 小規模企業共済等掛金控除 |
確認表を作るうえで手間がかかるのは、物件ごとの室数や、修繕・設備の支払いの記録を集めるところです。ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、入金の記録、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を1か所で扱えるため、物件単位の室数や修繕費の支払いを確かめる元の資料として使えます。税額の判断そのものは、税理士や国税庁の資料で確かめてください。
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よくある質問
Q1. 法人でも青色申告特別控除は使えますか。
使えません。青色申告特別控除は、不動産所得・事業所得などがある個人の所得税の制度です(国税庁 No.2072)。法人で使える制度を調べるときは、法人税のタックスアンサー(No.5403、No.5408 など)を見てください。
Q2. アパート8室を個人で貸しています。65万円の控除は受けられますか。
No.1373 の目安(おおむね10室以上、または独立家屋おおむね5棟以上)に照らすと、事業的規模に当たらない可能性があります。その場合の控除は最高10万円です。ほかの物件の有無や貸付けの実態で判断が変わることもあるため、税務署や税理士に確認してください。
Q3. 2026年3月に35万円、2026年6月に35万円の機器を買いました。どちらも特例の対象ですか。
個人の場合、No.2100 によると2026年3月31日までの取得は30万円未満が基準なので、3月の35万円は特例の対象外です。6月の35万円は40万円未満の基準に入ります。ただし、青色申告であること、貸付けの用に供したものでないことなど、ほかの要件も満たす必要があります。
Q4. 小規模企業共済の掛金を法人の経費にできますか。
No.1135 では、掛金を払った個人の所得控除として説明されています。法人の会計でどう扱うかは、この記事では確かめていません。加入前に中小機構の資料と税理士で確認してください。
Q5. 青色申告の期限に間に合わなかった場合はどうなりますか。
No.2072 では、55万円・65万円の控除は確定申告期限までに申告書を出すことが要件です。期限後の申告では、要件を満たさないため10万円の区分になります。毎年の申告スケジュールを早めに決めておくことが一番の対策です。
出典(本文で参照している資料)
- 国税庁 No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁 No.2070 青色申告制度
- 国税庁 No.2100 減価償却のあらまし
- 国税庁 No.5403 少額の減価償却資産になるもの
- 国税庁 No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 中小企業庁 少額減価償却資産の特例のパンフレット(令和8年5月作成)
- 国税庁 No.1135 小規模企業共済等掛金控除
- 中小企業基盤整備機構 小規模企業共済 加入資格
- 中小企業基盤整備機構 小規模企業共済 制度の概要
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
