小さな不動産会社の経費精算を効率化するには、先に「電子で受け取った領収書はデータのまま保存する」「紙の領収書はスキャナ保存の要件を満たせば紙を捨てられる」「インボイスがなくても帳簿だけで控除できる経費がある」という3つの決まりを押さえ、そのうえで精算ルールと道具を決めます。順番を逆にすると、導入したツールの使い方に合わせて社内のやり方が決まり、税務上の要件が抜けたまま運用が始まります。この記事では、電子帳簿保存法とインボイス制度の要件を国税庁の資料で確かめたうえで、精算ルールの作り方と導入の手順を説明します。
経費精算に時間がかかる理由
不動産会社の経費は、物件の案内や現地調査に伴うガソリン代・駐車場代・交通費、鍵や消耗品の購入、郵送費、登記事項証明書などの取得費用と、少額で件数の多いものが中心です。担当者が外出先で立て替え、月末にまとめて精算する形になりやすく、次のような手間が重なります。
- 領収書が財布や車の中で行方不明になり、月末に探す
- 精算書に日付・金額・支払先・目的を手で書き写す
- 経理担当が領収書と精算書を突き合わせ、勘定科目を決めて会計ソフトに入力する
- メールで届いたPDFの領収書を印刷し、紙と一緒に綴じる
- インボイスの登録番号があるか、1枚ずつ確かめる
このうち、書き写しと突き合わせは道具で減らせます。一方、どの書類をどう保存するかは法令で決まっているため、道具を入れる前に社内のルールとして決めておく必要があります。
経費精算に関わる3つの決まり
| 決まり | 根拠 | 経費精算での意味 |
|---|---|---|
| 電子取引データの保存 | 電子帳簿保存法7条 | メールのPDF、ネット通販の領収書データ、アプリの利用明細などは、データのまま保存する義務がある |
| スキャナ保存 | 電子帳簿保存法4条3項 | 紙の領収書は、要件を満たしてスキャンすればデータの保存で紙の保存に代えられる(使うかどうかは任意) |
| 仕入税額控除の帳簿・請求書等の保存 | 消費税法、インボイス制度 | 原則としてインボイスの保存が必要。ただし帳簿のみの保存で控除できる経費がある |
電子帳簿保存法の正式な名前は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。帳簿と請求書等の保存期間は、消費税の仕入税額控除については、課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間です(国税庁タックスアンサーNo.6496)。法人税の帳簿書類も、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存します(タックスアンサーNo.5930)。
電子で受け取った領収書の保存
電子帳簿保存法7条は、所得税と法人税の保存義務者が電子取引を行った場合に、その取引情報の電磁的記録を保存しなければならないと定めています。2024年1月1日以後は、電子で受け取った領収書を印刷して紙で保存するだけでは足りません。
保存の要件
国税庁のパンフレット「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」では、次の要件が示されています。
- 改ざんを防ぐ措置:タイムスタンプを付ける、訂正や削除ができないか履歴が残るシステムで受け取り・保存する、または「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程」を作って守る、のいずれか
- 検索できること:日付・金額・取引先で検索できる状態にする
- 見られること:ディスプレイや操作説明書などを備え付ける
検索の要件がいらない場合
次のいずれかに当たり、税務調査で電子取引データのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、検索の要件は不要とされています。
- 2課税年度前の売上高が5,000万円以下である
- 電子取引データを印刷し、日付と取引先ごとに整理している
システムを入れない場合の現実的な方法は、事務処理規程を作り、ファイル名を「日付_取引先_金額」のように決めて、決まったフォルダに保存することです。国税庁の「参考資料(各種規程等のサンプル)」には、「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」の法人の例と個人事業者の例が掲載されています。
猶予措置
人手不足やシステムの整備が間に合わないなど、要件どおりに保存できない相当の理由があると所轄の税務署長が認め、税務調査でデータのダウンロードの求めと、印刷した書面の提示に応じられる場合は、検索や改ざん防止の要件を満たさずに保存することも認められています。事前の申請は不要です。ただし、データ自体は保存しておく必要があります。
紙の領収書をスキャンして保存する要件
紙で受け取った領収書は、紙のまま保存しても構いません。スキャナ保存は、紙を捨てたい場合に選ぶ方法です。2022年1月1日以後は、税務署長の事前承認は不要になっています。
国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」(令和6年6月)で確かめた、2024年1月1日以後に保存する書類の主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 入力の期限 | 受け取ってから速やかに(おおむね7営業日以内)、または業務の処理に係る通常の期間(最長2か月)を過ぎた後、速やかに |
| 解像度・色 | 200dpi以上。契約書・領収書などの重要書類はカラー(赤・緑・青それぞれ256階調以上)。一般書類はグレースケールでもよい |
| 改ざん防止 | タイムスタンプを付ける、または訂正・削除の履歴が確認できるシステムで保存する |
| 帳簿との関連 | 重要書類について、帳簿の記載と関連付けられるようにする |
| 検索 | 取引年月日・取引金額・取引先で検索できる(ダウンロードの求めに応じられる場合の緩和あり) |
| 見られること | ディスプレイ・プリンタなどを備え付ける |
一問一答の問5では、スマートフォンやデジタルカメラも、要件を満たす入力装置であれば「スキャナ」に含まれるとしています。また一問一答では、紙とスキャンしたデータが同じであることを最低限確かめれば、紙の原本はすぐに廃棄して差し支えないとしています。
スキャンしたデータを改ざんするなどの不正があった場合、その部分に課される重加算税が10%加重されます。だからこそ、誰がいつ撮影・確認したかが残るやり方にしておきます。
経費精算とインボイス
宛名のないレシートでもよい場合
小売業・飲食店業・写真業・旅行業・タクシー業・駐車場業(不特定かつ多数の者に対するもの)などは、宛名を省いた簡易インボイスを交付できます(国税庁Q&A問24)。ホームセンターのレシートやコインパーキングの領収書は、登録番号が載っていれば簡易インボイスとして使えます。
従業員の名前が宛名になっている場合
国税庁の「多く寄せられるご質問」では、宛名に従業員の名前が書かれた簡易インボイスでも、その従業員が自社に所属していることが分かる従業員名簿などをあわせて保存していれば、請求書等の保存要件を満たすとしています。
インボイスがなくても帳簿だけで控除できる経費
タックスアンサーNo.6496では、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引として、次のものが挙げられています。経費精算でよく出てくるものを抜き出します。
- 税込み3万円未満の公共交通機関(電車・バスなど)の運賃
- 税込み3万円未満の自動販売機・自動サービス機での購入
- 郵便切手類だけを対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出したものに限る)
- 従業員に支給する出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当(通常必要と認められる部分)
帳簿のみの保存で済ませる場合も、帳簿にはどの特例に当たるかなど、通常とは違う記載が必要です(国税庁Q&A問110)。
少額特例
基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、2023年10月1日から2029年9月30日までに行う税込み1万円未満の課税仕入れについて、インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。小さな不動産会社の多くが対象になり得るため、自社が当てはまるかを顧問の税理士と確認しておくと、1万円未満の経費は登録番号の確認を省けます。
相手が登録していない場合
個人商店などインボイス発行事業者でない相手への支払いは、経過措置の範囲でしか控除できません。2026年10月1日からは、仕入税額相当額の70%です。精算のときに「登録番号なし」と分かるように区分しておきます。なお、登記事項証明書などの行政手数料は非課税なので、インボイスは関係しません。
精算ルールの作り方
立替を減らす
精算の手間は、立て替えの件数にほぼ比例します。ガソリン代や通販での購入は、法人カードや法人名義の請求書払いに切り替えると、従業員の立て替え自体がなくなります。カード会社の利用明細や通販サイトの領収書データは電子取引データなので、データのまま保存します。
決めておく項目
| 項目 | 決めること(例) |
|---|---|
| 締め日と提出期限 | 毎月末締め、翌月5営業日までに申請。スキャナ保存を使うなら、入力の期限に間に合う頻度にする |
| 証憑の受け渡し | 紙は撮影してから原本を経理に渡すのか、撮影後に廃棄するのか |
| 目的の書き方 | 物件名や案件名を入れる(後で物件ごとの費用を出すため) |
| 勘定科目 | よく出る経費は科目を固定し、迷うものだけ経理が判断する |
| 承認者 | 申請者と承認者を分ける。代表者自身の経費は別の人が確認する |
| 旅費・日当 | 出張旅費規程を作り、日当の額や対象を決めておく |
不正や二重計上を防ぐ
道具に頼らなくても、次の確認を毎月の手順に入れておくと、二重申請や私的な支出の混入に気づきやすくなります。
- 同じ日・同じ金額・同じ支払先の申請がないかを並べて見る
- ガソリン代は、走行の目的(どの物件の案内か)と結びつける
- 領収書の画像と申請内容(日付・金額)が一致しているかを、承認とは別の人が抜き取りで確かめる
- 電子取引データの訂正や削除のルールを、事務処理規程として書面にしておく
道具を選ぶときの確認点
経費精算のクラウドサービスや会計ソフトの機能を選ぶときは、価格や画面の見やすさより先に、次の点を確かめます。
- 電子取引データとスキャナ保存のそれぞれについて、改ざん防止と検索の要件を満たす保存ができるか
- スマートフォンの撮影で、解像度や色の要件を満たせるか
- 登録番号の有無や、帳簿のみ保存の特例に当たるかを、取引ごとに記録できるか
- 使っている会計ソフトに仕訳を渡せるか
- 解約したときに、保存したデータを要件どおりに引き継げるか(保存期間は7年以上続きます)
国税庁のサイトには、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を受けたソフトの「JIIMA認証情報リスト」が掲載されています。候補のソフトが載っているかは、確認の手がかりになります。
導入の手順
- 過去3か月分の経費を、支払方法(現金立替・カード・請求書払い)と受け取り方(紙・電子)で分けて数える。
- 立替を減らせるもの(ガソリン、通販など)を法人カードや請求書払いに移す。
- 電子取引データの保存方法を決め、事務処理規程を作る。
- 紙の領収書を、紙のまま保存するか、スキャナ保存にするかを決める。
- 少額特例や帳簿のみ保存の特例に当たるかを、税理士と確認する。
- 精算ルール(締め日・目的の書き方・承認者・旅費規程)を書面にする。
- 道具を選び、1〜2か月は紙の運用と並行して試す。
- 試した期間の申請を見直し、ルールと道具の設定を直してから本格的に切り替える。
社内の書類全体の電子化は不動産会社のペーパーレス化で、インボイス制度の全体はインボイス制度と不動産会社の対応で説明しています。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. スマートフォンで撮影した領収書の紙は、すぐに捨ててよいですか?
スキャナ保存の要件(入力の期限、解像度・色、改ざん防止、検索など)を満たして保存し、紙とデータが同じであることを確かめた後であれば、国税庁の一問一答では即時に廃棄して差し支えないとしています。要件を満たしていない撮影データだけを残して紙を捨てると、保存の義務を果たしていないことになります。
Q2. メールで届いたPDFの領収書は、印刷して保存すれば足りますか?
足りません。2024年1月1日以後は、電子取引データとして保存する必要があります。ただし、2課税年度前の売上高が5,000万円以下の場合や、印刷して日付・取引先ごとに整理している場合は、ダウンロードの求めに応じられれば検索の要件が不要になります。
Q3. 電車代やバス代の領収書は必要ですか?
税込み3万円未満の公共交通機関の運賃は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。社内の精算では、日付・区間・目的を記録しておきます。
Q4. 1万円未満なら、どの会社でもレシートなしで控除できますか?
少額特例を使えるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者で、2029年9月30日までの課税仕入れに限られます。帳簿の保存は必要です。
Q5. 従業員の名前が書かれたガソリンスタンドの領収書は使えますか?
簡易インボイスであれば、従業員名簿などをあわせて保存することで、請求書等の保存要件を満たすとされています。登録番号の記載があるかは確かめてください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(第4条、第7条)
- 国税庁「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」(令和6年6月)
- 国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」
- 国税庁「JIIMA認証情報リスト」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問24(適格簡易請求書の交付ができる事業)
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合
- 国税庁「インボイス制度 多く寄せられるご質問」(令和8年4月1日更新)
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
- 国税庁 タックスアンサーNo.5930「帳簿書類等の保存期間」
- 国税庁 タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。