賃貸管理の1戸あたり採算は、「1戸あたりの収入(管理料と付帯収入)から、直接かかる費用と、作業時間に時間単価を掛けた人件費を引く」という式で見積もれます。戸数を増やせば黒字になるとは限らず、家賃の水準、作業時間、移動の距離で1戸あたりの結果は大きく変わります。この記事では、計算式と仮の数字による計算例、作業時間の測り方、分別管理(賃貸住宅管理業法16条)など法令上必要な業務を原価に入れる考え方を説明します。
1戸あたりで採算を見る理由
賃貸管理の会社全体の損益は、決算書で分かります。ただ、決算書の数字だけでは、どの物件、どのオーナーとの契約が利益を生んでいて、どこが赤字なのかは分かりません。管理料を家賃の一定割合で決める契約では、家賃が低いほど管理料も低くなりますが、作業時間は家賃の高さに比例しません。そのため、家賃が低い物件ほど1戸あたりの採算は厳しくなりやすい構造があります。
1戸あたりで見ると、次のような判断に使えます。
- 新しく管理を受託するときに、管理料の条件が見合うか。
- 既存の契約の中で、管理料の見直しをオーナーに相談すべき契約はどれか。
- 人を増やす前に、どの作業の時間を減らせるか。
- 事務所から遠い物件をどこまで受託するか。
筆者は自社で賃貸住宅226戸を所有し、そのうち約100戸を管理会社を通さず自主管理しています。自主管理の場合も、作業時間を同じ式で見積もると、管理会社に任せる場合の管理料と比べる材料になります。この記事の計算例の数字は、すべて説明のための仮の数字です。
収入の内訳
管理料(管理報酬)
管理料は、オーナーとの管理受託契約で決めます。国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」では、4条でオーナーが頭書に記載した管理報酬を支払うこと、7条で管理業者は、あらかじめオーナーの承諾を得ている場合に当月分の管理報酬を家賃等から差し引くことができることを定めています。管理料の決め方には、家賃の一定割合とする方法と、1戸あたりの定額とする方法などがあります。
付帯収入
契約の更新や入居者の入れ替えに伴う事務の手数料、仲介の報酬などです。何をいくら受け取れるかは、オーナーや入居者との契約の内容によります。仲介の報酬は、宅建業法46条1項により国土交通大臣の定める額が上限とされ、同条2項によりその額を超えて受け取ることはできません。付帯収入は物件や年によって増減が大きいため、年間の見込みを月割りにして計算に入れます。
オーナーが負担する費用との区別
標準管理受託契約書の5条は、オーナーが報酬のほかに、管理業務の実施に伴い必要となる費用を頭書の記載に従って負担するとしています。どの費用をオーナーが負担し、どの費用を管理料の中でまかなうかは契約で決まります。採算を計算する前に、自社の契約書でこの区別を確かめておきます。
原価の内訳
1戸あたりの原価は、大きく3つに分けると整理しやすくなります。
| 区分 | 内容の例 | 1戸あたりへの割り振り方 |
|---|---|---|
| 作業時間の人件費 | 入金の確認と督促、入居者からの問い合わせ対応、巡回、退去の立会い、原状回復の手配、更新の手続、オーナーへの報告、緊急の対応 | 作業時間 × 時間単価 |
| 直接費 | 振込の手数料、外注した清掃や巡回の費用(管理料でまかなう分)、移動の交通費、郵送費 | 物件ごとの実費を戸数で割る |
| 固定費 | 事務所の家賃、業務の仕組みの利用料、責任者の人件費、保険料 | 戸数が増えてもすぐには変わらないため、損益分岐の計算で扱う |
作業時間の人件費を固定費として扱うか、1戸ごとに割り振るかは、目的によって変えます。物件ごとの採算を比べたいときは割り振り、会社全体で何戸あれば固定費をまかなえるかを見たいときは固定費に入れる、という使い分けです。
1戸あたり採算の計算式
時間単価
時間単価 =(月の給与 + 会社が負担する社会保険料などの費用)÷ 月の実際の労働時間
給与だけで計算すると、時間単価が低く出ます。会社が負担する費用も含めます。
1戸あたり月の粗利
1戸あたり月の粗利 =(管理料 + 付帯収入の月割り)−(直接費 + 作業時間 × 時間単価)
めったに起きない作業の月割り
退去の立会いや原状回復の手配のように、毎月は起きない作業は、次の式で月あたりの時間に直します。
月あたりの時間 = 1回にかかる時間 × 1年に起きる割合 ÷ 12
損益分岐の戸数
損益分岐の戸数 = 月の固定費 ÷ 1戸あたり月の粗利
ここでの「1戸あたり月の粗利」は、作業時間の人件費を差し引いた後の値です。担当者の人件費を固定費に入れる場合は、1戸あたりの値から人件費を引かずに計算し、二重に数えないようにします。
仮の数字による計算例
仮の数字で計算例を示します。実際の数字は、物件、地域、契約の内容、会社の体制によって大きく変わります。
時間単価の例
月の給与を30万円、会社が負担する費用を4万5千円、月の実際の労働時間を150時間と仮定すると、時間単価は(300,000 + 45,000)÷ 150 = 2,300円です。
1戸あたりの粗利の例
家賃6万円、管理料を家賃の5%(3,000円)、付帯収入は0円、直接費を月300円、作業時間を月30分と仮定します。人件費は 2,300円 × 0.5時間 = 1,150円です。1戸あたり月の粗利は、3,000 −(300 + 1,150)= 1,550円になります。
条件を変えた比べ方の例
同じ仮定の時間単価と直接費で、家賃と作業時間を変えると次のようになります。
| 仮の条件 | 管理料(5%) | 作業時間 | 人件費 | 直接費 | 粗利 |
|---|---|---|---|---|---|
| 家賃4万円 | 2,000円 | 30分 | 1,150円 | 300円 | 550円 |
| 家賃6万円 | 3,000円 | 30分 | 1,150円 | 300円 | 1,550円 |
| 家賃6万円・遠方で移動が多い | 3,000円 | 60分 | 2,300円 | 300円 | 400円 |
| 家賃10万円 | 5,000円 | 45分 | 1,725円 | 300円 | 2,975円 |
この例から分かるのは、家賃が低い物件や、移動に時間がかかる物件では、作業時間が少し増えるだけで粗利がほとんど残らなくなる、という構造です。実際の判断は、自社の数字を入れて計算してください。
めったに起きない作業の例
退去の立会いと原状回復の手配に1回あたり3時間かかり、退去が1年に4戸に1戸の割合で起きると仮定します。月あたりの時間は 180分 × 0.25 ÷ 12 = 3.75分です。毎月の作業時間に、この分を足して計算します。
損益分岐の戸数の例
月の固定費を90万円、1戸あたり月の粗利を上の例の1,550円と仮定すると、損益分岐の戸数は 900,000 ÷ 1,550 ≒ 581戸です。1戸あたりの粗利が550円の物件ばかりであれば、同じ固定費をまかなうのに必要な戸数はさらに増えます。戸数を増やすことと、1戸あたりの粗利を確かめることは、あわせて考える必要があります。
作業時間の測り方
計算の精度は、作業時間の見積もりで決まります。最初から細かく測る必要はありません。次の手順で、まず大まかに測ります。
- 作業の分類を決める(入金の確認と督促、入居者対応、巡回、退去と原状回復、更新、オーナーへの報告、緊急の対応、移動)。
- 決めた期間(たとえば2週間)、担当者が作業の分類ごとにおおよその時間を記録する。
- 物件ごと、またはオーナーごとに時間を集計し、戸数で割る。
- めったに起きない作業は、1回あたりの時間と1年に起きる割合で月割りにする。
移動の時間は、物件の場所によって差が出やすい部分です。巡回や立会いの移動を物件ごとに記録しておくと、遠方の物件の採算が見えます。
記録は、担当者の負担にならない形にします。作業の分類を選んで時間を入れるだけの表にし、細かい内容は書かなくてよいことにします。
法令上必要な業務も原価に入れる
賃貸住宅管理業法は、管理業者に一定の業務を求めています。これらの業務にかかる時間や費用も、1戸あたりの原価の一部です。
登録と業務管理者
同法3条1項は、賃貸住宅管理業を営もうとする者は国土交通大臣の登録を受けなければならないとし、国土交通省令で定める規模未満の場合を除くとしています。同法施行規則3条は、その規模を賃貸住宅の戸数が200戸と定めています。登録は5年ごとに更新を受けなければ効力を失います(法3条2項)。また法12条1項は、営業所又は事務所ごとに1人以上の業務管理者を選任することを求めています。
管理受託契約の重要事項説明
同法13条1項は、管理受託契約を締結しようとするときは、契約を締結するまでに、オーナーに対して契約の内容などを書面を交付して説明しなければならないとしています(専門的知識及び経験を有すると認められる者として省令で定める者を除く)。新しく受託するたびにかかる時間として見積もります。
家賃等の分別管理
同法16条は、賃貸住宅管理業者は、管理受託契約に基づく管理業務(2条2項2号に掲げる家賃・敷金・共益費などの金銭の管理を行う業務に限る)において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を、国土交通省令で定める方法により、自己の固有財産及び他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する金銭と分別して管理しなければならないと定めています。同法施行規則36条は、その方法として、家賃等を管理する口座を自己の固有財産を管理する口座と明確に区分し、かつ、その金銭がいずれの管理受託契約に基づくものかが帳簿(電磁的記録を含む)により直ちに判別できる状態で管理する方法を定めています。
分別管理は、口座を分けるだけでなく、オーナーごとに入金と送金を帳簿で判別できる状態を保つ作業です。入金の消込み、管理料の差引き、オーナーへの送金と明細の作成にかかる時間は、毎月の作業時間に入れます。
オーナーへの定期報告
同法20条は、管理業務の実施状況などについて、定期的にオーナーに報告することを求めています。同法施行規則40条1項は、管理受託契約を締結した日から1年を超えない期間ごとに、及び契約期間の満了後遅滞なく、管理業務報告書を作成し、オーナーに交付して説明しなければならないとしています。報告書には、報告の対象となる期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況及び対応状況などを記載します。報告書の作成と説明の時間も、年間の時間を月割りにして原価に入れます。
ウルスタくんでは、入金の記録と、管理料・修繕費を差し引いたオーナーへの送金明細を、物件・入居者の管理と同じデータから作れます。どの道具を使う場合も、分別管理と定期報告の手順を社内で決め、その作業時間を採算の計算に入れておくことが大切です。
採算を見直すときの考え方
計算の結果、採算の厳しい契約が見つかったときの考え方を整理します。効果の大きさは会社や物件によって違うため、ここでは手順の例として示します。
作業時間を減らす
同じ質問への回答を定型にする、巡回の順路をまとめる、入金の確認の手順をそろえる、などです。どの作業に時間がかかっているかは、作業時間の記録から分かります。
契約の条件を見直す
管理料の水準や、管理料に含める業務の範囲、オーナーが負担する費用の範囲を、オーナーと相談します。管理受託契約の内容を変える場合は、契約の変更の手続や、管理業法上の説明が必要になるかを確かめます。
受託の基準を決める
新しく受託する前に、この記事の式で1戸あたりの粗利を見積もり、一定の基準に満たない場合は条件を相談する、という社内の基準を決めておきます。遠方の物件を受託する場合は、移動の時間を含めて見積もります。
付帯収入を見込みすぎない
付帯収入は年によって増減します。採算の判断は、付帯収入を除いた管理料だけでも成り立つかを一度確かめておくと、見込み違いを避けやすくなります。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 何戸あれば賃貸管理は黒字になりますか。
決まった戸数はありません。損益分岐の戸数は、固定費と1戸あたりの粗利で決まります。この記事の式に自社の数字を入れて計算してください。同じ戸数でも、家賃の水準や移動の距離によって結果は変わります。
Q2. 作業時間を測るのが難しい場合はどうすればよいですか。
まず2週間程度、作業の分類ごとにおおよその時間を記録するだけでも、見積もりの材料になります。細かい精度より、物件やオーナーの間の差が分かることのほうが判断に役立ちます。
Q3. 管理戸数が200戸未満なら、分別管理は不要ですか。
賃貸住宅管理業法の登録が必要になるのは、施行規則3条で定める200戸以上の場合です。同法2条3項は「賃貸住宅管理業者」を3条1項の登録を受けて賃貸住宅管理業を営む者と定めており、16条の分別管理はこの賃貸住宅管理業者の義務として定められています。登録の要否にかかわらず、オーナーから預かったお金を自社のお金と分けて管理することは、オーナーとの信頼のうえでも大切です。個別の扱いは、国土交通省の資料で確かめてください。
Q4. 自主管理と管理会社への委託は、どう比べればよいですか。
自主管理にかかる作業時間に時間単価を掛けたものと直接費の合計を、委託した場合の管理料と比べるのが1つの方法です。時間単価には、自分の時間をほかの仕事に使った場合の価値も考えに入れます。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(第2条・第3条・第12条・第13条・第16条・第20条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」(第3条・第36条・第40条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第46条)
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」(第4条・第5条・第7条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。