電子契約・IT重説 読了 13分

業務自動化のワークフロー設計|機械に任せる作業と、宅建士・業務管理者が行う工程の分け方

業務の自動化は、作業を3つに仕分け、法律で人が行う工程を先に確定させることから始めます。宅建士による重要事項説明と記名(宅建業法35条・37条)、業務管理者の管理・監督の下で行う管理受託契約の重要事項説明(賃貸住宅管理業法13条)を踏まえた設計手順と業務ごとの例を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
業務自動化のワークフロー設計|自動化する作業と宅建士・業務管理者が確認する工程の分け方
目次

業務の自動化を設計するときは、最初に「機械に任せる作業」「機械が下書きして人が確認する作業」「人が行う作業」の3つに分け、法律で人が行うと決まっている工程を先に確定させます。宅地建物取引士による重要事項説明(宅建業法35条)や、業務管理者の管理・監督の下で行う管理受託契約の重要事項説明(賃貸住宅管理業法13条)は、自動化の対象から外す工程です。この記事では、仕分けの考え方、法令で人の関与が必要な工程の一覧、業務ごとの設計例を説明します。

作業を3つに仕分ける

自動化の失敗でよくあるのは、「できるところから全部自動にする」進め方です。転記や通知は機械のほうが正確ですが、例外の判断や相手方への説明まで機械に任せると、間違いが起きたときに誰も気づけません。まず、1つの業務を作業の単位に分け、次の3つのどれに当たるかを決めます。

区分向いている作業例
機械に任せるルールが決まっていて、結果を後から確かめられる作業台帳から書類への転記、期日の通知、入金データの取り込み、集計
機械が下書きし、人が確認するほとんどは定型だが、例外があり、間違うと相手方に影響する作業重要事項説明書の作成、送金明細の作成、更新案内の文面、広告の掲載内容
人が行う法律で人が行うと決まっている作業、相手方の事情を聞いて判断する作業宅建士による重要事項説明と記名、管理受託契約の重要事項説明、条件交渉、苦情への対応

迷ったら、「間違えたときに、相手方に損害が出るか」「間違いに誰がいつ気づけるか」を考えます。相手方に影響があり、気づくのが遅れる作業ほど、人の確認を残すべき作業です。

不動産の取引と賃貸管理には、法律で担当者や手順が決まっている工程があります。自動化の設計図には、これらを「人の工程」として最初に書き込みます。

工程根拠自動化の設計で守ること
重要事項の説明宅建業法35条1項契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に説明させる。書面の作成は機械で下書きできても、説明は宅建士が行う
宅建士証の提示宅建業法35条4項説明のときに宅建士証を提示する。IT重説でも同じ
重要事項説明書・37条書面への記名宅建業法35条5項、37条3項宅建士が内容を確認して記名する工程を残す
重要事項説明書の電磁的方法による提供宅建業法35条8項相手方等の承諾を得て、宅建士に提供させる。承諾の記録を残す
広告の表示宅建業法32条著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示をしない。自動で掲載を続ける場合も、成約済み物件や条件の変更を反映する確認が要る
管理受託契約の重要事項説明賃貸住宅管理業法13条契約締結までに書面を交付して説明する。業務管理者の管理・監督の下で行う
契約締結時の書面賃貸住宅管理業法14条締結後遅滞なく交付する。差し込みは自動化できても、内容の確認を残す
家賃・敷金等の分別管理賃貸住宅管理業法16条入金の取り込みを自動化しても、自己の財産や他の契約の金銭と分けて管理する
定期報告賃貸住宅管理業法20条、同法施行規則40条1年を超えない期間ごとなどに管理業務報告書を作成し、委託者に交付して説明する

管理受託契約の重要事項説明について、国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」は、説明を業務管理者本人が行うことまでは求めていない一方で、業務管理者の管理及び監督の下に行われる必要があるとし、業務管理者または一定の実務経験を有する者など専門的な知識及び経験を有する者が行うことが望ましい、としています。また、賃貸住宅管理業者自らが行う必要があることにも留意するよう書かれています。説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいともされています。

業務管理者が管理・監督する事項は、賃貸住宅管理業法施行規則13条に並んでいます。13条の説明、14条の書面の交付、維持保全の実施と家賃・敷金・共益費などの金銭の管理、18条の帳簿、20条の定期報告、21条の秘密の保持、入居者からの苦情の処理などです。自動化した工程がこれらに関わる場合は、業務管理者が結果を確かめられる仕組み(確認の記録、例外の一覧)をあわせて作ります。

ワークフローを設計する手順

1つの業務を例に、設計の手順を示します。紙に書き出すだけでもかまいません。

  1. 業務の流れを書き出す:始まり(何がきっかけか)から終わり(何ができたら完了か)まで、作業を1行ずつ並べます。
  2. 各作業の入力・判断・出力を分ける:どの情報を使い、何を判断し、何を作るかを書きます。判断の欄が空の作業は、機械に任せる候補です。
  3. 例外を洗い出す:「いつもと違う」ケースを書き出します。例外が起きたときに機械が止まり、人に知らせる仕組みにします。
  4. 人の工程と確認者を決める:前の章の表に当たる工程は、担当者(宅建士、業務管理者など)を名前で決めます。
  5. 記録を残す場所を決める:誰がいつ確認したかを残します。後から説明を求められたときの根拠になります。
  6. 止める条件を決める:誤りが続いた、法令や書式が変わった、といったときに自動化を止めて手作業に戻す条件を決めます。

業務ごとの設計例

賃貸の仲介・管理でよくある業務について、仕分けの例を示します。会社の体制によって変わるため、たたき台として使ってください。

業務機械に任せる人が確認・判断する
反響への一次返信受付の連絡、営業時間外の自動返信、反響の記録空室の有無、条件の回答、内見の可否。古い情報で回答しないよう、物件の状態を確かめる
契約更新の案内期日が近い契約の抽出、案内文の差し込み、送付の記録家賃や条件を変える提案、更新しない意向への対応
入金の確認入金データの取り込みと、契約ごとの照合金額や名義が合わない入金の判断、滞納の連絡
オーナーへの送金明細管理料・修繕費を差し引いた明細の計算送金前の金額の確認、修繕費の根拠の確認
広告の掲載更新台帳の変更を掲載情報に反映する成約・申込が入った物件の掲載停止の確認、表示内容が事実と合っているかの確認(宅建業法32条)
重要事項説明書の作成物件台帳・契約情報からの差し込み調査結果の確認、宅建士の記名と説明
管理業務報告書期間中の入出金や修繕の記録の集計内容の確認と、委託者への交付・説明

確認の記録を残す

自動化した工程と人の工程の境目では、記録が大切になります。後から「誰が、いつ、何を確かめたか」を説明できないと、自動化したことで責任の所在が曖昧になってしまうからです。

宅建業法49条は、事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のあったつど、年月日や物件の所在・面積などを記載することを求めています。賃貸住宅管理業法でも、施行規則13条で、帳簿の備付け(法18条)や定期報告(法20条)が業務管理者の管理・監督する事項とされています。自動化で帳簿や報告書の材料を集める場合も、最終的な記載内容を人が確かめ、その記録を残す流れにしておきます。

記録に残す項目の例は、次のとおりです。

  • 自動で作成・送付したもの(書類名、相手方、日時)
  • 人が確認したもの(確認者、確認日、確認した項目)
  • 例外として手作業に回したもの(理由、対応者、結果)
  • 相手方の承諾(電磁的方法で提供する場合の承諾の日と方法)

記録の置き場所は、業務のデータと同じ仕組みの中にあるのが理想です。別のファイルに分けると、記録だけが更新されず、確認したかどうかが分からなくなります。

人の確認を形だけにしない工夫

自動化が進むと、確認の工程が「ボタンを押すだけ」になりがちです。確認を実のあるものにするために、次のような工夫があります。

  • 確認する項目を絞る:すべてを見るのではなく、間違えると影響の大きい項目(金額、期日、名義、特約)を決めて見ます。
  • 前回との違いを示す:前月の明細や前回の契約と違う箇所を色分けすると、見るべき点がはっきりします。
  • 例外を一覧にする:照合できなかった入金や、差し込みできなかった項目を一覧にして、確認者に渡します。
  • 確認の記録を残す:誰がいつ確認したかを残します。確認者が自分の名前で残すことで、確認の重みが変わります。

効果の見積もり方

自動化の前に、どのくらいの時間が浮くかを見積もっておくと、優先順位を決めやすくなります。仮の数字で計算例を示します。

ある業務が1件あたり10分かかり、月に40件あるとします。月の作業時間は10分×40件で400分、約6.7時間です。自動化した後も、人の確認に1件あたり3分かかるなら、確認の時間は3分×40件で120分、2時間です。この場合、月に浮く時間の見込みは約4.7時間です。ここから、設定や例外対応にかかる時間を差し引いて考えます。

見積もりで大事なのは、人の確認の時間を0にしないことです。確認の時間を見込まずに計算すると、導入後に「思ったほど楽にならない」と感じる原因になります。導入後は同じ方法で実際の時間を記録し、見積もりと比べます。

止める条件と見直し

自動化した仕組みは、作ったときの前提が変わると、気づかないうちに間違った結果を出し続けることがあります。次のようなときは、一度止めて見直します。

  • 法令や国土交通省の様式・ガイドラインが改正されたとき
  • 書類のひな形や管理受託契約の内容を変えたとき
  • 確認の工程で同じ種類の誤りが続いたとき
  • 担当者が替わり、例外の扱いを知る人がいなくなったとき

見直しの時期を、たとえば年に1度の定期報告の準備に合わせるなど、すでにある業務の予定に組み込むと忘れにくくなります。

ウルスタくんでは、物件・入居者の情報から、更新が近い契約の一覧、入金の記録、オーナーへの送金明細、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類を作成でき、電子サインにも対応しています。どの仕組みを使う場合も、書類の内容の確認、宅建士の記名と説明、業務管理者の管理・監督といった人の工程は、社内の手順として残してください。

このテーマの全体像は「不動産のIT重説 完全ガイド2026|国交省マニュアルの遵守事項と売買・賃貸の手順」にまとめています。

よくある質問

Q1. 重要事項説明書の作成を自動化しても問題ありませんか。

書面の下書きを台帳から作ること自体は、宅建業法で禁じられているわけではありません。ただし、35条は宅建士に説明させることを、35条5項は宅建士が書面に記名することを求めています。調査結果が正しく反映されているかを宅建士が確認し、記名し、説明する工程は残す必要があります。

Q2. 管理受託契約の重要事項説明は、業務管理者でなければできませんか。

国土交通省の「解釈・運用の考え方」では、説明を業務管理者本人が行うことまでは求めていませんが、業務管理者の管理及び監督の下に行われる必要があるとされています。業務管理者または一定の実務経験を有する者など、専門的な知識及び経験を有する者が行うことが望ましいとされています。

Q3. 反響への返信は、どこまで自動にしてよいですか。

受付の連絡や営業時間外の案内は自動化しやすい作業です。一方、空室の有無や条件の回答は、物件の最新の状態を確かめてから人が返すほうが安全です。古い情報のまま自動で回答すると、宅建業法32条が禁じる、事実と著しく異なる表示につながるおそれがあります。

Q4. 自動化の効果はどう測ればよいですか。

導入前に、対象業務の1件あたりの時間と件数を記録しておき、導入後に同じ方法で記録して比べます。人の確認にかかる時間も含めて記録することが大切です。誤りの件数や、相手方からの問い合わせの件数もあわせて見ると、時間以外の変化も分かります。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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