不動産の電子契約は、宅地建物取引業法が書面ごとに定める「相手方の承諾」と「電磁的方法の要件」を満たしたうえで、税務の保存要件まで決めてから始めます。媒介契約書、重要事項説明書、37条書面はそれぞれ根拠の条文が違い、賃貸住宅管理業法の書面、定期借家の書面も別に確かめます。この記事では、条文と国の資料に沿って、導入前に確かめる20項目を整理します。
電子契約・電子交付・IT重説・電子署名の違い
「電子契約」という言葉は、いくつかの別々の手続きをまとめて指すことがあります。導入の相談をする前に、言葉を分けておくと話がかみ合います。
| 言葉 | 意味 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 電子交付(電磁的方法による提供) | 法律で交付が求められる書面を、相手方の承諾を得てデータで渡すこと | 宅建業法第34条の2第11項、第35条第8項、第37条第4項・第5項など |
| IT重説 | 重要事項の説明を、映像と音声で双方向にやり取りできる環境で行うこと | 国土交通省の解釈・運用の考え方と実施マニュアル |
| 電子署名 | データの作成者を示し、改変がないかを確かめられるようにする措置 | 電子署名法第2条第1項 |
| 電子取引データの保存 | データでやり取りした取引情報を、税法上の要件に沿って保存すること | 電子帳簿保存法第7条 |
IT重説で説明しても、重要事項説明書の交付を電子で行うには別に承諾が要ります。逆に、書面は紙で渡し、説明だけをIT重説で行うこともできます。手続きごとに条件を確かめます。
宅地建物取引業法で電子化できる書面と条文
宅地建物取引業法は、書面ごとに電磁的方法による提供を認める条文を置いています。承諾の手続きは、宅地建物取引業法施行令に定めがあります。
| 書面 | 電磁的方法を認める条文 | 承諾の手続き |
|---|---|---|
| 媒介契約書 | 第34条の2第11項 | 施行令第2条の6 |
| 重要事項説明書(35条書面) | 第35条第8項 | 施行令第3条の3 |
| 売買・交換などの契約締結時の書面(37条書面) | 第37条第4項 | 施行令第3条の4 |
| 貸借の契約締結時の書面(37条書面) | 第37条第5項 | 施行令第3条の4(第4項の手続きを準用) |
第35条第8項は、相手方などの承諾を得て、書面の交付に代えて、宅地建物取引士に、記名に代わる措置を講じたものとして国土交通省令で定める電磁的方法で提供させることができるとしています。第37条第4項・第5項も、承諾を得て、国土交通省令で定める電磁的方法で提供できるとしています。
承諾の取り方
施行令第3条の3と第3条の4は、あらかじめ相手方に、提供に使う電磁的方法の種類と内容を示したうえで、書面または電子情報処理組織を使う方法などで承諾を得ることを求めています。承諾した相手方から、書面などで電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、電磁的方法で提供してはならないとされています。
国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和6年12月版)は、提供の方法(メール、ダウンロードなど)とファイルの形式を示して承諾を得ること、承諾は書面または書面に出力できる形式で得ることを説明しています。承諾書の書式と、承諾の記録をどこに保存するかを先に決めておきます。
電子書面の要件
同じマニュアルは、宅地建物取引業法施行規則の規定に沿って、電子書面の要件を整理しています。要点は次のとおりです。
- 相手方が出力して書面を作成できること
- 記載事項が改変されていないかを確かめられる措置(電子署名やタイムスタンプなど)を講じること
- 35条書面・37条書面では、宅地建物取引士が明示されていること
- ダウンロードで提供する場合は、ファイルに記録する旨または記録した旨を相手方に通知すること
IT重説で確かめること
第35条第4項は、宅地建物取引士が説明をするときに、相手方に宅地建物取引士証を提示するよう求めています。IT重説でも同じで、画面越しに文字が読める状態で提示します。実施マニュアルは、説明に先立って、記名した重要事項説明書と添付書類を相手方に送っておくことや、映像を見られて音声を聞き取れる双方向の環境で行うことを説明しています。録画や録音をする場合は、利用目的を示して双方が了解したうえで行います。
賃貸住宅管理業法の書面
管理会社やサブリース会社とオーナーとの契約では、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)の書面も対象になります。いずれも相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できます。
| 書面 | 交付の条文 | 電磁的方法 |
|---|---|---|
| 管理受託契約の締結前の書面(重要事項説明) | 第13条第1項 | 第13条第2項(賃貸人の承諾) |
| 管理受託契約の締結時の書面 | 第14条第1項 | 第14条第2項(第13条第2項を準用) |
| 特定賃貸借契約の締結前の書面(重要事項説明) | 第30条第1項 | 第30条第2項(相手方となろうとする者の承諾) |
| 特定賃貸借契約の締結時の書面 | 第31条第1項 | 第31条第2項(第30条第2項を準用) |
宅建業法の書面と同じく、承諾の取り方や電子書面の扱いは、国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」で確かめます。管理業法の書面全体は「賃貸住宅管理業法のガイド」で扱っています。
借地借家法・民法で書面が求められるもの
宅建業法とは別に、契約そのものの成立や効力に書面が関わるものがあります。
- 定期借家:借地借家法第38条第1項は、公正証書による等書面によって契約をするときに限り更新がない旨を定められるとし、第2項は、電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなしています。第3項の事前説明の書面は、第4項により、建物の賃借人の承諾を得て電磁的方法で提供できます。第5項は、説明をしなかったときは更新がない旨の定めを無効としています。
- 保証契約:民法第446条第2項は保証契約を書面で行うことを求め、第3項は電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなしています。個人の連帯保証人と根保証契約を結ぶときは、民法第465条の2により極度額を定めます。
定期借家の事前説明は、承諾を得たうえで電磁的方法で提供できるとはいえ、説明を受けたことが後で確かめられるように、提供日と承諾の記録を残しておきます。
電子署名法の考え方
電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第2条第1項は、電子署名を、情報がその措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであり、かつ、改変が行われていないかどうかを確認できるもの、と定めています。第3条は、本人による一定の電子署名が行われている電磁的記録は、真正に成立したものと推定するとしています。
電子契約サービスには、利用者の指示に基づいてサービス提供事業者が自身の署名鍵で暗号化などを行う方式のものがあります。この方式で第3条の推定がどのような場合に及ぶかについて、デジタル庁などがQ&Aを公表しています。導入するサービスがどの方式か、本人確認をどのように行っているかを、提供元の資料で確かめます。
あわせて、署名した人に権限があるかも別に確かめます。法人のオーナーや取引先であれば、担当者のメールアドレスに届いたことと、その人に契約の権限があることは別の問題です。
電子帳簿保存法の保存要件
電子帳簿保存法第7条は、所得税と法人税の保存義務者が電子取引を行ったときは、財務省令で定めるところにより、その取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないとしています。同法第2条第5号は、電子取引を取引情報の授受を電磁的方式で行う取引とし、取引情報に契約書に通常記載される事項を含めています。電子契約で締結した契約書のデータも、この電子取引の取引情報に当たります。
国税庁の「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」(令和5年12月)は、要件を次のように説明しています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 改ざん防止 | システムによる措置に代えて、不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて守る方法でも対応できる |
| 検索 | 取引年月日、取引金額、取引先で検索できるようにする |
| 検索が不要になる場合 | 2課税年度前の売上高が5,000万円以下である場合や、データを出力した書面を日付と取引先ごとに整理している場合で、税務調査でダウンロードの求めに応じられるとき |
| 見読性 | モニターや操作説明書などを備え付ける |
| 猶予措置 | 人手不足やシステム整備が間に合わないなど相当の理由がある場合、データを保存したうえで、税務調査でデータのダウンロードの求めと、出力した書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じられるようにしておけば対応できる |
電子契約サービスに契約書を置いたままにするのか、自社のサーバーや管理システムに移すのか、解約した後にデータをどう取り出すのかも、保存の観点から決めておきます。詳しい要件は国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトで確かめます。
導入前の20項目チェックリスト
ここまでの条文と資料を、導入前に確かめる20項目にまとめました。担当者と確認日を記入して残すと、後から見直すときに役立ちます。
| 番号 | 確認項目 | 根拠・資料 |
|---|---|---|
| 1 | 電子化する書面(媒介契約書、35条書面、37条書面、管理業法の書面、定期借家の説明書面など)を一覧にした | 宅建業法、賃貸住宅管理業法、借地借家法 |
| 2 | 書面ごとに、電磁的方法を認める条文と承諾が必要な相手を確かめた | 宅建業法第34条の2第11項、第35条第8項、第37条第4項・第5項 |
| 3 | 承諾を得る前に、提供の方法とファイル形式を示す書式を作った | 宅建業法施行令第2条の6、第3条の3、第3条の4 |
| 4 | 承諾は書面または書面に出力できる形式で得て、その記録の保存場所を決めた | 国土交通省 実施マニュアル |
| 5 | 承諾を撤回する申出があったときに、紙に切り替える手順を決めた | 宅建業法施行令第3条の3など |
| 6 | 電子書面を相手方が出力できる形式(PDFなど)で提供できる | 国土交通省 実施マニュアル |
| 7 | 改変がないか確かめられる措置(電子署名、タイムスタンプなど)がある | 国土交通省 実施マニュアル、電子署名法第2条 |
| 8 | 35条書面・37条書面で、宅地建物取引士が明示される | 国土交通省 実施マニュアル |
| 9 | ダウンロードで渡す場合、相手方への通知と、受け取ったことの確認の方法を決めた | 国土交通省 実施マニュアル |
| 10 | IT重説の前に、記名した重要事項説明書と添付書類を送る手順を決めた | 国土交通省 実施マニュアル |
| 11 | IT重説で宅地建物取引士証を画面で提示し、相手方が読めることを確かめる | 宅建業法第35条第4項 |
| 12 | 録画・録音をするなら、利用目的を示して双方の了解を得る | 国土交通省 実施マニュアル |
| 13 | 管理受託契約・特定賃貸借契約の書面を電子化するなら、オーナーの承諾を得る | 賃貸住宅管理業法第13条第2項、第14条第2項、第30条第2項、第31条第2項 |
| 14 | 定期借家の事前説明書面を電子で渡すなら、賃借人の承諾を得る | 借地借家法第38条第4項 |
| 15 | 個人の連帯保証人との保証契約で、極度額を定めている | 民法第446条、第465条の2 |
| 16 | サービスの署名方式と、本人確認の方法を提供元の資料で確かめた | 電子署名法第3条、デジタル庁のQ&A |
| 17 | 法人が相手のとき、署名する人の権限を確かめる手順を決めた | 社内の運用ルール |
| 18 | 契約データを、取引年月日・金額・取引先で検索できる形で保存する | 電子帳簿保存法第7条、国税庁資料 |
| 19 | 改ざん防止の方法(システムでの措置、または事務処理規程)を決めた | 国税庁資料 |
| 20 | サービスを解約した後も、締結済みのデータを取り出して保存できる | 提供元の利用規約 |
このチェックリストは、条文と国の資料に沿って確かめる順番を示したものです。すべてに印が付いても、個別の取引が法令に合っていることの証明にはなりません。特約の内容や、相手方の事情に応じた判断は、宅建士や弁護士、税理士に確かめます。
紙に戻す場面を決めておく
電子化を始めても、すべての取引を電子で行えるとは限りません。次のような場面で紙に戻す手順を、あらかじめ決めておきます。
- 相手方が承諾しない、または承諾を撤回した場合
- 相手方がメールを受け取れない、PDFを開けないなど、受け取りを確かめられない場合
- IT重説の途中で映像や音声が途切れ、説明を続けられない場合
- 相手方がオンラインでの説明に不安を示している場合
実施マニュアルは、映像の視認や音声の聞き取りに支障が生じた場合、宅建士はIT重説を中断し、原因を把握して支障がない状況にしてから再開する必要があるとしています。解消できないときに、日を改めるのか対面に切り替えるのかを社内で決めておくと、現場で迷いません。
ウルスタくんでは、賃貸借契約書や重要事項説明書など24種の書類を作り、電子サインで締結できます。電子サインを使う場合も、上の20項目のうち承諾の取得、取引士の明示、保存の方法は、自社の運用として決めておく必要があります。電子契約サービスを選ぶときの観点は「電子契約SaaS比較2026」にまとめています。
このテーマの全体像は「不動産のIT重説 完全ガイド2026|国交省マニュアルの遵守事項と売買・賃貸の手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. IT重説を行えば、重要事項説明書も電子で渡したことになりますか。
なりません。IT重説は説明の方法で、書面の電子交付は宅建業法第35条第8項に基づく別の手続きです。電子で渡すなら、施行令第3条の3の手続きで承諾を得ます。
Q2. 承諾は口頭で得てもよいですか。
施行令は、書面または電子情報処理組織を使う方法などで承諾を得るとしています。実施マニュアルも、書面または書面に出力できる形式で得ることを説明しているため、口頭だけの承諾は避けます。
Q3. 37条書面を電子で渡すとき、宅建士の記名はどうなりますか。
第37条第4項・第5項は、国土交通省令で定める電磁的方法で提供することとしています。実施マニュアルは、35条書面・37条書面の電子書面で宅地建物取引士が明示されていることを要件として説明しています。
Q4. 電子署名のあるPDFを、後から修正して保存してよいですか。
署名後に内容を変えると、改変がないことを確かめるという電子署名の役割が失われます。修正が必要なときは、元のデータはそのまま残し、変更の合意を別の書面として締結します。
Q5. 小さな会社でも電子帳簿保存法の検索要件は必要ですか。
国税庁の資料では、2課税年度前の売上高が5,000万円以下で、税務調査のダウンロードの求めに応じられる場合は、検索要件が不要とされています。改ざん防止や見読性の要件は残るため、事務処理規程などで対応を決めます。
出典(本文で参照している資料)
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)
- 宅地建物取引業法施行令(e-Gov法令検索)
- 国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(PDF)
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法 法律、政省令、解釈・運用の考え方、ガイドラインについて」
- 借地借家法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 電子署名及び認証業務に関する法律(e-Gov法令検索)
- デジタル庁「電子署名」
- 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(e-Gov法令検索)
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」
- 国税庁「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」(PDF)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
