賃貸管理 読了 19分

不動産のIT重説 完全ガイド2026|宅建業法35条と国交省マニュアル(令和6年12月版)で整理する売買・賃貸の手順と確認表

IT重説は、映像と音声で双方向にやりとりでき、相手の承諾を得て、重要事項説明書を事前に届け、宅建士証を画面越しに確認してもらえば、売買でも賃貸でも行えます。国土交通省マニュアルの遵守事項7つと手順、確認表を条文とあわせて整理しました。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
不動産のIT重説 完全ガイド2026|国交省マニュアルの遵守事項と売買・賃貸の手順
目次

IT重説(ITを活用した重要事項説明)は、売買でも賃貸でも、国土交通省が示す条件を満たせば対面と同じように扱われます。条件の中心は、映像と音声で双方向にやりとりできること、相手の承諾を得ること、重要事項説明書を事前に相手の手元に届けること、宅建士証を画面越しに確認してもらうことです。この記事では、宅地建物取引業法35条と、国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」(令和6年12月版)をもとに、実施の手順と注意点を整理します。

IT重説とは|宅建業法35条と「解釈・運用の考え方」

宅地建物取引業法35条1項は、宅建業者に対し、売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に重要事項を記載した書面を交付して説明させることを求めています。説明のときは、宅建士が相手方に宅地建物取引士証を提示しなければなりません(同条4項)。書面を交付するときは、宅建士が書面に記名します(同条5項)。

この条文には「対面で」とは書かれていません。説明の方法については、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(以下、解釈・運用の考え方)が、テレビ会議等のITを活用して説明する場合の条件を示しています。マニュアルによると、解釈・運用の考え方は、IT重説について「その内容を十分に理解できる程度に、映像を視認でき、かつ、音声を聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること」を求めています。この条件を守っていれば、IT重説は対面の説明と同じ扱いになります。

なお、説明の相手方が宅建業者である場合、35条6項の読み替えにより、「交付して説明をさせなければ」は「交付しなければ」となります。業者間の取引では書面の交付が求められ、説明そのものは求められません。IT重説が実務で問題になるのは、主に一般の買主・借主に説明する場面です。

経緯|賃貸は2017年、売買は2021年に本格運用

IT重説は、社会実験と検証を経て段階的に広がりました。マニュアルの「経緯」に書かれている日付を表にまとめます。

時期内容
2015年(平成27年)8月31日IT重説の社会実験を開始
2017年(平成29年)10月1日賃貸取引のIT重説を本格運用へ移行(同年3月13日の検証検討会で「目立ったトラブルは発生せず」とされたため)
2021年(令和3年)3月30日売買取引のIT重説を本格運用へ移行(同年1月25日の検証検討会を踏まえたもの)
2022年(令和4年)5月18日法改正の施行により、重要事項説明書などの書面を電磁的方法で提供すること(書面の電子化)が可能に
2024年(令和6年)12月実施マニュアル、FAQ、ハンディガイド、承諾取得例の令和6年12月版を国土交通省が掲載

書面の電子化が始まったことで、重要事項説明書を紙で郵送してIT重説を行う方法と、電子書面を送ってIT重説を行う方法の2通りを選べるようになりました。どちらでも、説明の前に相手の手元に書面がそろっていることが前提です。

売買と賃貸で同じところ、違うところ

IT重説の遵守事項そのものは、売買でも賃貸でも同じです。違いが出るのは、電子化できる書面の種類と、本人確認の根拠です。

項目売買・交換貸借(賃貸)
IT重説の可否可(2021年3月30日から本格運用)可(2017年10月1日から本格運用)
IT重説の遵守事項マニュアルの遵守事項①〜⑦同じく①〜⑦
重要事項説明書(35条書面)の電子提供相手方の承諾を得て可(35条8項)相手方の承諾を得て可(35条8項)
契約締結時の書面(37条書面)の電子提供承諾を得て可(37条4項)承諾を得て可(37条5項)
媒介契約書面(34条の2)の電子提供依頼者の承諾を得て可(34条の2第11項)34条の2は売買・交換の媒介の規定
本人であることの確認犯罪収益移転防止法にもとづく確認が必要。マニュアルFAQは非対面でも実施できるとしています画面越しでも借主本人であることを確認できる措置を講じる(FAQ)
内覧対面・非対面を問わず、内覧の実施を勧めることが望ましい(マニュアル3-3)同じ

売買は1件あたりの説明事項が多く、添付書類も増えます。物件や相手の状況によっては、対面の説明を選ぶほうが伝わりやすい場合もあります。IT重説は相手の意向を確認したうえで行う方法なので、相手が対面を望めば対面で行います。

国土交通省マニュアルの遵守事項7つ

マニュアルの「3-2 ITを活用した重要事項説明関係」は、IT重説で守るべきことを[遵守]として7つ挙げています。以下、マニュアルの文言を引用しながら整理します。

① IT環境

「その内容を十分に理解できる程度に、映像を視認でき、かつ、音声を聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること」が求められます。音声だけの電話や、一方向の動画配信では条件を満たしません。

② 説明の相手方への意向の確認

「IT重説を実施することについて、説明の相手方へ意向確認を行い、承諾を得る必要があります」。相手が対面を望むなら、IT重説は行いません。

③ 重要事項説明書の事前交付

「IT重説は、説明の相手方の手元に重要事項説明書及び添付書類がある状態で実施する必要があります」。紙なら郵送などで、電子なら電磁的方法で、説明の前に届けておきます。マニュアルは「重要事項説明書の交付から一定期間の後に、IT重説を実施することが望ましい」としています。相手が事前に読んでおけるようにするためです。

④ 開始前の確認

開始前に、相手が重要事項説明書と添付書類を確認しながら説明を受けられる状態にあること、IT重説を行うためのIT環境が整っていることを確認します。書面が手元にない、音声が聞き取れないといった状態なら、始めません。

⑤ 宅建士証の提示

宅建士は「説明の相手方が宅建士証を視認できたことを確認する必要があります」。マニュアルは確認の方法として、宅建士証をカメラに向けて相手の画面に映すこと、顔写真と説明者の顔が同一であることを確認してもらうこと、「宅建士証に記載されている宅建士の氏名等を読み上げるよう説明の相手方に依頼し、説明の相手方が読み上げた内容が正しいか確認する」ことを挙げています。

⑥ 中断

説明の途中で「映像の視認や音声の聞き取りに支障が生じた場合には、宅建士はIT重説を中断し、その支障となっている原因を把握して、支障がない状況にしてから、IT重説を再開する必要があります」。聞こえなかった部分は、再開後に説明し直します。

⑦ 中止

支障が解消しない場合はIT重説を中止します。マニュアルは「当事者の希望により、IT重説で実施することができなかった残りの部分のみを対面による重要事項説明に切り替える対応も可能」としています。

重要事項説明書を電子で送る場合|35条8項と承諾

35条8項は、相手方の承諾を得て、書面の交付に代えて書面に記載すべき事項を電磁的方法で提供できると定めています。マニュアルの「3-1」は、この電子提供で守ることを次のように示しています。

  • 承諾の取り方:承諾する旨を記載した書面(紙)の受領、電子メール等での受信、Webページ上での取得、CD-ROMやUSBメモリ等の受領のいずれか(マニュアル表2)。
  • 承諾の前に示すこと:電子書面を提供する方法と、ファイルへの記録の方式(ExcelやPDFなどのソフトウェアの形式やバージョン)。
  • 承諾の記録:事後のトラブルを防ぐため、承諾する旨を記録した書面(紙)か、紙に出力できるファイル形式で取得します。
  • 出力できること:相手が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること。
  • 改変防止:電子書面が改変されていないかを確認できる措置が必要です。FAQ(Q24)は、国土交通省が現時点で確認できている改変防止措置を「電子署名とタイムスタンプ」としています。
  • 宅建士の記名:35条書面と37条書面は、電子でも宅建士の記名が必要です。
  • 到達と閲覧の確認:提供した旨を通知した後、電子書面が届いていること、閲覧できること、文字化けや文字欠けがないことの確認を相手に依頼します。
  • 拒否された場合:相手が電磁的方法による提供を受けることを拒否する場合は、電子で提供してはいけません。

IT重説の意向確認と、書面電子化の承諾は別のものです。FAQ(Q4)は、両者を分けて行うことを基本としつつ、対象の取引と書面の種類が明示的に特定されていれば、一度に行うことも可能としています。また、マニュアルは、相手がスマートフォンのみで説明を受ける場合、機種によっては電子署名を確かめる署名パネルを確認できない可能性があることにも触れています。

申込から記録の保管までの手順

マニュアルの遵守事項を、1件の取引の流れに並べると次のようになります。社内の手順書を作るときの下書きとして使えます。

  1. 意向確認と承諾:IT重説で行うことへの意向を確認し、承諾を得ます。書面を電子で送る場合は、提供方法とファイル形式を示して、電子化の承諾も得ます。どちらも記録を残します。
  2. 環境の案内:使う会議ツール、端末、カメラとマイク、通信環境を相手に伝えます。画面の小さいスマートフォンで図面を画面に映して説明することは馴染まない、とマニュアルは指摘しています。図面は紙か電子書面で手元に置いてもらいます。
  3. 書面の送付:宅建士が記名した重要事項説明書と添付書類を送ります。電子なら改変防止の措置(電子署名・タイムスタンプ)をしたうえで送り、到達と閲覧の確認を依頼します。説明日まで一定の期間をおけるよう、日程を組みます。
  4. 開始時の確認:映像と音声が双方向で通じていること、相手の手元に書面がそろっていることを確かめます。売買では、犯罪収益移転防止法にもとづく本人確認の手続きも済ませておきます。
  5. 宅建士証の提示:宅建士証をカメラに映し、顔写真と本人の顔を見比べてもらい、氏名などを読み上げてもらいます。
  6. 説明:ページ番号と項目名を示しながら進めます。マニュアルFAQ(Q10)は、IT環境によっては対面より伝わりづらく反応を確認しづらい場合があるため、説明の方法や速さを調整するよう求めています。
  7. 中断・中止:映像や音声に支障が出たら中断し、直してから再開します。直らなければ中止し、相手の希望があれば残りを対面に切り替えます。
  8. 契約と37条書面:契約が成立したら、37条書面(契約書面)を交付します。電子で提供する場合は、承諾と宅建士の記名が必要です。
  9. 記録の保管:意向確認と承諾の記録、送付と到達確認の記録、録画・録音(同意を得た場合)を、取引ごとにまとめて保管します。

録画・録音と個人情報

録画は法令上の義務ではありません。マニュアルは「IT重説の実施状況について、録画・録音により記録を残すことは、トラブルが発生したときの解決手段として有効と考えられます」としたうえで、次のような扱いを示しています。

  • 利用目的をできる限り明らかにして、宅建業者と説明の相手方の双方が了解したうえで行う。
  • 相手の求めに応じて、録画・録音の複製を提供する。
  • 個人情報保護法に沿って管理する。FAQ(Q37)は、個人情報を取得する際は、あらかじめ利用目的を公表するか、速やかに本人に通知または公表することが必要としています。
  • 保存期間は、相手の同意を得たうえで、宅建業者の判断で定める(FAQ Q40)。

説明の相手方以外の人が同席している場合も注意が必要です。FAQ(Q41)は、録画・録音をする場面で同意を得ていない参加者がいるときは、いったんIT重説を中止して他の参加者からも同意を得るか、同席している人に離席を促す必要があるとしています。

つまずきやすい場面とマニュアル上の扱い

実施中に起こりやすい場面と、マニュアルにもとづく対応を表にしました。社内で事前に決めておくと、担当者が迷わずに済みます。

場面マニュアル上の扱い事前の備え
開始時に書面が届いていない遵守事項③により実施できない送付日と到達確認を記録し、届いていなければ日程を変える
電子書面が開けない・文字化けする到達と閲覧可能であることの確認を相手に依頼する必要がある承諾の前にファイル形式を示し、送付後すぐに閲覧確認を依頼する
説明中に映像や音声が途切れた中断し、原因を直してから再開(遵守事項⑥)途切れた箇所のページを控え、再開後にそこから説明し直す
回線が復旧しない中止。希望により残りだけ対面に切り替え可(遵守事項⑦)対面に切り替える場合の連絡先と日程の候補を用意する
相手がスマートフォンだけで参加画面に図面を映して説明することは馴染まない。署名パネルを確認できない可能性図面は紙か電子書面で手元に置いてもらう。パソコンでの参加を案内する
録画中に、同意していない同席者がいる中止して同意を得るか、離席を促す(FAQ Q41)案内の段階で、同席者の有無と録画の有無を伝える
相手が電子での受け取りを拒んだ電磁的方法で提供してはいけない紙で郵送する手順も用意しておく

実施前の確認表

1件ごとに、次の点を確かめてから始めます。根拠の欄は、確認の理由を社内で説明するときに使えます。

確認すること根拠
IT重説で行うことについて相手の意向を確認し、承諾を記録したマニュアル遵守事項②
電子書面で送る場合、提供方法とファイル形式を示して承諾を得た35条8項、マニュアル3-1
重要事項説明書に宅建士が記名している35条5項
電子書面に改変防止の措置(電子署名・タイムスタンプ)をしたマニュアル3-1、FAQ Q24
書面と添付書類が相手の手元に届き、閲覧できることを確認したマニュアル遵守事項③、3-1
書面の交付から説明日まで一定の期間をおいたマニュアル(望ましいとされる扱い)
映像と音声が双方向で通じることを開始前に確かめたマニュアル遵守事項①④
宅建士証を画面に映し、氏名等を読み上げてもらう段取りがある35条4項、マニュアル遵守事項⑤
録画・録音をする場合、利用目的を示して同意を得たマニュアル3-2、FAQ Q37・Q40
売買の場合、犯罪収益移転防止法にもとづく本人確認を済ませたマニュアル3-3、FAQ Q9
中断・中止したときの対応と、対面に切り替える段取りを決めたマニュアル遵守事項⑥⑦

書面の作成と保管をまとめる

IT重説では、意向確認、電子化の承諾、書面の送付、到達確認、契約書面と、1件ごとの記録が増えます。ウルスタくんでは、賃貸借契約書や重要事項説明書など24種の書類の作成と電子サインを、物件・入居者の管理と同じ画面で扱えます。取引ごとに書類と記録がまとまっていると、後から経緯を確かめるときに探しやすくなります。

よくある質問

Q1. 相手がIT重説を望まない場合はどうしますか。

対面で説明します。マニュアルは、IT重説の実施について相手の意向を確認し、承諾を得ることを遵守事項としています。

Q2. スマートフォンだけで参加してもらってもよいですか。

マニュアルは、画面の小さいスマートフォン等を使っている場合、相手の画面に図面を映して説明することは馴染まないとし、スマートフォンのみの場合はパソコン等との表示上の違いに留意するよう求めています。図面などは紙か電子書面で手元に置いてもらい、映像と音声で十分にやりとりできるかを開始前に確かめます。

Q3. 録画は義務ですか。

義務ではありません。マニュアルは、録画・録音で記録を残すことはトラブル時の解決手段として有効と考えられるとし、行う場合は利用目的を明らかにして双方の了解のもとで行うこと、個人情報保護法に沿って管理することを示しています。

Q4. 宅建士証は画面越しにどう見せればよいですか。

宅建士証をカメラに映し、相手に視認できたことを確認します。マニュアルは、顔写真と説明者の顔が同一であることの確認や、宅建士証の氏名等を相手に読み上げてもらって正しいか確認する方法を挙げています。

Q5. 業者間の売買でもIT重説は必要ですか。

相手方が宅建業者の場合、35条6項の読み替えにより、重要事項説明書の交付は必要ですが、説明は求められません。

Q6. 重要事項説明書を送ってから何日あければよいですか。

日数の定めは見当たりません。マニュアルは、重要事項説明書の交付から一定期間の後にIT重説を実施することが望ましいとしています。相手が事前に読める日程を組みます。

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出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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