建築費の上昇で新築の供給が細るなか、中小の不動産会社が中古仲介とリノベ提案に軸足を移すなら、まず公的統計で「新築がどれだけ減り、中古の取引がどれだけ動いているか」を確かめ、そのうえで建物状況調査や2025年4月からのリフォームの建築確認など、中古ならではの説明事項を業務に組み込むことが近道です。この記事では、国土交通省の建築着工統計と建設工事費デフレーター、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の年度データ、既存住宅販売量指数で確かめた数字だけを使い、業務の移し方を手順の例として整理します。
建築費の上昇は、どの統計で確かめるか
「建築費が上がった」という話は、資材の値上がりや人手不足と結びつけて語られることが多いです。ただ、オーナーや買主に説明するときは、印象ではなく公的な統計で確かめた数字を使うほうが信頼されます。ここでは国土交通省が公表している2つの統計を紹介します。
建設工事費デフレーター
建設工事費デフレーターは、国土交通省が毎月公表している、建設工事にかかる費用の価格の動きを表す指標です。住宅、非住宅、土木などの工事種別ごとに作られています。国土交通省のページによると、令和8年4月分から基準年度を2015年度から2020年度に改定しました。公表は毎月末で、その月の2か月前のデータを公表する運用です。
使うときの注意点もあります。国土交通省の「利用するにあたっての参考情報」では、デフレーターには用地費や補償費が含まれず、営業余剰や消費税などの間接税も含めていないと説明されています。つまり、土地代を含む分譲価格の上がり方とは別のものです。オーナーへの説明では「工事そのものの価格の動き」として使い分けます。
建築着工統計の「工事費予定額」
もう1つは、建築着工統計の工事費予定額です。国土交通省の「建築着工統計調査報告(令和7年計)」では、全建築物の着工床面積と工事費予定額が次のとおりでした。
| 項目 | 令和6年 | 令和7年 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 全建築物の着工床面積 | 102,764千㎡ | 95,853千㎡ | 6.7%減 |
| 全建築物の工事費予定額 | 292,504億円 | 304,818億円 | 4.2%増 |
床面積が減ったのに、工事費予定額は増えています。この2つの数字を単純に割り算すると、床面積1㎡当たりの工事費予定額は令和6年が約28.5万円、令和7年が約31.8万円で、約12%上がった計算になります。これは住宅だけでなく非住宅を含む全建築物の平均で、建物の種類や構造の構成が変われば平均も動きます。あくまで目安として使い、個別の見積もりの代わりにはしません。
新設住宅着工は2025年にどれだけ減ったか
同じ「建築着工統計調査報告(令和7年計)」によると、令和7年(2025年)の新設住宅着工戸数は740,667戸で、前年比6.5%減、3年連続の減少でした。利用関係別に見ると次のとおりです。
| 利用関係 | 令和7年の戸数 | 前年比 | 連続の状況 |
|---|---|---|---|
| 総数 | 740,667戸 | 6.5%減 | 3年連続の減少 |
| 持家 | 201,285戸 | 7.7%減 | 4年連続の減少 |
| 貸家 | 324,991戸 | 5.0%減 | 3年連続の減少 |
| 分譲住宅 | 208,169戸 | 7.6%減 | 3年連続の減少 |
| うちマンション | 89,888戸 | 12.2%減 | 3年連続の減少 |
| うち一戸建住宅 | 115,935戸 | 4.3%減 | 3年連続の減少 |
分譲マンションの減り方が大きいことが分かります。新築マンションの販売を仲介や紹介の柱にしてきた会社ほど、扱える物件が減る影響を受けやすい構図です。
ただし、着工の減少をすべて建築費のせいと決めつけることはできません。2025年4月からは改正建築物省エネ法と改正建築基準法が施行され、原則として全ての新築で省エネ基準への適合が義務になり、木造戸建の建築確認の手続き(いわゆる4号特例)も見直されました。着工の数には、こうした制度の変更や金利、需要の動きも重なります。統計だけで要因を切り分けることはできないので、説明するときは「減っている」という事実と「要因は複数ある」という点を分けて伝えます。
直近の月次では、国土交通省の「建築着工統計調査報告(令和8年8月分)」で、8月の新設住宅着工は持家・貸家・分譲住宅が増え、全体で前年同月比6.1%増でした。単月の数字は前年の同じ月の水準にも左右されるので、流れを見るときは年計や数か月の動きで確かめます。
中古住宅の取引はどう動いているか
首都圏の成約(東日本レインズ)
東日本不動産流通機構の「首都圏不動産流通市場の動向(2025年度)」(2025年4月〜2026年3月)では、首都圏の中古住宅の成約が次のとおりでした。
| 種別 | 成約件数 | 成約価格 | 新規登録件数 |
|---|---|---|---|
| 中古マンション | 49,314件(前年度比24.1%増、3年連続増加、過去最高) | 5,322万円(前年度比7.8%上昇、13年連続上昇、過去最高) | 185,526件(前年度比1.6%減) |
| 中古戸建住宅 | 22,042件(前年度比38.9%増、3年連続増加、過去最高) | 3,958万円(前年度比0.5%上昇、7年連続上昇) | 77,091件(前年度比3.1%増) |
首都圏の数字なので、地方の市場にそのまま当てはめることはできません。地方で営業している会社は、地元を管轄する不動産流通機構の公表データで同じ項目を確かめてください。
全国の動き(既存住宅販売量指数)
全国の動きは、国土交通省が試験運用として公表している既存住宅販売量指数で確かめられます。これは、建物の売買を原因とする所有権移転登記の個数をもとに、個人が取得した既存住宅の取引量を2010年平均=100として表した指数です。令和8年9月30日に公表された令和8年6月分では、全国の合計(季節調整値)が131.3で、前月比4.4%増でした。戸建住宅は130.1、マンションは130.3です。この指数には別荘やセカンドハウス、投資用の物件も含まれる点に注意します。
新築の着工が減り、中古の取引量は2010年の水準を上回っている。この2つを並べると、中古仲介に力を入れる意味は統計からも説明できます。
中古仲介とリノベ提案で押さえる法令上の説明事項
中古住宅の売買では、新築にはない説明事項があります。業務を移すときは、ここを社内の手順に入れておくことが欠かせません。
建物状況調査(インスペクション)のあっせんと説明
- 媒介契約を結んだときに交付する書面には、既存の建物であれば「建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項」を記載します(宅地建物取引業法34条の2第1項4号)。
- 重要事項説明では、既存の建物であれば、建物状況調査を実施しているかどうかと、実施している場合の結果の概要、設計図書や点検記録など建物の建築・維持保全の状況に関する書類の保存の状況を説明します(同法35条1項6号の2)。
- 売買契約の書面(37条書面)には、既存の建物であれば、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項を記載します(同法37条1項2号の2)。
媒介を受けた段階で、売主に設計図書や点検記録が手元にあるかを聞いておくと、重要事項説明の準備が楽になります。
2025年4月からの大規模リフォームと建築確認
国土交通省の資料「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」によると、2階建ての木造戸建などで行う大規模なリフォーム(建築基準法の大規模の修繕・大規模の模様替に当たるもの)で、2025年4月以降に工事に着手するものは建築確認手続の対象になりました。大規模の修繕・模様替とは、主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根、階段)の1種以上について行う過半の改修などを指します。
一方で、同じ資料では、キッチン・トイレ・浴室などの水回りだけのリフォーム、屋根ふき材だけの改修、外壁の外装材だけの改修、床の仕上げ材だけの改修などは建築確認が不要な例として示されています。「中古を買ってリノベ」を提案するときは、予定している工事が確認の対象になるかを施工会社や建築士に早めに確かめてもらい、工期と費用の見通しに反映させます。
800万円以下の物件の媒介報酬
中古の物件は価格が低いこともあります。国土交通省の「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」では、物件価格が800万円以下の宅地建物の売買について、30万円の1.1倍を上限とする特例が設けられました(令和6年7月1日施行)。特例で定める上限の範囲で報酬を受けるには、媒介契約を結ぶ際に、あらかじめ報酬額を依頼者に説明し、合意しておくことが必要とされています。
中古仲介・リノベ提案へ業務を移す手順の例
ここからは、公的な裏付けがある数字ではなく、業務を組み立てるときの考え方と手順の例です。会社の規模や地域に合わせて調整してください。
手順1 扱う物件と地域を決める
まず、地元の不動産流通機構の公表データで、中古マンションと中古戸建のどちらの成約が多いか、価格帯はどこが中心かを確かめます。扱う種別と地域を絞ると、査定の精度と物件調査の速さが上がります。
手順2 物件調査の型をつくる
中古は1件ごとに状態が違います。登記事項証明書、建築確認の有無と検査済証、設計図書や点検記録の有無、建物状況調査の実施状況、管理規約や修繕の履歴(マンションの場合)など、重要事項説明に必要な項目を1枚の確認表にまとめておくと、担当者が変わっても漏れが減ります。
手順3 リノベの相談先を決めておく
リノベ提案では、工事の内容と費用の見通しを買主に示す必要があります。建物状況調査を行う人、施工会社、建築士など、相談できる先を事前に決めておき、建築確認が必要になりそうな工事かどうかを早めに確かめられる体制にします。
手順4 新築志向の顧客にも中古の選択肢を示す
新築を探している顧客に、同じ予算で選べる中古と工事費の組み合わせを示すことも1つの方法です。そのとき、建物状況調査の結果や工事の範囲など、中古ならではの不確かさも同じ資料で説明しておきます。
| 段階 | 確認すること | 根拠・参考 |
|---|---|---|
| 媒介契約 | 建物状況調査のあっせんの有無を記載したか。800万円以下の物件なら報酬額を事前に説明し合意したか | 宅建業法34条の2第1項4号、国交省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」 |
| 物件調査 | 建物状況調査の実施状況、設計図書・点検記録の保存状況 | 宅建業法35条1項6号の2 |
| リノベ計画 | 予定の工事が大規模の修繕・模様替に当たり建築確認が必要か | 国交省「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」 |
| 売買契約 | 構造耐力上主要な部分等について当事者双方が確認した事項を記載したか | 宅建業法37条1項2号の2 |
ウルスタくんでは、物件と顧客の情報を顧客管理でまとめ、募集図面(マイソク)の作成や業者間流通(ウルスタBB)への掲載、重要事項説明書や売買契約書などの書類作成と電子サインまでを1つの画面で扱えます。中古の物件調査で集めた情報を、そのまま書類と広告に使い回したいときに役立ちます。
相続で取得した中古物件を扱う場面も増えています。相続登記の期限や手続きは相続登記の義務化から2年の実務で、空き家の管理受託については空き家の管理ビジネスの記事で整理しています。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 建築費がどれだけ上がったか、1つの数字で言えますか。
1つの数字で言い切るのは難しいです。建設工事費デフレーターは工事種別ごとの価格の動きを示し、建築着工統計の工事費予定額は着工した建物の予定額の合計です。目的に合わせて使い分け、どの統計のどの数字かを添えて説明します。
Q2. 新築の着工が減ったのは建築費のせいですか。
統計だけでは要因を切り分けられません。2025年4月の改正建築物省エネ法・改正建築基準法の施行、金利、需要など複数の要因が重なっています。「減っている」という事実と要因は分けて伝えます。
Q3. 中古の取引が増えているというのは全国の話ですか。
東日本レインズの数字は首都圏のものです。全国の動きは既存住宅販売量指数で確かめられます。地方では、地元を管轄する不動産流通機構の公表データを確かめてください。
Q4. 中古を買ってリノベする場合、いつも建築確認が必要ですか。
いいえ。国土交通省の資料では、2階建ての木造戸建などの大規模の修繕・模様替に当たる工事が対象で、水回りだけのリフォームや仕上げ材だけの改修などは不要な例として示されています。個別の工事は建築士などに確かめてもらいます。
出典(本文で参照している資料)
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年計)について」
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年8月分)」
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」
- 国土交通省「建設工事費デフレーターを利用するにあたっての参考情報」
- 東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年度)」
- 国土交通省「既存住宅販売量指数 令和8年6月分を公表(試験運用)」
- 国土交通省「2025年4月からルールを改正します!全ての新築で省エネ基準適合を義務化!」
- 国土交通省「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」
- 国土交通省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(34条の2、35条、37条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。