顧客管理を名簿で終わらせないためには、全てのお客様に「次の行動」「期限」「担当」を入れ、やり取りを日付つきの履歴として残す運用にすることが大切です。名簿は「誰がいるか」を示すだけですが、顧客管理は「次に誰が、何を、いつまでにするか」を示します。この記事では、不動産会社の顧客管理(CRM)で決めておく項目、状態の決め方、履歴の書き方、個人情報保護法22条・23条に沿った情報の整え方と守り方を説明します。
名簿と顧客管理の違い
顧客管理の仕組みを入れても、実際には氏名と連絡先が並んだ名簿として使われていることがよくあります。名簿として使っている状態では、次のようなことが起きます。
- お客様から連絡があったとき、前に誰が何を話したかを担当者に聞かないと分からない。
- 担当者が休むと、そのお客様への対応が止まる。
- 「そのうち連絡する」お客様が、いつまでも連絡されないまま残る。
- 同じお客様が、問い合わせの経路ごとに別の行として登録されている。
名簿は「誰がいるか」を示す表です。顧客管理は、それに加えて「どういう状況で、次に誰が何をいつまでにするか」を示します。違いは、道具の機能より運用の決め事にあります。どの道具を使っていても、次の行動と期限が入っていなければ名簿と同じです。
| 見るところ | 名簿 | 顧客管理 |
|---|---|---|
| 分かること | 氏名、連絡先 | 状況、次の行動、期限、担当、これまでの経緯 |
| 開くとき | 連絡先を調べるとき | 毎朝、今日やることを確かめるとき |
| 担当者が休んだとき | 対応が止まる | 別の担当者が履歴を見て引き継げる |
| 更新のきっかけ | 気づいたとき | お客様とやり取りするたび |
顧客管理で決めておく項目
項目は、多ければよいわけではありません。入力の負担が増えると空欄が増え、一覧が信用できなくなります。まず「空欄にしない項目」と「分かれば入れる項目」を分けて決めます。
必須にする項目
| 項目 | 必要な理由 | 入れ方の例 |
|---|---|---|
| お客様の区分 | 入居希望者、入居者、オーナー、取引先の業者などで次の行動が違うため | 選択肢から選ぶ |
| 氏名と連絡先 | 連絡するため | 電話、メールなど、本人が希望する連絡手段も残す |
| 状態 | 今どの段階にいるかを一目で分かるようにするため | 社内で定義した選択肢から選ぶ |
| 担当 | 誰が次の行動をするかを決めるため | 1人を選ぶ(主担当) |
| 次の行動 | 何をするかを決めるため | 「物件を3件送る」のように具体的に書く |
| 期限 | いつまでにするかを決めるため | 日付で入れる |
| 最初の接点 | どこから来たお客様かを後で見直すため | ポータルサイト、自社サイト、紹介、来店など |
分かれば入れる項目
希望の条件(エリア、家賃の上限、間取り、入居の希望時期)、紹介した物件、内見の日時、副担当などです。お客様の区分によって必要な項目が違うため、入居希望者用、オーナー用というように、区分ごとに項目の組を決めておくと入力が楽になります。
入れない項目を決める
業務に関係のない情報は入れません。個人情報保護法17条1項は、個人情報の利用の目的をできる限り特定しなければならないとしています。目的に関係のない項目を増やすと、管理する情報が増えるだけでなく、利用目的の範囲を超えた取扱いにならないかを確かめる手間も増えます。病歴や信条などの要配慮個人情報(同法2条3項)は、業務に必要で本人の同意を得ている場合などを除き、取得しない前提で項目を作ります(同法20条2項)。
状態(ステータス)の決め方
状態の選択肢は、業務の流れに沿って決めます。入居希望者であれば、たとえば次のような並びが考えられます。
- 新規の問い合わせ
- 連絡済み(条件を確認中)
- 物件を提案済み
- 内見の予定あり
- 申込み済み(審査中)
- 契約手続中
- 契約済み
- 見送り(理由を記録)
大切なのは、それぞれの状態の「入る条件」と「出る条件」を文章で決めておくことです。たとえば「内見の予定あり」は「日時が確定したとき」に入り、「内見が終わったとき」に出る、というように決めます。条件があいまいだと、担当者ごとに状態の付け方がずれ、一覧で状況を比べられなくなります。
「見送り」も大切な状態です。見送りの理由(条件に合う物件がなかった、他社で決まった、連絡がつかない、など)を選択肢で残しておくと、後で物件の仕入れや対応の見直しに使えます。
次の行動と期限の入れ方
顧客管理を名簿で終わらせないための中心は、「次の行動」と「期限」の欄です。運用のルールとして、次の3つを決めます。
- 見送りと契約済み以外のお客様には、次の行動と期限を空欄にしない。
- 次の行動は、読めば何をするか分かる書き方にする(「フォロー」ではなく「新着の2LDKを送って内見の希望を聞く」)。
- お客様とやり取りしたら、その場で次の行動と期限を書き換える。
期限は、お客様と約束した日があればその日にします。たとえば「来週の水曜に家族と相談して返事をもらう」と言われたら、その翌日を期限にして「返事を確かめる」と入れます。約束がない場合は、社内で決めた間隔を使います。
次の行動が決められないお客様は、状態の見直しが必要なお客様です。連絡を望んでいない、または長く連絡がつかないのであれば、見送りにして理由を残すほうが、一覧が正確になります。
対応履歴の書き方
対応の履歴は、担当者が替わったときに経緯を引き継ぐための記録です。書き方をそろえておくと、短い時間で読めます。
書くこと
- 日時と手段(電話、メール、来店、内見など)
- 相手(本人、家族、取引先など)
- 話した事実(希望の変化、紹介した物件、お客様の質問)
- 約束したこと(「金曜までに資料を送る」など)
書かないこと
- 担当者の印象や憶測(「本気ではなさそう」など)
- 業務に必要のない私的な情報
- 要配慮個人情報
個人情報保護法33条1項は、本人が、自分が識別される保有個人データの開示を請求できると定めています。履歴は本人が読む可能性があるものとして、事実を中立に書くことを社内のルールにしておくと、記録の質もそろいます。
電話の内容をすぐに書けないときは、「次の行動」と「期限」だけでも先に入れます。履歴の細部は後で足せますが、次の行動が抜けるとお客様への対応が止まります。
担当が替わるときの引継ぎ
担当の交代は、名簿型の運用で対応が止まりやすい場面です。引継ぎのときは、担当の欄を書き換えるだけでなく、履歴に「引継ぎのメモ」を1件残します。メモには、お客様の今の状態、約束していること、次の行動と期限、注意すること(連絡してよい時間帯など)を書きます。
新しい担当は、引き継いだ最初の連絡で、担当が替わったことをお客様に伝え、約束が引き継がれていることを確かめます。前の担当が退職する場合は、個人の端末やメールに残っているやり取りがないかも確かめ、必要な内容は記録に移します。
正確さと安全管理(個人情報保護法22条・23条)
正確かつ最新の内容に保つ(22条)
個人情報保護法22条は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、遅滞なく消去するよう努めなければならないと定めています。
顧客管理では、次のような作業がこの考え方に沿うものです。
- 同じお客様が複数の行に分かれていないかを定期的に確かめ、1つにまとめる。
- 電話番号や連絡手段の変更を聞いたら、その場で直す。
- 利用目的を達したお客様の情報をいつまで保存し、いつ消すかを決めておく。
保存の期間は、契約に関する記録など、他の法令や社内の規程で保存が必要なものもあるため、区分ごとに決めます。
安全管理の措置(23条)と従業者・委託先の監督(24条・25条)
23条は、個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならないと定めています。24条は、従業者に個人データを取り扱わせるに当たって必要かつ適切な監督を行うこと、25条は、個人データの取扱いを委託する場合に委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことを求めています。
顧客管理で決めておきたいのは、次の点です。
- 誰がどの情報を見られるか、書き出し(エクスポート)できるのは誰か。
- 個人のスマートフォンやメールに顧客の一覧を保存しない。
- 退職や異動のときに、アカウントを止める手順。
- パスワードの管理と、可能であれば2段階の認証。
クラウドサービスを使う場合、サービスの事業者が個人データを取り扱うかどうかで、委託先の監督(25条)の対象になるかの考え方が変わります。個人情報保護委員会のガイドラインやQ&Aで確かめてください。いずれの場合も、自社としての安全管理の措置は必要です。
宅地建物取引業者には、宅建業法45条で、正当な理由がある場合でなければ業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない義務もあります。顧客管理の情報は、この義務の対象になり得る情報として扱います。
毎日・毎週の運用のルール
項目と状態を決めても、見る習慣がなければ名簿に戻ります。見る時間を業務の中に決めておきます。
| 頻度 | やること | 誰が |
|---|---|---|
| 毎朝 | 期限が今日まで、または過ぎている行動の一覧を見て、担当を確かめる | 各担当、または責任者 |
| やり取りのたび | 履歴を書き、状態・次の行動・期限を書き換える | 対応した担当 |
| 毎週 | 次の行動が空欄のお客様、長く状態が変わっていないお客様を確かめる | 責任者 |
| 毎月 | 重複の整理、見送りの理由の集計、保存期間を過ぎた情報の扱いを確かめる | 責任者 |
| 担当が替わるとき | 担当の欄を書き換え、引継ぎのメモを履歴に残す | 前の担当と新しい担当 |
ウルスタくんの顧客管理では、お客様ごとの情報と対応の履歴を、物件・入居者の管理と同じ画面の流れで残せます。ただ、どの道具を使っても、ここに挙げた見る時間と書き換えのルールがなければ、名簿として使われる状態は変わりません。
表計算ソフトから始める場合
専用の仕組みを入れる前に、表計算ソフトで運用を試すこともできます。その場合は、次の点に気をつけます。
- 1人のお客様を1行にし、履歴は別のシート(日時、お客様の番号、内容)に積み上げる。
- 状態は入力規則で選択肢にし、自由入力にしない。
- 期限の列で並べ替え、毎朝その順に見る。
- ファイルの保存場所と閲覧できる人を決め、個人の端末に複製しない。
表計算ソフトで運用が回るようになると、どの項目が本当に必要か、どの作業に時間がかかるかが分かります。そのうえで専用の仕組みを選ぶと、項目の設計をそのまま移せます。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 入力が続かない担当者が多いときは、どうすればよいですか。
必須の項目を減らすことから考えます。状態、次の行動、期限、担当の4つだけでも、名簿から顧客管理に変わります。履歴の細部は後回しにしてよい、と決めるだけでも入力の負担は軽くなります。
Q2. 顧客管理の情報を、オーナーや保証会社に渡してもよいですか。
個人情報保護法27条1項は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。誰に何を渡すかを申込書などで示し、同意を得る手順を決めておきます。
Q3. 古いお客様の情報はいつ消せばよいですか。
法律で一律の期間が決まっているわけではありません。22条は、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めるとしています。区分ごとに保存の期間を決め、他の法令や社内規程で保存が必要な記録と分けて扱います。
Q4. お客様から自分の記録を見せてほしいと言われたらどうしますか。
個人情報保護法33条1項により、本人は保有個人データの開示を請求できます。受付の窓口と手順を決めておき、請求があったときに慌てないようにしておきます。具体的な扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインで確かめてください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第2条第3項・第17条・第20条第2項・第22条・第23条・第24条・第25条・第27条・第33条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第45条)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
