CRM(顧客管理)の入力を若手に習慣にしてもらうには、初日から全項目を求めず、必須項目を3つほどに絞って始め、週ごとに少しずつ増やすのが近道です。入力が続かない原因は、本人のやる気より、項目の多さと「いつ入れるか」が決まっていないことにあります。この記事では、1か月の手順の例、入力率の計算方法、個人情報保護法で押さえる点を整理します。
入力が続かない3つの理由
項目が多すぎる
入社した初日に、何十もの入力項目が並んだ画面とマニュアルを渡されると、何から覚えればよいか分からなくなります。全部を正しく入れようとして時間がかかり、忙しい日には入力そのものを後回しにするようになります。
入力する目的が見えない
「会社のルールだから入れて」と言われるだけでは、入力は報告のための作業に見えます。入力した情報が、次の連絡や物件の提案で自分の役に立つと分かると、入力の意味が変わります。
入力するタイミングが決まっていない
「あとでまとめて入れる」は、ほとんどの場合、入れ忘れにつながります。電話を切った直後、内見から戻った直後など、入力のタイミングを行動に結びつけて決めておきます。
この3つは、どれも仕組みの側で直せるものです。入力が続かない人がいたら、本人を注意する前に、項目、目的の説明、タイミングのどこに原因があるかを一緒に確かめます。
入力のタイミングを行動に結びつける例
| 行動 | 直後に入れる項目の例 |
|---|---|
| 反響のメールに返信した | 氏名と連絡先、問い合わせのあった物件、次回対応日 |
| 電話を切った | 話した内容の要点、次回対応日と次にすること |
| 内見から戻った | 見た物件、お客様の感想、次の提案の予定 |
| 申込みを受けた | 申込みの物件、足りない書類、次に連絡する日 |
「1日の終わりにまとめて入れる」より、行動の直後に1〜2分で入れるほうが、内容も正確になります。
利用目的から必須項目を決める
項目を絞るときの基準は、「何のためにこの情報を使うか」です。これは個人情報保護法の考え方とも一致します。同法17条1項は、個人情報を取り扱うときに利用の目的をできる限り特定することを求めています。21条1項は、取得したときに利用目的を本人に通知するか公表すること(あらかじめ公表している場合を除く)を求め、18条1項は、特定した目的の達成に必要な範囲を超えて扱うには原則として本人の同意が必要としています。
使う目的のない項目は、入力の手間が増えるだけでなく、守るべき情報を増やすことにもなります。賃貸の仲介や管理の会社で、最初に必須にする項目の例は次のとおりです。
| 段階 | 必須にする項目の例 | 使う目的 |
|---|---|---|
| 1週目 | 氏名と連絡先、問い合わせのあった物件、次回対応日 | 次の連絡を漏らさない |
| 2週目 | 入居の希望時期、ゆずれない条件 | 条件に合う物件を提案する |
| 3週目 | 対応の履歴の要点、紹介した物件 | 同じ提案の繰り返しを避け、引き継ぎに使う |
| 4週目 | 連絡してよい時間帯と手段、配信への同意の有無 | 迷惑な時間の連絡や同意のない配信を避ける |
表の項目は例です。会社ごとに、実際に使っている項目だけを残してください。使われていない項目は、思い切って画面から外すほうが入力は続きます。
1か月で習慣にする手順の例
次の手順は、新人1人に先輩1人がつく形を想定した例です。効果を数字で保証するものではありませんが、項目を少しずつ増やし、毎日短く確認する考え方は、どの会社でも取り入れやすいはずです。
1日目:15分で3件を一緒に入れる
先輩が隣に座り、実際のお客様3件を一緒に入力します。説明するのは1週目の必須項目だけです。マニュアルを読ませる、全項目を説明する、過去のデータを見せる、といったことは初日にはしません。
2〜7日目:3項目だけを毎日入れる
入力のタイミングは「電話やメールの対応が終わった直後」と決めます。先輩は夕方に5分だけ一覧を見て、入っていない案件があれば一緒に入れます。入っていたら「この次回対応日のおかげで連絡が漏れずに済むね」と、入力が役に立った点を言葉にします。
8日目:最初の週の振り返り
20分ほどで、1週目の入力率を一緒に見ます。入らなかった案件があれば、理由を聞きます。「時間がなかった」なら入力のタイミングを、「どこに入れるか分からなかった」なら画面の説明を見直します。そのうえで、2週目に増やす2項目を説明します。
8〜21日目:週に2項目ずつ増やす
項目を増やした直後は、入力率が少し下がるのが普通です。下がったまま戻らない場合は、次の項目を増やすのを1週遅らせます。増やすかどうかは、日によるぶれではなく、数日分の流れで判断します。
22〜30日目:残りの項目を見直す
4週目は、残っている項目を新人と一緒に見直す時間にします。実際に使わなかった項目は、会社のルールとして外すかどうかを検討します。新人の目で見て分かりにくい項目名も、このときに直します。
入力率の計算と週次の確認
入力率は、次の式で出します。
- 入力率 = 必須項目がすべて埋まっている案件数 ÷ その期間に対応した案件数
- 次回対応日の入力率 = 次回対応日が入っている進行中の案件数 ÷ 進行中の案件数
「入力したかどうか」だけでなく、「必須項目がすべて埋まっているか」で数えるのがポイントです。氏名だけ入って次回対応日が空欄の案件は、入力済みに数えません。
仮の数字で計算例を示します
ある週に新人が対応した案件が30件で、そのうち必須の3項目がすべて埋まっていたのが24件だったとします。入力率は24 ÷ 30 = 80%です。翌週に必須項目を5つに増やし、対応した32件のうち24件がすべて埋まっていれば、24 ÷ 32 = 75%です。項目を増やした週に率が下がるのは自然なことなので、その次の週に戻るかどうかを見ます。
週次の確認30分の進め方
- 5分:その週の入力率を確認します。
- 5分:入らなかった案件の理由を聞きます。
- 10分:入力が役に立った案件を1〜3件取り上げます(次回対応日のおかげで連絡できた、条件を見て提案できた、など)。
- 5分:翌週に増やす項目の説明をします。
- 5分:新人からの質問を受けます。
入力の中身を確かめる3つの見方
入力率が上がっても、中身が使えなければ意味がありません。週次の確認では、数件を選んで次の3点を見ます。
- 次回対応日が、今日より後の日付になっているか。
- 次にすることが、「連絡する」ではなく「内見の感想を電話で聞く」のように具体的に書かれているか。
- 対応の履歴に、日付と結果(つながった、留守電に残した、など)が書かれているか。
この3点が満たされていれば、担当者が休んだ日でも、ほかの人が記録を見て次の連絡ができます。新人には、「自分が休んだ日に、ほかの人が読んで分かるか」を基準に書くよう伝えると、入力の質がそろいやすくなります。
ランキングや罰則に頼らない
入力率を人ごとに順位づけしたり、入力しなかったときに罰を設けたりすると、中身の薄い入力で数字を合わせる動きが出やすくなります。報酬で動かす方法も、報酬がなくなると続かないことがあります。入力率は、本人を評価するためではなく、項目や画面、タイミングを直すために使うほうが、長く続く仕組みになると考えます。
正確に保つことと消すこと
個人情報保護法22条は、利用目的の達成に必要な範囲内で、個人データを正確かつ最新の内容に保つこと、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去することを、努力義務として定めています。
顧客管理の運用に置き換えると、次のようなルールになります。
- 電話番号やメールアドレスが変わったと聞いたら、その場で直す。
- 入居が決まった、他社で決めたなど、案件が終わったら状態を「終了」にする。
- 終了した案件の情報をいつまで残すかを決め、期間を過ぎたものを定期的に見直す。
新人には、入力することと同じくらい、古い情報を直すことも仕事だと最初に伝えておくと、データの質が保ちやすくなります。
新人に最初に教える安全管理
個人情報保護法23条は、個人データの漏えい、滅失または毀損の防止など、安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを求めています。24条は、従業者に個人データを扱わせるときに、必要かつ適切な監督を行うことを求めています。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、講ずべき安全管理措置として、組織的、人的、物理的、技術的な措置などを示しています。
新人に最初の1週間で教えておきたいのは、次のような基本です。
- ログインのIDとパスワードを人と共有しない。
- 顧客の一覧を私物の端末や個人のメールに送らない。
- 画面を開いたまま席を離れない。
- 外出先でスマートフォンから見るときは、周りの人に画面が見えない場所で開く。
- 顧客の情報を外部の業者に渡すときは、渡してよい場面かどうかを先輩に確認する。
最後の点は、個人情報保護法27条1項が、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することを原則として禁じていることに関係します(業務の委託に伴う提供など、例外もあります)。
宅地建物取引業の会社では、宅建業法45条が業者に、75条の3が使用人その他の従業者に、正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らさない義務を定めています。75条の3の義務は、従業者でなくなった後も続きます。入社時にこの点を説明しておくと、顧客管理の情報をなぜ慎重に扱うのかが伝わりやすくなります。
教える側の先輩がすること
入力の習慣は、教える側の関わり方にも左右されます。先輩が自分の案件を入れていなければ、新人は入力を「新人だけの仕事」と受け取ります。先輩が朝に顧客の一覧を開き、その日に期限が来る案件を確認する姿を見せることが、何よりの説明になります。また、新人の入力を直すときは、その場で一緒に直し、なぜその書き方がよいのかを短く添えます。後から指摘をまとめて渡すより、覚えるのが早くなります。
道具を選ぶときの確認点
入力を続けやすくするには、道具の側の工夫も役に立ちます。項目を段階的に表示できるか、スマートフォンからも入れやすいか、担当者ごとに見られる範囲を分けられるか、を確認します。ウルスタくんの顧客管理は、お客様ごとの対応の履歴を物件の情報とあわせて残せます。どの道具でも、必須項目を絞る運用が先にあることは変わりません。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 中途採用の人にも同じ手順が必要ですか
前の職場で別の道具を使っていた人ほど、項目の意味や入力のタイミングが違うことがあります。期間は短くしても、最初の週に必須項目を絞って一緒に入れる進め方は役に立ちます。
Q2. 項目を増やしたら入力率が下がりました
増やした直後に下がるのは自然なことです。数日たっても戻らない場合は、増やした項目が分かりにくいか、入力のタイミングに合っていない可能性があります。次の項目を増やすのを待ち、理由を聞いてから進めます。
Q3. 先輩社員の入力が続いていません
新人だけに入力を求めると、ルールが形だけになります。週次の確認は全員で行い、使っていない項目の見直しも全員の意見を聞いて進めます。
Q4. 入力を自動にできる部分はありますか
ポータルサイトの反響メールから氏名や物件名を取り込むなど、道具によっては自動で入る項目もあります。ただし、次回対応日や次にすることは人が判断する項目です。自動で入る部分が増えても、この2つは人が入れる前提で運用します。
Q5. 入力率は高いのに、記録が次の対応に役立っていません
「入力したかどうか」だけを見ていると、中身の薄い記録が増えることがあります。週次の確認で数件を読み、次回対応日と次にすることが具体的かを見ます。良い書き方の記録を1〜2件、例として共有するのも効果的な方法の一つです。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第17条、第18条、第21条、第22条、第23条、第24条、第27条)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第45条、第75条の3)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
