電子契約・IT重説 読了 14分

不動産会社のペーパーレス化|重要事項説明書・37条書面の電子化の要件と、書類保存・移行の進め方

2022年5月18日から、媒介契約書・重要事項説明書・37条書面は相手方の承諾を得て電子で提供できるようになりました。承諾の取り方、改変を確かめる措置、宅建士の記名、定期借家の事前説明、保存期間の決まりを条文で確かめ、ペーパーレス化の進め方を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
不動産会社のペーパーレス化|重説・契約書の電子化(宅建業法35条・37条)と書類保存
目次

不動産会社のペーパーレス化は、2022年5月18日の宅地建物取引業法の改正で、媒介契約書・重要事項説明書・37条書面を、相手方の承諾を得て電磁的方法で提供できるようになったことで、契約の書類まで対象にできるようになりました。ただし、承諾の取り方、改変されていないことを確かめられる措置、宅地建物取引士の記名など、紙にはなかった要件があります。この記事では、どの書類を電子にできるかを条文で整理し、保存期間の決まりと、紙を残すべき場面を含めた進め方を説明します。

電子にできる書類と根拠条文

不動産会社の書類は、大きく「相手に交付する法定書面」「社内の帳簿」「税務上保存する書類」に分かれます。法定書面は、法律に電磁的方法による提供の規定があるものだけが電子にできます。2026年10月時点で条文を確かめた範囲を整理します。

書類根拠電子にするための条件
媒介契約書宅地建物取引業法34条の2第11項依頼者の承諾
重要事項説明書(35条書面)宅地建物取引業法35条8項・9項説明の相手方などの承諾。宅地建物取引士の記名に代わる措置
契約締結時の書面(37条書面)宅地建物取引業法37条4項(売買・交換)・5項(貸借)当事者の承諾。宅地建物取引士の記名に代わる措置
定期建物賃貸借の契約借地借家法38条2項契約を電磁的記録でした場合は書面でしたものとみなす
定期建物賃貸借の事前説明の書面借地借家法38条4項建物の賃借人の承諾
管理受託契約の重要事項説明の書面賃貸住宅管理業法13条2項賃貸人の承諾
管理受託契約の締結時の書面賃貸住宅管理業法14条2項(13条2項を準用)委託者の承諾
宅建業法49条の帳簿宅地建物取引業法施行規則18条2項ファイルなどに記録し、必要に応じ事務所で紙面に表示できること
請求書・領収書などの税務書類電子帳簿保存法電子取引データの保存要件、またはスキャナ保存の要件

国土交通省の報道発表(2022年4月27日)によると、宅地建物取引業法の書面の電子化は2022年5月18日に施行されました。あわせて、宅地建物取引士の「記名押印」は「記名」に改められています。いまの35条5項・37条3項は、記名を求める書き方です。

宅建業法の書面を電子で提供するときの要件

国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和4年4月)は、次の点を求めています。

承諾を先に取る

電子で提供する前に、提供の方法(メールで送る、Webからダウンロードしてもらうなど)とファイルの形式を相手に示し、承諾を得ます。承諾の取り方は、書面(紙)を受け取る、メールなどで受け取る、Webページ上で取得する、CD-ROMやUSBメモリなどで受け取る、のいずれかです。メールなどで受け取る場合は、紙に出力できる形式で受け取る必要があります。

承諾した後でも、相手は電子での提供を拒むことができます。拒む申出があった場合は、電子で提供してはいけません。承諾を得るときに、この点もあわせて伝えておきます。

電子書面に求められること

  • 相手が出力することで、紙の書面を作れること
  • 電子書面が改変されていないかを確かめられる措置がとられていること(マニュアルでは電子署名やタイムスタンプが想定されています)
  • 35条・37条の書面には、宅地建物取引士の記名があること

電子署名には有効期間があるものがあります。マニュアルは、有効期間が過ぎた後の扱いを、あらかじめ相手と話し合っておくことが望ましいとしています。

相手の環境を確かめる

相手がPDFを開けるか、メールを受け取れるか、スマートフォンだけで読むのかを、事前に聞いておきます。重要事項説明書は図面や添付書類も多く、スマートフォンの画面だけでは読みにくいことがあります。紙と電子のどちらがよいか、相手が選べるようにしておくのが基本です。

IT重説との関係

電子で提供できるようになったのは、重要事項説明書の「交付」です。宅地建物取引士が説明する義務はそのまま残ります。対面で説明して書面を電子で渡す、オンラインで説明して書面を電子で渡す、どちらの組み合わせもあり得ます。

オンラインで説明する場合(IT重説)について、国土交通省のマニュアルは次の点を挙げています。

  • 映像を見ることができ、音声を聞き取ることができ、双方向でやり取りできる環境であること
  • 説明の前に、宅地建物取引士が記名した重要事項説明書と添付書類を相手に送っておくこと
  • 相手が書類を確認しながら説明を受けられる状態か、IT環境が整っているかを確かめること
  • 宅地建物取引士証を画面で示し、相手が見えたことを確かめること(氏名を読み上げてもらうなど)

売買のIT重説は、国土交通省の報道発表によると、2021年3月30日から本格運用されています。

定期借家と賃貸住宅管理業法の書面

定期建物賃貸借(借地借家法38条)

更新のない定期建物賃貸借は、書面(または電磁的記録)で契約することが条件です(38条1項・2項)。さらに貸主は、契約の前に、更新がなく期間の満了で終了することを書いた書面を交付して説明しなければなりません(38条3項)。この書面は、借主の承諾を得て電磁的方法で提供できます(38条4項)。

38条5項は、この説明をしなかったときは、更新がないとする定めを無効としています。電子にする場合も、事前の説明をしたこと、書面を提供したこと、承諾を得たことを、日時とともに記録に残しておきます。

管理受託契約(賃貸住宅管理業法13条・14条)

賃貸住宅管理業者がオーナーと管理受託契約を結ぶときの、契約前の重要事項説明の書面と、契約締結時の書面も、相手の承諾を得て電磁的方法で提供できます。オーナーが高齢で紙を希望する場合もあるため、相手ごとに承諾の有無を記録しておきます。

保存期間の決まり

紙を減らすときに先に確かめておきたいのが、法令で保存期間が決まっている帳簿と書類です。

対象保存期間根拠
宅建業法49条の帳簿各事業年度の末日で閉鎖し、閉鎖後5年間(自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)宅地建物取引業法施行規則18条3項
法人税の帳簿書類確定申告書の提出期限の翌日から7年間(欠損金が生じた事業年度などは10年間)国税庁タックスアンサーNo.5930
電子取引データ税法上の保存期間と同じ電子帳簿保存法7条

宅建業法の帳簿は、施行規則18条2項により、取引の年月日・所在・面積などの記載事項をファイルなどに記録し、必要に応じて事務所で紙に表示できれば、帳簿への記載に代えられます。

税務上の書類のうち、相手から紙で受け取った請求書や契約書は、スキャナ保存の要件を満たせば、データの保存で紙の保存に代えられます。要件は経費精算の効率化の記事で説明しています。メールなどで受け取った書類は、2024年1月1日以後はデータのまま保存する必要があります。

ペーパーレス化を進める手順

1. 書類を棚卸しする

受け取る書類、作る書類、相手に渡す書類に分け、それぞれ「根拠の法令」「保存期間」「今の保管場所」を一覧にします。この一覧があると、どこから電子にするかの順番が決めやすくなります。

2. 新しく発生する書類から電子にする

過去の書類をまとめてスキャンするのは手間がかかります。先に、これから作る書類(重要事項説明書、契約書、オーナーへの報告書など)と、これから受け取る書類(業者の請求書など)の流れを電子に切り替えます。過去の書類は、保存期間が残っているものだけを対象に、必要になったものから順に電子にする方法もあります。

3. 承諾の記録を残す

宅建業法、借地借家法、賃貸住宅管理業法の電子化は、どれも相手の承諾が前提です。誰から、いつ、どの方法で承諾を得たかを、案件ごとに残します。拒む申出があった場合も同じように記録します。

4. 保存のルールを決める

  • フォルダの分け方(物件ごと、契約ごと、年度ごと)
  • ファイル名の付け方(日付・物件名・書類の種類など)
  • 見られる人の範囲(入居者の個人情報を含む書類は、担当者と管理者に限るなど)
  • 訂正や削除をするときの手順と記録
  • バックアップの取り方と、復元できるかの確認

入居者やオーナーの個人情報を扱う書類は、個人情報保護法23条の安全管理措置の対象です。電子にすることで持ち出しやすくなる面もあるため、アクセス権限の設定は紙の鍵付きキャビネットと同じくらい慎重に考えます。

5. 電子契約・電子署名の仕組みを選ぶ

選ぶときは、改変されていないことを確かめられるか(電子署名やタイムスタンプ)、相手が紙に出力できる形式か、署名の有効期間はどうなっているか、解約後もデータを取り出せるか、を確かめます。

ウルスタくんでは、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種類の書類の作成と、電子サインに対応しています。どの仕組みを使う場合でも、承諾の取得と記録、宅地建物取引士の記名といった要件は、各社の手順として決めておく必要があります。

6. 社内の移行期間を決める

いきなり全部を切り替えず、1つの書類の流れ(たとえば業者からの請求書の受け取り)から始めて、問題を直してから次に広げます。電子と紙が混ざる期間は、どちらが正本かを書類ごとに決めておきます。

紙を残しておく場面

ペーパーレス化は、紙をゼロにすることが目的ではありません。次のような場面では、紙を使うほうが手続きとして確実です。

  • 相手が電子での提供を承諾しない、または承諾を撤回した場合
  • 相手がメールやPDFを扱えず、内容を理解したことを確かめにくい場合
  • 電子で提供する根拠の規定がない書類や、相手方から紙での提出を求められている書類
  • 停電や通信障害のときに、すぐに見る必要がある連絡先や鍵の管理表

災害時の連絡先一覧などは、電子を正本にしたうえで、紙の写しを決まった場所に置いておく運用も考えられます。その場合は、古い写しが残らないよう、更新したら差し替える手順を決めておきます。

このテーマの全体像は「不動産のIT重説 完全ガイド2026|国交省マニュアルの遵守事項と売買・賃貸の手順」にまとめています。

よくある質問

Q1. 重要事項説明書をメールで送れば、説明はしなくてよいですか?

いいえ。電子で提供できるのは書面の交付の部分で、宅地建物取引士による説明は必要です。オンラインで説明する場合は、国土交通省のマニュアルに沿って、書面の事前送付や宅地建物取引士証の提示などを行います。

Q2. 承諾はメールの返信でもよいですか?

国土交通省のマニュアルは、メールなどで承諾を受け取る方法を認めています。その場合、承諾した旨の記録を紙に出力できる形式で受け取る必要があります。提供の方法とファイル形式を先に示しておくことも必要です。

Q3. 宅地建物取引士の押印は必要ですか?

2022年5月18日の施行で、35条・37条の書面は「記名押印」から「記名」に改められました。電子書面でも、宅地建物取引士の記名が必要です。

Q4. 定期借家の事前説明の書面も電子で渡せますか?

借地借家法38条4項により、借主の承諾を得れば電磁的方法で提供できます。説明をしなかった場合は更新がないとする定めが無効になる(38条5項)ため、説明と提供、承諾の記録を残してください。

Q5. 過去の契約書の紙は捨ててよいですか?

書類によって決まりが違います。税務上の書類は、スキャナ保存の要件を満たせば紙の保存に代えられます。宅建業法の帳簿は保存期間が決まっています。契約の当事者間で争いになったときに原本が必要になることも考えられるため、契約中の物件の契約書は、紙を捨てる前に顧問の専門家に確認することをおすすめします。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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