内見・申込・追客の情報が別々の場所にあると、連絡の重複や漏れが起きるだけでなく、契約が成立するまでに行う重要事項説明(宅建業法35条)の準備が遅れたり、個人情報の所在が分からなくなったりします。この記事では、情報が分かれたときに起きることを整理し、お客様1人につき1つの記録にまとめる手順を、宅建業法と個人情報保護法の確認事項とあわせて説明します。
情報が分かれている状態とは
賃貸の仲介では、1人のお客様について、次のような情報が別々の場所に置かれがちです。
- 内見の予約:電話のメモ、担当者の手帳、共有のカレンダー
- 申込み:紙の申込書、ファクス、申込みを受け付けるウェブの仕組み
- 追客の連絡:担当者のメール、メッセージアプリ、電話の履歴
- 審査や契約の進み具合:保証会社や管理会社とのやり取り、オーナーとのやり取り
どれも、それぞれの場面では便利な道具です。問題は、1人のお客様の今の状況を知るために、複数の場所を見たり、担当者に聞いたりしなければならないことです。担当者が1人で全部を覚えているうちは回りますが、担当が休んだり、問い合わせが重なったりしたときに、どこかで抜けが出ます。
情報が分かれると起きること
連絡の重複と漏れ
内見の予約をした担当と、追客の連絡をしている担当が別だと、同じお客様に2人が連絡したり、逆に誰も連絡しなかったりします。お客様から見ると、同じ質問を何度もされる、返事が来ない、という体験になります。
申込み後の状況が見えない
申込書を受け取ったあと、審査の結果待ちなのか、オーナーの承諾待ちなのか、お客様に追加の書類を頼んでいるのかが記録に残っていないと、お客様からの問い合わせに答えられません。審査が通ったあとの契約日の調整も遅れます。
重要事項説明の準備が遅れる
重要事項説明書は、物件の調査結果と、賃料以外に授受される金銭、契約の解除などの条件をもとに作ります。条件のやり取りが担当者のメールに埋もれていると、説明書を作る人が最新の条件を拾えず、作り直しや確認の手間が増えます。
個人情報の所在が分からなくなる
申込書の写し、本人確認の書類の写し、勤務先の情報などが、メール、紙、個人の端末に散らばると、誰が何を持っているかが分からなくなります。漏えいがあっても気づきにくく、見送りになったお客様の情報を消す時期も決められません。
見送りの理由が残らない
内見のあとに連絡が途絶えたのか、申込みのあとに他社で決めたのかが分からないと、物件の選び方や対応のどこを直せばよいかが見えません。
重要事項説明の時期と、そこまでに必要な情報
宅建業法35条1項は、宅地建物取引業者は、建物を借りようとしている者などに対し、その契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、法令で定める事項について書面を交付して説明をさせなければならないと定めています。説明をするときは、宅地建物取引士証を提示しなければなりません(同条4項)。相手方の承諾を得て、書面の交付に代えて電磁的方法で提供することもできます(同条8項)。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、物件に直接関係する事項は現場で説明することが望ましいとしたうえで、その場合でも、説明を受ける者が重要事項全体を十分把握できるよう、契約の締結までの間に改めて宅地建物取引士が重要事項全体の説明をすることとしています。
35条1項が定める事項には、建物の貸借でも関係する次のようなものがあります。
- 借賃以外に授受される金銭の額及びその授受の目的(7号)
- 契約の解除に関する事項(8号)
- 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項(9号)
- 支払金又は預り金を受領しようとする場合の保全措置を講ずるかどうか等(11号)
これらの条件は、内見から申込みまでのやり取りの中で決まっていくことが多い項目です。条件の交渉(礼金の有無、フリーレントの有無、入居日など)を担当者のメールだけで行っていると、説明書を作る段階で最新の条件が分かりません。条件が決まるたびに、お客様の記録に「決まった条件」として残しておくと、説明書の作成と、説明の日程の調整が早くなります。
また、契約が成立したときは、宅建業法37条2項により、当事者に契約の内容を記載した書面を交付する必要があります(承諾を得て電磁的方法で提供することもできます。同条5項)。重要事項説明の記録と契約書面の交付の記録も、同じお客様の記録に残しておくと、交付の漏れに気づけます。
申込みの撤回と預り金
申込みのときに申込金などの名目で金銭を預かる場合があります。宅建業法施行規則16条の11第2号は、宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むことを、禁止される行為として定めています(宅建業法47条の2第3項)。
預り金の受領と返還は、申込みの記録とお金の記録が分かれていると、返還の漏れや遅れが起きやすい部分です。次の点を同じ記録に残しておきます。
- 預かった日、金額、名目、受け取った担当
- 預かるときに、撤回の場合の扱いをどう説明したか
- 撤回の申出があった日と、返還した日
申込書の個人情報の扱い
利用目的を明示する
個人情報保護法21条2項は、契約の締結に伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む)に記載された本人の個人情報を取得する場合や、本人から直接書面に記載された個人情報を取得する場合は、あらかじめ本人に利用目的を明示しなければならないとしています。入居申込書は、この場面に当たります。申込書の様式に利用目的を書いておくか、利用目的を示した書面を渡す手順にしておきます。
オーナーや保証会社に渡すとき
個人情報保護法27条1項は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。審査のために、申込書の情報をオーナー、管理会社、保証会社に渡すことが多いため、誰に何のために渡すかを申込書で示し、同意を得る手順にしておきます。
保管と消去
23条は、個人データの漏えい等の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを求め、22条は、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることを求めています。申込書や本人確認書類の写しを、担当者のメールや個人の端末に残さず、決めた場所にまとめて保管すれば、見送りになったお客様の情報を消す作業も行いやすくなります。
宅建業法45条は、宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないと定めています。申込みの情報は、この点からも保管の場所と見られる人を決めておく必要があります。
情報を1つにまとめる手順
次の手順は、新しい仕組みを入れる前でも、今の道具の使い方を変えることで始められる順に並べています。
手順1:お客様1人につき記録を1つにする
内見、申込み、追客の情報を、お客様ごとの1つの記録にぶら下げる形にします。問い合わせの経路が違っても同じお客様なら同じ記録にまとめ、重複を見つけたら1つにします。
手順2:状態を1本の流れで定義する
「問い合わせ」「内見の予定あり」「内見済み」「申込み済み(審査中)」「審査完了」「重要事項説明済み」「契約済み」「鍵の引渡し済み」「見送り」のように、内見から契約までを1本の流れにします。状態ごとに、入る条件を文章で決めます。
手順3:担当と次の行動と期限を入れる
状態が変わるたびに、次の行動と期限、担当を書き換えます。内見の担当と申込み後の担当が違う会社では、引き継ぐ時点で担当の欄を書き換え、引継ぎのメモを残します。
手順4:書類と金銭の記録を同じ記録に結びつける
申込書、本人確認書類、重要事項説明書、契約書の置き場所と、預り金の受領と返還の記録を、お客様の記録から辿れるようにします。書類そのものを1か所に置けない場合でも、「どこにあるか」を記録に書いておきます。
手順5:個人の端末での連絡のルールを決める
担当者の個人のスマートフォンやメールだけでやり取りすると、記録が残りません。会社の連絡手段を使うか、個人の手段を使った場合は要点を記録に転記する、といったルールを決めます。
手順6:週に1度、止まっているお客様を確かめる
状態が長く変わっていないお客様、次の行動の期限を過ぎているお客様を、週に1度一覧で確かめます。申込み済みのまま審査の結果が記録されていない、審査完了のまま重要事項説明の日程が決まっていない、といった止まり方は、情報が分かれていた頃には見えなかったものです。止まっている理由を担当に確かめ、次の行動を入れ直します。
見送りになったお客様は、理由を選択肢で残します。内見のあとに見送った、申込みのあとに撤回した、連絡がつかない、などの理由を月ごとに見返すと、物件の選び方や対応の見直しに使えます。
ウルスタくんでは、顧客管理と物件・入居者の管理、賃貸借契約書や重要事項説明書などの書類と電子サインを、同じデータからつなげて扱えます。ただ、どの道具を使う場合も、状態の定義と書き換えのルールを先に決めておかないと、情報はまた分かれていきます。
段階ごとの記録と確認の表
| 段階 | 記録すること | 法令上の確認 |
|---|---|---|
| 問い合わせ | 経路、希望の条件、連絡の手段、次の行動と期限 | 利用目的の公表又は通知(個人情報保護法21条1項) |
| 内見 | 日時、案内した担当、見た物件、お客様の反応と質問 | 広告と現況が合っているか |
| 申込み | 申込書の受領日、決まった条件、預り金の有無 | 利用目的の明示(同法21条2項)、第三者提供の同意(同法27条1項) |
| 審査 | 提出先、結果、追加の書類の依頼 | 提供先と提供した情報の記録 |
| 重要事項説明 | 説明日、説明した宅地建物取引士、交付の方法 | 契約が成立するまでの間に説明(宅建業法35条1項)、宅建士証の提示(同条4項)、電磁的方法は承諾(同条8項) |
| 契約 | 契約日、契約書面の交付日と方法 | 契約書面の交付(同法37条2項・5項) |
| 見送り・撤回 | 理由、預り金の返還日、情報の保存期限 | 預り金の返還(規則16条の11第2号)、消去の努力(個人情報保護法22条) |
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 内見のときに重要事項の一部を説明すれば、後の説明は省けますか。
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、現場で説明することが望ましい事項があるとしつつ、その場合でも契約の締結までの間に改めて宅地建物取引士が重要事項全体の説明をすることとしています。現場での説明は、全体の説明に代わるものではありません。
Q2. 申込書の情報を保証会社に渡すのに、毎回同意が要りますか。
個人情報保護法27条1項により、法令に基づく場合などを除き、第三者に個人データを提供するには、あらかじめ本人の同意が必要です。申込書に提供先と目的を書き、署名などで同意を得る形にしておくと、手続の中で同意を得られます。個別の扱いは個人情報保護委員会のガイドラインで確かめてください。
Q3. 担当者が自分の携帯でお客様と連絡を取っています。やめさせるべきですか。
一律に禁止するかどうかは会社の判断ですが、記録が会社に残らないこと、退職や異動のときに情報が個人の端末に残ることは問題になります。会社の連絡手段を用意するか、個人の手段を使う場合の転記と削除のルールを決めておきます。
Q4. 情報をまとめるのに、まず何から始めればよいですか。
お客様1人につき記録を1つにすることと、状態の定義を決めることから始めます。この2つが決まると、どの情報をどこに残すかが自然に決まります。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第35条・第37条・第45条・第47条の2)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第21条・第22条・第23条・第27条)
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和7年4月1日施行版、第35条第1項関係)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
