反響への初回返信は、受付時間の内と外で目安を分けて社内で決め、実際の返信時間を記録して毎月見直すのが現実的です。「何分以内に返せば成約が増える」と言い切れる公的なデータは見当たりません。この記事では、目安の決め方、計算の式、初回返信に入れる内容、夜間・休日の体制、電話やメールで守る法令(宅建業法施行規則16条の11、特定電子メール法、個人情報保護法)を順に整理します。
反響対応SLAとは何か
SLAは、もともとサービスの提供者と利用者の間で品質の水準を決める約束のことです。反響対応で使うときは、「問い合わせを受けてから、誰が、いつまでに、何を返すか」を社内で決めたルールを指します。
小さな会社ほど、返信の速さは担当者の頑張りに左右されます。忙しい日や担当者が休みの日に返信が遅れ、気づいたときには他社で決まっていた、ということも起きます。SLAを文字にしておくと、遅れたときに個人を責めるのではなく、仕組みのどこに穴があったのかを話せるようになります。
決めておく6つのこと
- 対象にする反響の入口(ポータルサイト、自社サイトのフォーム、電話、LINEなど)
- 受付時間の区分(営業時間内、営業時間外、定休日)
- 区分ごとの初回返信の目安
- 最初に対応する人と、その人が不在のときの代わりの人
- 初回返信に入れる内容
- 記録の取り方と、見直しの頻度
初回返信の目安の決め方
目安の時間は、会社の人数と受付時間で決まります。大事なのは、守れる数字にすることです。守れない目安を掲げると、すぐに形だけのルールになります。
次の表は、少人数の会社を想定した目安の例です。数字は考え方を示すための例で、効果を保証するものではありません。
| 区分 | 目安の例 | 初回返信の内容 |
|---|---|---|
| 営業時間内(担当者が席にいる) | 受付から30分以内 | 空き状況と聞かれたことへの回答、確認の質問 |
| 営業時間内(接客や内見で手が離せない) | 受付から1時間以内 | 受付の連絡と、詳しく回答する時刻の約束 |
| 営業時間外(夜間) | 翌営業日の始業から1時間以内 | 受付時は自動返信。翌朝に本返信 |
| 定休日 | 休み明けの始業から2時間以内 | 自動返信で休業日と返信予定日を知らせる |
目安を決める手順
- 過去1〜2か月の反響について、受付日時と初回返信日時の2つだけを書き出します。
- 営業時間の内と外に分け、それぞれ返信までにかかった時間の中央値を出します。
- 今の中央値より少し短い時間を、最初の目安にします。
- 1か月運用して、目安を守れた割合を見ます。守れていれば少し縮め、守れていなければ体制か目安を見直します。
平均ではなく中央値を使うのは、週明けにまとめて返した数件が平均を大きく引き上げるからです。平均と中央値を並べておくと、遅れが一部に集中しているのか、全体が遅いのかが分かります。
返信時間とSLA達成率の計算方法
使う式は次の3つです。
- 初回返信時間 = 初回返信の日時 − 反響の受付日時
- SLA達成率 = 目安の時間内に初回返信できた件数 ÷ 対象にした反響の件数
- 未返信件数 = 受付から目安の時間を過ぎても返信していない件数(毎日確認します)
営業時間外の反響は、時計どおりに数えると返信時間が長く見えます。「営業時間内の時間だけで数える」か「受付から実際の経過時間で数える」かを先に決め、途中で変えないようにします。数え方を変えると、前の月と比べられなくなります。
仮の数字で計算例を示します
ある月の反響が40件で、そのうち営業時間内が24件、営業時間外が16件だったとします。営業時間内の24件のうち、目安の30分以内に返信できたのが18件なら、営業時間内のSLA達成率は18 ÷ 24 = 75%です。営業時間外の16件のうち、翌営業日の始業から1時間以内に返信できたのが12件なら、12 ÷ 16 = 75%です。全体では(18 + 12)÷ 40 = 75%になります。
ここで見るべきなのは、目安を外れた10件の中身です。接客中に入った反響なのか、受信箱を見ていなかったのか、空き確認に時間がかかったのか。理由ごとに数えると、直す場所が見えてきます。
初回返信に入れる内容
速く返しても、聞かれたことに答えていなければ、お客様はもう一度問い合わせる手間がかかります。初回返信には次の4つを入れると、次のやり取りにつながりやすくなります。
- 名乗り:会社名と担当者の名前
- 問い合わせへの答え:空き状況、家賃や初期費用の内訳など、聞かれたこと。確認中のことは「何時までに確認して連絡します」と書きます。
- 確認の質問:入居したい時期、ゆずれない条件、内見の希望日。質問は2〜3つに絞ります。
- 次の連絡方法:電話、メール、LINEのどれがよいか、連絡してよい時間帯
文面の例
〇〇様
お問い合わせを拝見しました。〇〇不動産の担当、△△です。
□□マンション203号室は、本日時点で募集中です。
ご案内を進めるため、3点だけ教えてください。
1. ご入居の希望時期
2. 家賃以外にゆずれない条件(駅からの距離、ペットなど)
3. 内見のご希望日と、連絡のつきやすい時間帯
お電話がよろしければ、ご都合のよい時間をお知らせください。
空き状況は、返信の前に管理会社や元付業者に確認します。宅建業法32条は、広告で著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示を禁じています。募集が終わった物件の広告を出し続けることはこの条文との関係で問題になり得るため、広告と返信の内容をそろえるためにも、空き確認を返信の前に置きます。
夜間・休日の体制と自動返信
少人数の会社で、夜間や休日も人がすぐ答える体制を続けるのは負担が大きくなります。現実的なのは、受付時の自動返信と、翌営業日の始業直後の本返信を組み合わせる形です。
自動返信に書くこと
- 問い合わせを受け付けたこと
- 今が営業時間外であることと、返信する予定の日時
- 急ぎの場合の連絡先(用意している場合)
- 入居時期や内見の希望日など、先に書いてもらえると返信が早くなる情報
自動返信で空き状況まで断言するのは避けます。夜間や休日に他社で申込みが入ることもあるため、「確認のうえ連絡します」としておくほうが安全です。
休日の当番を置くとき
休日に当番を置く場合は、当番の時間帯、連絡のつく手段、当番が対応してよい範囲(空き確認と内見日程の仮押さえまで、など)を決めておきます。当番が一部の人に偏らないよう、順番を表にして共有します。当番を置かない日は、自動返信に返信予定日をはっきり書くほうが、お客様にとって分かりやすくなります。
電話をかける時間と勧誘のルール
宅建業法47条の2第3項と、宅建業法施行規則16条の11第1号は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするときにしてはいけない行為を定めています。建物の貸借の媒介も宅地建物取引業に含まれるため(宅建業法2条2号)、反響後の電話やメッセージでも意識しておく必要があります。反響対応に関係が深いのは次の5つです。
| 規則16条の11第1号 | 禁止されている行為(条文の要旨) | 反響対応での注意 |
|---|---|---|
| ロ | 正当な理由なく、契約するかどうかを判断するのに必要な時間を与えることを拒む | 「今日中に決めないと無理です」と迫らない |
| ハ | 勧誘の前に、業者の商号または名称、勧誘する人の氏名、勧誘が目的であることを告げずに勧誘する | 電話の最初に会社名と名前、用件を言う |
| ニ | 契約しない意思や、勧誘を続けてほしくない意思が示されたのに勧誘を続ける | 「他で決めた」「連絡は不要」と言われたら記録して止める |
| ホ | 迷惑を覚えさせるような時間に電話し、または訪問する | 夜間や早朝の電話を避ける |
| ヘ | 深夜または長時間の勧誘など、私生活や業務の平穏を害する方法で困惑させる | 長電話や繰り返しの電話を避ける |
「迷惑を覚えさせるような時間」について、大阪府のページは、相手の職業や生活習慣などに応じて個別に判断されるとしたうえで、一般的には午後9時から午前8時までの時間帯が該当すると考えられる、と説明しています。お客様から「夜10時なら電話に出られます」と指定があった場合は、その指定を顧客の記録に残しておくと、後から経緯を説明できます。
反響への返信は、速さを求めるあまり押しの強い連絡になりがちです。SLAで決めるのは「最初の連絡を遅らせない」ことであり、「何度も連絡する」ことではありません。2つを分けて考えると、法令の線を越えにくくなります。
メール配信と個人情報の扱い
特定電子メール法
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)は、営利を目的とする団体や営業を営む個人が、広告や宣伝の手段として送る電子メールを「特定電子メール」と定めています(2条2号)。3条1項は、あらかじめ送信を求めたり同意したりした人などを除いて、特定電子メールを送ってはならないとしています。いわゆるオプトイン方式です。総務省の迷惑メール対策のページも、広告・宣伝メールを送る場合は原則として法の規制対象になると説明しています。
個別の問い合わせへの返信と、新着物件の一斉配信は、分けて考えるのが安全です。新着物件の案内を定期的に送るなら、反響フォームに「新着物件のお知らせを受け取る」の確認欄を設けて同意をもらいます。同意を受けた事業者は、同意があったことを証する記録を保存する必要があります(3条2項)。配信メールには送信者の名称と、配信停止を受け付けるメールアドレスなどを表示し(4条)、停止の求めがあれば送らないようにします(3条3項)。
個人情報保護法
反響で受け取る氏名、電話番号、メールアドレスは個人情報です。個人情報保護法17条1項は利用目的をできる限り特定することを、21条1項は取得したときに利用目的を本人に通知するか公表すること(あらかじめ公表している場合を除く)を求めています。反響フォームの近くにプライバシーポリシーへのリンクを置き、「お問い合わせへの回答、物件のご紹介」など利用目的を書いておきます。
特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて使うには、原則として本人の同意が必要です(18条1項)。問い合わせのために預かったメールアドレスを、別の事業の宣伝に回すことは避けます。
少人数でSLAを回す体制
- 受信箱を1つにまとめる:ポータルサイトの通知先を、個人のアドレスではなく共有のアドレスにします。
- 一次対応と本対応を分ける:手の空いている人が受付の連絡だけ先に返し、物件に詳しい人が本返信をします。
- 未返信の一覧を1日2回見る:始業時と昼過ぎなど、見る時刻を決めておきます。
- 見直しは月1回:目安を外れた反響の理由を数え、ルールを1つだけ直します。
1人で営業している会社は、営業時間内の目安を長めにとり、そのかわり自動返信で返信予定をはっきり書くほうが続けやすくなります。
SLA達成率を個人の評価に直結させると、受付の連絡だけ早く返して中身を後回しにするなど、数字合わせが起きることがあります。達成率は仕組みを直すための材料として使い、個人の評価とは切り離すほうが現場の理解を得やすいと考えます。
記録をどこに残すか
返信時間を計算するには、受付日時、初回返信日時、担当者、次の連絡予定を1か所に残す必要があります。表計算ソフトでも始められます。ウルスタくんの顧客管理でも、問い合わせのあったお客様と対応の履歴をまとめて残せます。どの道具を使う場合も、入力する項目を最小限にすることが続けるための前提です。
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 1人で営業している会社でもSLAを決めたほうがよいですか
決めておくと役に立ちます。1人の場合は「営業時間内は2時間以内、営業時間外は翌営業日の午前中」のように長めの目安にし、自動返信で返信予定を知らせる形が続けやすいです。目安の数字より、毎月記録を見直すことのほうが大切です。
Q2. お客様から夜に電話してほしいと言われたら、かけてもよいですか
迷惑を覚えさせるような時間かどうかは、相手の生活習慣などに応じて個別に判断されます。お客様自身が時間を指定した場合は、その指定と日時を顧客の記録に残してから連絡すると、後から経緯を説明できます。
Q3. 夜間は自動返信だけで済ませてもよいですか
自動返信は「受け付けたこと」と「いつ返信するか」を知らせるためのものです。空き状況や条件への回答は、翌営業日に人が確認してから返します。自動返信を本返信の代わりにしないことが大切です。
Q4. 問い合わせたお客様全員に新着物件のメールを送ってよいですか
新着物件の一斉配信は、広告・宣伝のためのメールとして特定電子メール法の対象になり得ます。配信を受け取ることへの同意をもらい、その記録を残し、配信停止の方法を表示するのが基本です。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第2条、第32条、第47条の2)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11)
- 大阪府「宅地建物取引業法施行規則の一部が改正され、『禁止される勧誘行為』が明文化されました」
- e-Gov法令検索「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(第2条、第3条、第4条)
- 総務省「迷惑メール対策」
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第17条、第18条、第21条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
