賃貸契約の更新トラブルを防ぐ要点は、借地借家法の「期間満了の1年前から6か月前まで」という通知期間を起点に予定を組み、更新料・賃料改定・保証人などの条件を契約書と書面の記録で確かめておくことです。普通借家では、オーナーが更新を断るには正当事由が要り、通知をしなければ同じ条件で更新したものとみなされます。この記事では、法令と判例、国土交通省の標準契約書をもとに、更新の前に確かめる事項を整理します。
普通借家の更新のしくみ(借地借家法26条〜30条)
期間の定めがある建物の賃貸借(普通借家)の更新は、借地借家法第26条から第30条で決まっています。更新トラブルの多くは、この条文の理解の違いから始まります。
| 条文 | 定めていること | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 第26条第1項 | 期間満了の1年前から6か月前までに、更新しない旨または条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかったときは、従前と同一の条件で更新したものとみなす。その期間は定めがないものとなる | 通知の期限を過ぎると、同じ条件で自動的に更新される(法定更新) |
| 第26条第2項 | 通知をしても、期間満了後に借主が使い続け、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときも同様 | 満了後の使用継続を放置すると更新したものとみなされる |
| 第27条 | 貸主が解約の申入れをしたときは、申入れの日から6か月を経過すると終了する | 法定更新後の「期間の定めがない」契約にも関係する |
| 第28条 | 貸主からの更新拒絶の通知や解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければできない | オーナーの都合だけでは更新を断れない |
| 第29条 | 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない賃貸借とみなす | 短い期間を設定しても更新の規律から外れない |
| 第30条 | この節の規定に反する特約で借主に不利なものは無効 | 契約書に書いても借主に不利な特約は効力がない |
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)第2条第2項は「甲及び乙は、協議の上、本契約を更新することができる。」と定めています。話し合って更新するのが合意更新、話し合いがまとまらず、通知もなく期間が過ぎて更新されるのが法定更新です。法定更新では契約期間の定めがなくなるので、次の更新時期という区切りがなくなる点を、オーナーに事前に説明しておきます。
期間満了から逆算して予定を組む
借地借家法第26条の通知期間は「期間満了の1年前から6か月前まで」です。オーナーが条件の変更を求めたい場合や更新を断りたい場合は、この期間に通知しないと、従前と同一の条件での更新になります。そこで、更新の準備は期間満了の1年以上前から始めるのが安全です。次は予定の組み方の例です。
| 時期の目安 | やること |
|---|---|
| 満了の1年前より前 | 更新を迎える契約の一覧を作り、契約書の更新条項・更新料・特約を読み直す |
| 満了の1年前まで | オーナーに、更新・条件変更・更新拒絶のどれを希望するかを確かめ、書面で記録する |
| 満了の1年前から6か月前まで | 条件変更や更新拒絶をする場合は、この期間内に、到達の日付が残る方法で借主に通知する |
| 通知後から満了まで | 更新の案内と合意書を送り、連絡先・同居人・保証の状況を確かめる |
| 満了後 | 合意できていない場合は、法定更新になったのか、異議を述べるのかをオーナーと決める |
管理会社が更新業務を受けている場合、国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」第14条では、賃貸借契約の更新は管理会社が委託者を代理する業務の1つですが、実施する場合には内容について事前に委託者と協議し、承諾を求めることになっています。オーナーの意向確認を書面で残しておくことは、この手順にも合います。
オーナーが更新を断りたいとき
建替えや売却、自己使用などの理由でオーナーが更新を断りたいときは、借地借家法第28条の正当事由が要ります。同条は、次の事情を考慮して正当の事由があると認められる場合でなければ、更新拒絶の通知も解約の申入れもできないと定めています。
- 貸主と借主(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況と建物の現況
- 貸主が明渡しの条件として、または明渡しと引換えに、借主に財産上の給付をする旨の申出(いわゆる立退料)
正当事由があるかどうかは、これらの事情を総合して判断されます。立退料の額に決まった目安はないので、見込みの金額を軽く口にすることは避け、オーナーに弁護士への相談を勧めます。通知の期限(満了の1年前から6か月前まで)を過ぎないよう、予定は早めに組みます。
将来の建替えや売却が決まっている物件で新しく貸す場合は、定期建物賃貸借(定期借家)を使う方法もあります。借地借家法第38条では、公正証書による等書面(または電磁的記録)で契約し、契約の前に、更新がなく期間の満了で終了することを記載した書面を交付して説明すること、期間が1年以上の場合は満了の1年前から6か月前までに終了の通知をすることが定められています。手順の詳しい解説は定期借家契約書の解説にまとめています。
更新料は「一義的かつ具体的」に書いて合意する
更新料については、最高裁判所第二小法廷の平成23年7月15日判決があります。公益社団法人全日本不動産協会の解説によると、最高裁は、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、更新料の支払について明確な合意が成立している場合には、更新料の額が賃料の額や更新される期間に照らして高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条にいう消費者の利益を一方的に害するものには当たらないと判断しました。この事案の更新料は、1年ごとに賃料の2か月分強程度でした。
消費者契約法第10条は、法令の任意規定の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする規定です。判決の考え方からすると、更新料を受け取るなら、契約書の書き方と合意の記録が要になります。
なお、国土交通省の標準契約書(平成30年3月版)の本文には、更新料の定めがありません。更新料を受け取る契約では、特約などで別に定めることになります。確かめる点は次のとおりです。
- 更新料の金額(または計算方法)と支払時期が、契約書に具体的に書かれているか
- 重要事項説明や契約時の説明で、更新料について説明した記録があるか
- 法定更新になった場合の扱いも含めて、条項の文言が読み違えられない書き方になっているか
- 賃料と更新期間に照らして、高額に過ぎると言われるおそれがないか
賃料の増額・減額を求めるとき
更新を機に賃料を見直したいという相談は、オーナーからも借主からもあります。借地借家法第32条第1項は、土地や建物の租税その他の負担の増減、土地や建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料との比較によって賃料が不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって増減を請求できると定めています。ただし、一定の期間増額しない旨の特約がある場合は、その定めに従います。
話し合いがまとまらないときの扱いも条文にあります。増額の請求を受けた借主は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額を払えば足ります(同条第2項)。裁判で不足額が確定したときは、年1割の利息を付けて支払います。減額の請求では逆に、貸主は相当と認める額の支払を請求でき、超えて受け取った額は年1割の利息を付けて返します(同条第3項)。また、民事調停法第24条の2により、賃料の増減の請求に関する事件で訴えを起こそうとする人は、まず調停を申し立てることになっています。
標準契約書(平成30年3月版)第4条第3項も、租税その他の負担の増減、経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料との比較によって賃料が不相当となった場合に、協議の上で改定できると定めています。条件を変える場合は、借地借家法第26条の通知期間にあわせて、改定の理由を示す資料(周辺の募集賃料、固定資産税などの負担の推移など)を用意して協議します。
連帯保証人について更新時に確かめること
個人の連帯保証人がいる契約では、更新の機会に保証の状況を確かめます。民法第465条の2では、個人が保証人となる根保証契約は、極度額(保証する上限の額)を定めなければ効力を生じません。標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)第17条第2項も、連帯保証人の負担は頭書と記名押印欄に記載する極度額を限度とすると定めています。
また、民法第465条の4第1項第3号により、主たる債務者または保証人が死亡したときは、個人根保証契約の元本が確定します。元本が確定すると、その後に生じた債務は保証の対象になりません。更新の案内を送るときに、保証人の連絡先と状況を確かめ、変わっていれば新しい保証人や家賃債務保証業者の利用をオーナーと相談します。
同居人の変更と原状回復の記録
標準契約書(平成30年3月版)では、頭書に同居人の氏名と人数を書き、第8条第5項と別表第3で、同居人に新たな同居人を追加すること(出生を除く)は貸主への通知が必要な行為とされています。更新の案内とあわせて、入居者の構成や緊急連絡先に変更がないかを確かめると、契約内容と実態のずれを早く見つけられます。
更新によって敷金の返還が生じるわけではありません。民法第622条の2では、敷金は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、未払の債務の額を差し引いて返すものとされています。退去時の負担区分を考えるときは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)を参照します。ガイドラインには「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」の様式があり、入居時の状態を記録しておくことが退去時の話し合いの土台になります。退去精算の流れは原状回復・退去精算の実務で解説しています。
更新業務の記録を一か所にまとめる
更新のトラブルを防ぐには、通知の日付、オーナーの意向、借主とのやりとり、合意書を、契約ごとに一か所で確かめられる状態にしておくことが役に立ちます。ウルスタくんには、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、賃貸借契約書などの書類作成と電子サインの機能があります。期間満了の1年以上前から対象の契約を把握し、通知の期限を過ぎないための確認に使えます。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 更新の手続きをしないまま期間が過ぎたらどうなりますか。
借地借家法第26条により、期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨などの通知をしていなければ、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされ、期間の定めがない契約になります(法定更新)。
Q2. オーナーが自分で住みたいので、更新を断れますか。
借地借家法第28条の正当事由が要ります。双方が建物を必要とする事情、従前の経過、建物の利用状況と現況、立退料などの申出を考慮して判断されます。期限内の通知が前提なので、早めに弁護士に相談してください。
Q3. 更新料は請求してよいのですか。
最高裁平成23年7月15日判決は、契約書に一義的かつ具体的に記載され、明確な合意がある更新料条項は、高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条により無効とはならないと判断しました。契約書の書き方と説明の記録が大切です。
Q4. 借主から家賃を下げてほしいと言われました。
借地借家法第32条で、借主も減額を請求できます。話し合いがまとまらない場合、貸主は裁判が確定するまで相当と認める額の支払を請求でき、訴えの前には調停の申立てが必要です(民事調停法第24条の2)。周辺の賃料などの資料をそろえて協議します。
Q5. 連帯保証人が亡くなっていました。
民法第465条の4第1項第3号により、保証人が死亡すると個人根保証契約の元本が確定し、その後の債務は保証の対象になりません。新しい保証人や家賃債務保証業者の利用を、オーナーと借主で相談します。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「借地借家法」第26条〜第30条、第32条、第38条
- e-Gov法令検索「消費者契約法」第10条
- e-Gov法令検索「民法」第465条の2、第465条の4、第622条の2
- 日本法令外国語訳データベース「民事調停法」第24条の2
- 公益社団法人全日本不動産協会「更新料に関する最高裁判決」
- 国土交通省「民法改正等を踏まえ『賃貸住宅標準契約書』等を改定しました」(平成30年3月30日)
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。