賃貸管理 読了 13分

修繕費のオーナー説明|見積の取り方・比べ方・承認の手順を、民法・標準管理受託契約書・建設業法に沿って整理

修繕費の説明は、誰が負担する修繕か、見積をどう取って比べたか、契約で決めた承認の手順を守っているかの3点を書面で示すのが基本です。民法、標準管理受託契約書、建設業法の条文に沿って、見積の依頼から承認・定期報告までを整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
修繕費のオーナー説明|見積の取り方・比較・承認の手順と根拠になる法令
目次

修繕費をオーナーに説明するときは、誰が負担する修繕か、見積をどう取って比べたか、管理受託契約で決めた承認の手順を守っているか、の3点を書面で示すことが基本です。根拠になるのは、民法606条・621条、国土交通省の原状回復ガイドライン、賃貸住宅標準管理受託契約書、建設業法19条・20条です。条文と公的資料に沿って、見積の取り方から比較、承認、報告までを整理します。

最初に整理する「誰が負担する修繕か」

オーナーが修繕費の説明で最初に気にするのは、「なぜ自分が払うのか」です。ここがあいまいなまま金額の話に入ると、見積の比較まで話が進みません。最初に、法律と契約で負担がどう決まっているかを示します。

入居中の修繕は、原則として貸主の負担

民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」と定めています。ただし、「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」とされています。国土交通省の賃貸住宅標準契約書9条1項も、借主の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は借主、その他は貸主が費用を負担すると定めています。

退去時の原状回復は、通常の損耗と経年変化を除く

民法621条は、賃借人が原状回復義務を負う損傷から、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除いています。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。

修繕の種類主な根拠負担の基本
入居中の経年劣化・通常損耗による修繕民法606条1項、標準契約書9条1項貸主(オーナー)
入居者の責めに帰すべき事由による修繕民法606条1項ただし書、標準契約書9条1項入居者
退去時の原状回復民法621条、原状回復ガイドライン通常損耗・経年変化を除き入居者。経過年数を考慮
入居者が自ら行える軽微な修繕標準契約書9条5項・別表第4契約の定めによる(電球の交換など)
共用部分や建物全体の維持民法606条1項貸主(オーナー)

説明資料では、この表のどれに当たるかを1行で書きます。入居者負担の可能性がある場合は、入居時の記録や写真と合わせて示し、オーナーと入居者のどちらに請求するかを先に決めます。

管理受託契約で決める承認のルール

管理会社が修繕を手配するときは、オーナーとの管理受託契約で決めた手順に従います。国土交通省が公表している「賃貸住宅標準管理受託契約書」には、修繕費に関係する次の条項があります。

  • 5条(管理業務に要する費用):委託者は、報酬のほか、頭書の記載に従い、管理業務の実施に伴い必要となる費用を負担します。費用は、明細を示した請求書で請求する形です。
  • 6条(乙が立て替えた費用の償還):管理会社がやむを得ず立て替えた費用は、委託者が速やかに償還します。2項で、1件当たりの金額が頭書(11)で定めた金額を超えないものは委託者の承諾を要せず、超えるものは「予め甲と協議しなければならない」とされています。
  • 11条(緊急時の業務):災害や事故等で緊急に行う必要があり、委託者の承認を受ける時間的な余裕がない業務は、承認なしで実施できます。その場合、管理会社は速やかに書面で業務の内容と費用の額を通知します。
  • 14条(代理権の授与):修繕の費用負担についての入居者との協議などを行う場合は、事前に委託者と協議し、承諾を求めることとされています。

民法でも、委任の受任者は、委任者の請求があればいつでも事務の処理状況を報告する義務を負います(645条)。必要な費用を支出したときは、その償還を請求できます(650条1項)。これらの規定は、法律行為でない事務の委託(準委任)にも準用されます(656条)。

実務では、「承諾なしで進めてよい金額の上限」を契約で決めておくことが要になります。上限を決めていない契約では、6条2項の考え方では少額の立替えでも事前の協議が必要になり、入居者への対応に時間がかかることがあります。契約の更新時に、上限額と緊急時の連絡方法を見直しておきます。

見積の取り方と建設業法

依頼する前に工事内容を固める

建設業法20条3項は、建設工事の注文者に対し、契約の締結までに、工事内容などの19条1項各号の事項について「できる限り具体的な内容を提示」し、見積りに必要な期間を設けるよう求めています。工事の範囲、数量、仕様があいまいなまま複数社に依頼すると、各社が違う前提で見積を出し、比較ができません。写真、場所、範囲、希望する仕様を1枚にまとめてから依頼します。

内訳のある見積書を求める

建設業法20条1項は、建設業者に、材料費、労務費などの内訳と工程ごとの作業日数を記載した見積書(材料費等記載見積書)を作成するよう努めることを求めています。同条4項で、注文者から請求があったときは、契約が成立するまでにその見積書を交付しなければならないとされています。「一式」だけの見積は比べにくいため、内訳を求めるのが基本です。

同条6項は、注文者が、通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るような変更を求めてはならないと定めています。値引きの交渉をするときも、材料費や労務費を不当に削らせる求め方は避けます。

500万円以上の工事は建設業の許可を確かめる

建設業法3条1項ただし書と同法施行令1条の2により、許可がなくても請け負えるのは「軽微な建設工事」で、工事1件の請負代金が500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満、または延べ面積150㎡未満の木造住宅の工事)のものです。同条2項で、契約を分割しても正当な理由がなければ合計額で判断され、3項で注文者が材料を提供する場合はその市場価格などを加えて判断します。500万円以上になる工事では、業者が該当する業種の許可を持っているかを確認します。

契約は書面で結ぶ

建設業法19条1項は、工事内容、請負代金の額、着手と完成の時期などを書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付することを求めています。内容を変えるときも書面が必要で(2項)、相手方の承諾を得れば電子的な方法も使えます(3項)。小さな修繕でも、発注書と請書、または同等の記録を残しておきます。

相見積の社数

何社から見積を取るべきかを定めた法令はありません。金額の大きさや緊急性に応じて、1社で進めるもの、複数社で比べるものを、オーナーとあらかじめ決めておく考え方が現実的です。

見積の比べ方

合計額だけで比べると、工事範囲の違いを見落とします。次の観点で表にそろえます。

比べる観点確かめること
工事範囲どこからどこまでを直すか。下地の補修や撤去・処分費が入っているか
数量と単価面積・個数がそろっているか。単価の根拠
材料・機器メーカー、型番、グレード
諸経費現場管理費、運搬費などの扱い
工期と入居者への影響工事日数、立入りの回数、騒音や使えない時間
保証とアフター対応保証の期間と範囲、不具合時の連絡先
許可・資格500万円以上の工事では建設業の許可。電気・ガスなど資格が必要な作業の有無
支払条件前払いの有無、支払時期

表の最後に、管理会社としてどれを勧めるかと、その理由を書きます。最安でない業者を勧めるときは、範囲や保証など、金額以外の理由を具体的に示します。

オーナーへの説明資料の組み立て

説明資料は、次の順で組み立てると、オーナーが判断しやすくなります。

  1. 現状:写真(全体と近景)、撮影日、場所、入居者からの連絡内容。
  2. 原因と負担区分:前の章の表のどれに当たるか。入居者負担の可能性があればその根拠。
  3. 対応しない場合に考えられること:漏水が広がる、設備が使えない状態が続くなど、事実として言える範囲で書きます。損失額の予想など、根拠のない数字は書きません。
  4. 見積の比較表と、勧める案とその理由。
  5. 入居者への影響:工期、立入り、賃料の扱い(使えない状態がある場合は民法611条の考え方)。
  6. 税務の扱いの確認先:修繕費か資本的支出かは、オーナーの税理士に確認してもらいます。
  7. 承認欄:承認する案、日付、署名(またはメールでの返信)。

税務の扱いについて、国税庁のタックスアンサー「No.1379 修繕費とならないものの判定」では、一つの修理・改良などの金額が20万円未満のときや、おおむね3年以内の期間を周期として行われるときなどは修繕費として扱えるとされています。資料に書くときは「判断は税理士に確認してください」と添えます。

承認・実施・報告の流れ

承認の記録を残す

承認は、口頭だけでなく、メールや書面で残します。承認した案、金額、日付が後から確認できれば、請求時の行き違いを防げます。管理受託契約で決めた上限額以下で承諾なしに進めたものも、実施後に内容と金額を報告します。

緊急時は先に動き、すぐに書面で知らせる

漏水や設備の故障で緊急に対応が必要なときは、標準管理受託契約書11条の考え方に沿って、実施した内容と費用を速やかに書面で通知します。通知を受けた費用は、5条に準じて委託者が支払うとされています。

定期報告にまとめる

賃貸住宅管理業法20条は、登録を受けた賃貸住宅管理業者に、管理業務の実施状況などを定期的に委託者へ報告することを求めています。同法施行規則40条により、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごと、および契約期間の満了後遅滞なく、報告の対象期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況と対応状況を記載した報告書を交付して説明します。期中の修繕も、この報告で一覧にしておくと、年間の修繕の流れをオーナーと振り返れます。

ウルスタ株式会社の業務クラウド「ウルスタくん」では、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を作れます。承認を得た修繕費が、どの月の送金から差し引かれたかをオーナーが確かめやすくなります。

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. オーナーから「別の業者はもっと安い」と言われたら?

その見積を受け取り、比較表の観点で範囲・数量・材料・保証をそろえて比べます。範囲が同じで安いなら、その業者に切り替えるのも選択肢です。範囲が違うなら、その違いを示します。

Q2. 緊急でオーナーと連絡がとれないときは?

管理受託契約に緊急時の定めがあれば、それに従って対応し、速やかに内容と費用を書面で通知します。標準管理受託契約書では11条がこの定めです。契約に定めがない場合に備え、更新時に条項を入れておきます。

Q3. 修繕中に部屋の一部が使えない場合、賃料はどうなりますか?

民法611条1項は、賃借物の一部が滅失その他の事由で使用及び収益ができなくなり、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料はその割合に応じて減額されると定めています。標準契約書12条は、減額の程度や期間を貸主と借主で協議するとしています。オーナーにも、この可能性を事前に伝えておきます。

Q4. 入居者の負担かどうか判断がつかないときは?

原状回復ガイドラインの考え方と、入居時の記録や写真を照らし合わせます。判断がつかない場合は、管理受託契約の定めに従ってオーナーと協議してから入居者と話します。

Q5. 修繕費と資本的支出の区分は管理会社が決めてよいですか?

税務の判断はオーナーと税理士が行います。管理会社は、工事内容が分かる見積書と写真をそろえて渡すところまでを担います。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

実務に役立つコラムを、週1回メールで

賃貸管理・反響対応・法改正の記事を、月曜の朝を目安にお届けします。無料。いつでも解除できます。登録の前に、確認のメールを1通お送りします。