オーナーとの書類を電子でやりとりするには、書類ごとに法律が定める「承諾」を、使う方法の種類と内容を示したうえで、記録に残る方法でもらう必要があります。説明の場では、仕組みの話より先に「紙も選べること」「途中で紙に戻せること」を伝えると、オーナーが落ち着いて判断できます。この記事では、宅建業法34条の2第11項・35条8項・37条4項・5項と賃貸住宅管理業法の承諾の決まり、国土交通省の実施マニュアルの要点、説明の流れと例文を整理します。
オーナーとのやりとりで電子にできる書類と根拠
「電子契約」と一口にいっても、法律上は書類ごとに根拠の条文が異なり、それぞれに相手方の承諾が求められます。オーナー(売主・貸主・管理の委託者)とのやりとりで関係する主な書類は次のとおりです。
| 書類 | 電子で提供する根拠 | 承諾をもらう相手 |
|---|---|---|
| 売買・交換の媒介契約書面 | 宅建業法34条の2第11項 | 依頼者(売主など) |
| 指定流通機構の登録を証する書面 | 宅建業法34条の2第12項 | 依頼者 |
| 売買・交換の契約締結時の書面(37条書面) | 宅建業法37条4項 | 契約の当事者 |
| 貸借の契約締結時の書面(37条書面) | 宅建業法37条5項 | 契約の当事者(貸主・借主) |
| 管理受託契約の重要事項説明書 | 賃貸住宅管理業法13条2項 | 賃貸人(オーナー) |
| 管理受託契約の締結時の書面 | 賃貸住宅管理業法14条2項(13条2項を準用) | 委託者(オーナー) |
| 管理業務の定期報告書 | 賃貸住宅管理業法施行規則40条2項 | 委託者(オーナー) |
宅建業法35条の重要事項説明書は、買主や借主など「宅地建物取引業者の相手方等」に説明するものです。35条8項の承諾は、その相手方からもらいます。賃貸の仲介で貸主が受け取るのは、主に37条書面です。オーナーに説明するときは、「どの書類を電子にするのか」を最初に一覧で示すと、話がかみ合います。
管理受託契約の締結時の書面(管理業法14条1項)について、解釈・運用の考え方は、同項と施行規則で定める事項が書かれた契約書であれば、その契約書をこの書面とすることができるとしています。電子で契約書を交わす場合も、記載事項がそろっているかを先に確かめます。
なお、37条の条文は、売買・交換の書面(1項)を電子にする場合を4項、貸借の書面(2項)を電子にする場合を5項に分けて定めています。賃貸の仲介で貸主に37条書面を電子で渡す場合は、5項の承諾になります。
承諾の取り方と、紙に戻す申出
先に示すこと
宅建業法施行令3条の3(35条8項の承諾)と3条の4(37条4項・5項の承諾)は、あらかじめ相手方に、用いる電磁的方法の種類と内容を示し、書面または電子情報処理組織を使う方法などで承諾を得るよう定めています。国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和6年12月版)は、示す内容として、電子メールやWebでのダウンロードといった方法の種類と、ファイルへの記録の方式(ソフトウェアの形式やバージョンなど)を挙げています。
記録に残る方法でもらう
実施マニュアルは、承諾を、後から確認できるよう記録に残る方法でもらうよう求めており、口頭だけの承諾では足りないとしています。承諾書に署名をもらう、電子メールで承諾の返信をもらう、Webの画面で承諾の操作をしてもらう、といった方法があります。賃貸住宅管理業法の定期報告でも、施行規則40条4項・5項が、方法の種類と内容を示し、書面に出力できる形で承諾を得ることを定めています。
紙に戻す申出があったら
施行令3条の3第2項・3条の4第2項は、承諾を得た後でも、相手方から電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、電磁的方法で提供してはならないと定めています。相手方が改めて承諾した場合は別です。管理業法施行規則40条7項にも同じ趣旨の定めがあります。この決まりは、オーナーへの説明でそのまま安心材料になります。「一度承諾したら紙に戻れない」ということはありません。
説明の前に確かめること
実施マニュアルは、相手方が使うIT環境を事前に聞き取り、提供するファイルを開けるかを確かめること、なるべくパソコンなど電子書面を見やすい端末を使うよう勧めることが望ましいとしています。また、スマートフォンだけでは電子署名の確認が難しい場合があるとして、パソコンでの確認方法を説明することや、パソコンへの保存を勧めることに触れています。説明の前に、次の点を聞いておきます。
- ふだん使う端末(パソコン、タブレット、スマートフォン)
- 電子メールを受け取れるか、PDFを開けるか
- 書類を一緒に見たい家族や税理士がいるか
- 紙の控えを手元に残したいか
書類の提供には、改変されていないかを確認できる措置と、書面に出力できることが求められます(実施マニュアル)。電子署名やタイムスタンプがその方法の例です。オーナーに「後から書き換えられていないことを、どうやって確かめるか」を実際の画面で見せられるよう、手順を用意しておきます。
説明の流れと例文
ここからは実務上の進め方の例です。言い回しは、オーナーとの関係に合わせて変えてください。
1. 最初に、選べることを伝える
例文:「今後、契約書や報告書を電子でお送りする方法も選べるようになりました。今日は仕組みをご説明しますが、紙のままでも管理の内容は変わりません。電子にした後でも、紙に戻したいときはお申し出いただければ紙に戻します。」
2. 対象の書類を一覧で示す
例文:「電子にできるのは、この表の書類です。たとえば毎月の報告書だけ電子にして、契約書は紙にする、といった選び方もできます。」書類ごとに承諾が必要なので、オーナーが選んだ書類だけを承諾書に書きます。
3. 受け取り方を実際に見せる
例文:「メールにこのような通知が届きます。ここを押すと書類が開きます。この欄で、書類が後から書き換えられていないかを確かめられます。」見本の書類で、受信から保存、印刷までを一度一緒に操作します。
4. 心配な点を聞く
よく出る心配と、事実に基づく答え方の例です。
| オーナーの心配 | 答え方の例 |
|---|---|
| 操作が分からない | 「最初は一緒に操作します。難しければ紙のままで大丈夫です。」 |
| データが消えたら困る | 「お手元のパソコンに保存し、印刷して紙でも残せます。こちらでも書類を保管します。」 |
| 電子の契約は弱くないか | 「本人による電子署名がされた電子の記録は、真正に成立したものと推定するという規定が電子署名法3条にあります。」 |
| 家族にも見せたい | 「ご家族と一緒に画面を見ていただけます。同席してのご説明も承ります。」 |
| 途中でやめたい | 「お申し出があれば紙に戻します。法律でもそう決まっています。」 |
5. 承諾を記録に残す
例文:「では、電子にする書類と受け取り方法をこの承諾書に書きましたので、内容をご確認のうえご署名ください。」承諾書には、対象の書類、電磁的方法の種類(電子メール、Webなど)、ファイルの形式、承諾の日付を書きます。承諾書は、紙でも電子でも、後から示せるように保管します。
管理受託契約の説明をオンラインで行う場合
電子で書類を渡すことと、説明をオンラインで行うことは別の話です。賃貸住宅管理業法13条の管理受託契約の重要事項説明について、国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」は、テレビ会議などのITを使った説明を、次の条件を全て満たす場合に対面と同様に扱うとしています。
- 映像を見ることができ、双方の音声を十分に聞き取れ、双方向でやりとりできる環境であること
- 説明に使う書類を、事前に賃貸人に送っていること
- 賃貸人が書類を確認しながら説明を受けられる状態であること
- 説明を始める前に、映像と音声の状況を確かめること
同じ考え方は、説明から契約の締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいともしています。オーナーが内容を読み、家族などに相談する時間をとれるよう、説明の日と契約の日を分けて予定を組みます。また、契約を変更するときは、変更のあった事項について説明すれば足りるとされています。
電子の書類とオンラインの説明を同時に始めると、オーナーが覚えることが増えます。まずは書類を電子で受け取ることに慣れてもらい、説明は対面のまま続ける、というように一つずつ進める方法も考えられます。
紙を選ぶオーナーへの対応
電子を選ばないオーナーには、紙で対応します。承諾は相手方の判断であり、勧め続けることは信頼を損ねます。次のような進め方が考えられます。
- 書類の種類ごとに選べるようにする(報告書は電子、契約書は紙など)。
- 電子で送る場合も、希望があれば紙の控えを郵送する。
- オーナーごとに「どの書類を、どの方法で受け取るか」を一覧で管理し、担当者が替わっても間違えないようにする。
- 紙に戻す申出を受けたら、その日付と対象の書類を記録し、次の書類から紙で送る。
電子署名と記録の残し方
電子署名法3条は、電子の記録に本人による電子署名(本人だけが行えるもの)が行われているときは、真正に成立したものと推定すると定めています。宅建業法の書面では、34条の2の書面は業者の記名押印に代わる措置、35条・37条の書面は宅地建物取引士の記名に代わる措置を講じた方法で提供することが求められます。実施マニュアルは、電子署名などの有効期間について相手方に説明し、期間が過ぎた後の扱いを事前に決めておくことにも触れています。
書類と承諾の記録は、契約ごとにまとめて保管します。ウルスタくんでは、賃貸借契約書や重要事項説明書など24種の書類を作成し、電子サインで締結まで進められます。ただし、どのシステムを使う場合も、承諾の取得と記録、紙に戻す申出への対応は、業者自身が行う必要があります。
このテーマの全体像は「不動産のIT重説 完全ガイド2026|国交省マニュアルの遵守事項と売買・賃貸の手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 承諾は電話で口頭でもらえばよいですか。
実施マニュアルは、承諾を記録に残る方法でもらうよう求めており、口頭だけでは足りないとしています。書面への署名、電子メールでの返信、Web画面での操作など、後から確認できる方法でもらいます。
Q2. 一度承諾をもらえば、すべての書類を電子にできますか。
承諾は書類ごとの根拠条文に基づいて必要です。承諾書に対象の書類を明記し、範囲の外の書類は改めて承諾をもらいます。
Q3. 承諾後に、やはり紙がよいと言われました。
電磁的方法による提供を受けない旨の申出があれば、改めて承諾を得ない限り電子では提供できません(宅建業法施行令3条の3第2項・3条の4第2項、管理業法施行規則40条7項)。申出の日付を記録し、紙で送ります。
Q4. 家族が操作を手伝ってもよいですか。
画面の操作を手伝ってもらうことは考えられますが、承諾と署名は契約の当事者本人の意思によるものであることが前提です。本人に内容を説明し、本人の意思を確かめた経過を記録しておきます。代理で契約する場合は、代理権の確認が別に必要です。
Q5. スマートフォンしか持っていないオーナーにも電子で送れますか。
送ること自体はできますが、実施マニュアルは、スマートフォンでは電子署名の確認が難しい場合があるとして、パソコンでの確認方法の説明や保存を勧めることに触れています。確認が難しい場合は、紙を選んでもらうか、紙の控えを併せて送ります。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2・第35条・第37条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行令」(第3条の3・第3条の4)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(第13条・第14条)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」(第40条)
- e-Gov法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律」(第3条)
- 国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和6年12月版)
- 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」(法第13条関係・法第14条関係)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。