不動産の紹介制度は、謝礼の額を決める前に、紹介者の役割、紹介される本人の同意、景品規制、税務の扱い、効果の測り方を先に決めておくと、トラブルなく続けられます。紹介者に安心して頼める形にし、紹介される人が自分の意思で連絡できる流れにすることが基本です。この記事では、宅建業法、景品表示法と不動産業の景品規約、個人情報保護法、国税庁の資料を確かめながら、制度の作り方を順に説明します。
案内を出す前に決める条件
紹介制度は、チラシやメッセージで案内を出した時点で、紹介者との約束になります。後から条件を変えると不信感につながるため、案内の前に次の点を決めておきます。
| 決めること | 考える内容 | 決め方の例 |
|---|---|---|
| 対象の取引 | 賃貸の仲介、売買の仲介、管理の受託など、どの取引の紹介を受けるか | 賃貸管理の新規受託と売買仲介に限る |
| 紹介者の範囲 | 誰でもよいか、既存の顧客に限るか、取引先の会社も含めるか | 範囲によって景品規制や個人情報の扱いが変わるため、下の章を読んでから決める |
| 紹介者の役割 | 紹介者に何をしてもらい、何をしてもらわないか | 連絡先を伝えるか、本人に会社を案内するところまで。案内や条件交渉はしない |
| 謝礼の条件と時期 | 受付時か、契約時か、入金確認後か | 契約が成立し、報酬の入金を確認した月の翌月末に支払う |
| 対象外の場合 | すでに相談を受けていた人、同じ人を複数人が紹介した場合、契約が解除された場合 | 先に受付記録がある紹介を優先する、など |
| 受付方法 | 紹介カード、専用フォーム、電話など | 紹介される本人が自分で申し込む専用フォームを基本にする |
特に「対象外の場合」は、案内文に書いておかないと、謝礼を払う・払わないで紹介者ともめる原因になります。
謝礼を決める前に確かめる法律
景品表示法:紹介者を誰にするかで扱いが変わる
景品表示法2条3項は、事業者が自己の供給する商品・役務の取引(不動産に関する取引を含む)に付随して相手方に提供する経済上の利益で、内閣総理大臣が指定するものを「景品類」としています。
消費者庁の「景品に関するQ&A」Q31は、自己の商品・役務の購入者を紹介してくれた人への謝礼は、取引に付随する提供に当たらず景品類には該当しないと説明しています。ただし、紹介者を自己の商品・役務の購入者に限定する場合は取引に付随する提供となり、景品類に該当し、通常は総付景品の規制の対象になるとしています。
つまり、「どなたでも紹介できます」という制度と、「ご契約中のお客様が紹介すると謝礼」という制度では、扱いが違います。後者にするなら、景品規制の範囲に収まるかを確かめる必要があります。
不動産業には、「不動産業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」があります(2025年8月26日に改正規約が施行。不動産公正取引協議会によると、提供の制限を定めた3条は変わっていません)。3条は、懸賞による景品類は取引価額の20倍または10万円のいずれか低い額(総額は取引予定総額の100分の2以内)、懸賞によらない景品類は取引価額の10分の1または100万円のいずれか低い額を上限としています。この規約の「事業者」は、宅建業の免許を受けて、協議会の構成団体に属するか規約に個別参加する者です。既存顧客に限った紹介制度で謝礼を出すときは、取引価額をどう考えるかも含めて、加盟している団体や不動産公正取引協議会に事前に確かめると安心です。
宅建業法:紹介者の役割を「紹介」にとどめる
宅建業法2条2号は、宅地・建物の売買・交換、またはその売買・交換・貸借の代理・媒介をする行為で「業として行うもの」を宅地建物取引業としています。12条1項は、免許を受けない者が宅地建物取引業を営むことを禁じています。
紹介制度で謝礼を払う相手が免許を持たない個人や会社の場合、その人に物件の案内や条件の交渉をしてもらうと、媒介に当たる行為を繰り返すことになりかねません。紹介者には「知り合いに会社を教える」「本人の了解を得て連絡先を伝える」ところまでをお願いし、物件の説明や交渉は自社の担当者が行う、と案内文に書いておきます。
報酬告示:謝礼の費用を依頼者に上乗せしない
宅建業法46条は、宅建業者が代理・媒介に関して受けることのできる報酬の額を国土交通大臣が定めるとし、その額を超えて報酬を受けることを禁じています。報酬の額を定めた告示の第11(1)は、告示に定める報酬のほかは報酬を受けることができず、例外は依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額だけとしています。紹介謝礼は自社の費用として負担するもので、その分を依頼者からの手数料に上乗せすることはできません。
ステルスマーケティング規制:SNSでの紹介を頼むとき
紹介者にSNSや口コミサイトで自社を紹介してもらい、その対価として謝礼を払う場合は、景品表示法に基づく告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年10月1日施行)に注意します。消費者庁は、事業者が第三者に依頼・指示して行わせる表示は事業者の表示(広告)に当たり、広告であることを隠すと規制の対象になると説明しています。投稿を頼むなら、広告であることや謝礼を受けていることが分かる表示をしてもらう、と条件に入れておきます。
紹介される本人の個人情報
紹介制度でいちばん気を付けたいのは、紹介される本人が知らないうちに連絡先が会社へ渡ることです。法律の問題になる前に、本人の印象を大きく損ねます。
基本は、紹介される本人に自分で連絡してもらう形です。紹介者には紹介カードやフォームの案内を渡してもらい、本人がフォームに入力したり電話したりすれば、本人の意思で連絡が始まります。紹介者から連絡先を受け取る場合は、紹介者が本人の了解を得ていることを受付時に確かめ、記録に残します。
個人情報保護法20条1項は、偽りその他不正の手段で個人情報を取得することを禁じ、21条1項は、取得した個人情報の利用目的を、あらかじめ公表している場合を除いて、速やかに本人に通知または公表することを求めています。本人がフォームなどに直接書き込む場合は、21条2項により、あらかじめ利用目的を明示します。フォームの入力欄の近くに利用目的を書いておくと、この点を満たしやすくなります。
紹介者が会社(取引先の企業、オーナーの法人、士業の事務所など)の場合は、さらに注意が必要です。個人情報保護法27条1項は、個人情報取扱事業者が、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することを禁じています。また、30条1項は、第三者から個人データの提供を受ける側に、提供者の氏名・名称・住所(法人なら代表者の氏名)と、その個人データを取得した経緯を確認することを求め、3項でその記録を作ることを求めています。
| 紹介の経路 | 気を付けること | 関係する条文 |
|---|---|---|
| 本人が自分でフォームや電話で連絡 | 入力欄の近くで利用目的を示す | 個人情報保護法21条2項 |
| 個人の紹介者から連絡先を受け取る | 本人の了解があるかを確かめ、記録する。取得後は利用目的を通知または公表する | 同法20条1項、21条1項 |
| 会社の紹介者から個人データを受け取る | 提供側が本人の同意を得ているか。受け取る側は提供者と取得の経緯を確認し、記録を作る | 同法27条1項、30条1項・3項 |
謝礼の税務は金額だけで決めない
謝礼の税務は、受け取る人が個人か法人か、支払いが何の対価に当たるかで扱いが変わります。金額だけで判断せず、制度を始める前に顧問の税理士に確認しておくと安心です。ここでは、国税庁の資料で確かめられる範囲を示します。
源泉徴収
国税庁タックスアンサーNo.2792は、居住者に支払う報酬・料金のうち源泉徴収が必要なものとして、原稿料や講演料、弁護士・税理士などの報酬、外交員の報酬などを挙げています。「紹介料」という項目はこの一覧にありませんが、支払いの実態が一覧のどれかに当たれば源泉徴収が必要になります。継続的に紹介をしてもらう個人と契約を結ぶような場合は、特に確認が必要です。
支払調書
国税庁タックスアンサーNo.7443によると、不動産の売買または貸付けのあっせん手数料を支払う法人と、不動産業者である個人(主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業を営む個人を除く)は、同一人に対するその年中の支払金額の合計が15万円を超える場合に「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」を提出します(消費税等を含めて判断)。紹介謝礼がこの「あっせん手数料」に当たるかは、紹介者が何をしたかで変わるため、支払いの内容を記録しておき、税理士と判断してください。
支払いの記録
どの扱いになる場合でも、誰に、いつ、いくら、どの紹介の謝礼として払ったかを記録しておきます。受け取った人の所得として申告が必要になる場合もあるため、支払時に金額と支払日が分かる書面を渡しておくと、紹介者にとっても親切です。
受付から支払いまでの流れ
受付から謝礼の支払いまでを1本の記録でつなぐと、払い漏れや二重払いを防げます。
- 紹介を受け付けたら、受付日、紹介者、紹介される本人、本人の了解の有無、経路を記録する。
- 本人に連絡し、相談の内容と、紹介者に結果を伝えてよいかを確かめる。
- 対応の経過を同じ記録に追記する(面談、案内、申込み、辞退など)。
- 契約が成立し、謝礼の条件を満たしたら、支払予定日を記録する。
- 支払ったら、支払日、金額、方法を記録し、紹介者にお礼を伝える。
- 辞退や不成立の場合も、本人の了解の範囲で紹介者に一言伝える。
記録には、少なくとも次の欄を用意します。
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 受付日・経路 | フォーム、電話、紹介カードなど |
| 紹介者 | 氏名または会社名、連絡先、個人か法人か |
| 本人の了解 | 誰がいつ確かめたか |
| 状況 | 連絡済み、面談、申込み、契約、辞退 |
| 謝礼 | 条件を満たした日、支払予定日、支払日、金額 |
| メモ | 辞退理由、苦情、紹介者への連絡内容 |
紹介の効果を費用と期間で測る
紹介制度の効果は、「紹介が何件来たか」だけでは判断できません。期間を決め、契約の件数と、謝礼や事務の費用を合わせて見ます。
仮の数字で計算例を示します。6か月間の結果です。
| 項目 | 数字 | 計算 |
|---|---|---|
| 紹介の受付 | 10件 | - |
| 本人と連絡がついた件数 | 8件 | - |
| 契約 | 4件 | - |
| 謝礼 | 40,000円 | 1件10,000円×4件 |
| 案内カードの印刷 | 5,000円 | - |
| 事務の時間 | 15,000円 | 6時間×時間単価2,500円 |
| 費用の合計 | 60,000円 | 40,000円+5,000円+15,000円 |
| 契約1件あたりの費用 | 15,000円 | 60,000円÷4件 |
この「契約1件あたりの費用」を、ポータルサイトへの掲載など他の集客経路と同じ期間・同じ計算方法で比べます。事務の時間を入れ忘れると、紹介制度の費用を小さく見積もることになります。
数字に出ないものも見ます。紹介された本人からの苦情、辞退の理由、紹介者から「連絡が遅かった」などの声は、メモ欄から拾って振り返ります。紹介の比率が上がったことだけを成功の目安にすると、他の集客経路が落ちていることを見逃すおそれがあります。
自社の制度を1枚にまとめる
紹介者に渡す案内は、次の項目を1枚に収めると分かりやすくなります。
- 紹介の対象になる取引
- 紹介できる人(誰でもよいか、条件があるか)
- 紹介者にお願いすること、お願いしないこと(案内や条件交渉は担当者が行う)
- 紹介される方への連絡の方法(ご本人からの連絡を基本にすること)
- 謝礼の額、条件、支払時期
- 謝礼の対象外になる場合
- SNSなどで紹介していただく場合の表示のお願い
- 個人情報の利用目的と問い合わせ先
- 制度の開始日と、変更・終了するときの知らせ方
ウルスタくんの顧客管理では、顧客ごとに対応の経過を記録できます。紹介の受付から契約、謝礼の支払いまでを1つの顧客記録にまとめておけば、「どの紹介の謝礼が未払いか」「辞退の理由は何か」を後から確かめやすくなります。
あわせて読みたい記事: 不動産仲介の集客ガイド2026、仲介手数料の値引き交渉への対応
このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 紹介謝礼はいくらにすればよいですか。
法令で一律の相場が決まっているわけではありません。紹介者の範囲を既存の顧客に限る場合は、景品規制(不動産業の公正競争規約3条など)の範囲に収める必要があります。誰でも紹介できる制度にする場合でも、契約1件あたりの費用として他の集客経路と比べて決めると説明しやすくなります。
Q2. 入居者や既存のお客様だけを対象にしてもよいですか。
できますが、消費者庁のQ&A Q31によると、紹介者を自社の顧客に限ると謝礼は景品類に該当し、通常は総付景品の規制の対象になります。上限の考え方を含め、加盟団体や不動産公正取引協議会に確かめてから案内してください。
Q3. 紹介者から友人の電話番号を聞いて、こちらから電話してよいですか。
紹介者が本人の了解を得ていることを確かめてからにします。了解の有無を記録し、最初の連絡で紹介者から聞いたことと利用目的を伝えます。可能であれば、本人から連絡してもらう形のほうが行き違いが起きにくくなります。
Q4. 他の不動産会社から紹介を受けて紹介料を払うのは問題ありませんか。
宅建業者同士の紹介でも、相手から個人データを受け取るなら、提供側が本人の同意を得ているか(個人情報保護法27条1項)、受け取る側の確認と記録(同法30条)が関係します。また、依頼者から受け取る報酬は告示の上限内に収める必要があります(宅建業法46条)。
Q5. 謝礼を商品券にすれば税務の手続きは不要ですか。
支払いの形を変えるだけで手続きが不要になるとは限りません。誰に、何の対価として払うかを含めて、顧問の税理士に確認してください。
出典(本文で参照している資料)
- 消費者庁「景品に関するQ&A」(景品類とは・Q31 紹介者への謝礼)
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」
- 不当景品類及び不当表示防止法(e-Gov法令検索)(2条3項)
- 不動産公正取引協議会連合会「新 景品規約の施行について」、不動産業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)(2条2号、12条、46条)
- 大阪府「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(建設省告示)」
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索)(20条、21条、27条、30条)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
- 国税庁 タックスアンサーNo.7443 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
この記事は2026年10月7日時点の情報です。