家賃査定 読了 12分

家賃提案に時間がかかる本当の理由と短くする手順|査定から提案書までの準備を型にする

家賃提案に時間がかかる主な理由は、データの置き場所が散らばっている、比べ方が担当者ごとに違う、資料を毎回ゼロから作る、判断材料が足りずオーナーとの往復が増える、の4つです。工程を分けて測り、型にして短くする手順を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
家賃提案に時間がかかる理由と短くする手順|査定から提案書までの準備を型にする
目次

家賃提案に時間がかかる主な理由は、データの置き場所が散らばっている、比べ方が担当者ごとに違う、資料を毎回ゼロから作る、判断材料が足りずオーナーとの往復が増える、の4つです。作業の速さより、やり直しと待ち時間が長さの原因になっていることが多いです。この記事では、工程を分けて時間を測る方法、比較表と提案書を型にする手順、早くしても省いてはいけない確認を順に説明します。

家賃提案に時間がかかる4つの理由

データの置き場所が散らばっている

物件の条件は管理台帳、過去の成約家賃は契約書のファイル、問い合わせの件数はメールや営業の記録、比較物件はポータルサイトや業者間で見られる情報、と置き場所が分かれていると、集めるだけで時間がかかります。担当者が替わると、どこに何があるかを探すところから始まります。

比べ方が担当者ごとに違う

比較物件の選び方、補正の項目、礼金やフリーレントの扱いが担当者ごとに違うと、社内の確認で「なぜこの物件と比べたのか」という差し戻しが起きます。比べ方の決まりがないことが、やり直しの原因になります。

資料を毎回ゼロから作る

提案書の構成が決まっていないと、毎回、表の作り方や文章の書き方から考えることになります。前回の提案書をコピーして直す方法も、消し忘れや古い数字の残りが起きやすく、確認の手間が増えます。

判断材料が足りず往復が増える

金額だけを伝えると、オーナーから「根拠は」「他の案は」「決まらなかったら」と質問が返ってきます。その都度調べて答えると、決まるまでに何往復もかかります。最初の提案書に判断材料がそろっていれば、往復は減ります。

提案が遅れると何が失われるか

空室の募集が始まるまでの日数は、そのまま家賃の入らない日数になります。仮の数字で計算例を示します。

家賃6万円の部屋で、提案から募集開始までが10日遅れたとします。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)の第4条2項は、1か月に満たない期間の賃料を「1か月を30日として日割計算した額」としています。この考え方で日割りにすると、6万円 ÷ 30日 = 2,000円、10日で2万円です。募集開始が遅れた分だけ、決まる日も後ろにずれる可能性があります。

遅れの原因が社内の作業にあるのか、オーナーの判断待ちにあるのか、修繕の段取りにあるのかで、打つ手は変わります。作業が原因なら型にして短くでき、判断待ちが原因なら判断材料をそろえることで短くでき、修繕が原因なら退去前からの段取りで短くできます。まず原因を分けることが、短くする手順の出発点です。

この数字はあくまで計算の考え方を示すものです。実際には、募集開始が遅れても決まる日が変わらない場合もあれば、転居の多い時期を逃して大きく遅れる場合もあります。オーナーに示すときは、前提を書いたうえで使ってください。

まず工程を分けて時間を測る

短くする前に、どこに時間がかかっているかを確かめます。提案の流れを工程に分け、1件ごとに開始日と終了日を記録します。数件分たまると、時間がかかる工程が見えてきます。

工程主な作業記録すること
依頼の受付退去の連絡、オーナーからの相談受け付けた日、依頼の内容
部屋の確認退去立会い、設備・状態の確認確認した日、写真、修繕の要否
データ収集比較物件、過去の成約、問い合わせの記録調べた日、参照した資料
査定と補正条件の違いの補正、3案の作成補正の理由、社内確認の有無
提案書の作成比較表、収支の比較、見直し条件作成にかかった日数、差し戻しの回数
オーナーとのやり取り説明、質問への回答、決定往復の回数、決まった日

作業時間よりも、工程と工程の間の待ち時間(社内の確認待ち、オーナーの返事待ち、修繕の見積待ち)が長いことがあります。待ち時間は作業を速くしても縮まらないため、別に記録してください。

短くする手順

手順1:データの置き場所を1か所に決める

物件の条件、過去の募集家賃と成約家賃、決まるまでの期間、問い合わせの件数を、物件ごとに同じ場所に残します。次の査定のときに、前回の記録から始められるようにするためです。

手順2:比較表の項目を固定する

立地、建物、設備、契約条件(家賃、管理費・共益費、礼金、敷金、フリーレント)、募集状況、調べた日付を、比較表の決まった列にします。比較物件の選び方(同じ駅、同じ間取り、築年数の幅など)も社内で決めておくと、確認の差し戻しが減ります。比べ方の考え方は家賃査定は相場だけで決めないで説明しています。

手順3:提案書のひな形を作る

1枚目に結論と3案と見直し条件、2枚目以降に比較表と収支の比較、という構成を固定します。構成の例は家賃査定をオーナー提案にまとめる型で紹介しています。ひな形は、前回の提案書のコピーではなく、空欄のものを用意すると古い数字の残りを防げます。

手順4:退去の連絡と同時に準備を始める

退去の連絡を受けた時点で、前回の募集記録と比較物件の確認を始めます。退去立会いの後に始めるより、部屋の確認とデータ収集を並行できるため、待ち時間が減ります。更新が近い契約の一覧を見て、退去が出やすい時期を前もって把握しておくのも方法の1つです。

手順5:オーナーへの最初の提案に判断材料をそろえる

根拠、3案、空室損失を含めた収支、見直し条件を最初の提案に入れておくと、質問の往復が減ります。オーナーごとに「家賃を優先するか、早く埋めることを優先するか」の考え方を記録しておくと、次の提案で勧める案を選びやすくなります。

物件ごとに残す記録の例

手順1で決める「データの置き場所」に、物件ごとに次の項目を残しておくと、次の査定を前回の続きから始められます。項目は会社の業務に合わせて増減してください。

項目記録する内容次の査定での使い方
募集条件募集開始日、家賃、管理費・共益費、礼金、敷金、フリーレント前回の条件からの変更点を説明する
募集の経過問い合わせ・内見・申込みの件数と日付決まるまでの期間を見込む
成約成約日、成約家賃、決まるまでの日数自社の成約事例として比較に使う
見直し見直した日、理由、変更した条件見直し条件の決め方を改める
比較物件比べた物件の一覧と調べた日付競合の変化を説明する
オーナーの方針家賃と空室期間のどちらを優先するか、費用をかけられる範囲勧める案を選ぶ

記録は、担当者が自分のために残すものではなく、会社として次の提案に使うものです。退去の連絡を受けたら、まずこの記録を開く、という順番を社内で決めておくと、データ収集の工程が短くなります。

社内の確認を短くする

工程を測ると、社内の確認待ちが長いことがよくあります。確認そのものをなくすのではなく、何を確認するかを決めておくと、待ち時間と差し戻しが減ります。

確認する項目を一覧にする

確認する人が見る項目を、例えば次のように決めておきます。

  • 比較物件が決めた選び方(駅、間取り、築年数の幅)に沿っているか
  • 補正の理由がすべての補正に書かれているか
  • 調べた日付と、統計を使う場合の調査名・調査時点が書かれているか
  • 見直し条件(時期、指標、次の案)が書かれているか
  • 「確実」など言い切りの表現が入っていないか

項目が決まっていれば、確認する人は一覧に沿って見るだけで済み、担当者も提出前に自分で点検できます。

確認の段階を分ける

すべての提案を同じ重さで確認する必要はありません。例えば、前回の募集家賃から大きく変える場合や、入居中の家賃の見直しを含む場合は上長が確認し、前回と同じ条件で再募集する場合は担当者の点検だけにする、といった分け方が考えられます。どの基準で分けるかは会社ごとに決め、文書にしておきます。

オーナーへの説明の順番を決める

説明の順番(結論、3案、根拠、見直し条件、決めてもらうこと)を決めておくと、電話でも面談でも説明の抜けが減ります。提案書のひな形と同じ順番にしておくと、オーナーも資料を追いやすくなります。

早くしても省かない確認

時間を短くするために省いてはいけない確認もあります。

  • 言い切らない:宅地建物取引業法47条の2第1項は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為を禁じています。急いで作った提案書ほど「確実」「間違いなく」といった言葉が入りやすいので、見直してください。
  • 考える時間を奪わない:同法施行規則16条の11第1号ロは、正当な理由なく、契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒む行為を挙げています。こちらの準備を早めることと、オーナーに決定を急がせることは別です。
  • 入居中の家賃は協議が前提:入居中の部屋の家賃の見直しは、借地借家法32条や契約書の賃料改定の条項に沿って、入居者との協議を前提に進めます。空室の募集家賃と同じ速さで決められるものではありません。
  • 報告の記録を残す:賃貸住宅管理業法20条と同法施行規則40条1項は、管理受託契約を締結した日から1年を超えない期間ごとに管理業務報告書を交付して説明することを求めています。提案と募集の経過を記録しておくと、報告の材料にもなります。

統計を根拠に添える場合も、調査名と調査時点を確かめる手間は省かないでください。総務省統計局の住宅・土地統計調査は5年ごと、小売物価統計調査(動向編)と消費者物価指数は毎月の公表で、地域の単位も違います。

ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、入金の記録、オーナーへの送金明細を同じ場所で扱えます。賃料査定の機能も、比較物件をそろえる作業の出発点として使えます。どの方法を使う場合も、補正の理由と調べた日付は担当者が書き添えてください。

よくある質問

Q1. まず何から始めればよいですか?

次の数件の提案で、工程ごとの開始日と終了日、待ち時間を記録することから始めてください。時間がかかっている工程が分かれば、どの手順から手をつけるかを決められます。

Q2. 比較表の項目を固定すると、物件ごとの事情が書けなくなりませんか?

固定するのは最低限の項目で、物件ごとの事情は備考欄に書けば足ります。項目がそろっていると、社内の確認でもオーナーへの説明でも、違いが見つけやすくなります。

Q3. 提案を早くすると、査定の質が落ちませんか?

省くのは探す時間、作り直す時間、待つ時間で、比較と補正の考え方は省きません。根拠と見直し条件を書く欄をひな形に入れておけば、急いでいても抜けにくくなります。

Q4. オーナーの返事が遅い場合はどうしますか?

返事を急がせるのではなく、判断に足りない材料がないかを確認します。見直し条件や決めてもらう項目を一覧にして渡すと、オーナーも何を決めればよいかが分かり、返事がしやすくなります。

Q5. 退去が決まる前に準備してもよいですか?

比較物件の確認や前回の募集記録の読み返しは、退去が決まる前から進められます。前もって準備しておくと、退去の連絡を受けてから提案までの日数を短くしやすくなります。部屋の状態の確認は、退去後の立会いで行ってください。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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