敷金・保証金などの預り金は、自社の運転資金とは別の口座で預かり、どのオーナー(どの管理受託契約)のお金かを帳簿ですぐ判別できる状態にしておくことが、賃貸住宅管理業法の分別管理の基本です。礼金は返さない一時金なので扱いが違い、修繕のための積立は、国土交通省の計画修繕ガイドブックにならって長期修繕計画とセットで考えます。この記事では、預り金の区分と台帳、月次の照合、修繕資金の準備と税務の区分を、法令と公的資料をもとに整理します。
敷金・保証金・礼金の違い
3つは名前が似ていますが、返すかどうか、誰のお金として扱うかが違います。
| 名目 | 性質 | 根拠・参考 |
|---|---|---|
| 敷金 | 賃料などの債務を担保するために借主が貸主に預けるお金。終了・明渡しのときに未払の債務を差し引いて返す | 民法第622条の2 |
| 保証金 | 名目が保証金でも、賃料などの債務を担保する目的のものは、民法上は敷金として扱われる | 民法第622条の2(「いかなる名目によるかを問わず」) |
| 礼金 | 返還しない約束で受け取る一時金。担保ではない | 契約書の定めによる |
民法第622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しています。契約書で「保証金」と呼んでいても、担保の目的であれば同じルールで考えます。
税務上の収入の時期
オーナーの不動産所得では、国税庁のタックスアンサーNo.1376によると、礼金・権利金・更新料は、貸す資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日、必要としないものは契約の効力発生の日の収入に計上します。敷金・保証金のうち返還を要しないものは、返還を要しないことが確定した日に収入に計上します。敷引きや償却の定めがある契約では、どの時点で返還不要が確定するかを契約書で確かめ、オーナーの税理士と共有します。
賃貸住宅管理業法の分別管理
賃貸住宅管理業法第16条は、登録を受けた賃貸住宅管理業者に、管理受託契約に基づく管理業務で受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を、自己の固有財産と、他の管理受託契約で受領する金銭とから分別して管理することを求めています。
方法は同法施行規則第36条で決まっています。家賃・敷金などを管理する口座を、自己の固有財産を管理する口座と明確に区分し、かつ、そのお金がどの管理受託契約に係るものかを自己の帳簿(電磁的記録を含む)で直ちに判別できる状態で管理する方法です。
国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」では、家賃等を管理する口座と固有財産を管理する口座を別にした上で、管理受託契約ごとに金銭の出入を区別した帳簿を作成する等により勘定上も分別管理することが求められています。また、どちらか一方の口座に家賃等と固有財産が同時に預け入れられている状態が生じることは差し支えないものの、速やかに移し替えることとされています。
| 要件 | 確かめること |
|---|---|
| 口座の区分 | 預り金の口座と、自社の運転資金の口座が別になっているか |
| 帳簿での判別 | 口座の残高を、管理受託契約(オーナー)ごとの残高に分けて説明できるか |
| 混在の解消 | 管理料の差引きなどで一時的に混ざったお金を、速やかに移し替えているか |
| 引渡し | 管理受託契約で決めた時期と方法で、オーナーに引き渡しているか |
登録が必要になるのは、管理戸数が200戸以上の事業者です(同法第3条第1項ただし書、施行規則第3条)。200戸未満で登録していない会社でも、国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」第10条は、家賃・敷金・共益費その他の金銭を、オーナーに引き渡すまで自己の固有財産と他のオーナーの財産から分別して管理すると定めています。管理受託契約にこの定めがあれば、契約上の義務として同じ管理が求められます。法律の全体像は賃貸住宅管理業法の解説にまとめています。
預り金台帳の作り方
口座を分けるだけでは、オーナーごとの残高は分かりません。施行規則第36条の「帳簿により直ちに判別できる状態」をつくるのが預り金台帳です。1行に1つの入出金を記録し、次の項目を持たせます。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 日付 | 口座に入金・出金された日 |
| 管理受託契約(オーナー) | どのオーナーのお金か |
| 物件・部屋 | 物件名と部屋番号 |
| 入居者 | 支払った人、返す相手 |
| 名目 | 家賃、共益費、敷金、保証金、礼金、修繕の預り金など |
| 入金額・出金額 | 口座の動きと一致させる |
| 保管者 | 管理会社が預かっているか、オーナーに引き渡したか |
| 根拠書類 | 契約書、精算書、送金明細などの所在 |
敷金の扱いは管理受託契約によって異なります。標準管理受託契約書第7条第1項では、管理会社は入居者から代理受領した敷金等を、速やかにオーナーに引き渡すことになっています。この形では、敷金を持っているのはオーナーなので、台帳の「保管者」をオーナーにし、退去時にどこから返すかを決めておきます。
月次の照合の手順
台帳は、口座の残高と合っていて初めて意味を持ちます。月末に次の手順で照合します。
- 預り金口座の月末残高を、通帳や取引明細で確かめる
- 台帳の月末残高(全オーナーの合計)を出し、口座残高と比べる
- 差があれば、入金の名寄せ漏れ、未記帳の出金、管理料の移し替え漏れを順に調べる
- オーナーごとの残高に、マイナスになっているものがないか確かめる(他のオーナーのお金で立て替えている状態になっていないか)
- 照合した日と担当者、差の理由と処理を記録する
賃貸住宅管理業法第20条と施行規則第40条により、登録を受けた管理業者は、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとに、管理業務の実施状況などを記載した管理業務報告書をオーナーに交付して説明します。月次の照合の記録があれば、この報告で預り金の状況を示す資料にもなります。
退去時の敷金の精算
民法第622条の2第1項により、貸主は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき(または借主が適法に賃借権を譲り渡したとき)に、受け取った敷金から未払の債務の額を差し引いた残額を返します。同条第2項により、借主が債務を履行しないときは、貸主は敷金をその弁済に充てられますが、借主から「敷金を充ててほしい」と請求することはできません。
精算では、未払賃料と原状回復費用を分け、原状回復の負担区分は国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)を参照して説明します。台帳には、預かった額、差し引いた額とその内訳、返した額と日付を残します。精算の進め方は原状回復・退去精算の実務で解説しています。
修繕のための資金を計画的に準備する
敷金と並んで相談が多いのが、修繕に備えたお金の準備です。国土交通省の「賃貸住宅管理業者向け計画修繕ガイドブック」は、管理業者がオーナーに計画修繕を提案するための資料です。
計画修繕の進め方
ガイドブックは、計画、点検、検討と調整、実施、記録、計画の見直しの6つのステップを示しています。長期修繕計画は、計画期間、修繕項目、修繕周期、修繕費の順に設定します。計画期間について、ガイドブックは、分譲マンションでは「長期修繕計画作成ガイドライン」を参考に、計画期間が30年以上で大規模な計画修繕が2回以上含まれる計画を作るのが一般的になっていると紹介し、オーナーの経営期間や融資期間などの事情も考えるとしています。修繕項目は設計図書から拾い出すのが基本で、修繕周期はガイドブックに載っている国土交通省のガイドラインや日本賃貸住宅管理協会のマニュアルの目安を参考にします。
資金の準備の方法
| 方法 | ガイドブックの説明 |
|---|---|
| 積立 | 家賃収納口座から定期預金口座に自動で積み立てる積立型の定期預金や、保険・共済の活用 |
| 賃貸住宅修繕共済 | 将来の修繕費を共済掛金として払い込み、修繕工事をしたときに共済金から工事費が支払われる。掛金は経費に算入できる |
| 融資 | 住宅金融支援機構や民間金融機関の賃貸住宅リフォーム融資。条件は金融機関が設定 |
| 修繕資金信託 | 使途を修繕に限った信託商品。オーナーが高齢になったときにも修繕の実施を確保しやすい。信託手数料がかかる |
積立額の目安として、ガイドブックは「建築費の1%を年間の積立額とする」例(建築費1億円なら年100万円)と、「大規模修繕工事費が年間の総家賃収入を超えない程度とする」例を挙げています。また、管理業者が新築時に、管理委託契約とは別に修繕に関する覚書を交わし、修繕資金の積立と修繕工事への使用をオーナーと約束している例も紹介しています。
管理会社がオーナーへの送金から修繕用のお金を差し引いて預かる場合は、家賃や敷金と同じように固有財産と分け、オーナーごとの残高を台帳で判別できるようにしておくのが無難です。預かる目的、払い出しの条件、管理受託契約が終わったときの返し方を、覚書などの書面で決めておきます。
修繕の記録
ガイドブックは、修繕実施期間、工事内容、金額、施工業者名の4点を最低限記録するよう示し、施工業者は複数から見積を取ることを原則としています。修繕工事の見積りについては、改正建設業法と修繕の見積りも参考にしてください。
修繕費と資本的支出の区分
修繕に使ったお金がその年の経費になるかどうかは、修繕費か資本的支出かで変わります。国税庁のタックスアンサー(個人はNo.1379、法人はNo.5402)の主な基準は次のとおりです。
| 区分 | 主な基準 |
|---|---|
| 資本的支出になるもの | 物理的に付け加えた部分、用途変更のための模様替えなど改造・改装に直接要した金額、通常の取替えを超える部分の金額 |
| 修繕費とできるもの | 1つの修理・改良などの金額が20万円未満のとき、おおむね3年以内の周期で行われる修理・改良などのとき |
| 区分が明らかでないもの | 60万円未満のとき、または前年末(法人は前事業年度終了の時)の取得価額のおおむね10%相当額以下のときは修繕費とできる |
区分所有マンションの1室を貸している場合に管理組合へ支払う修繕積立金について、国税庁の質疑応答事例は、原則として実際に修繕等が行われ完了した日の属する年分の必要経費になり、一定の要件を満たす場合には支払期日の属する年分の必要経費に算入して差し支えないとしています。オーナーが自分で積み立てる場合や共済を使う場合の扱いを含め、判断はオーナーの税理士に確かめてもらいます。
記録をまとめて報告に使う
ウルスタくんには、物件・入居者の管理、入金の記録、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)を作る機能があります。入金と送金の記録を物件・部屋ごとに残しておくと、月次の照合やオーナーへの説明の資料を作りやすくなります。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 複数のオーナーの預り金を1つの口座で管理してもよいですか。
施行規則第36条は、預り金の口座と自己の固有財産の口座を明確に区分し、どの管理受託契約のお金かを帳簿で直ちに判別できる状態にすることを求めています。国土交通省の解釈・運用の考え方も、管理受託契約ごとに金銭の出入を区別した帳簿の作成等を求めています。口座の分け方とあわせて、帳簿で判別できる状態を保つことが要点です。
Q2. 管理戸数が200戸未満でも分別管理は必要ですか。
200戸未満で登録していない場合、賃貸住宅管理業法第16条の義務は直接は及びません。ただし、標準管理受託契約書第10条と同じ定めが管理受託契約にあれば、契約上の義務として分別管理が求められます。
Q3. 「保証金」は敷金と違うのですか。
民法第622条の2は、いかなる名目によるかを問わず、賃料などの債務を担保する目的で交付される金銭を敷金としています。保証金という名目でも、担保の目的であれば敷金と同じルールで返還・充当を考えます。
Q4. 礼金はいつオーナーの収入になりますか。
国税庁のタックスアンサーNo.1376では、礼金は、貸す資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日、必要としないものは契約の効力発生の日の収入に計上するとしています。
Q5. 修繕のための積立額はどう決めればよいですか。
国土交通省の計画修繕ガイドブックは、長期修繕計画の修繕費の合計をもとに考える方法のほか、建築費の1%を年間の積立額とする例、大規模修繕工事費が年間の総家賃収入を超えない程度とする例を挙げています。物件ごとの計画をつくり、オーナーと決めます。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」第3条、第16条、第20条
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」第3条、第36条、第40条
- 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」
- e-Gov法令検索「民法」第622条の2
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 国土交通省「賃貸住宅管理業者向け計画修繕ガイドブック」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1376「不動産所得の収入計上時期」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1379「修繕費とならないものの判定」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5402「修繕費と資本的支出の区分」
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。


