顧客管理 / 追客 読了 13分

不動産営業のパイプライン管理|段階の定義・転換率・滞留日数の見方と、顧客情報の利用目的

パイプライン管理は、段階を顧客の行動で確かめられる事実で定義し、件数・転換率・滞留日数を週ごとに見る仕組みです。段階の例、管理表の列、仮の数字での分析、個人情報保護法の利用目的と宅建業法上の追客の注意を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
不動産営業のパイプライン管理|段階の定義・転換率・滞留日数と顧客情報の利用目的
目次

不動産営業のパイプライン管理は、段階を「顧客の行動で確かめられる事実」で定義し、段階ごとの件数・転換率・滞留日数の3つを週ごとに見る仕組みです。顧客の情報を記録して追いかける以上、個人情報保護法17条(利用目的の特定)と21条(取得時の通知・公表、書面で取得するときの明示)に沿って、利用目的を示しておくことも欠かせません。この記事では、賃貸・売買の段階の定義、管理表の列、仮の数字によるボトルネックの見つけ方、追客と個人情報の扱いの注意点を説明します。

パイプライン管理で分かること

パイプラインとは、反響から契約までの段階ごとに、今どの顧客が何人いるかを並べたものです。顧客の一覧を持っているだけでは、次の3つは分かりません。

  • どの段階で顧客が止まっているか(ボトルネック)
  • どの顧客が、どのくらいの日数、同じ段階にとどまっているか(追客の漏れ)
  • 今の顧客の並びから、来月までにどのくらいの契約が見込めるか(売上の見込み)

パイプライン管理は、この3つを週ごとに確かめるための仕組みです。指標の設計そのものは不動産営業のKPI設計で、段階ごとの件数から売上を見込む方法は月次の売上予測の作り方で説明しています。この記事では、その土台になる段階の定義と記録のしかたを扱います。

段階の定義(賃貸・売買)

段階は、担当者の感覚(「見込みが高い」「温度感がある」)ではなく、顧客の行動で確かめられる事実で定義します。事実で決めておけば、誰が入力しても同じ段階になり、担当者どうしの数字を比べられます。

賃貸仲介の段階(例)

段階この段階に入る条件(事実)
反響問い合わせを受け付けた
連絡済み顧客と双方向のやり取りができた(返信・通話)
内見予約内見の日時が決まった
内見済み内見を実施した
申込申込書を受け取った
契約賃貸借契約を締結した
失注顧客が他で決めた、または検討をやめたと分かった(理由を記録)

売買仲介の段階(例)

段階この段階に入る条件(事実)
反響問い合わせを受け付けた
面談希望条件や資金計画を聞き取った
内見済み物件を見学した
購入申込購入の申込書(買付証明など)を受け取った
売買契約売買契約を締結した
決済・引渡し残代金の決済と引渡しが終わった

段階の数は、多すぎると入力が続かず、少なすぎると止まっている場所が分かりません。賃貸なら5〜7段階、売買なら6段階前後を目安に、自社の業務に合わせて決めます。段階を飛ばして進む顧客(内見なしで申込など)がいても、飛ばした段階は空欄のままにし、無理に日付を入れないことにしておきます。

件数・転換率・滞留日数の見方

パイプラインでは、次の3つの数字を見ます。

  • 段階ごとの件数:今、その段階にいる顧客の数。週ごとの増減を見ます。
  • 転換率:ある段階に入った顧客のうち、次の段階に進んだ割合。式は「次の段階に進んだ件数÷その段階に入った件数」です。
  • 滞留日数:その段階に入った日から今日までの日数。式は「今日の日付−その段階に入った日付」です。

3つ目の滞留日数が、少人数の会社では特に役に立ちます。転換率は件数が少ないとぶれますが、滞留日数は顧客1人ごとに出せるため、「申込から10日たっても契約に進んでいない顧客」のように、今週連絡すべき相手がそのまま分かります。

滞留日数の目安は、自社の過去の記録から決めます。たとえば、過去に契約まで進んだ顧客が内見済みの段階にいた日数を並べ、多くの顧客が収まる日数を超えたら確認の対象にする、という決め方です。

仮の数字でボトルネックを探す

仮の数字で計算例を示します

次の数字はすべて説明のための仮の数字で、実在の会社の実績ではありません。賃貸仲介で、ある3か月間に反響が入った顧客の段階ごとの件数が次のようだったとします。

段階件数(仮)前の段階からの転換率
反響300件-
連絡済み240件240÷300=80%
内見予約96件96÷240=40%
内見済み84件84÷96=87.5%
申込30件30÷84=35.7%
契約27件27÷30=90%

この表だけでは、どこが悪いかは決まりません。前の3か月や、前年の同じ時期と比べて、下がった段階を探します。仮に、前の3か月の「連絡済み→内見予約」が50%だったなら、40%への低下がボトルネックの候補です。

候補が見つかったら、その段階にいる顧客の滞留日数を並べます。連絡済みのまま2週間以上止まっている顧客が多ければ、提案する物件が条件に合っていない、内見の日程の提案が遅い、といった原因の仮説が立ちます。仮説を1つ選んで手順を変え、翌月の同じ転換率で確かめます。

反響から連絡済みへの転換率が低い場合は、初回の連絡までの時間を確認します。夜間や休日の反響をどう扱うかを決めていないと、ここが下がりやすくなります。

管理表に入れる列

表計算ソフトで始める場合も、顧客管理の仕組みを使う場合も、最低限次の列があれば、件数・転換率・滞留日数が出せます。

列入れる内容使い道
顧客番号顧客ごとに1つ重複の排除
反響元ポータル、自社サイト、紹介など反響元別の転換率
担当者主担当の名前担当者別の滞留の確認
現在の段階上の定義のどれか1つ段階ごとの件数
各段階に入った日付段階ごとに1列転換率と滞留日数
次の行動と予定日次に何をいつするか追客の漏れ防止
失注の理由決めた選択肢から選ぶ失注の傾向
連絡停止の申出申出の有無と日付追客を止める判断

失注の理由は、自由記述にすると集計できません。「家賃・価格」「立地」「間取り・広さ」「他社で決定」「検討中止」「連絡がとれない」など、5〜8個の選択肢を決め、当てはまらないものだけ備考に書きます。

ウルスタくんの顧客管理では、顧客ごとの情報を一覧で管理できます。段階や日付を項目として記録する運用にしておくと、表計算ソフトで手集計するより、担当者が入力した内容をそのまま週次の確認に使えます。

顧客情報を追うときの個人情報保護法

パイプライン管理は、顧客の氏名、連絡先、希望条件、収入や勤務先などの情報を記録し、繰り返し使うことが前提です。個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)の次の規定を押さえておきます。

利用目的をできる限り特定する(17条)

17条1項は、個人情報を取り扱うに当たって、利用の目的をできる限り特定しなければならないとしています。2項は、利用目的を変更する場合は、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えてはならないとしています。

不動産仲介なら、たとえば「お問い合わせいただいた物件や、ご希望の条件に合う物件のご案内のため」「賃貸借契約・売買契約の締結と、その後の手続きのため」のように、何に使うかが本人に分かる書き方にします。失注した顧客に、後日ほかの物件を案内するつもりなら、それが利用目的に含まれているかを確認します。

利用目的の範囲を超えて使わない(18条)

18条1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないとしています。たとえば、賃貸の問い合わせで得た連絡先を、利用目的に入っていない別事業の案内に使う場合は、本人の同意が必要になります。

取得したときに通知・公表する。書面で受け取るときは先に明示する(21条)

21条1項は、個人情報を取得した場合は、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知し、または公表しなければならないとしています。自社サイトのプライバシーポリシーなどで利用目的を公表しておくのが一般的な対応です。

21条2項は、契約書その他の書面に記載された本人の個人情報を本人から直接取得する場合は、あらかじめ本人に利用目的を明示しなければならないとしています。入居申込書や購入申込書、問い合わせフォームの入力画面に利用目的を書いておくのは、このためです。

正確さ、安全管理、第三者への提供(22条・23条・27条)

  • 22条:利用目的の達成に必要な範囲内で個人データを正確かつ最新の内容に保ち、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければなりません。長く動きのない顧客の扱いを決めておく根拠になります。
  • 23条:個人データの漏えい、滅失、毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。管理表を誰が見られるか、持ち出しをどう制限するかを決めておきます。
  • 27条:原則として、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはなりません。ただし、利用目的の達成に必要な範囲内で取扱いの全部または一部を委託することに伴って提供する場合、提供を受ける者は第三者に該当しないものとされています(5項1号)。

個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、これらの規定の解釈と具体例を示しています。利用目的の書き方に迷ったら、ガイドラインの該当箇所を確認してください。

追客を止める基準と宅地建物取引業法

パイプラインで滞留日数を見ると、連絡の回数を増やしたくなります。ただし、宅地建物取引業法47条の2第3項を受けた同法施行規則16条の11第1号は、相手方が契約を締結しない旨の意思を表示したにもかかわらず勧誘を継続すること(ニ)、迷惑を覚えさせるような時間に電話し、または訪問すること(ホ)、深夜または長時間の勧誘などで私生活や業務の平穏を害して困惑させること(ヘ)を禁じています。

管理表の「連絡停止の申出」の列は、このための欄です。顧客が断った、または連絡しないでほしいと言った日付を記録し、その顧客は追客の対象から外します。滞留日数の確認リストに、この顧客が出てこないようにしておくと、うっかり連絡してしまうことを防げます。

売主から専任媒介契約を受けている物件では、宅地建物取引業法34条の2第9項により、業務の処理状況を2週間に1回以上(専属専任媒介契約では1週間に1回以上)報告しなければなりません。買主側のパイプライン(反響数、内見数、購入申込の状況)は、この報告の材料にもなります。

週次・月次の見直し手順

  1. 毎日:段階が変わったら、その日に日付を入れる。次の行動と予定日を更新する。
  2. 週次:段階ごとの件数を前週と比べる。滞留日数が目安を超えた顧客を担当者ごとに並べ、次の行動を決める。連絡停止の申出がある顧客は外す。
  3. 月次:段階ごとの転換率を出し、前の期間と比べて下がった段階を1つ選ぶ。失注の理由を集計する。
  4. 四半期:段階の定義に迷った例をまとめ、定義を決め直す。長く動きのない顧客の扱いを見直す。

このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。

よくある質問

Q1. 段階の確度(見込みの%)は付けたほうがよいですか?

付けるなら、担当者の感覚ではなく、自社の過去の記録から出した段階ごとの成約率を使います。感覚で付けた確度は人によって違い、合計しても見込みになりません。出し方は月次の売上予測の作り方で説明しています。

Q2. 表計算ソフトで十分ですか?

担当者が少なく、入力のルールが守られているうちは十分です。担当者が増えて同時に編集する場面が多くなったり、閲覧できる人を分けたくなったりしたら、顧客管理の仕組みに移すことを考えます。個人情報保護法23条の安全管理措置の観点でも、誰が見られるかを分けられることは大切です。

Q3. 失注した顧客の情報はいつまで残してよいですか?

法律で一律の期間は決まっていません。22条は、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めることを求めています。利用目的に照らして、いつまで使うかを社内で決めておきます。契約に至った顧客の記録は、宅地建物取引業法などで保存が求められる書類と分けて考えます。

Q4. 管理会社や保証会社に申込者の情報を渡すときは、本人の同意が必要ですか?

個人情報保護法27条は、原則として本人の同意なしの第三者提供を禁じています。申込書に提供先と提供する目的を記載し、同意を得ておく方法があります。委託に当たるかどうかなど、判断に迷う場合は、個人情報保護委員会のガイドラインやQ&Aを確認してください。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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