顧客管理 / 追客 読了 14分

不動産営業のKPI設計|反響→内見→申込→契約の転換率の式と、数字を顧客や社員への圧力にしない運用

不動産営業のKPIは、反響→内見→申込→契約の段階ごとの件数と転換率に分け、売上目標から逆算して設計します。段階の定義、転換率の式、仮の数字による逆算例、指標の絞り方と、宅建業法47条の2・労働基準法にもとづく運用上の注意を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
不動産営業のKPI設計|反響・内見・申込・契約の転換率の式と、圧力にしない運用の注意
目次

不動産営業のKPIは、反響数→内見数→申込数→契約数の段階ごとの件数と転換率に分け、「売上=反響数×内見率×申込率×契約率×1件あたり報酬」から逆算して設計します。契約件数だけを追うと、数字が動いたときにはもう手を打てません。この記事では、段階の定義、転換率の式、仮の数字による逆算の例、少人数の会社で見るべき指標の絞り方、そして数字が顧客や社員への圧力に変わらないための法令上の注意(宅地建物取引業法47条の2、労働基準法32条・36条など)を順に説明します。

契約件数だけでは足りない理由

月末に契約件数を集計して「今月は目標に届かなかった」と分かっても、その月の売上はもう変えられません。賃貸仲介でも、反響が入ってから内見、申込、審査、契約までには日数がかかります。契約件数は、数週間前の反響と対応の結果です。

そこでKPIを、結果の指標(契約件数・売上)と、その手前で動く指標(反響数、内見数、申込数、各段階の転換率)に分けます。手前の指標は週単位で動くため、契約件数が落ちる前に原因の段階をつかめます。

もう1つの理由は、原因の切り分けです。契約件数が減ったとき、反響そのものが減ったのか、反響は来ているのに内見につながっていないのか、内見はしているのに申込が出ないのかで、打つ手はまったく違います。段階ごとに数字を持っていれば、この切り分けが会議の場ですぐにできます。

段階の定義を先に決める

KPI設計で最初にやるのは、指標を選ぶことではなく、段階の定義を決めることです。「内見」を予約の時点で数える担当者と、実施した時点で数える担当者が混ざると、転換率は比べられません。定義は次のように、誰が見ても同じ数になる事実で決めます。

段階数える基準(例)決めておくこと
反響問い合わせを受け付けた顧客(同じ人の重複は1件)同じ顧客が別の物件で再度問い合わせたときの扱い
内見内見を実施した顧客(予約ではなく実施)1人が複数物件を見た日は1件と数えるか
申込申込書を受け取った顧客審査で否決・取り下げになった場合の扱い
契約賃貸借契約(売買なら売買契約)を締結した顧客契約後の解約・キャンセルを差し引くか

単位は「物件」ではなく「顧客」にそろえるのが扱いやすい方法です。1人の顧客が3件内見しても、契約は1件だからです。物件ごとの反響を見たいときは、別の指標として持ちます。

売買仲介は、段階に「面談」「購入申込(買付)」「決済」などが加わります。賃貸と売買は、段階も期間も違うため、KPIの表は分けて作ります。

転換率の式と売上からの逆算

転換率の式

各段階の転換率は、次の式で出します。

  • 内見率=内見数÷反響数
  • 申込率=申込数÷内見数
  • 契約率=契約数÷申込数
  • 反響からの契約率=契約数÷反響数=内見率×申込率×契約率

売上は「反響数×内見率×申込率×契約率×1件あたり報酬」で表せます。かけ算なので、どの率を同じ割合だけ上げても、契約件数への効き方は同じです。違いは、上げるための手段とコストです。反響数を増やすには広告費がかかり、率を上げるには対応の手順や物件提案の見直しが必要です。

同じ月の数字で割るか、同じ反響を追いかけるか

簡単なのは、その月の内見数をその月の反響数で割る方法です。ただし、月末に入った反響は翌月に内見することが多く、月をまたぐと率がぶれます。より正確に見たいときは、「9月に入った反響のうち、その後内見まで進んだ顧客」のように、同じ反響のまとまりを追いかけて率を出します。少人数の会社では、まず同じ月で割る方法で始め、月ごとのぶれが大きいと感じたら追いかける方法に切り替えれば十分です。

仮の数字で計算例を示します

次の数字はすべて説明のための仮の数字で、実在の会社の実績ではありません。賃貸仲介で、月の仲介売上を2,100,000円にしたいとします。

1件あたり報酬は、仮に70,000円とします。なお、貸借の媒介で受け取れる報酬は、国土交通省の報酬告示(第四)で、貸主・借主の双方から受け取る合計が借賃1か月分の1.1倍以内と決まっています。居住用の建物では、依頼の時点で依頼者の承諾を得ている場合を除き、一方から受け取れるのは借賃1か月分の0.55倍以内です。1件あたり報酬の想定は、この上限の範囲で、自社の取引の型に合わせて置きます。

段階転換率(仮)必要な件数
契約-2,100,000円÷70,000円=30件
申込契約率90%30件÷0.9=33.3件→34件
内見申込率40%34件÷0.4=85件
反響内見率30%85件÷0.3=283.3件→284件

月284件の反響が見込めないなら、売上目標を下げるか、どこかの率を上げる計画が必要です。たとえば内見率を30%から35%に上げられれば、必要な反響は85件÷0.35=242.9件、つまり243件まで下がります。この計算をしておくと、「反響を増やす」「内見につなげる」「申込を後押しする」のどれに力を入れるかを、数字で話し合えます。

逆に、率の目標を高くしすぎると、無理な勧誘や長時間労働で数字を埋めようとする動きが出ます。率の目標は、自社の過去6か月〜1年の実績を出発点に、少しずつ上げるのが現実的です。

見る指標の絞り方

指標を増やすほど、入力と集計の手間が増え、会議で何を決めるのかがぼやけます。少人数の会社では、次の3種類から1〜2個ずつ、合わせて5〜6個程度に絞るのが扱いやすい方法です。

種類指標の例見るときの注意
件数(量)反響数、内見数、申込数、契約数反響数は広告や物件数に左右される。担当者個人の評価だけに使わない
率(質)内見率、申込率、契約率件数が少ない月は1件で大きく動く。数か月分をまとめて見る
時間(速さ)反響から初回連絡までの時間、反響から内見までの日数営業時間外の反響をどう数えるかを決めておく

選ぶときの基準は、「その数字が悪かったとき、来週の行動を変えられるか」です。たとえば「反響から初回連絡までの時間」は、受付の手順や担当の割り振りで変えられます。一方、「市場全体の反響数」は自社では変えられないため、KPIではなく参考情報として扱います。

また、担当者ごとの比較に使う指標と、チーム全体で見る指標は分けます。反響の割り振りに偏りがあると、担当者ごとの件数は本人の努力と関係なく差が出ます。担当者ごとに見るなら、件数より率や時間のほうが公平です。

KPIは、行き過ぎると顧客への無理な勧誘や、社員の長時間労働につながります。設計の段階で、次の法令に触れる行動を数字で後押ししていないかを確認します。

顧客への勧誘:宅地建物取引業法47条の2

宅地建物取引業法47条の2第1項は、契約の締結の勧誘をするときに、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供することを禁じています。第2項は、契約を締結させるため、または申込みの撤回や解除を妨げるために、相手方を威迫することを禁じています。

第3項を受けた宅地建物取引業法施行規則16条の11第1号は、勧誘に際しての禁止行為として、次のようなものを挙げています。

  • 正当な理由なく、契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと(ロ)
  • 相手方が契約を締結しない旨の意思を表示したにもかかわらず、勧誘を継続すること(ニ)
  • 迷惑を覚えさせるような時間に電話し、または訪問すること(ホ)
  • 深夜または長時間の勧誘その他の私生活または業務の平穏を害するような方法により困惑させること(ヘ)

「内見当日の申込率」や「申込から契約までの日数」に強い目標を置くと、顧客に考える時間を与えない勧誘を招くおそれがあります。率のKPIを置くときは、あわせて「顧客が断った案件は追客を止め、その日付を記録する」「申込の撤回や取り下げの件数も一緒に見る」といったルールを決めておきます。

広告:宅地建物取引業法32条

反響数をKPIにすると、反響を集めやすい広告に頼りたくなります。宅地建物取引業法32条は、広告で、所在や規模、環境・交通などの利便、代金・借賃などについて、著しく事実に相違する表示や、実際のものよりも著しく優良・有利であると誤認させる表示を禁じています。反響数は、成約済み物件の掲載停止や表示内容の確認といった広告の点検とセットで見ます。

社員の労働時間:労働基準法32条・36条・37条

労働基準法32条は、休憩時間を除き1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないとしています。これを超えて働かせるには、36条の労使協定(36協定)の締結と届出が必要です。36条4項は、延長できる時間の限度を原則として1か月45時間、1年360時間としています。特別な事情がある場合も、36条6項により、時間外労働と休日労働の合計は1か月100時間未満、2〜6か月の平均で80時間以内でなければなりません。時間外労働には37条の割増賃金がかかります。

「反響から30分以内に連絡」のような時間のKPIは、営業時間外や休日の対応を事実上求める形になりがちです。営業時間外に入った反響は翌営業日の始業から数える、休日は当番を決めて労働時間として扱う、といったルールを先に決めておきます。

部下への指導:パワーハラスメントの防止

未達の担当者への指導も注意が必要です。厚生労働省の指針は、パワーハラスメントの「過大な要求」に当たると考えられる例として、新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責することを挙げています。数字を使った部下指導の進め方は、KPIを使ったマネージャー育成で詳しく説明しています。

週次・月次の運用手順

  1. 入力のルールを決める。段階が進んだ日に、その日付を顧客ごとに記録します。週末にまとめて入力すると、日付がずれて時間の指標が使えなくなります。
  2. 週次で件数と時間を見る。週1回、反響数・内見数・申込数と、初回連絡までの時間を確認します。前週や前年同週と比べ、大きく動いた段階だけを話し合います。
  3. 月次で率を見る。率は件数が少ないとぶれるため、月単位、または直近3か月の合計で見ます。
  4. 原因の段階を1つに絞る。落ちている段階が複数あっても、次の1か月で手を打つのは1つに絞ります。
  5. 四半期ごとに定義と目標を見直す。段階の定義に迷う例が出たら、その場で決めて記録します。目標は実績を見て決め直します。

段階ごとの日付を残すには、顧客の一覧に「反響日」「内見日」「申込日」「契約日」「反響元」の列があれば足ります。ウルスタくんの顧客管理のような顧客の一覧に段階と日付を記録しておくと、週次の件数を数える手間が減ります。段階の管理表の作り方は営業パイプラインの段階管理で、段階ごとの件数から月の売上を見込む方法は月次の売上予測の作り方で説明しています。集客費用とのつながりは顧客獲得コストの計算式を参照してください。

このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。

よくある質問

Q1. KPIの目標値は、業界の平均を使ってもよいですか?

出典のはっきりしない平均値は、取り扱う物件の種類や地域、反響元が違えば当てはまりません。まず自社の過去6か月〜1年の実績を段階ごとに出し、それを基準に目標を置くほうが、社員にも説明しやすくなります。

Q2. 件数が少なく、率が毎月大きくぶれます。

直近3か月の合計で率を出すと、ぶれが小さくなります。少人数の会社では、率は傾向をつかむために使い、月ごとの評価には件数と時間の指標を使う、という分け方も有効です。

Q3. 担当者ごとのKPIを給与や賞与に結びつけてもよいですか?

結びつけること自体はできますが、反響の割り振りの偏りなど、本人が動かせない要素が数字に入ることに注意が必要です。歩合給を設けるときの労働基準法上の注意は歩合給・インセンティブ設計で説明しています。

Q4. 売買仲介も同じ式で設計できますか?

考え方は同じです。ただし、段階(面談、購入申込、売買契約、決済など)が多く、反響から契約までの期間も長いため、率は四半期や半年の単位で見ます。売買の媒介で受け取れる報酬の上限も、報酬告示の第二で別に決まっています。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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