解約したオーナーへのウィンバック(再提案)は、解約時の引継ぎを丁寧に終え、連絡してよいかの意向と、自社の改善が実際に済んでいるかを確かめてから始めるのが基本です。日数がたったから連絡する、という進め方では信頼を取り戻せません。この記事では、再提案の手順と接点の作り方に加えて、賃貸住宅管理業法の契約終了時の扱い、個人情報の利用目的、特定電子メール法の同意など、連絡の前に確かめておくルールを整理します。
ウィンバックは解約時の引継ぎから始まる
解約されたオーナーが、もう一度相談してくれるかどうかは、解約の手続きをどれだけきちんと終えたかに左右されます。引継ぎで書類が足りない、入居者への案内が遅れた、といったことがあると、再提案の機会そのものがなくなります。まず、契約終了時にやるべきことを条文で確かめておきます。
管理受託契約書に書かれている解除・解約の定め
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)第14条は、管理受託契約を結んだときに委託者へ交付する書面の記載事項として、契約期間に関する事項や、契約の更新または解除に関する定めがあるときはその内容を挙げています。解約の申入れがあったら、まずこの書面で、申入れの期限や方法がどう定められているかを確かめます。
国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」では、契約終了に関わる条文が次のように置かれています。
| 条文 | 内容の要旨 | ウィンバックとの関係 |
|---|---|---|
| 第20条(契約の解除) | 相手方が本旨に従った履行をしない場合、相当の期間を定めて催告し、履行がなければ解除できる | 解除の理由が履行の問題なら、その点が直っていない限り再提案は難しい |
| 第21条(解約の申入れ) | 少なくとも○か月前に文書で申し入れることで契約を終了できる。委託者は○か月分の管理報酬相当額を払えば随時終了できる | 申入れの受付から終了日までの対応が、相手の最後の印象になる |
| 第22条(契約終了時の処理) | 物件に関する書類と、契約に関して保管する金員を引き渡し、家賃等の滞納状況を報告する | 引渡しの漏れは、後からの信頼回復を難しくする |
| 第23条第2項(入居者への対応) | 契約が終了したときは、委託者と管理業者が入居者に対し、遅滞なく管理業務が終了したことを通知する | 入居者からの問い合わせ先が混乱しないようにする |
標準管理受託契約書の「○か月」は、当事者が決める空欄です。自社の契約書の数字を確かめてください。引渡しの際は、渡した書類と金員の一覧を作り、オーナーに受領の確認をもらっておくと、後で説明に困りません。
解約理由は、その場で丁寧に聞いて記録する
解約の申入れを受けたときに、理由を聞いて記録しておきます。理由が分からないまま再提案しても、相手の不満に答えられません。聞き方は「今後の改善のために教えていただけますか」と目的を伝え、答えたくない場合は無理に聞かないようにします。あわせて、解約後にお知らせを送ってよいかどうかも、この時点で確認しておきます(理由は次の章で説明します)。
連絡の前に確かめる3つのルール
業務上知り得た秘密を漏らさない(賃貸住宅管理業法第21条)
賃貸住宅管理業法第21条は、賃貸住宅管理業者は正当な理由がある場合でなければ、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならず、管理業者でなくなった後も同様と定めています。従業者についても、業務を補助したことについて知り得た秘密を漏らしてはならず、従業者でなくなった後も同様です。解約したオーナーの物件の入居状況や収支を、ほかのオーナーへの営業材料に使うことは避けます。
個人情報は利用目的の範囲で使う(個人情報保護法第17条・第18条・第21条)
個人情報保護法第17条第1項は、個人情報の利用目的をできる限り特定することを、第18条第1項は、あらかじめ本人の同意を得ないで利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないことを定めています。第21条第1項は、個人情報を取得した場合、あらかじめ利用目的を公表しているときを除き、速やかに本人に通知または公表すること、第3項は利用目的を変更した場合も通知または公表することを求めています。
解約したオーナーに再提案の連絡をする前に、自社のプライバシーポリシーなどで公表している利用目的に「サービスのご案内」のような目的が入っているかを確かめます。入っていなければ、本人の同意を得るか、利用目的の扱いを見直す必要があります。個人オーナーの連絡先は、ほとんどの場合に個人情報に当たります。
メールで案内するなら同意を得る(特定電子メール法第3条・第4条)
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)第2条第2号は、営利を目的とする団体などが、自己または他人の営業について広告または宣伝を行うための手段として送る電子メールを「特定電子メール」としています。再提案の案内メールは、これに当たると考えられます。
第3条第1項は、あらかじめ送信に同意した者など、同項各号に当たる者以外に特定電子メールを送ってはならないと定めています。第3号には「広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者」がありますが、解約して契約が終わった相手がこれに当たるかは、事情によって判断が分かれる可能性があります。解約時に「今後お知らせを送ってよいか」を確かめ、同意を得ておくほうが分かりやすい運用です。第3条第2項は、同意を得た送信者に、同意を証する記録の保存を求めています。
あわせて、第3条第3項は送信しないよう求められた場合にその意思に反して送ってはならないこと、第4条は送信者の氏名または名称や、送信停止の連絡先などを表示することを定めています。案内メールの末尾に、配信停止の方法を書いておきます。
連絡時期は、相手の意向と改善状況で決める
再提案の時期は、日数だけで決めるものではありません。次の2つがそろったときに、初めて連絡を検討します。
- 相手が連絡を受けてもよいと言っている(解約時の確認、またはその後の確認)
- 解約理由に対する自社の改善が、実際に済んでいる
反対に、次のような場合は連絡を控えます。連絡しないでほしいと言われた、引継ぎで問題が残っている、解約理由に対する改善がまだ済んでいない、などです。控える条件を先に決めておくと、担当者ごとに判断が揺れません。
90日・180日・365日で接点を作る運用例
次の表は、節目を決めて接点を作る手順の例です。日数に根拠があるわけではなく、自社で振り返りやすい区切りとして置いています。効果は自社の記録で確かめてください。
| 節目 | やること | 連絡を控える条件 |
|---|---|---|
| 引継ぎ完了直後 | 引継ぎの完了報告とお礼のみ。営業の話はしない | 引継ぎに未了の項目がある |
| 90日前後 | 引継ぎ後に困っていることがないかを聞く。今後の連絡の可否を確かめる | 解約時に連絡不要と言われている |
| 180日前後 | 解約理由に関わる改善が済んでいれば、その内容を短く伝える | 改善が済んでいない。連絡の同意がない |
| 365日前後 | 管理の見直しの予定があるか、相談の意向を尋ねる | 90日・180日の連絡で断られている |
解約理由別に、再提案の材料を変える
同じ案内を全員に送っても、相手の解約理由に答えていなければ響きません。理由ごとに用意する材料を変えます。
| 解約理由 | 用意する材料 | 伝え方の注意 |
|---|---|---|
| 管理料などの費用への不満 | 管理業務の範囲と料金の内訳、送金明細の見本 | 値下げだけを打ち出さない。何が含まれるかを示す |
| 対応の遅さ | 問い合わせの受付方法、担当の体制、連絡の目安 | 実際に運用している仕組みだけを書く |
| 担当者との相性 | 担当を変えられるかどうか、複数人で見る体制 | 前の担当者を批判しない |
| 空室が埋まらない | 募集の方法(募集図面、業者間の流通、掲載先)、条件見直しの提案の手順 | 成約を約束しない |
| 売却・相続など所有方針の変化 | 新しい所有者への案内の可否、売却時の相談窓口 | 相手の事情に踏み込みすぎない |
報告の質が理由だった場合は、賃貸住宅管理業法第20条が管理業者に求める、委託者への定期報告の内容を見直す材料にもなります。報告書の見本を用意できれば、改善を具体的に示せます。
避けたい3つのアプローチ
- 済んでいない改善を約束する。「次は対応を早くします」と言っても、仕組みが変わっていなければ同じことが起きます。済んだ改善だけを伝えます。
- 断られたのに連絡を重ねる。メールなら特定電子メール法第3条第3項に反するおそれがあり、電話や郵送でも関係を悪くします。断られた記録を全員が見られるようにします。
- 今の管理会社を批判し、値引きだけで迫る。相手の判断を否定することになり、比較の材料にもなりません。自社の業務内容を示すことに集中します。
再提案の前にそろえる4つの材料
- 解約理由の記録(いつ、誰が聞いたか、本人の言葉で)
- その理由に対して済ませた改善の内容
- 再契約する場合の業務範囲と条件
- 今の管理会社からの引継ぎの手順(書類、預り金、入居者への通知)
再契約する場合は、新しい管理受託契約になります。賃貸住宅管理業法第13条は、管理受託契約を結ぶ前に、契約の内容と履行に関する事項を書面を交付して説明することを求めています(相手の承諾を得て電磁的方法で提供することもできます)。以前の契約と同じ内容でも、説明の手続きを省かないようにします。
Excel・顧客管理で記録する項目
ウィンバックの効果を振り返るには、段階ごとの記録が必要です。次の項目を1オーナー1行で管理します。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 解約日・解約理由 | 本人の言葉で。複数あればすべて |
| 連絡の可否 | 電話・郵送・メールそれぞれの可否と、同意を得た日・方法 |
| 引継ぎの完了日 | 書類・金員の引渡しと受領確認の日 |
| 接点の記録 | 日付、方法、話した内容、相手の反応 |
| 改善の状況 | 解約理由に対応する改善が済んだ日 |
| 結果 | 相談あり・再契約・辞退・連絡停止 |
振り返るときは「接点を作った人数」「相談につながった人数」「再契約した人数」を段階ごとに数えます。仮の数字で計算例を示します。対象20人のうち相談が4人、再契約が1人なら、相談の割合は20%、再契約の割合は5%です。数字は対象の選び方や期間で大きく変わるため、他社の数字と比べるより、自社の前年と比べるほうが役に立ちます。
ウルスタくんの顧客管理を使うと、オーナーごとの接点の記録や連絡の可否を担当者間で共有できます。再契約になった場合も、物件・入居者の管理やオーナーへの送金明細を同じ仕組みで扱えるため、引継ぎの段取りを組みやすくなります。
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このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. 解約したオーナーに、すぐ連絡してもよいですか。
引継ぎの完了報告とお礼は問題ありませんが、その段階で再提案をするのは避けたほうがよいと考えます。相手の意向と、自社の改善が済んでいるかを確かめてから連絡します。
Q2. 解約したオーナーに案内メールを送るのに同意は要りますか。
広告・宣伝のメールは特定電子メール法の特定電子メールに当たり、第3条第1項各号に当たる相手にしか送れません。解約後も取引関係にあるといえるかは判断が分かれる可能性があるため、解約時に同意を得て、その記録を保存しておく運用をおすすめします。
Q3. 解約したオーナーの物件情報を、別のオーナーへの提案に使ってもよいですか。
賃貸住宅管理業法第21条は、業務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らすことを禁じ、管理業者でなくなった後も同様としています。個人情報保護法の利用目的の制限(第18条)も関わるため、使わないのが無難です。
Q4. 再契約するときも重要事項説明は必要ですか。
新しく管理受託契約を結ぶ場合は、賃貸住宅管理業法第13条の説明と、第14条の書面交付が必要になります(第13条は、相手が賃貸住宅管理業者など法令で定める者の場合を除いています)。以前の契約と同じ条件でも、手続きを省かないでください。
Q5. 再契約の割合はどのくらいを目標にすればよいですか。
一般に確かめられる基準の数字はありません。対象の選び方や期間で変わるため、自社の記録で段階ごとの割合を出し、前年と比べて判断します。
出典(本文で参照している資料)
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)第13条・第14条・第20条・第21条
- 国土交通省 賃貸住宅標準管理受託契約書
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索)第17条・第18条・第21条
- 個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)
- 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索)第2条・第3条・第4条
この記事は2026年10月7日時点の情報です。