賃貸管理ソフトの比較は、順位表よりも「自社の業務と法令上の記録を回せるか」「やめるときにデータを持ち出せるか」を先に確かめるのが近道です。機能や料金は各社が随時変えるため、この記事では製品の順位や料金は載せず、比べる観点、見積もりで聞く質問、データの書き出し、個人情報の委託、契約期間の確認点を整理します。なお、筆者が代表を務めるウルスタ株式会社も、賃貸管理の機能を持つ製品を提供しています。
この記事で順位や料金を載せない理由
賃貸管理ソフトの料金や機能は、プランの改定やオプションの追加で変わります。比較記事に書かれた料金が、読む時点の公式ページと違っていることもあります。また、筆者の会社は賃貸管理の機能を持つ製品を提供しているため、他社製品に点数をつけると公平さを保てません。
そこでこの記事では、どの製品を検討する場合にも使える確認の手順を示します。製品を挙げる場合は、公式ページに書かれていることと確認した日付だけを載せます。
比べる観点と関係する法令
まず、自社で毎月発生する作業(入金の確認、オーナーへの送金、更新の案内など)と、法令で残すことが求められる記録を書き出します。賃貸住宅管理業の登録を受けている会社には、賃貸住宅管理業法で帳簿、分別管理、定期報告などが求められます。ソフトがこれらの記録を作りやすいかは、比べる観点の中心になります。
| 観点 | 確かめること | 関係する法令 |
|---|---|---|
| 物件・契約の台帳 | 建物、部屋、入居者、契約期間、更新日、保証会社などを1件ずつ持てるか。更新が近い契約を一覧にできるか | 業務の土台 |
| 入金と滞納 | 入金の記録、未入金の一覧、督促の履歴を残せるか | 業務の土台 |
| 家賃等の分別管理 | オーナーごと、契約ごとに入出金を区別して表示できるか | 賃貸住宅管理業法16条、施行規則36条 |
| オーナーへの送金 | 管理料や修繕費を差し引いた送金明細を作れるか | 管理受託契約の報酬の定め(14条) |
| 帳簿 | 委託者の名称、契約年月日、対象の賃貸住宅、受託した業務の内容、報酬の額、特約などを記録し、紙に表示できるか | 18条、施行規則38条 |
| 定期報告 | 報告の対象期間、管理業務の実施状況、苦情の発生状況及び対応状況をまとめられるか | 20条、施行規則40条 |
| 書類と電子化 | 重要事項説明書や契約書を作れるか。電磁的方法で提供するときの承諾を記録できるか | 賃貸住宅管理業法13条2項、宅建業法35条8項 |
| 権限と操作記録 | 担当者ごとに見られる範囲を分けられるか。誰がいつ何を変えたかが残るか | 個人情報保護法23条 |
| 募集と業者間の流通 | 募集図面の作成や物件情報の公開が台帳とつながるか | 業務の範囲による |
帳簿は、施行規則38条により各事業年度の末日で閉鎖し、閉鎖後5年間保存します。パソコンのファイル等に記録し、必要に応じて紙面に表示できるときは、その記録で帳簿に代えられます。定期報告は、施行規則40条により、管理受託契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとに、及び契約期間の満了後遅滞なく行います。どちらも、ソフトの画面で見られるだけでなく、必要なときに出力できるかを確かめます。
すべての観点で高い点を取る製品を探すより、毎月の作業と法令上の記録の両方を、手作業を増やさずに回せるかで見るほうが選びやすくなります。
試用で確かめる手順
無料の試用やデモがある場合は、候補の製品すべてに同じ条件のデータを入れて比べます。手順の例です。
- 仮のデータを用意します。例として、仮の建物2棟、部屋10室、オーナー2人、入居者8人(空室2室)とし、うち1件は更新月が近い契約、1件は家賃の一部だけ入金された状態にしておきます。
- 台帳を登録し、登録にかかった手順と、迷った箇所を記録します。
- 1か月分の入金を記録し、未入金の一覧を出します。
- オーナー2人分の送金明細を、管理料と修繕費を差し引いて作ります。
- 定期報告に必要な項目(対象期間、実施状況、苦情の状況)を出せるかを見ます。
- 全データを書き出し、表計算ソフトで開けるかを確かめます。
同じデータで試すと、画面の分かりやすさだけでなく、手作業で補う部分がどこに残るかが見えてきます。実際の入居者の個人情報を試用の環境に入れる前に、後の章の「個人情報の委託」の確認を済ませておきます。
見積もりで聞く質問と総額の考え方
月額料金だけで比べると、後から費用が増えることがあります。見積もりの段階で、次の質問を文書で確認しておきます。
- 料金の単位は何か(管理戸数、利用者数、拠点数、機能ごとなど)。戸数が増えたときに料金はどう変わるか。
- 初期費用に含まれるもの(設定、データ移行、操作説明)と含まれないもの。
- オプション機能の内容と、その料金の条件。
- 最低契約期間、自動更新の有無、途中で解約するときの条件。
- 料金を改定するときの通知の時期と方法。
- 問い合わせの受付方法と受付時間。
- 解約時にデータを書き出せる形式、期限、費用。
- 保守や障害で使えなくなるときの連絡方法。
総額の計算例
仮の数字で計算例を示します。初期費用10万円、月額2万円、オプションが月額5,000円で、5年間使う場合の総額は、10万円+(2万円+5,000円)×60か月=160万円です。比べるときは、この総額に、契約期間の途中で戸数が増えた場合の差額と、解約時の書き出し費用も足して見ます。月額が安くても、初期費用や移行の費用が大きければ、総額の順番は入れ替わります。
データの書き出しと移行
賃貸管理ソフトを入れ替えるときに手間がかかりやすいのが、データの移行です。導入する前に「やめるときにどう持ち出すか」を確かめておくと、将来の選択肢が狭まりません。
書き出しで確かめること
- 物件、部屋、入居者、契約、入金、送金の各データを、表計算ソフトで開ける形式で書き出せるか。
- 契約書や写真などの添付ファイルも、まとめて取り出せるか。
- 入金や対応の履歴など、過去の記録も書き出せるか。
- 書き出しを自社の担当者がいつでも行えるか、提供会社への依頼が必要か。
移行の前に今のデータを整える
今の台帳を移すときは、住所の書き方、部屋番号の表記、契約期間の書き方、オーナー名の表記ゆれなどを先にそろえます。移行の費用はデータの量や状態で変わり得るため、整えた後のサンプルを渡して見積もりを取ると、話が具体的になります。表計算ソフトからの移行の進め方は、表計算ソフトからの移行の記事も参考にしてください。
移行してしばらくは、旧来の台帳と新しいソフトの両方で1か月分の入金と送金を処理し、結果を突き合わせる方法もあります。送金額がずれた場合に、どちらのデータが正しいかを確かめられます。
個人情報の委託で確認すること
クラウド型のソフトに入居者やオーナーの情報を入れる場合、個人情報保護法の安全管理措置と委託先の監督を考える必要があります。23条は、個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを求めています。25条は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合に、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を求めています。
クラウドサービスの利用が「委託」に当たるかどうかの考え方は、個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&Aで示されています。どちらに当たる場合でも、自社が扱う個人データについて安全管理措置を講じる必要があることは変わりません。確認する項目の例です。
- 提供会社が個人データにアクセスする場面(保守、問い合わせ対応など)と、その範囲を定めた契約条項。
- データの保存場所と、再委託先の有無。
- 担当者ごとのアクセス権限、二段階認証、操作記録。
- 漏えい等が起きたときの連絡の方法と時期。
- 解約後のデータの削除の方法と、その確かめ方。
賃貸住宅管理業者には、業務上知り得た秘密を守る義務もあります(賃貸住宅管理業法21条)。従業者も同じで、辞めた後も続きます。ソフトの権限設定は、この義務を守るための仕組みの一つとして考えます。
契約期間と解約の条件
申し込む前に、利用規約と契約書で次の条項を読みます。
| 条項 | 確認すること |
|---|---|
| 契約期間と更新 | 最低利用期間、自動更新の有無、更新の単位 |
| 解約 | 解約の申し出の期限と方法、途中解約の費用 |
| 料金の改定 | 改定の通知時期、改定に同意しない場合の扱い |
| データの扱い | 入力したデータを誰がどう使えるか、解約時の返却と削除 |
| 停止と責任 | 保守や障害で止まる場合の扱い、提供会社の責任の範囲 |
| 再委託 | 提供会社が業務を外部に出す場合の扱い |
解約の申し出期限は、自動更新と組み合わさると、乗り換えの時期を逃す原因になります。契約日と申し出の期限を、社内の予定表に入れておきます。
公式ページで確認できた製品の例
参考として、2026年10月7日に公式ページを開いて確認できた製品の例を挙げます。並び順は順位ではありません。ここに挙げていない製品も多くあります。料金や機能の詳細は、検討する時点で各社の公式ページと見積もりで確かめてください。
| 製品名 | 公式ページ | 公式ページの記載(2026年10月7日確認) |
|---|---|---|
| リドックス(ReDocS) | theredocs.com | 「クラウド賃貸管理ソフト・不動産管理ソフト」として紹介。物件情報管理、契約者情報管理、家賃管理、更新管理、解約管理、オーナー精算の機能が掲載。運営はBambooboy株式会社と記載 |
| 賃貸革命10 | n-create.co.jp | 「賃貸物件総合管理システム」として紹介。物件管理、契約管理、問合せ・修繕管理、家賃管理、会計連動などの機能が掲載 |
ウルスタくんは、この記事を出しているウルスタ株式会社の製品です。自社製品のため、上の表には入れていません。賃貸管理に関わる機能として、物件・入居者の管理、更新が近い契約の一覧、入金の記録、オーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)、賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類と電子サイン、募集図面(マイソク)、業者間流通(ウルスタBB)、お部屋探しサイト(ヘヤスタ)、顧客管理があります。検討する場合も、この記事の観点と質問を同じように当てはめてください。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
この記事では料金を載せていませんが、各社の公式ページの料金を確認した日と出典つきで並べた表は「賃貸管理ソフトの料金を公式ページで比べる【2026年10月】|月額・初期費用・1年目の総額」にまとめています(筆者の会社の製品を含みます)。
よくある質問
Q1. 無料の賃貸管理ソフトや表計算ソフトでも足りますか
管理戸数と業務の範囲によります。賃貸住宅管理業の登録を受けている場合は、帳簿、分別管理、定期報告の記録を作れるかが判断の基準になります。表計算ソフトでも記録は作れますが、契約ごとの報告期限やオーナーごとの入出金を追う手間は戸数とともに増えます。どの道具でも、データを書き出せるか、見られる人を限れるかは確かめておきます。
Q2. 比較サイトのランキングはどう使えばよいですか
候補の製品を知る入口として使えます。ただし、掲載の料金や機能は確認した時点の情報で、掲載の条件(広告かどうか)もサイトによって違います。候補を絞ったら、公式ページと見積もりで最新の内容を確かめます。
Q3. 乗り換えの時期はいつがよいですか
決まった正解はありませんが、入居の申込みや更新が重なる時期を避け、旧来の台帳と並行して動かせる期間を取れる時期が向いています。今の契約の解約の申し出期限から逆算して、移行の作業を始める日を決めます。
Q4. 帳簿は紙で残す必要がありますか
施行規則38条2項により、帳簿の事項をパソコンのファイル等に記録し、必要に応じて営業所等で紙面に表示できるときは、その記録で帳簿に代えられます。保存期間は、各事業年度の末日で閉鎖してから5年間です。
出典(本文で参照している資料)
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(e-Gov法令検索):13条、14条、16条、18条、20条、21条
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則(e-Gov法令検索):36条、38条、40条
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索):35条8項
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索):23条、25条
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A
- リドックス(ReDocS)公式サイト(2026年10月7日確認)
- 賃貸革命10 製品ページ(2026年10月7日確認)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。