賃貸管理 読了 15分

管理会社の物件別原価計算|収入・工数・外注費の記録と共通費の配賦のしかた

物件別の採算は、自社の収入、担当者の作業時間、自社負担の外注費、共通費の配賦の4つを同じ基準で記録すると見えてきます。家賃は預り金で収入ではない点、配賦基準で赤字の幅が変わる計算例、賃貸住宅管理業法の帳簿・定期報告との関係を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
管理会社の物件別原価計算|収入・工数・外注費の記録と共通費の配賦
目次

管理会社の物件別原価計算は、物件ごとに「自社の収入」「担当者の作業時間」「自社負担の外注費などの直接支出」「共通費の配賦」の4つを記録し、同じ基準で数か月続けて比べると、採算の合わない物件とその理由が見えてきます。家賃や敷金は預り金で自社の収入ではないため、最初にオーナーの収支と自社の収支を分けて考えることが出発点です。この記事では、記録の欄、時間単価の出し方、仮の数字での計算例、月次の確認手順、賃貸住宅管理業法の帳簿・定期報告との関係を説明します。

最初に、誰の収支を調べるかを決める

「物件別の収支」という言葉は、2つの意味で使われます。1つはオーナーから見た物件の収支(家賃収入から管理料や修繕費を引いたもの)、もう1つは管理会社から見た物件ごとの採算(管理料などの報酬から、その物件にかかった自社の費用を引いたもの)です。この記事で扱うのは後者です。

2つを混ぜると、家賃の入金が多い物件ほど自社がもうかっているように見えてしまいます。賃貸住宅管理業法16条は、管理業務で受け取る家賃、敷金、共益費などを、自社の固有財産や他の管理受託契約の金銭と分けて管理することを求めています。施行規則36条は、その方法として、家賃等を管理する口座を自社の固有財産の口座と明確に分け、どの管理受託契約の金銭かが帳簿ですぐ分かる状態にすることを定めています。

国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」は、家賃等を管理する口座にその月の家賃をいったん全額入れ、そこから自社の口座に管理報酬分を移し替える等の方法に触れています。原価計算で「収入」に入れるのは、この移し替える管理報酬のように、自社が受け取る報酬だけです。

記録するのは、収入・作業時間・直接支出・共通費

物件別の採算は、次の4つの要素で整理します。

要素内容記録のもと
収入その物件から自社が受け取る報酬管理受託契約、送金明細、請求書
作業時間担当者がその物件のために使った時間作業記録、対応履歴
直接支出その物件のためだけに自社が負担した費用請求書、経費精算
共通費事務所家賃、システム利用料など、物件に分けられない費用会計の帳簿

収入に入れるもの、入れないもの

区分例扱い
入れる月々の管理料、契約で定めた更新事務などの手数料、その物件の仲介で受け取った報酬自社の収入として物件ごとに記録する
入れない家賃、敷金、共益費預り金。オーナーへの送金の記録で管理する
入れないオーナー負担の修繕費を自社が立て替えた分立替金。オーナーに請求し、送金額から差し引く記録で管理する

仲介の報酬を入れるかどうかは、目的によって決めます。管理の採算だけを見たいなら別の欄に分け、物件との取引全体を見たいなら合算します。どちらにするかを決めて、毎月同じ扱いにすることが大切です。

作業時間の分類

作業時間は、物件名と作業の種類を記録します。賃貸住宅管理業法2条2項は、管理業務を、賃貸住宅の維持保全(点検、清掃その他の維持と必要な修繕)を行う業務と、それと併せて行う家賃・敷金・共益費などの金銭の管理を行う業務と定めています。これに、管理受託契約で引き受けている入居者対応や募集などを加えて、次のように分けると集計しやすくなります。

  • 維持保全(巡回、点検の立会い、修繕の手配と確認)
  • 金銭の管理(入金の確認、督促、送金明細の作成)
  • 入居者対応(問い合わせ、苦情、退去の立会い)
  • 募集・契約(募集図面、申込みの審査、契約書類)
  • オーナー対応(報告、相談、提案)

時間は15分単位などの大まかな区切りで構いません。物件をまたぐ作業(巡回で複数の物件を回るなど)は、移動を含めた合計時間を訪問した物件の数で割るなど、決まりを1つ決めておきます。

直接支出は「誰が負担したか」で分ける

外注費は、自社が負担したものと、オーナーに請求するものを分けます。たとえば管理料の範囲で自社が手配している清掃は自社負担、オーナーの承諾を得て発注した修繕はオーナー負担です。オーナー負担の費用を自社の原価に入れると、その物件の採算が実際より悪く見えます。

共通費の配賦

事務所家賃やシステム利用料、事務員の人件費など、どの物件のためか分けられない費用は、一定の基準で各物件に割り振ります。これを配賦といいます。基準には主に次の3つがあります。

配賦の基準向いている場合注意点
戸数物件ごとの手間が似ている場合手間のかかる物件の費用が小さく見える
作業時間作業時間を記録している場合記録漏れがあると配賦もずれる
収入記録の手間を減らしたい場合管理料の高い物件ほど費用が多く割り振られる

どの基準が正しいということはありません。大事なのは、基準を1つ決めて、数か月は変えないことです。途中で基準を変えると、月ごとの比較ができなくなります。

作業時間をお金に直す時間単価

作業時間を原価にするには、1時間あたりの人件費(時間単価)を決めます。時間単価は、担当者の給与だけでなく、会社が負担する社会保険料なども含めた年間の人件費を、年間の実際の労働時間で割って出します。

仮の数字で計算例を示します。

項目金額・時間
年間の人件費(給与と会社負担分の合計)4,500,000円
年間の労働時間1,800時間
時間単価4,500,000円÷1,800時間=2,500円

担当者ごとに時間単価を出すと細かくなりすぎるため、最初は全員の平均で1つの単価を使い、慣れてきたら職種ごとに分ける程度で十分です。

架空の計算例で、数字の意味を確認する

仮の数字で計算例を示します。3つの物件を管理していて、ある月の共通費が36,000円だったとします。時間単価は上の2,500円を使います。

戸数で配賦した場合

3物件の合計は36戸なので、共通費は1戸あたり1,000円になります。

項目物件A(20戸)物件B(10戸)物件C(6戸)
管理料(収入)50,000円30,000円15,000円
作業時間8時間4時間6時間
人件費(時間×2,500円)20,000円10,000円15,000円
自社負担の外注費5,000円0円3,000円
共通費の配賦(戸数)20,000円10,000円6,000円
差し引き5,000円10,000円−9,000円

作業時間で配賦した場合

同じ月を、作業時間で配賦し直します。作業時間の合計は18時間なので、共通費は1時間あたり2,000円です。

項目物件A物件B物件C
共通費の配賦(時間)16,000円8,000円12,000円
差し引き9,000円12,000円−15,000円

どちらの基準でも物件Cは赤字ですが、赤字の幅は変わります。配賦の基準を変えるだけで数字が動くため、基準を固定して比べることが必要です。また、配賦前の段階(管理料から人件費と外注費を引いた額)でも、物件Cは15,000円−15,000円−3,000円=−3,000円で、共通費を割り振る前から赤字です。こうした物件は、配賦の基準ではなく作業の中身を見直す対象になります。

1か月だけの結果で判断しないことも大切です。退去や修繕の月は作業時間が増えます。少なくとも数か月分を並べ、繁忙期と閑散期の両方を含めて見ます。

月次で確認する順番

毎月、次の順番で確認すると、記録漏れや二重計上に気づきやすくなります。

  1. 収入の確認: 管理受託契約の管理料と、実際に自社の口座へ移した報酬が一致しているかを物件ごとに見る。
  2. 預り金との区別: 家賃・敷金・立替金が収入の欄に入っていないかを見る。
  3. 作業時間の確認: 記録がない担当者や、物件名が空欄の作業がないかを見る。
  4. 外注費の確認: 自社負担とオーナー負担の区分が請求書と合っているかを見る。
  5. 共通費の配賦: 決めた基準で配賦し、合計が会計の帳簿の共通費と一致するかを見る。
  6. 比較: 前月や前年同月と並べ、大きく動いた物件の理由をメモに書く。

配賦した共通費の合計が帳簿と合わない場合は、どこかで計算が漏れています。この照合を毎月の最後に入れておくと、集計の誤りを早く見つけられます。

賃貸住宅管理業法の帳簿・定期報告との関係

物件別の原価計算は法律で求められているものではありませんが、賃貸住宅管理業法で求められている記録と重なる部分があります。

法令の定め内容原価計算との関係
分別管理(法16条、規則36条)家賃等の口座を固有財産の口座と分け、どの契約の金銭か帳簿ですぐ分かるようにする預り金と自社の収入を分ける土台になる
帳簿(法18条、規則38条)委託者ごとに、契約年月日、対象の賃貸住宅、受託した管理業務の内容、報酬の額などを記載。事業年度末で閉鎖し、閉鎖後5年間保存。電子データでの記録も可物件ごとの収入(報酬の額)と業務の範囲を確かめるもとになる
定期報告(法20条、規則40条)契約を結んだ日から1年を超えない期間ごと、および契約期間の満了後遅滞なく、報告の対象期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況と対応状況を記載した管理業務報告書を交付して説明する作業時間の記録が、実施状況や苦情対応の報告の材料になる

国土交通省の「解釈・運用の考え方」は、帳簿に記載する管理業務や定期報告で報告する管理業務について、法2条2項の管理業務に限らず、管理受託契約で定める委託業務の内容も含めることが望ましいとしています。作業時間を業務の種類ごとに記録しておけば、こうした報告の準備にも使えます。

なお、住宅の貸付けの家賃は、国税庁タックスアンサーNo.6226のとおり、原則として消費税が非課税です(貸付期間が1か月未満の場合などを除く)。オーナーの収支と自社の収支を同じ表で扱うと、税込と税抜が混ざりやすくなります。自社の原価計算では、収入も費用も税抜か税込のどちらかにそろえておきます。

結果の使い方と注意点

物件別の採算が分かったら、赤字の物件をすぐに手放すのではなく、理由を分けて考えます。

  • 作業時間が多い理由が、特定の入居者の対応や建物の不具合など一時的なものか、毎月続くものか。
  • 管理受託契約の業務範囲に含まれない作業を、無償で引き受けていないか。
  • 外注費の区分が正しいか。オーナー負担の費用を自社負担にしていないか。
  • 作業の手順を変えれば時間を減らせるか(巡回の回り方、連絡の方法など)。

オーナーに管理料や業務範囲の見直しを相談するときは、作業の記録と管理受託契約の業務範囲を並べて示すと、話が具体的になります。採算の数字だけを示すより、どの作業にどれだけ時間がかかっているかを示すほうが、オーナーにも理由が伝わりやすくなります。

そのまま記入できる月次シート

表計算ソフトで、1行を1物件として次の欄を作ります。

欄書く内容
物件名・戸数配賦に戸数を使う場合は戸数も
管理料その月に自社の収入になった額
その他の報酬更新事務などの手数料。仲介の報酬は別欄にするか決めておく
作業時間業務の種類ごとの時間と合計
人件費作業時間×時間単価
自社負担の外注費請求書の番号も書いておく
配賦前の差し引き収入−人件費−外注費
共通費の配賦決めた基準で計算した額
差し引き配賦前の差し引き−共通費の配賦
メモ退去、修繕、苦情など、数字が動いた理由

「配賦前の差し引き」と「差し引き」を両方残しておくと、赤字の原因が物件の作業にあるのか、共通費の割り振り方にあるのかを分けて見られます。

ウルスタくんでは、物件・入居者の管理、入金の記録、管理料・修繕費を差し引いたオーナーへの送金明細の作成ができます。物件ごとの管理料や立替の修繕費が送金明細に残るため、収入の欄を埋めるときや、預り金と自社の収入を分けて確かめるときの記録のもとになります。作業時間や共通費の配賦は、上のシートなどで別に記録してください。

あわせて読みたい記事: 賃貸管理の1戸あたり採算の計算方法、オーナー向け月次レポートの作り方

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 小さな会社でも物件別の原価計算は必要ですか。

法律で求められているものではありません。ただ、管理する物件が増えると、どの物件に手間がかかっているかを感覚だけでつかむのは難しくなります。まずは作業時間の記録だけを1〜2か月続け、物件ごとの時間の偏りを見るところから始めると負担が小さく済みます。

Q2. 作業時間の記録を担当者が嫌がる場合はどうしますか。

15分単位の大まかな記録でよいことにし、目的が物件の採算を見るためで、個人の評価のためではないことを最初に伝えます。記録の欄を物件名と業務の種類だけに絞ると続けやすくなります。

Q3. 共通費の配賦基準はどれを選べばよいですか。

作業時間を記録しているなら作業時間、記録していないなら戸数が分かりやすい選択です。どれを選んでも、数か月は変えずに比べることが大切です。計算例のように、基準によって赤字の幅が変わる点は理解しておきます。

Q4. 家賃の入金額を収入に入れてはいけないのはなぜですか。

家賃・敷金・共益費は、管理業務で受け取ってオーナーに渡す預り金で、自社の収入ではないためです。賃貸住宅管理業法16条と施行規則36条は、これらを自社の固有財産と分けて管理することを求めています。原価計算の収入には、管理料などの自社の報酬だけを入れます。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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