顧客管理 / 追客 読了 14分

顧客獲得コスト(CAC)の計算式|不動産会社の広告費・人件費の按分と、報酬上限から見る採算

不動産会社の顧客獲得コストは「集客費用(広告費+按分した人件費など)÷新規契約数」で出し、1件で受け取れる報酬の上限と並べて判断します。費用の集め方、按分、仮の数字による計算例、宅建業法46条と報酬告示による上限との比べ方を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
顧客獲得コスト(CAC)の計算式|不動産会社の広告費・人件費の按分と報酬上限で見る採算
目次

不動産会社の顧客獲得コスト(CAC)は「期間中の集客費用(広告費+按分した人件費など)÷同じ期間の新規契約数」で出し、1件で受け取れる報酬の上限と並べて採算を判断します。仲介の売上は宅地建物取引業法46条と国土交通省の報酬告示で上限が決まっているため、CACが上限に近いチャネルは、件数が増えても利益が残りません。この記事では、費用の集め方、按分のしかた、仮の数字による計算例、報酬上限との比べ方を順に説明します。

顧客獲得コスト(CAC)とは

CACはCustomer Acquisition Costの略で、新しい顧客を1件獲得するためにかかった費用です。不動産会社では、先に「顧客1件」の単位を決めておかないと、数字が月ごとにぶれます。

事業顧客1件の単位(例)主な売上
賃貸仲介賃貸借契約の成約1件貸主・借主から受け取る仲介報酬
売買仲介売買契約の成約1件売主・買主から受け取る仲介報酬
賃貸管理管理受託契約1件(オーナー1人または1棟)毎月の管理料

管理受託は、1件の中に含まれる戸数が物件ごとに違います。「1契約あたり」と「1戸あたり」の両方で出しておくと、規模の違う物件どうしを比べやすくなります。

反響1件あたりの費用(反響単価)とは別の数字です。反響単価が安くても、成約まで進む割合が低ければCACは高くなります。ポータルの管理画面で見える反響単価だけで判断しないことが、この計算の出発点です。

費用に入れるもの・入れないもの

CACの分子には、新しい顧客を獲得するために使った費用を入れます。既存の入居者やオーナーへの対応にかかった費用は入れません。

費用入れるか扱い方
ポータルサイトの掲載料入れる月額固定でも、その月の集客費用として全額入れる
自社サイトの検索広告など入れる実際にかかった額
チラシ・看板・DM入れる制作費と配布費の合計
紹介への謝礼入れる支払った額。支払ってよいか、いくらまでかは別途確認する
反響対応・案内・申込から契約までの人件費入れる業務時間の割合で按分する
顧客管理や物件入力のツール費入れてもよい集客に使う割合で按分する。入れたかどうかを集計表に書いておく
既存の入居者・オーナー対応の人件費入れない管理業務の原価として別に集計する

ポータル掲載料は「固定費だから外す」としない

月額の掲載料は成約件数に関係なく出ていくため、固定費として販管費にまとめてしまいがちです。しかし集客のための支出であることは変わりません。CACから外すと、ポータル経由の顧客が実際より安く見えます。

人件費は時間の割合で按分する

少人数の会社では、同じ担当者が反響対応、案内、契約、入居者対応、オーナー対応を兼ねています。そこで、担当者の人件費のうち、新規獲得に使った時間の割合だけをCACに入れます。

1時間あたりの人件費は「(年間の給与+賞与+会社が負担する社会保険料など)÷年間の総労働時間」で出します。時間の割合は、1〜2週間だけ業務日報で「反響対応」「案内」「契約事務」「既存対応」に分けて記録すれば、目安がつきます。毎日、分単位で記録する必要はありません。

計算式と仮の数字による計算例

基本の式は次のとおりです。

CAC=(広告費+紹介への謝礼+按分した人件費+按分したツール費)÷同じ期間の新規契約数

チャネル(ポータル、自社サイト、紹介など)ごとに出すときは、そのチャネルに直接かかった広告費に、人件費を反響件数や対応時間で割り振って足します。

仮の数字で計算例を示します

次の数字はすべて説明のための仮の数字で、実在の会社の実績ではありません。賃貸仲介の1か月分を想定します。

項目金額・件数(仮)
ポータル掲載料300,000円
自社サイトの検索広告50,000円
新規獲得に使った人件費(200時間×1時間あたり2,500円)500,000円
費用の合計850,000円
新規の成約20件

会社全体のCACは、850,000円÷20件=42,500円です。

次にチャネル別に分けます。反響はポータル経由120件・自社サイト経由30件、成約はポータル経由14件・自社サイト経由6件とします。人件費500,000円を反響件数の割合で割り振ると、ポータルが400,000円、自社サイトが100,000円です。

チャネル広告費按分した人件費成約CAC
ポータル300,000円400,000円14件50,000円
自社サイト50,000円100,000円6件25,000円

反響の件数ではポータルが自社サイトの4倍ありますが、1成約あたりの費用ではポータルが2倍かかっています。この差が受け取れる報酬と比べてどうなのかを、このあとの章で見ます。

なお、人件費を反響件数で割り振るのは簡便な方法です。あるチャネルの顧客ほど案内の回数が多い、といった傾向があるなら、案内件数や対応時間で割り振るほうが実態に近づきます。

売上の上限は宅建業法46条と報酬告示で決まる

宅地建物取引業法46条1項は、売買・交換・貸借の代理や媒介で受け取れる報酬の額を国土交通大臣が定めるとし、2項で「前項の額をこえて報酬を受けてはならない」としています。この額を定めたのが、国土交通省の告示「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号)です。現在の内容は令和6年7月1日から施行されています。

以下の金額は、いずれも消費税等相当額を含んだ上限です(課税事業者の場合)。

売買・交換の媒介(告示第二)

依頼者の一方から受け取れる報酬は、代金(消費税等相当額を含まない額)を3つの部分に分けて計算し、合計します。

代金の部分割合
200万円以下の部分5.5%
200万円を超え400万円以下の部分4.4%
400万円を超える部分3.3%

代金が400万円を超える場合、この合計は「代金×3.3%+66,000円」と同じ額になります。たとえば代金2,000万円なら、110,000円+88,000円+528,000円=726,000円です。

低廉な空家等の特例(告示第七)

代金が800万円以下の宅地・建物(告示では「低廉な空家等」と呼びます)の売買・交換の媒介では、媒介に要する費用を勘案して、上の計算額を超えて報酬を受け取れます。ただし、依頼者から受け取る額は30万円の1.1倍(330,000円)が上限です。国土交通省は、媒介契約を結ぶときにあらかじめ、上限の範囲内で報酬額を依頼者に説明し、合意しておく必要があるとしています。

貸借の媒介(告示第四)

貸主・借主の双方から受け取れる報酬の合計は、借賃1か月分の1.1倍以内です。居住用建物の場合、依頼者の一方から受け取れる額は、媒介の依頼を受けるときに依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃1か月分の0.55倍以内です。

長期間使われていない空家等の貸借の媒介(告示第九)では、借主から受け取る額が上の範囲に収まっていることを条件に、媒介に要する費用を勘案して、双方の合計で借賃1か月分の2.2倍まで受け取れる特例があります。

「広告料」の扱い(告示第十一)

告示第十一は、第二から第十までの規定によるほかは報酬を受け取れないとしたうえで、ただし書で「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」を例外にしています。名目を「広告料」にすれば上限の外で受け取れる、という書き方ではありません。依頼者から頼まれた広告で、その料金に相当する額かどうかが基準です。受け取る場合は、どの広告の費用なのかを依頼者と書面で確認しておくと、後で説明がつきます。

管理料は告示の対象外

報酬告示は、売買・交換・貸借の代理と媒介についての定めです。賃貸管理の管理料は、オーナーとの管理受託契約で決まります。管理のCACは、毎月の管理料から管理にかかる原価を引いた残りで回収していく、と考えます。

CACと報酬上限を並べて採算を見る

賃貸仲介:CACが受け取れる報酬を超えていないか

仮の数字で計算例を示します。家賃70,000円の居住用物件の媒介で、貸主・借主のどちらからも承諾を得ていない場合、受け取れる上限はそれぞれ38,500円(70,000円×0.55)、双方で77,000円です。

先ほどの例で、ポータル経由のCACは50,000円でした。借主からしか報酬を受け取れない取引だと、上限38,500円に対してCACが50,000円なので、1件ごとに11,500円足りません。貸主からも受け取れる取引なら、77,000円−50,000円=27,000円が残ります。ここから成約後の書類作成や鍵の手配などにかかる時間を引いたものが、1件の利益です。

このように、同じCACでも「誰から、いくら受け取れる取引か」で結論が変わります。チャネル別のCACは、取引の型(貸主・借主のどちらから受け取るか、居住用か事業用か)ごとに分けて見ると、判断を誤りにくくなります。

売買仲介:期間を長めにとって集計する

売買は1件の報酬が大きい一方、問い合わせから成約までの期間が長く、案内や調査の時間もかかります。代金2,000万円の物件で売主から受け取れる上限が726,000円だとしても、成約まで数か月かかれば、その間の人件費が積み上がります。売買のCACは月単位ではなく、四半期や半年など、成約までの期間を含む長さで集計します。

管理受託:回収期間で見る

仮の数字で計算例を示します。新しい管理受託1件(10戸)を獲得するまでに、広告費と営業の人件費で300,000円かかったとします。毎月の管理料が30,000円、その物件の管理にかかる人件費などの原価が18,000円なら、毎月残るのは12,000円です。CACを回収するには、300,000円÷12,000円=25か月かかります。

回収期間が、管理受託契約が続く期間より長ければ、獲得するほど赤字が増える計算になります。継続期間は、自社の解約の記録から出してください。他社の数字を当てはめても、自社の判断材料にはなりません。

計算でよくある間違い

  • 反響単価をCACと呼んでしまう。反響単価は成約率を含みません。成約1件あたりで比べます。
  • 人件費を入れない。案内や対応に時間がかかるチャネルほど、広告費だけのCACは実態より低く出ます。
  • 費用と成約の期間がずれる。今月の広告費が来月の成約につながることがあります。売買は特に、長めの期間で集計します。
  • キャンセルを差し引かない。申込み後のキャンセルや短期の解約を成約に数えると、CACが低く見えます。報酬を受け取った件数で数えるのが確実です。
  • 全社平均だけを見る。平均の中に、採算の合うチャネルと合わないチャネルが混ざっています。

集計を始める手順

  1. 顧客1件の単位と、集計の期間を決める。
  2. 反響ごとに「どこから来たか」を、受付のときに1項目だけ記録する。
  3. 広告費を、月ごと・チャネルごとに会計の数字から集める。
  4. 2週間だけ業務時間を分けて記録し、人件費の按分割合を決める。
  5. チャネル別・取引の型別にCACを出し、受け取れる報酬の上限(管理なら毎月の粗利)と並べる。
  6. 3か月ごとに見直し、按分割合は年に1〜2回決め直す。

反響元の記録は、ウルスタくんの顧客管理のような顧客の一覧に、問い合わせごとの項目として残しておくと、チャネル別の成約数を数える手間が減ります。費用の側は会計の数字から月ごとに拾ってください。1件ごとの粗利まで出す方法は案件別の採算管理で、営業担当者の歩合給とつなげるときの法令上の注意は歩合給・インセンティブ設計で説明しています。

このテーマの全体像は「不動産CRM完全ガイド|6サービス比較と導入手順」にまとめています。

よくある質問

Q1. 顧客獲得コストはどのくらいなら適正ですか?

一律の目安はありません。1件で受け取れる報酬の上限(管理なら回収期間)と比べて判断します。他社の数字より、自社の取引の型ごとの数字を優先してください。

Q2. 人件費を入れると計算が面倒です。広告費だけでもよいですか?

最初は広告費だけでも構いません。ただし、案内や対応に時間がかかるチャネルほど、広告費だけのCACは実態より低く出ます。按分割合を年に1〜2回決め直す程度の手間で、精度はかなり上がります。

Q3. 貸主から受け取る広告料は売上に入れてよいですか?

実際に受け取った額は売上に入れて採算を見ます。ただし、受け取れるかどうかは告示第十一のただし書(依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額)に当たるかで決まります。名目だけで判断せず、どの広告の費用かを依頼者と確認してください。

Q4. 居住用の賃貸で、借主から1か月分(1.1倍)を受け取ることはできますか?

告示第四は、媒介の依頼を受けるときに依頼者の承諾を得ている場合を除き、一方から受け取れる額を借賃1か月分の0.55倍以内としています。双方の合計は1.1倍以内です。承諾をいつ、どのように得たかは記録に残してください。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

実務に役立つコラムを、週1回メールで

賃貸管理・反響対応・法改正の記事を、月曜の朝を目安にお届けします。無料。いつでも解除できます。登録の前に、確認のメールを1通お送りします。