案件ごとの採算は「売上(仲介報酬・管理料など)−その案件の直接費−按分した広告費−按分した人件費」で出し、仲介の売上には宅地建物取引業法46条による報酬の上限があることを前提に見ます。会社全体の粗利率だけでは、どの型の案件が利益を削っているかが分かりません。この記事では、売上と原価の拾い方、按分のルール、仮の数字による計算例、集計表の列の作り方を説明します。
1件ごとに採算を見る理由
決算書の粗利は、利益が出た案件と出なかった案件を合計した結果です。合計が黒字でも、その中に手間ばかりかかって利益が残らない型の案件が混ざっていることがあります。
仲介の売上は、取引額や家賃から上限が決まっています。上限のある売上に対して、案内の回数や調査の手間は案件ごとに大きく違います。同じ「成約1件」でも、残る利益は案件の型によって変わります。
1件ごとに出す目的は、担当者を責めることではありません。どの型の案件にどれだけ手間がかかっているかを知り、受け方や進め方を変えるための材料にすることです。
売上の側:何をいくら計上するか
| 売上の種類 | 決まり方 | 上限 |
|---|---|---|
| 売買・交換の媒介報酬 | 媒介契約で定める | 報酬告示第二(代金400万円超なら代金×3.3%+66,000円と同じ額)。代金800万円以下は告示第七の特例で330,000円まで |
| 貸借の媒介報酬 | 依頼者との合意 | 双方の合計で借賃1か月分の1.1倍。居住用は、依頼を受けるときに承諾を得ていなければ一方から0.55倍まで(告示第四) |
| 広告料 | 依頼者の依頼による広告 | 告示第十一ただし書。その広告の料金に相当する額 |
| 管理料 | 管理受託契約で定める | 報酬告示の対象外 |
表の金額は、消費税等相当額を含んだ上限です(課税事業者の場合)。仲介報酬の上限は、宅地建物取引業法46条1項に基づいて国土交通大臣が定め、同条2項は「前項の額をこえて報酬を受けてはならない」としています。また、同法47条2号は「不当に高額の報酬を要求する行為」を禁じています。採算が悪いからといって上限を超えて請求することはできないので、改善の手は原価の側で考えることになります。
売買・交換の媒介契約書には、報酬に関する事項を書くことになっています(同法34条の2第1項7号)。採算表では、媒介契約書の報酬額と実際の入金額の両方を記録しておくと、値引きの有無と金額が分かります。
低廉な空家等の特例を使うとき
代金800万円以下の宅地・建物の売買・交換の媒介では、媒介に要する費用を勘案して、告示第二の計算額を超えて報酬を受け取れます。上限は30万円の1.1倍(330,000円)です。国土交通省は、媒介契約を結ぶときにあらかじめ、上限の範囲内で報酬額を依頼者に説明し、合意する必要があるとしています。案件ごとの採算表は、特例を使うかどうかを考える材料にもなります。
原価の側:直接費と按分する費用
原価は、その案件のためだけに使った「直接費」と、複数の案件で共有している費用を割り振る「按分費」に分けます。
| 費用 | 区分 | 割り振り方 |
|---|---|---|
| その物件だけの広告(チラシ、有料の掲載枠など) | 直接費 | 全額をその案件へ |
| 写真撮影・図面作成の外注 | 直接費 | 全額をその案件へ |
| 登記事項証明書などの取得費、調査の交通費 | 直接費 | 全額をその案件へ |
| ポータルの月額掲載料 | 按分費 | その月の反響件数や成約件数で割る |
| 担当者の人件費 | 按分費 | 案件にかかった時間×1時間あたりの人件費 |
| 事務所家賃・システム費 | 粗利には入れない | 販管費として会社全体で見る |
ポータル掲載料は反響件数で割るのが基本
月額の掲載料をその月の成約件数で割ると、成約しなかった反響にかかった費用まで成約案件が負担することになり、成約の少ない月ほど1件あたりの広告費が大きく出ます。反響件数で割れば、反響1件あたりの費用が出るので、それを各案件に載せます。どちらの方法でも構いませんが、採算表の目的は案件の型どうしの比較なので、一度決めた方法は途中で変えないことを優先します。
1時間あたりの人件費の出し方
1時間あたりの人件費=(年間の給与+賞与+会社が負担する社会保険料など)÷年間の総労働時間
全員分を個別に出すのが手間なら、営業担当者の平均で構いません。個人の給与が分かる形で社内に出したくない場合も、平均の単価を使えば済みます。
時間の記録は「作業ごとの標準時間×回数」で足りる
分単位の記録は長く続きません。「案内1回は移動を含めて1.5時間」「重要事項説明と契約で3時間」のように、作業ごとの標準時間を決めて、回数を数える方法が現実的です(時間は仮の例です)。標準時間は年に1回、何件かの実際の時間と比べて直します。
計算式
案件粗利=売上(報酬・広告料など)−直接費−按分した広告費−(作業時間×1時間あたりの人件費)
案件粗利率=案件粗利÷売上
管理受託は1回きりの取引ではなく毎月続くため、月単位で見ます。
1か月あたりの管理粗利=管理料−(その物件の対応時間×1時間あたりの人件費)−その物件の外注費のうち会社の負担分
仮の数字による計算例
仮の数字で計算例を示します。ここからの数字はすべて説明のための仮の数字で、実在の会社の実績ではありません。1時間あたりの人件費は3,000円とします。
賃貸仲介(居住用)の1件
家賃80,000円の物件で、貸主と借主からそれぞれ0.55倍ずつ受け取る取引とします。双方の合計は、告示第四の上限である1か月分の1.1倍です。
| 項目 | 金額(仮) |
|---|---|
| 売上(44,000円×2) | 88,000円 |
| 直接費(図面作成の外注) | 5,000円 |
| 按分した広告費(ポータル) | 20,000円 |
| 人件費(案内3回×1.5時間+申込から契約まで4時間=8.5時間×3,000円) | 25,500円 |
| 案件粗利 | 37,500円 |
同じ物件でも、案内が8回になると、人件費は(8回×1.5時間+4時間)×3,000円=48,000円に増え、粗利は15,000円まで下がります。借主からしか報酬を受け取れない取引なら、売上は44,000円なので、29,000円の赤字です。
売買仲介(代金600万円)の1件
売主から媒介の依頼を受け、告示第二で計算すると、110,000円+88,000円+66,000円=264,000円が上限です。
| 項目 | 金額(仮) |
|---|---|
| 売上 | 264,000円 |
| 直接費(調査の交通費、書類の取得費) | 30,000円 |
| 按分した広告費 | 40,000円 |
| 人件費(調査・査定12時間+案内10回×2時間+契約・決済10時間=42時間×3,000円) | 126,000円 |
| 案件粗利 | 68,000円 |
遠方の物件で作業時間が倍の84時間になると、人件費は252,000円となり、58,000円の赤字です。告示第七の特例で上限の330,000円を受け取ったとしても、粗利は8,000円にとどまります。低額の物件では、特例を使うかどうかと、作業時間をどう減らすかを、媒介契約の前に一緒に検討する必要があります。特例を使う場合は、依頼者への事前の説明と合意が前提です。
管理受託(1棟10戸)の1か月
| 項目 | 金額(仮) |
|---|---|
| 管理料 | 30,000円 |
| 人件費(入居者・オーナー対応5時間×3,000円) | 15,000円 |
| 会社が負担する外注費 | 3,000円 |
| 1か月の管理粗利 | 12,000円 |
入居者からの連絡が多い物件や、オーナーへの報告に手間がかかる物件は、対応時間が増えて粗利が薄くなります。新しく管理を受けるときの獲得費用は、この毎月の粗利で回収していくことになります。回収期間の考え方は顧客獲得コストの計算式で説明しています。
集計表に入れる列
| 列 | 入れる内容 |
|---|---|
| 案件番号・種別 | 賃貸仲介、売買仲介、管理など |
| 反響元 | ポータル、自社サイト、紹介など |
| 担当者 | 主担当の名前 |
| 報酬の相手方 | 貸主・借主・売主・買主のどこから受け取るか |
| 契約上の報酬額 | 媒介契約書などに書いた額 |
| 実際の入金額 | 値引きがあれば契約上の額との差が出る |
| 直接費 | 外注、交通費、書類の取得費など |
| 按分した広告費 | 月の掲載料÷その月の件数など |
| 作業の回数と時間 | 案内、調査、契約などの回数×標準時間 |
| 人件費 | 作業時間×1時間あたりの人件費 |
| 案件粗利・粗利率 | 計算式で自動計算 |
最初から全部の列をそろえなくても構いません。売上、直接費、案内回数の3列から始め、慣れてから按分費を足していく方法でも、赤字になりやすい型は見えてきます。
管理の売上側は、ウルスタくんの入金の記録やオーナーへの送金明細(管理料・修繕費を差し引いた明細)から物件ごとに拾えます。そこに対応時間と外注費を足せば、管理物件ごとの粗利を出す材料がそろいます。
結果の見方と打ち手
1件ごとの数字がそろったら、担当者別ではなく、案件の「型」で並べます。
- 反響元別:同じ報酬でも、案内回数が多くなりやすいチャネルは粗利が低く出ます。
- 報酬の相手方別:一方からしか受け取れない取引の粗利を、双方から受け取れる取引と分けて見ます。
- 物件の場所別:移動時間がかかる地域の案件を分けます。
- 取引額別:売買の低額物件は、上限の報酬に対して作業時間が大きくなりがちです。
打ち手は、原価の側にあります。案内の前に条件をすり合わせて回数を減らす、遠方の調査をまとめて回る、受け取れる報酬に見合わない広告を止める、といった手当てです。低額の売買物件では、告示第七の特例を使うかどうかの判断材料にもなります。
担当者別の数字を評価に使う場合は、担当する物件の型が違えば粗利も違うことを前提にしてください。歩合給やインセンティブとつなげるときの法令上の注意は歩合給・インセンティブ設計にまとめています。
月1回の見直しの進め方
集計表は作って終わりではなく、月に1回、短い時間で見直します。
- 前の月に完了した案件の粗利を、型ごとに並べる。
- 粗利がマイナスの案件と、粗利率が特に低い案件をいくつか選び、理由(案内回数、移動時間、値引き、キャンセルなど)を一言で書く。
- 同じ理由の案件が続いていれば、受け方や進め方のルールを1つだけ決める(例:遠方の物件の調査はまとめて回る、案内の前に条件の確認を済ませる)。
- 決めたルールの効果は、3か月後に同じ型の案件の粗利で確かめる。
キャンセルになった案件は、売上がゼロでも広告費と人件費はかかっています。集計表から消さずに、粗利がマイナスの案件として残しておくと、キャンセルが多い型が見えてきます。
見直しの場では、個人の成績を並べるより、型ごとの数字と、決めたルールが守れたかを話題にします。数字を責める材料にすると、記録そのものが正確でなくなるおそれがあるためです。
よくある質問
Q1. 人件費の按分が正確でなくても意味がありますか?
あります。按分の目的は、案件の型による差を見ることです。同じルールで続けていれば、型どうしの差は比べられます。精度を上げることより、途中でルールを変えないことを優先してください。
Q2. 赤字の案件は受けないほうがよいですか?
1件の数字だけで決めないでください。管理受託や次の取引につながる案件もあります。赤字の理由(案内回数、移動時間、値引き)を確かめ、直せるものから手当てします。
Q3. 採算が合わないので、報酬を上限より多く受け取ることはできますか?
できません。宅地建物取引業法46条2項は、国土交通大臣が定めた額を超えて報酬を受けることを禁じています。代金800万円以下の売買など告示の特例に当たる場合は、その範囲で、事前の説明と合意を前提に上限が変わります。
Q4. 粗利に事務所家賃やシステム費を入れるべきですか?
案件ごとの粗利の段階では入れず、会社全体の販管費として別に見るほうが、案件の型どうしを比べやすくなります。
Q5. 採算表の売上は、契約日と入金日のどちらで記録しますか?
採算表では、報酬が入金された時点の金額で確定させると、値引きやキャンセルがそのまま反映されます。契約日の時点では契約上の報酬額を仮に入れておき、入金後に実際の額へ置き換える方法でも構いません。決算での売上の計上時期は、会計のルールに沿って税理士などと確認してください。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2・第46条・第47条)
- 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号、令和6年7月1日施行)
- 国土交通省「宅地建物取引業法関係」
- 国土交通省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。