不動産会社の電子帳簿保存法対応で義務になっているのは、電子契約サービスで結んだ契約書や、メールで受け取った請求書などの「電子取引データ」を、データのまま保存することです。2024年1月1日以後は、印刷して紙で保存するだけでは足りません。基準期間の売上高が5,000万円以下なら、税務職員のダウンロードの求めに応じることを条件に、検索要件は不要です。紙の書類のスキャナ保存と、会計ソフトで作る帳簿の電子保存は任意です。この記事では、国税庁の一問一答(2026年7月)などをもとに、不動産会社の書類に当てはめて整理します。
電子帳簿保存法の3つの区分
電子帳簿保存法の話は、次の3つを分けると整理できます。義務なのは電子取引だけです。
| 区分 | 対象 | 義務か任意か |
|---|---|---|
| 電子取引データの保存 | メール、クラウド、電子契約サービスなどでやり取りした取引情報 | 義務(法7条) |
| 電子帳簿・電子書類の保存 | 会計ソフトなどで最初から電子で作る帳簿や書類 | 任意 |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った、または紙で作った書類をスキャンした画像 | 任意 |
法2条5号は、電子取引を「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)の授受を電磁的方式により行う取引」と定めています。受け取った側だけでなく、送った側も保存の対象です。
不動産会社で電子取引になる書類
国税庁の一問一答(電子取引関係)は、雇用契約書などのデータをメールに添付して送ったり、クラウドサービスでやり取りしたりした場合も電子取引にあたり、データを保存する必要があると説明しています。不動産会社の書類に当てはめると、たとえば次のものです。
| 場面 | 電子取引になる例 |
|---|---|
| 売買・賃貸の契約 | 電子契約サービスで締結した売買契約書・賃貸借契約書、媒介契約書のPDF |
| 宅建業法の書面 | 相手方の承諾を得て電磁的方法で提供した37条書面(宅建業法37条4項・5項) |
| 修繕・原状回復 | 工事業者からメールで届いた見積書・請求書、送った発注書 |
| 広告・仲介 | ポータルサイトの掲載料の請求書をサイトからダウンロードしたもの、他社とやり取りした報酬の請求書 |
| 賃貸管理 | オーナーにメールで送った送金明細、オーナーから受け取った委託契約関係の書類 |
宅建業法上の書面を電磁的方法で出せるかどうかと、税法上データで保存するかどうかは、別の制度です。電子で出した書面は、宅建業法の要件(承諾など)と、電子帳簿保存法の保存要件の両方を確かめます。
電子取引データの保存要件
保存要件は、改ざんを防ぐ「真実性」と、見られる・探せる「可視性」の2つに分かれます。
改ざんを防ぐ4つの方法(いずれか1つ)
- タイムスタンプが付いた後のデータを受け取る
- 受け取った後、速やかに(または業務の処理に係る通常の期間を過ぎた後、速やかに)タイムスタンプを付ける
- 訂正・削除の記録が残る、または訂正・削除ができないシステムで受け渡し・保存する
- 不当な訂正・削除を防ぐ事務処理規程を定め、その規程どおりに運用する
専用のシステムを入れなくても、4の事務処理規程で対応できます。どの方法を選んだかを、社内で書面にしておきます。
見られる・探せること
- パソコン、ディスプレイ、プリンタと、その操作説明書を備え付けて、画面や書面にすぐ出せること
- 検索要件:取引年月日、取引金額、取引先で検索できること。日付と金額は範囲を指定して検索でき、2つ以上の項目を組み合わせて検索できること
税務職員のダウンロードの求めに応じられるようにしておく場合は、範囲指定と組合せの要件は求められません。ファイル名を「20260930_〇〇工務店_110000」のように日付・取引先・金額にして、取引先ごとのフォルダに入れる方法でも、3つの項目で探せる状態は作れます。
検索要件が不要になる場合
次のどちらかに当たり、かつ税務職員のダウンロードの求めに応じられる場合は、検索要件のすべてが不要です。
- 基準期間(法人は原則として2事業年度前)の売上高が5,000万円以下
- 電子取引データを印刷した書面を、取引年月日その他の日付と取引先ごとに整理して、提示・提出できる
売上高が5,000万円以下でも、データを保存する義務と、改ざんを防ぐ方法は残ります。「小さい会社は何もしなくてよい」という意味ではありません。
基準期間の売上高は年ごとに変わります。売上が伸びて5,000万円を超える年は検索要件が必要になるため、決算のたびに基準期間の売上高を確かめ、ファイル名の付け方などの検索の仕組みは、最初から用意しておくと切り替えが楽です。
猶予措置と、終わった宥恕措置
2022年1月1日から2023年12月31日までの電子取引には、データを印刷して保存することを事実上認める「宥恕措置」がありました。これは終わっています。
2024年1月1日以後は「猶予措置」があります。条件は次の2つです。
- 保存要件に沿って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認めること。国税庁の資料は、人手不足、システムの整備が間に合わない、資金不足などを例に挙げています。事前の申請は要りません。
- 税務調査などで、電子取引データのダウンロードの求めと、データを印刷した書面の提示・提出の求めに応じられること。
猶予措置でも、データそのものは保存しておく必要があります。国税庁の一問一答は、2024年1月1日以後、電子データの保存に代えて印刷した書面だけで保存することは認められないとしています。
スキャナ保存の要件
紙で受け取った契約書や領収書をスキャンして、紙を処分したいときに使うのがスキャナ保存です。国税庁の一問一答(スキャナ保存関係、2026年7月)による主な要件は次のとおりです。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 書類の区分 | 重要書類(契約書、領収書、請求書、納品書、送り状など)と一般書類(見積書、注文書、検収書など) |
| 入力の期限 | 重要書類は、受け取った後速やかに、または業務の処理に係る通常の期間(最長2か月)を経過した後おおむね7営業日以内。一般書類は適時に入力できる |
| 読み取り | 解像度200dpi以上、赤・緑・青それぞれ256階調以上のカラー(一般書類はグレースケールも可) |
| 改ざん防止 | タイムスタンプ、または入力期限内の入力を確認できる訂正・削除の記録が残るシステム |
| 検索 | 取引年月日、取引金額、取引先で検索できること |
| 帳簿との関連 | 重要書類について、帳簿の記録と結び付けられること |
2024年1月1日以後に保存するものからは、読み取ったときの解像度・階調・大きさの情報の保存と、入力した人の情報の確認が不要になり、帳簿との関連付けも重要書類だけになりました。紙のまま保存するなら、スキャナ保存の要件は関係ありません。
保存期間と、宅建業法の帳簿
税法と宅建業法で、保存の決まりが別にあります。
| 根拠 | 対象 | 期間 |
|---|---|---|
| 法人税(国税庁タックスアンサー No.5930) | 帳簿書類 | 確定申告書の提出期限の翌日から7年間。欠損金が生じた事業年度などは10年間 |
| 宅建業法49条、施行規則18条3項 | 事務所ごとに備える業務の帳簿 | 各事業年度の末日に閉鎖し、閉鎖後5年間。自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間 |
宅建業法の帳簿は、パソコンのファイルなどに記録し、必要に応じて紙に明確に出せるなら、その記録で帳簿への記載に代えられます(施行規則18条2項)。税法の保存要件と宅建業法の帳簿は、別々に満たしているかを確かめます。
事務処理規程に書くこと
改ざん防止を事務処理規程で行う場合、規程を作るだけでなく、そのとおりに運用していることが求められます。手順の例として、規程に入れる項目を挙げます。
- 対象:どの電子取引データを対象にするか(契約書、請求書、領収書、見積書など)
- 保存場所:どのフォルダやシステムに、誰が保存するか
- 訂正・削除の原則:保存したデータの訂正・削除は原則として行わないこと
- 例外の手続:やむを得ず訂正・削除するときの申請、承認者、処理の記録の残し方
- 責任者:規程の管理と、運用状況を確かめる人
担当者が1人の会社でも、承認者を代表者にするなど、記録が残る形にしておきます。
賃貸管理会社とオーナーの関係
電子取引データの保存義務は、所得税と法人税の保存義務者にかかります(法7条)。個人のオーナーで不動産所得の申告をしている人も対象です。
管理会社がオーナーにメールやクラウドで送金明細を送ると、管理会社は送った側として、オーナーは受け取った側として、それぞれデータを保存します。オーナーには、明細を印刷して保管するだけでは足りないこと、受け取ったデータを消さずに保存してほしいことを、明細を電子化するときに案内しておくと、後の問い合わせが減ります。
工事業者や保証会社など、取引先から届く書類も同じです。紙とデータが混在している取引先ごとに、どちらで受け取っているかを一覧にしておくと、保存漏れを見つけやすくなります。
社内で進める手順
- 受け取り・送付の経路を書き出す:メール、電子契約サービス、ポータルサイトの管理画面、工事業者とのチャットなど。担当者の個人のメールにだけ残っていないかも確かめます。
- 保存場所を1つに決める:会社の共有フォルダやクラウドなど、退職や異動があっても消えない場所にします。
- 改ざん防止の方法を決める:事務処理規程にするなら、訂正・削除の手順と承認者を書き、規程どおりに運用します。
- 探せる形にする:ファイル名の付け方か、検索できるシステムかを決めます。売上高5,000万円以下なら、ダウンロードの求めに応じられる状態にしておきます。
- 試しに探してみる:担当者以外が、日付・金額・取引先で特定の書類を探し、画面と紙に出せるかを確かめ、その結果を記録します。
ウルスタくんの書類(賃貸借契約書・重要事項説明書など)と電子サインで締結した契約書も、電子取引データにあたります。どのサービスで締結したかにかかわらず、保存場所と改ざん防止の方法を自社の運用として決めておきます。
このテーマの全体像は「不動産のIT重説 完全ガイド2026|国交省マニュアルの遵守事項と売買・賃貸の手順」にまとめています。
よくある質問
Q1. メールで届いた請求書のPDFは、印刷して保存すればよいですか。
印刷だけでは足りません。2024年1月1日以後は、データそのものを保存する必要があります。会計処理のために印刷するのは自由ですが、データも保存します。
Q2. タイムスタンプは必須ですか。
必須ではありません。改ざん防止の方法は4つのうちいずれかでよく、事務処理規程を定めて運用する方法もあります。
Q3. 売上高5,000万円以下なら、何もしなくてよいですか。
いいえ。不要になるのは検索要件で、ダウンロードの求めに応じることが条件です。データの保存と改ざん防止の方法は必要です。
Q4. 紙で受け取った契約書もデータにしなければいけませんか。
紙で受け取ったものは、紙のまま保存できます。スキャンして紙を処分したいときだけ、スキャナ保存の要件を満たします。
Q5. 宅建業法の帳簿を電子で作ってもよいですか。
パソコンのファイルなどに記録し、必要に応じて紙に明確に出せるなら、帳簿への記載に代えられます(施行規則18条2項)。保存期間は閉鎖後5年間、自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間です。
Q6. 猶予措置を使うには、税務署への届出が要りますか。
国税庁の資料では、猶予措置に事前の申請は不要とされています。所轄税務署長が相当の理由があると認めることと、ダウンロードの求めと印刷した書面の提示・提出の求めに応じられることが条件です。
出典(本文で参照している資料)
- 国税庁:電子帳簿等保存制度特設サイト
- 国税庁:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(2026年7月)
- 国税庁:電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】(2026年7月)
- 国税庁:令和6年1月からの電子取引データの保存方法(2023年12月)
- 国税庁:No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法
- e-Gov法令検索:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(2条、7条)
- e-Gov法令検索:宅地建物取引業法(37条、49条)
- e-Gov法令検索:宅地建物取引業法施行規則(18条)
この記事は2026年10月7日時点の情報です。