オーナー提案 読了 26分

2026年6月 固定資産税第1期納付と賃貸オーナーのキャッシュフロー支援|中小不動産会社が月次報告に組み込む3提案と評価替え対応の実務

2026年度の固定資産税評価替えにより、東京23区住宅地は平均6〜8%、都心5区で10%超の上昇、地方都市の駅近物件でも3〜5%上昇のエリアが珍しくありません。第1期納付期限は多くの市区町村で6月末で、賃貸オーナーのキャッシュフローは一年で最も厳しい局面に入ります。本記事では宅建士で210室を運営する立場から、月次報告に組み込む3提案、評価替え対応、分納・徴収猶予の実務、よくある質問を、中小不動産会社の現場粒度で整理します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
固定資産税6月納付とオーナーの資金繰り支援2026
目次
訂正のお知らせ(2026年9月3日)

この記事は当初、2026年度(令和8年度)を「3年に一度の評価替えの年」として書いていました。これは誤りです。固定資産の評価替えは3年ごとで、直近は令和6年度(2024年度)、次は令和9年度(2027年度)。令和8年度は据置年度にあたります。あわせて、地価公示の変動率と家屋の再建築費に関する数値、縦覧・審査の申出の説明も、公的資料に照らして書き直しました。誤った前提でお読みになった方にお詫びします。

2026年度(令和8年度)は、固定資産税の評価替えの年ではありません。直近の評価替えは令和6年度、次は令和9年度です。それでも6月に納税通知書が届くと、「去年より上がっている」という相談は起きます。据置年度でも税額が動く仕組みがあるからです。本記事では、ウルスタの代表として宅建業を営む立場から、(1)据置年度に税額が動く3つの理由、(2)6月の納付がオーナーのキャッシュフローに効く場面、(3)月次報告に組み込む3提案、(4)縦覧と審査の申出を据置年度にどう使うか、(5)分納・徴収猶予の相談の型、(6)税理士・銀行担当への橋渡しの型、(7)よくある質問を、中小不動産会社の現場粒度で整理します。

2026年度は評価替えの年ではない — 据置年度に税額が動く3つの理由

土地と家屋の評価額は3年に一度見直されます。これが評価替えです。直近の評価替えは令和6年度(2024年度)で、次は令和9年度(2027年度)。令和8年度(2026年度)は、その間の据置年度にあたります。総務省が示す宅地等に対する固定資産税の課税の仕組みも「令和6年度~令和8年度」という3年のまとまりで整理されています。ですから今年、評価額そのものが一斉に見直されることはありません。それでも税額は動きます。理由は3つあります。

理由1:据置年度でも、負担調整措置で課税標準額は上がり続ける

評価額と、税額の基礎になる課税標準額は別ものです。税負担の急変を避けるため、課税標準額は評価額に向かってなだらかに近づいていく仕組みになっています。これが負担調整措置です。前年度の課税標準額が評価額に対してまだ低い水準にある土地は、評価額が据え置かれていても、課税標準額だけが毎年上がっていきます。据置年度に「評価額は変わっていないのに税額が上がった」という現象は、たいていこれです。商業地等の宅地については、前年度の負担水準が60〜70%の範囲にある場合は前年度の課税標準額に据え置かれます。住宅用地は、200㎡以下の部分の課税標準額が価格の6分の1、200㎡を超える部分は3分の1になります。

理由2:新築住宅の減額特例が切れる年に、家屋の税額が跳ねる

新築の住宅には、一定期間だけ税額を半分にする減額措置があります。一般の住宅は3年度分、3階建て以上で耐火構造の住宅は5年度分。長期優良住宅ならそれぞれ5年度分・7年度分です。いずれも居住部分の床面積120㎡までが対象で、令和13年3月31日までに新築されたものに適用されます。この期間が終わった翌年度、家屋の税額はおおむね倍になります。評価替えとは関係なく、物件ごとの新築年で決まる動きです。管理物件の新築年を台帳に持っていれば、どのオーナーの税額がいつ跳ねるかは前もって分かります。6月に驚かれる前に、前年の秋に伝えておける種類の話です。

理由3:住宅用地特例が外れる — 建物を壊した土地は跳ねる

住宅用地特例は、住宅が建っていることを前提にした軽減です。老朽建物を解体して更地にした場合や、住宅を店舗・事務所に用途変更した場合、翌年度からこの特例が外れ、課税標準額は6分の1(または3分の1)から戻ります。賦課期日は1月1日です。年内に解体すれば翌年度から、年が明けてから解体すれば翌々年度から効いてきます。空き家の解体をオーナーに相談されたとき、この一行を添えられるかどうかで提案の質が変わります。解体を勧める場面では、必ずセットで説明してください。

6月第1期納付がオーナーのキャッシュフローを圧迫する典型パターン

固定資産税の納付スケジュールは、市区町村ごとに微妙に異なりますが、東京23区・大阪市・名古屋市・札幌市・福岡市など主要都市では、第1期=6月末、第2期=9月末、第3期=12月末、第4期=翌2月末の4期に分けて納付するパターンが標準です。第1期は4分の1の納付ですが、6月は固定資産税以外に、エアコン点検費・梅雨期の修繕費・夏の入退去関連費用も重なるため、賃貸オーナーのキャッシュフローが年間で最も厳しい局面になります。中小不動産会社が把握しておくべき典型パターンは、次の3つです。

パターン1:1〜3棟保有の個人オーナーで毎月の家賃手取りギリギリ運用

第一のパターンは、1〜3棟保有・年間家賃収入500〜1,500万円規模の個人オーナーで、ローン返済・管理費・修繕積立・所得税源泉控除を引いた手取りが毎月の生活費とほぼ均衡している運用です。このタイプのオーナーは、第1期固定資産税の納付額(年間税額の25%)を6月に一括で出すと、その月の収支がマイナスになり、貯蓄を取り崩すか、ローンの一時的な据置・元金据置プランの利用を検討する必要が出てくるケースが珍しくありません。管理会社の月次報告で「6月は税金納付月です」と早期に注意喚起するだけで、5月中の支出抑制(臨時修繕の見送り・備品購入の延期)につながります。

パターン2:高築古物件中心で家賃下落基調・税負担増の二重圧迫

第二のパターンは、築30年超の築古アパート・マンションを中心に保有しているオーナーで、家賃は下落基調(年-1.5〜-3%)にあるのに、土地の課税標準額が、負担調整措置によって毎年少しずつ上がっていく状態です。家賃減・税増の二重圧迫で、表面利回りが数年かけて1ポイント以上下落することもあり、特に商業地・準工業地域に建つ古い木造アパートで、土地評価が住宅地評価より高く設定されている物件は、税負担の伸びが家賃収入の伸びを上回りやすい構造です。中小不動産会社は、こうした物件のオーナーに対して、評価額・税額の推移を3年比較で示し、リフォーム投資・建替え・売却の三択を月次報告で早期提示する役割があります。

パターン3:法人保有・複数棟運用で資金繰り全体への影響大

第三のパターンは、法人で5棟以上を保有しているオーナー(資産管理会社含む)で、年間固定資産税の合計が500万円〜2,000万円規模に達するケースです。法人決算月との関係で、固定資産税の納付月が決算月の直前・直後にあたると、未払金計上・損金算入のタイミングが法人税申告に影響し、税理士と早期にすり合わせる必要があります。中小不動産会社が月次報告で各物件の固定資産税納付実績と前年度比較を可視化しておくと、法人オーナーは決算対策・資金繰り計画の精度が上がります。

月次報告書に組み込む3提案(分納/借換/家賃見直し)

固定資産税の納付額上昇を、月次報告書で「事実通知」だけで終わらせると、オーナーは「税金が上がった」という事実だけを認識して終わってしまい、次のアクションに進めません。中小不動産会社の役割は、納付期に合わせた具体提案を月次報告に組み込み、オーナーが意思決定できる状態を作ることです。提案の柱は、(1)分納の活用、(2)ローン借換・据置のタイミング、(3)家賃見直しの検討の3つです。それぞれの出し方を整理します。

提案1:分納(年4期)・口座振替・クレジットカード納付の活用

第一の提案は、固定資産税の納付方法を、年4期分納・口座振替・クレジットカード納付の3つの組み合わせで、キャッシュフローを平準化する選択肢を示すことです。年4期分納は標準的な納付方法ですが、東京23区・横浜市・大阪市・名古屋市など主要都市では、クレジットカード納付(手数料0.7〜1.0%)が利用可能で、ポイント還元1〜2%のカードを使えば実質負担をマイナスに振らせることもできます。一括納付による割引はほぼ消滅しているため、分納で資金繰りを温存し、運用に回す方が合理的なケースが多いです。月次報告では、各オーナーの納付方法と次回納付月を一覧化し、納付前月に注意喚起を入れる運用が効果的です。

提案2:ローン借換・元金据置・期日変更の検討

第二の提案は、固定資産税の上昇分を中長期的に吸収するため、保有ローンの借換・元金据置・期日変更を金融機関と相談する選択肢を示すことです。ただし金利は上昇の局面にあり、借換がいつでも有利とは限りません。日本銀行は2026年6月16日の金融政策決定会合で金融市場調節方針の変更を決定しています。借換を検討するなら、現行金利・残債・残期間を並べたうえで、金融機関に条件を出してもらってから判断してください。借換諸費用(事務手数料・登録免許税・抵当権設定費用)を考慮しても、残債が大きく・残期間が長い物件ほど借換メリットが出やすい構造です。月次報告では、各物件のローン残高・残期間・現行金利を一覧化し、税負担が増えた物件から優先的に借換シミュレーションを提案します。

提案3:家賃見直し・退去後リーシング条件の調整

第三の提案は、家賃の中長期的な見直し方針を、税負担が上がった機会に再整理することです。既存入居者の家賃を即時に上げることは現実的ではありませんが、退去後の新規募集賃料の見直し、契約更新時の家賃改定提案、礼金・更新料の有無の見直しなど、複数の調整レバーを組み合わせて、3〜5年でゆるやかに収支を改善する設計は可能です。月次報告では、各物件の現行賃料・周辺成約賃料・乖離率を継続的に追跡し、退去発生時に新規募集賃料を相場上限まで引き上げる運用ルールを共有しておくと、税負担の増加分を3年程度で家賃側に吸収できる物件が出てきます。

月次報告書テンプレートに「固定資産税」セクションを常設するメリット
固定資産税は年4回の納付ですが、月次報告に常設セクションを設けると、納付の前月にリマインドが自動で入り、納付直後の領収書管理・帳簿計上も漏れにくくなります。自社210戸の月次報告では、(1)前年同期比の税額推移グラフ、(2)次回納付月と金額、(3)分納・借換・家賃見直しの3提案ステータスを1ページにまとめ、オーナーがA4一枚で資金繰りを把握できるようにしています。テンプレ化することで、新任の管理スタッフでも品質が安定し、オーナーからの追加電話が減ります。

縦覧と審査の申出 — 据置年度にできること、できないこと

評価額に納得がいかないとき、地方税法は2つの手続きを用意しています。縦覧と、固定資産評価審査委員会への審査の申出です。ただし据置年度は、価格そのものを争う道が原則として閉じています。ここを取り違えると、オーナーに「申し出られます」と言ったあとで撤回することになります。

縦覧 — 自分の価格を、まちの他の価格と見比べる

縦覧は、土地価格等縦覧帳簿・家屋価格等縦覧帳簿を納税者が見られる制度です(地方税法第416条)。期間は毎年4月1日から、4月20日または当該年度の最初の納期限の日のいずれか遅い日以後の日まで。場所と期間は市町村があらかじめ公示します。目的は条文にはっきり書かれていて、自分の土地・家屋の価格と、その市町村内の他の土地・家屋の価格とを比較できるようにするためです。自分の課税台帳の中身を確かめるのは閲覧という別の制度で、こちらは通年です。中小不動産会社としては、縦覧の期間に管理物件の価格を近隣と見比べ、違和感のあるものをオーナーへ早めに共有する運用が現実的です。

審査の申出 — 据置年度は原則できない

審査の申出は、固定資産課税台帳に登録された価格に不服があるとき、文書で固定資産評価審査委員会に申し出る手続きです(地方税法第432条)。期間は、価格等を登録した旨の公示の日から、納税通知書の交付を受けた日後3か月を経過する日まで。ただし同条にはただし書があります。据置年度に「登録されたものとみなされる」価格については、地目の変換や家屋の改築・損壊といった事情があることを申し立てる場合を除き、審査の申出をすることができません。令和8年度は据置年度ですから、価格が高いという理由だけの申出は原則として通りません。価格そのものを争うなら、次の評価替えである令和9年度が機会になります。逆に言えば、令和9年度に向けて根拠を用意しておく1年でもあります。

減免・減額措置の確認は、据置年度でもできる

価格を争えなくても、税額を下げる道はあります。災害で損壊した家屋などの減免は市町村の条例で定められており、窓口に相談できます。改修工事による減額措置も、耐震・バリアフリー・省エネといった種類ごとに用意されています。ただし減額の割合、対象になる年度、申告の期限は工事の種類によって異なり、改正も入ります。断定せず、国土交通省のリフォーム促進税制のページと、物件所在地の市町村の案内で必ず確認してください。中小不動産会社としては、リフォーム履歴と工事の証明書類を物件カルテに残しておくことが、適用漏れを防ぐ一番の備えになります。

分納・徴収猶予を市町村税務課に相談する時の型

固定資産税の納付が一時的に困難なオーナーには、市区町村の徴収猶予・換価猶予・分納相談という公式制度があります。滞納してから対応するのではなく、納付期限前または直後に税務課に相談することで、延滞金の発生を抑え、信用情報への影響もなくせます。中小不動産会社が、こうした相談を税理士・銀行担当と並んでオーナーに紹介できる立場であることが、信頼の厚みにつながります。相談の型は次のとおりです。

徴収猶予(地方税法第15条)の申請

徴収猶予は、災害・病気・事業の休廃業など、納税が一時的に困難な事情がある場合に、納付を1年以内(条件によって延長可能)猶予する制度です。申請には、(1)猶予申請書、(2)財産目録・収支状況の説明資料、(3)事情を証明する書類(罹災証明・診断書・廃業届の写し等)が必要で、税務課の判断で猶予期間中の延滞金が全額または一部免除されます。中小不動産会社は、災害被害を受けた物件のオーナーや、入院・経営困難に直面したオーナーに対して、徴収猶予の存在を月次面談で伝えるだけでも価値があります。

換価の猶予(地方税法第15条の5)の申請

換価の猶予は、納税により事業の継続または生活の維持が困難になる場合に、財産の差押・公売(換価)を1年以内猶予する制度です。滞納が発生した後の救済策で、納税誠意があり、過去1年間に大きな滞納がない納税者が対象です。法人オーナーで一時的な売上減・資金繰り悪化に直面した場合、換価の猶予を活用することで、事業継続を守りながら計画的に納税を進められます。中小不動産会社が法人オーナーの経営状況を月次面談で把握しておくと、こうした制度の提案タイミングを逃しません。

分納誓約書による任意の分割納付

納付期限を超過してしまった場合でも、市区町村の税務課に出向き、分納誓約書を提出することで、3〜6か月程度の任意分割納付に応じてもらえるケースがあります。正式な徴収猶予・換価猶予の要件に満たない場合でも、誠意を示す姿勢が分納合意のカギです。延滞金は発生しますが、差押・公売を回避でき、事業継続が可能になります。中小不動産会社は、オーナーから「払えない」と相談を受けた瞬間に、滞納放置ではなく税務課への相談を即座に提案する姿勢が、長期的な信頼を生みます。

税理士・銀行担当への橋渡しの型

固定資産税の納付期は、税理士・銀行担当・管理会社の3者が同じテーブルで議論する好機です。中小不動産会社が、税理士・銀行担当への橋渡しを月次報告ベースで型化できると、オーナーは安心して長期戦略を描けます。橋渡しのパターンは次の3つです。

税理士への共有(損金算入・節税策の確認)

第一の橋渡しは、税理士に固定資産税の納付実績と前年度比較を共有し、損金算入のタイミング・節税策の余地を確認することです。固定資産税は事業所得・不動産所得の必要経費に算入できるため、納付実績を年度内に正確に整理しておくことで、確定申告・法人税申告の精度が上がります。法人オーナーの場合、決算月によっては未払金計上が有効な節税策になることがあり、税理士との早期連携が前提です。

銀行担当への共有(借換・据置・新規融資相談)

第二の橋渡しは、銀行担当に固定資産税の上昇と現在の収支状況を共有し、借換・元金据置・新規融資の可能性を相談することです。固定資産税の納付実績は、金融機関の融資審査でも参照されるため、滞納実績がない状態を維持することが、将来の融資調達力に直結します。借換シミュレーションは銀行担当が無料で対応してくれることが多く、月次報告の延長線上で銀行担当との3者面談を組むだけで、オーナーの選択肢が広がります。

中小不動産会社が担う「会議招集機能」

第三の橋渡しは、中小不動産会社が、税理士・銀行担当・オーナーの3者会議を年1〜2回招集する機能を持つことです。オーナー単独では税理士・銀行担当を集めるのが負担になりがちなため、管理会社がアジェンダ・資料・日程調整を引き受けることで、オーナーは意思決定だけに集中できる状態を作れます。年1回の固定資産税納付期・確定申告期に合わせた3者会議を恒例化すると、管理委託の継続率と紹介発生率の双方に効果が出ます。

よくある質問6問

Q1. 今年の税額が想定以上に上がりました。審査の申出はできますか?

A. 令和8年度は評価替えの年ではなく据置年度なので、価格が高いという理由だけの審査の申出は、原則としてできません(地方税法第432条ただし書)。地目の変換や家屋の改築・損壊といった事情がある場合は例外です。価格そのものを争うなら、次の評価替えである令和9年度が機会になります。今年上がった理由は、多くの場合、負担調整措置による課税標準額の上昇か、新築住宅の減額特例が切れたか、住宅用地特例が外れたかのいずれかです。課税明細書を前年のものと並べれば、どれに当たるかはたいてい判別できます。中小不動産会社は、その並べ替えを管理業務の延長で支援できる立場です。

Q2. 6月の納付期に間に合いません。どう動くべきですか?

A. 納付期限前または直後に、市区町村の税務課に電話で相談し、徴収猶予・換価猶予・分納誓約のいずれかを申し出るのが第一歩です。滞納放置は延滞金(年8.7%相当)が膨らみ、信用情報にも悪影響を及ぼします。税務課は「払えない」相談に対して比較的柔軟で、誠意ある対応をすれば3〜6か月の分納に応じてもらえるケースが多いです。中小不動産会社は、オーナーから相談を受けた時点で税務課への連絡を即座に提案します。

Q3. 固定資産税の上昇分を家賃に転嫁できますか?

A. 既存入居者の家賃を即時に上げることは、借地借家法32条の制約により現実的に困難です。賃料改定の合意を取るには、近隣相場との比較・物価変動・公租公課の増減を客観的に示す必要があり、調停・裁判に発展するリスクもあります。現実的な対応は、退去発生時に新規募集賃料を相場上限まで引き上げる、契約更新時に小幅な改定を提案する、礼金・更新料を見直すなど、複数の調整レバーを組み合わせて3〜5年でゆるやかに収支を改善する設計です。

Q4. 耐震改修・省エネ改修をした物件の減額申請はどうすればよいですか?

A. 改修工事の完了日から3か月以内に、市区町村の税務課に減額申請書と工事証明書類を提出する必要があります。耐震改修は翌年度1年間の固定資産税1/2減額、省エネ改修は翌年度1年間の1/3減額、バリアフリー改修は翌年度1年間の1/3減額、長期優良住宅化リフォームは翌年度2年間の2/3減額が原則です。中小不動産会社は、リフォーム履歴・改修工事の領収書を物件カルテに保存し、対象期間内に申請するよう案内します。

Q5. 法人保有物件の固定資産税は、決算でいつ計上すべきですか?

A. 原則は「賦課決定日(納税通知書の発送日)の属する事業年度の損金」として計上します。実務上は、納付実績ベースで損金算入する方法、未払金計上で年4期分を一括計上する方法など、税理士との運用に幅があります。決算月と納付月の関係で節税効果が変わる場合があるため、税額が動いた年は税理士との早期相談が不可欠です。中小不動産会社は、納付実績の正確な記録を税理士と共有する役割を持ちます。

Q6. 固定資産税の上昇は今後も続きますか?次の評価替えに向けてどう備えるべきですか?

A. 次回の評価替えは令和9年度(2027年度)です。地価が上昇基調のままなら、据置年度である2026年度も、課税標準額は負担調整措置の範囲内で段階的に上昇します。賃貸オーナーは、(a)月次の収支管理を強化し、(b)税負担増を見越したリーシング戦略を3〜5年で組み、(c)税理士・銀行担当・管理会社の3者連携で長期戦略を立てる、の3点が王道です。中小不動産会社は、月次報告を通じて税負担推移を可視化し、オーナーの長期戦略形成を支援する役割を強化していくことが、競合管理会社との差別化につながります。

まとめ:6月納付期にやる優先3手

本記事では、2026年度の固定資産税の納付期に向けて、中小不動産会社が月次報告に組み込むべき実務として、(1)据置年度に税額が動く3つの理由、(2)6月第1期納付がオーナーのキャッシュフローを圧迫する典型パターン、(3)月次報告に組み込む3提案、(4)縦覧と審査の申出の使い分け、(5)分納・徴収猶予の使い方、(6)税理士・銀行担当への橋渡しの型、(7)よくある質問6問を整理しました。納付期限まで残り1か月余りの今、優先してやる3手は次のとおりです。

第一に、管理物件全件の2026年度固定資産税納税通知書の評価額と税額を確認し、前年度比較を1ページにまとめてオーナーへ早期共有する。上がった物件は、負担調整措置による課税標準額の上昇か、新築住宅の減額特例の終了か、住宅用地特例が外れたのかを、課税明細書で切り分ける。第二に、月次報告書に「固定資産税」セクションを常設し、納付月のリマインド・分納提案・借換シミュレーション・家賃見直しを継続的にフォローする運用に切り替える。第三に、税理士・銀行担当との3者連携を年1〜2回の恒例イベント化し、オーナーが意思決定だけに集中できる体制を作る。

固定資産税の納付期は、オーナーにとって資金繰りの大きな節目であり、中小不動産会社にとっては提案価値を発揮する好機です。事実通知だけで終わらせず、月次報告に具体提案を組み込むことで、管理委託の継続率・紹介発生率・新規受注の三点で差別化が効きます。本記事の提案テンプレ・縦覧/審査申出の手順・分納相談の型を、自社の物件特性・オーナー属性に合わせてカスタマイズし、6月の納付期を提案強化の起点にしてみてください。これらの積み上げが、中小不動産会社のオーナー対応力を1段引き上げる原動力になります。

出典(本文で参照している資料)

本文の記述のうち、公的機関が出している資料で確かめられた部分と、その資料を並べています。リンク先は発行元の公式ページです。税制は改正で変わるので、実際の適用は最新の資料と市町村の窓口でご確認ください。

本稿で使った内容資料
宅地等に対する固定資産税の課税の仕組みが令和6年度〜令和8年度のまとまりで示されていること(=直近の評価替えが令和6年度であること)、商業地等の負担水準60〜70%での据置き、免税点、家屋の評価基準の改正が令和9年度分から適用されること総務省「地方税制度|固定資産税の概要」
土地・家屋の評価が3年に一度見直されること、住宅用地特例(200㎡以下は6分の1、超える部分は3分の1)、新築住宅の減額措置(一般3年度分・3階建以上耐火5年度分、長期優良はそれぞれ5年度分・7年度分、床面積120㎡まで、令和13年3月31日まで)、税率1.4%、賦課期日1月1日、納期が市町村の条例で定められ原則年4回であること総務省「やさしい地方税|固定資産税」
縦覧の期間と目的(第416条)、審査の申出の期間と、据置年度の価格については一定の事情を申し立てる場合を除き申出ができないこと(第432条ただし書)e-Gov 法令検索「地方税法」
令和8年地価公示の全体傾向(東京圏・大阪圏は住宅地・商業地とも上昇幅が拡大、名古屋圏はいずれも縮小、全国の住宅地は前年と同じ上昇幅)国土交通省「全国の地価動向は全用途平均で5年連続上昇 ~令和8年地価公示~」(令和8年3月17日)
改修工事による固定資産税の減額措置が、耐震・バリアフリー・省エネなど種類ごとに用意されていること国土交通省「リフォーム促進税制(所得税・固定資産税)について」
2026年6月16日の金融政策決定会合で金融市場調節方針の変更が決定されたこと日本銀行「金融政策に関する決定事項等 2026年」