賃貸管理 読了 14分

不動産営業の準備時間を減らす方法|作業の記録の取り方と、省いてはいけない確認

準備時間を減らす第一歩は、1週間の作業を「探す・写す・待つ・やり直す」に分けて記録することです。宅建業法35条・37条・32条で省けない確認を先に決め、回数の多い作業から1つずつ試す手順と、減った時間の正しい計算方法を説明します。

馬場生悦
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
不動産営業の準備時間を減らす方法|作業の記録と省けない法定確認の手順
目次

不動産営業の準備時間を減らすには、まず1週間の作業を「探す・写す・待つ・やり直す」に分けて記録し、重要事項説明や広告前の物件確認のように省けない確認を先に決めてから、繰り返しの多い作業を1つずつ見直します。思いつきで道具を変えるより、記録から始めたほうが、どこで時間が消えているかがはっきりします。この記事では、記録の取り方、法令上省けない確認、電子書面とIT重説の準備、効果の測り方を順に説明します。

準備時間が減らない理由を先に分ける

「準備に時間がかかる」と感じるとき、その中身はいくつかの種類に分かれます。種類によって直し方が違うため、まとめて「効率化しよう」と考えると、手を付ける場所を間違えやすくなります。

営業の準備は、おおむね次の4つに分けると整理しやすくなります。

種類よくある例直し方の方向
探す前回の図面、登記事項証明書、管理規約、過去のメールを探す置き場所とファイル名の決まりを作る
写す同じ物件情報を図面、ポータル、重要事項説明書、社内台帳に何度も入力する元になる情報を1か所にまとめ、そこから使い回す
待つ管理会社や役所への照会、オーナーの返事、社内の承認を待つ依頼を前倒しにし、締切と催促の時期を決める
やり直す記載漏れ、古い情報のまま作った資料、差し戻し確認項目を固定し、差し戻しの理由を記録する

この4つのうち、「待つ」は自分の作業時間ではなく、案件が止まっている時間です。作業時間を短くしても待ち時間は縮みません。記録の段階で、作業と待ちを分けておくことが大切です。

1週間の作業を記録する

見直しの前に、まず1週間だけ作業を記録します。長く続けようとすると記録そのものが負担になるため、期間を区切って始めるほうが続きます。対象は全員でなくてもよく、最初は1人か2人で十分です。

記録する欄

紙でも表計算ソフトでも構いません。次の欄があれば、後で集計できます。

欄書く内容記入例
日付・時刻開始と終了の時刻10:05〜10:40
案件物件名や顧客名(社内で分かる略称でよい)〇〇ハイツ201 申込
作業何をしたか重要事項説明書の下書き
種類探す・写す・待つ・やり直す・その他写す
理由メモ待ちややり直しが起きた理由管理規約の最新版が手元になかった

記録のルール

  • 時間は15分単位などの大まかな区切りでよいことにします。細かすぎると続きません。
  • 「その他」が多くなったら、中身を見て新しい種類を足します。
  • 理由メモは一言で構いません。後で同じ理由が何度出てくるかを数えるために使います。
  • 記録は評価のためではなく、作業の流れを見るためのものだと最初に伝えます。正直に書けない雰囲気では、記録の意味がなくなります。

準備の時間も労働時間として記録する

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とし、使用者の指示による業務に必要な準備行為の時間も労働時間に当たる例として挙げています。案内前の資料作りや書類の下調べを始業前や終業後に回している場合、それも記録に含めて見える形にしておくべきです。準備時間を減らす取り組みが、記録に残らない時間を増やす結果にならないよう注意します。

減らしてはいけない確認を先に決める

準備時間を減らすときに最初に決めるのは、「何を削るか」ではなく「何を削らないか」です。宅地建物取引業法には、取引の相手方を守るための確認や書面が定められており、ここを短くすると、時間の節約どころかトラブルの原因になります。

重要事項説明(宅建業法35条)

35条1項は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に、重要事項を記載した書面を交付して説明させることを求めています。説明するときは宅地建物取引士証を提示し(同条4項)、書面には宅地建物取引士が記名します(同条5項)。登記された権利、法令上の制限、飲用水・電気・ガス・排水の整備状況、契約の解除、損害賠償額の予定など、1項の各号に並ぶ事項は、物件ごとに調べて書くものです。ひな形で時間を減らせるのは書式や定型文の部分で、調査そのものではありません。

契約締結後の書面(宅建業法37条)

37条は、売買・交換では1項、貸借では2項で、契約の当事者に一定の事項を記載した書面を交付することを定め、3項で宅地建物取引士の記名を求めています。重要事項説明書と内容がずれていないかを照らし合わせる時間は、削らない確認に入れておきます。

広告前の物件確認(宅建業法32条と表示規約)

32条は、広告で物件の所在、規模、利用の制限、交通などの利便、借賃などについて、著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利と誤認させる表示を禁じています。国土交通省は令和5年1月12日の通知「いわゆる『おとり広告』等の禁止の徹底について」で、取引できない物件の広告が32条の対象になることを示し、不動産の表示に関する公正競争規約21条のおとり広告の規定にも触れています。掲載前と掲載中に、物件がまだ取引できるかを確かめる作業は、準備時間から外さないでください。

削らない確認根拠準備でやること
重要事項の調査と説明宅建業法35条登記・法令制限・設備・契約条件を物件ごとに調べる
契約書面の記載確認宅建業法37条重要事項説明書と条件が合っているかを照らし合わせる
広告の物件確認宅建業法32条、表示規約21条掲載前と掲載中に、取引できる状態かを確かめる

この表を社内で共有し、「ここは短くしない」と合意してから見直しに進むと、効率化の話が確認の省略にすり替わるのを防げます。

繰り返しの作業から見直す

記録を集計したら、種類ごとに合計時間と回数を見ます。見直しの対象は、1回の時間が長い作業より、回数が多い作業から選ぶほうが効果を確かめやすくなります。

探す時間を減らす

物件ごとのフォルダを作り、中に入れる書類の名前の付け方を決めます。たとえば「物件名_書類名_取得日」のように、取得日を入れておくと、古い資料を使ってしまうやり直しも減らせます。共有の置き場所を1つに決め、個人のパソコンやメールの添付に資料を残さないことも決めておきます。

写す時間を減らす

同じ物件情報を何度も入力しているなら、元になる情報の置き場所を1つに決め、図面や書類はそこから作るようにします。転記の回数が減れば、写し間違いによるやり直しも減ります。ただし、元の情報が古いと、すべての資料に古い情報が広がります。元の情報を更新する担当と時期も一緒に決めます。

待つ時間を短くする

管理会社への照会や役所での調査、オーナーへの確認など、返事を待つ作業は、申込みや案内の予定が決まった時点で先に依頼します。依頼するときに「いつまでに必要か」を伝え、返事がなければいつ催促するかも記録に残しておくと、待ちが長引いたときに気づけます。

やり直しを減らす

差し戻しの理由を記録すると、同じ理由が何度も出てくることがあります。その理由を確認項目として書類作成の手順に加えます。確認項目は増やしすぎると読まれなくなるため、実際に差し戻しが起きた項目から順に足していきます。

電子書面とIT重説を使うときの準備

書面の郵送や来店の日程調整に時間がかかっているなら、電子書面やオンラインでの重要事項説明(IT重説)を使う方法があります。ただし、これは準備を省くための仕組みではなく、法令の手順が決まっています。

宅建業法35条8項は、相手方の承諾を得て、重要事項説明書に記載すべき事項を電磁的方法で提供できると定めています。37条の書面も、売買・交換は4項、貸借は5項で、相手方などの承諾を得て電磁的方法で提供できます。承諾がなければ紙で交付します。

国土交通省の「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和6年12月版)は、次のような準備を示しています。

場面マニュアルが示す主な準備
電子書面の承諾相手方のIT環境を確かめ、提供方法やファイルの形式を示したうえで、承諾する旨を書面などで得る
電子書面の提供相手方が出力して書面を作れること、改変されていないか確認できる措置(電子署名など)があること、宅地建物取引士の記名があること
IT重説の前記名済みの重要事項説明書を事前に送り、読み込む期間を取る。相手方の機器やソフトウェアの対応を確かめる
IT重説の当日映像と音声を双方で確認し、宅地建物取引士証を提示する。通信が切れたときの連絡手段も用意する
トラブル時映像や音声に支障があれば中断し、解消できなければ中止して、対面などに切り替える

電子化で減るのは主に郵送や日程調整の時間で、事前送付や環境確認という新しい準備が加わります。記録の段階で、紙のときと電子のときの両方を測っておくと、どちらが自社に合うかを判断しやすくなります。

1つの作業で試してから広げる

見直しを一度に全部の業務へ広げると、何が効いたのか分からなくなります。次の順で、1つの作業に絞って試します。

  1. 記録の集計から、回数が多い作業を1つ選ぶ(例: 募集図面の作成、申込書類の準備)。
  2. 変える内容を1つに絞って書き出す(例: 物件情報の元データから図面を作る)。
  3. 2週間ほど試し、変える前と同じ欄で記録を取る。
  4. 時間だけでなく、やり直しの回数と、削らない確認が守られたかも見る。
  5. 効果があれば手順書に書き、次の作業へ進む。効果がなければ元に戻す。

元に戻すことも、立派な結果です。試した内容と結果を残しておけば、同じ案が後で出たときに判断が早くなります。

時間の計算と売上予測を分ける

準備時間が減ったとき、「空いた時間で案内が増え、売上がいくら増える」と計算したくなります。しかし、空いた時間が営業に使われるかどうかは別の話です。時間の計算と売上の予測は分けて考えます。

仮の数字で計算例を示します。募集図面の作成を見直した場合です。

項目見直し前見直し後
1件あたりの作成時間40分25分
月の作成件数20件20件
月の作成時間800分500分
新しく増えた作業なし元データの更新 月30分、出力後の確認 1件2分×20件=40分
差し引きで減った時間-800分−500分−70分=230分(3時間50分)

この例のように、減った時間と増えた作業を別の欄に書くと、実際に空いた時間が分かります。増えた作業を書かずに「300分減った」と言うと、効果を大きく見積もることになります。

空いた時間の使い道は、事前に決めておきます。たとえば「追客の連絡に充てる」「物件確認の頻度を上げる」などです。使い道を決めずにいると、空いた時間は別の雑務に吸収されやすくなります。

記録と振り返りを1枚にする

試した内容は、次のような1枚にまとめておくと、社内で共有しやすくなります。

欄書く内容
対象の作業何を見直したか
変えたこと1つに絞って書く
期間と担当いつからいつまで、誰が試したか
時間の変化見直し前と後、増えた作業を別に書く
やり直しの変化差し戻しの回数と理由
削らない確認35条・37条・広告の物件確認が守られたか
判断続ける・やめる・条件を変えて再度試す

月に1回、この1枚を見ながら15分ほど話すだけでも、見直しが続きやすくなります。

ウルスタくんでは、物件・入居者の情報を管理し、そこから賃貸借契約書・重要事項説明書など24種の書類や募集図面(マイソク)を作成でき、書類は電子サインにも対応しています。同じ情報を何度も写す作業を減らしたいときの選択肢の1つです。ただし、書類の内容が物件ごとに正しいかを調べて確かめる作業は、どの仕組みを使っても残ります。

あわせて読みたい記事: 提案資料のテンプレートの作り方、業務自動化のワークフロー設計

このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。

よくある質問

Q1. 記録を取る時間がもったいないと言われたらどうしますか。

期間を1週間に区切り、対象も1〜2人に絞って始めます。15分単位の大まかな記録でよいことにすれば、負担は小さくなります。記録なしで見直すと、効果があったかどうかを確かめる方法がありません。

Q2. 重要事項説明書のひな形を使えば、準備時間は大きく減りますか。

書式や定型文の作成時間は減らせます。一方で、35条1項の各号の事項は物件ごとに調べて書くものなので、調査の時間はひな形では減りません。ひな形の文言が個別の物件に合っているかを確かめる時間も必要です。

Q3. IT重説にすれば準備は楽になりますか。

来店の日程調整や移動の時間は減る場合があります。ただし、国土交通省の実施マニュアルでは、記名済みの重要事項説明書の事前送付や、相手方のIT環境の確認などが示されています。新しい準備が加わる点も含めて比べてください。

Q4. 空いた時間を売上に換算して社内で説明してもよいですか。

換算すること自体はできますが、時間の計算とは分けて示すのが無難です。空いた時間が営業に使われたかは別に確かめる必要があり、売上には相場や季節など他の要因も影響します。

出典(本文で参照している資料)

この記事は2026年10月7日時点の情報です。

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