家賃滞納の回収は、早めの連絡と記録、期限を区切った書面の催告、裁判所の手続きという順に進めるのが基本で、鍵の交換や荷物の撤去のような実力行使はしないことが前提です。この記事では、民法の時効と解除の条文、支払督促と少額訴訟の仕組み、自力救済についての判例、家賃債務保証業者の登録規程、弁護士法72条との関係を、一次資料に沿って整理します。
滞納から回収・明渡しまでの全体の流れ
家賃滞納への対応は、話し合いで払ってもらう段階と、法律上の手続きに進む段階に分かれます。どの段階でも、貸主(オーナー)が権利を持つ人であり、管理会社は管理委託契約の範囲で動く、という前提は変わりません。
| 段階 | 主にやること | 根拠・資料 |
|---|---|---|
| 支払期日を過ぎた直後 | 入金の確認、本人への連絡、やり取りの記録 | 賃貸借契約書の支払期日・支払方法 |
| 連絡がつかない、約束が守られない | 連帯保証人や家賃債務保証業者への連絡 | 保証契約・保証委託契約 |
| 不払いが続く | 相当の期間を定めた書面の催告と、期間内に払われないときの解除の意思表示 | 民法541条 |
| 催告しても払われない | 支払督促、少額訴訟、通常訴訟 | 裁判所の手続き |
| 解除後も退去しない | 建物明渡請求訴訟と、判決に基づく強制執行 | 判決などの債務名義 |
何日目に何をするかを定めた法令はありません。社内で日数の目安を決めておくと、担当者によって対応がぶれにくくなります。次の表は手順の例で、日数は各社の契約や体制に合わせて決めるものです。
| 目安(例) | やること(例) |
|---|---|
| 支払期日の翌営業日 | 入金を確認し、未入金の人へ電話・メッセージで確認の連絡 |
| 連絡がつかない日が続いたとき | 連帯保証人・保証会社へ連絡。保証会社への届出期限は保証委託契約で確認 |
| 約束の日に入金がないとき | 貸主と今後の進め方を相談し、書面での催告を準備 |
| 催告の期限を過ぎたとき | 貸主の判断で、弁護士への相談や裁判所の手続きへ |
最初の連絡と記録の残し方
滞納の理由は、引き落とし口座の残高不足のような単純なものから、失業や病気のように生活の事情によるものまでさまざまです。最初の連絡は、責めるよりも事実の確認から入るほうが、事情を話してもらいやすくなります。
最初の連絡で確認すること
- 未入金の月と金額(共益費や駐車場代を含むか)
- 入金できなかった理由
- いつ、いくら払えるか(日付と金額を具体的に)
- 今後の連絡先と、連絡がつきやすい時間帯
記録に残すこと
連絡した日時、方法、相手、話した内容、約束した支払日と金額を、その日のうちに記録します。支払いの約束は、口頭だけでなくメッセージや書面でも確認しておくと、後で手続きに進むときの資料になります。記録は、オーナーへの報告や、後で述べる時効の管理にも使います。
連絡の時間帯と方法
夜間や早朝の電話、短い間隔での繰り返しの連絡、勤務先への連絡、近所に分かる形での張り紙は避けます。家賃債務保証業者には、後で述べるとおり「私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」を避けるルールがあり、管理会社が督促するときも同じ考え方で線を引くのが安全です。
連帯保証人と家賃債務保証業者への連絡
連帯保証人
個人が連帯保証人になる賃貸借の保証は、民法465条の2の「個人根保証契約」に当たり、極度額(保証する上限額)を定めなければ効力を生じません。連絡する前に、保証契約書に極度額の記載があるか、保証の範囲に何が含まれるかを確認します。
家賃債務保証業者(保証会社)
保証会社を使っている場合は、保証委託契約に定められた届出の期限や必要書類を守ることが大切です。期限を過ぎると保証の対象外になる契約もあるため、契約ごとの条件を一覧にしておくと漏れを防げます。
国土交通省は、家賃債務保証業者の登録制度を告示(家賃債務保証業者登録規程、平成29年10月25日施行)で設けています。国土交通省の案内では「任意の登録制度であり、登録をしなくても家賃債務保証業を営むことは可能」とされています。登録を受けた業者には、次のようなルールがあります。
- 11条(業務処理の原則):賃借人その他の者の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をし、又はその権利利益を侵害することがないよう、適正に業務を行う。
- 14条・15条:虚偽告知等の禁止、誇大広告等の禁止。
- 17条・18条:保証委託契約の締結前と締結時の書面の交付。
- 19条:求償権の行使時の書面の交付等。
保証会社が貸主に代わって支払った(代位弁済した)後は、入居者に請求するのは保証会社です。管理会社が同じ月の家賃を二重に請求しないよう、代位弁済の範囲と日付を記録しておきます。
内容証明による催告と契約の解除
内容証明と配達証明
日本郵便は、内容証明を「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度」と説明しています。相手に届いたことまでは証明しないため、配達した事実を証明する配達証明を付けて送るのが一般的です。ただし配達証明も、実際に受け取った人が誰かまでは証明しません。
催告の書面に書くこと
- 差出人(貸主)と宛先(借主)、物件の表示
- 未払いの月と金額の内訳、合計額
- 支払期限(相当の期間)と振込先
- 期限内に支払いがないときは、賃貸借契約を解除するという意思表示
- 事情があるときの連絡先
解除できるかどうかの考え方
民法541条は、相手が債務を履行しないときに、相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がなければ契約を解除できると定めています。ただし、期間を過ぎた時点の不履行が契約と取引上の社会通念に照らして軽微なときは、解除できません。
賃貸借では、判例上、当事者の信頼関係が壊れたといえるかどうかも問われます。最高裁昭和39年7月28日判決は、賃料不払いを理由とする家屋賃貸借の解除が信義則に反し許されないとされた事例です。この事件では、借主が長年賃貸借を続けてきたことや、貸主が修繕に応じず借主が自費で修繕したことなどの事情が考慮されています。最高裁昭和51年12月17日判決も、賃料1か月分の不払いについて、信頼関係が当然解除を相当とする程度にまで破壊されたとはいえないとして、和解条項に基づく当然解除を認めませんでした。
何か月分の滞納があれば解除できる、という数字は条文にはありません。滞納の期間と金額、それまでの支払いの状況、連絡への対応などを記録しておき、解除を検討する段階で弁護士に相談するのが確実です。
支払督促・少額訴訟・通常訴訟の使い分け
| 手続き | 対象 | 特徴(裁判所の説明) |
|---|---|---|
| 支払督促 | 金銭の支払いなどを求める場合に限る | 相手の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てる。書類審査のみで、手数料は訴訟の半額。相手が異議を申し立てると訴訟の手続きに移る |
| 少額訴訟 | 60万円以下の金銭の支払いを求める訴え | 原則1回の審理で解決を図る。同じ簡易裁判所で1人年10回まで。被告の申立てなどで通常訴訟に移ることがある |
| 通常訴訟 | 金額の上限なし。建物の明渡しも求められる | 未払い家賃と明渡しをまとめて請求できる。判決は強制執行の根拠になる |
支払督促
相手が異議を申し立てなければ、債権者の申立てにより支払督促に仮執行宣言が付され、強制執行を申し立てられるようになります。相手は、仮執行宣言の付された支払督促を受け取ってから2週間以内であれば異議を申し立てられ、異議があると請求額に応じて地方裁判所か簡易裁判所の訴訟手続きに移ります。支払督促は金銭などの請求に限られるため、明渡しを求める手続きには使えません。
少額訴訟
判決に対する不服申立ては異議に限られ、控訴はできません。また、判決言渡しの日から3年を超えない範囲で、支払猶予や分割払いの判決がされることがあります。未払いの金額が小さく、事実関係に争いが少ない場合に向いた手続きです。
明渡しが必要な場合
解除後も退去しない場合は、建物明渡請求訴訟を起こし、判決などに基づいて強制執行を申し立てます。手続きの費用や期間は事案によって大きく変わるため、オーナーには「判決を得ること」と「未払い分を実際に回収できること」は別だという点を、手続きに入る前に説明しておきます。
管理会社がしてはいけないこと
鍵の交換や荷物の撤去(自力救済)
最高裁昭和40年12月7日判決は、「私力の行使は、原則として法の禁止するところ」であり、法律に定める手続きによっては権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難な、緊急やむを得ない特別の事情がある場合に限り、必要な限度を超えない範囲で例外的に許される、と述べています。この事件は滞納の事件ではありませんが、裁判所の手続きによらずに権利を実現することへの考え方として、家賃滞納の場面にも当てはまります。
滞納を理由に鍵を交換して部屋に入れなくする、室内の荷物を運び出す、といった行為は、この「特別の事情」に当たらない限り許されません。損害賠償を請求されるおそれがあり、事情によっては刑事上の責任を問われるおそれもあります。
保証会社の「明渡しみなし」条項についての判例
最高裁令和4年12月12日判決(令和3(受)987)は、家賃債務保証業者の契約書にあった次の2つの条項を、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に当たると判断しました。
- 賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したときに、連帯保証人(保証会社)が無催告で賃貸借契約を解除できるとする条項
- 賃料等の支払を2か月以上怠り、連絡がとれず、電気・ガス・水道の利用状況などから相当期間使っていないと認められる場合などに、賃借人が明示的に異議を述べない限り明渡しがあったものとみなせるとする条項
契約書に「連絡が取れなければ明け渡したものとみなす」と書いてあっても、それだけで荷物を処分してよいことにはなりません。保証会社と提携している場合も、こうした条項が残っていないか確認しておきます。
管理会社が貸主の代わりにできる範囲
弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています。
管理委託契約に基づいて入金を確認し、支払いを案内する日常の業務と、争いになっている事件で貸主に代わって交渉・和解したり、管理会社の名義で契約解除の意思表示をしたりすることは、分けて考える必要があります。どこからが72条の問題になるかは事案ごとに判断されるため、相手が支払いを拒んでいる、解除を検討している、といった段階になったら、書面は貸主の名義で出すか、弁護士に依頼するのが安全です。
訴訟の代理人は、原則として弁護士です(民事訴訟法54条1項)。例外として、簡易裁判所では裁判所の許可を得て弁護士でない者を訴訟代理人にできます。また、法務大臣の認定を受けた司法書士は、訴訟の目的の価額が140万円を超えない簡易裁判所の手続きで代理ができます(司法書士法3条1項6号・2項、裁判所法33条1項1号)。
時効と遅延損害金
家賃の消滅時効
民法166条1項により、債権は、権利を行使できることを知った時から5年間、又は権利を行使できる時から10年間行使しないと、時効によって消滅します。家賃は月ごとに支払期日が来るため、通常は支払期日ごとに時効を考えます。
催告(内容証明など)をすると、その時から6か月を経過するまで時効は完成しません(150条1項)。ただし、催告で猶予されている間に再び催告しても、猶予の効力はありません(同条2項)。また、借主が債務を認めると(承認)、時効はその時から新たに進行します(152条1項)。分割払いの合意書のように、借主が未払いを認める書面を残しておくことには、この点でも意味があります。
遅延損害金
金銭債務の不履行による損害賠償の額は、遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率で定め、約定利率がそれを超えるときは約定利率によります(民法419条1項)。法定利率は404条で年3%とされ、3年ごとに見直されます。法務省によると、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率も年3%です。
契約で遅延損害金の利率を定める場合、消費者契約では、年14.6%の割合で計算した額を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項2号)。
当社の業務クラウド「ウルスタくん」では、物件・入居者の管理と入金の記録ができます。未入金の確認や、オーナーへの送金明細の作成に使えます。
関連して、入居前の段階で滞納のリスクを確かめる方法は入居審査マニュアルで、退去時の敷金の精算は退去立会いマニュアルで整理しています。
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. 家賃を何か月滞納したら契約を解除できますか。
条文に何か月という決まりはありません。民法541条の催告と解除の要件に加えて、判例上、信頼関係が壊れたといえるかどうかが問われます。滞納の期間や金額、それまでの経緯によって結論が変わるため、解除を検討する段階で弁護士に相談してください。
Q2. 保証会社が代位弁済した後も、管理会社が入居者に督促してよいですか。
代位弁済された分は、入居者に請求する立場が保証会社に移ります。管理会社が同じ分を請求すると二重請求になるおそれがあるため、代位弁済の範囲を確認し、保証会社と役割を分けて対応します。
Q3. 連帯保証人に請求するときの注意点はありますか。
個人の連帯保証人との契約は、極度額を定めていなければ効力を生じません(民法465条の2)。請求の前に、保証契約書の極度額の記載と保証の範囲を確認します。
Q4. 夜逃げのような状態で、室内に荷物が残っています。片付けてよいですか。
借主の同意なく荷物を処分することは、自力救済に当たるおそれがあります。借主本人から解約と残置物の扱いについて書面で同意を得るか、明渡しの判決などを得て強制執行の手続きで進めます。
Q5. 少額訴訟と支払督促は、どちらを選べばよいですか。
相手が争わないと見込まれ、書類だけで進めたいなら支払督促、60万円以下で1回の審理で決着をつけたいなら少額訴訟が候補になります。どちらも相手の対応によって通常の訴訟に移ることがあります。明渡しも求める場合は通常訴訟です。
Q6. 分割払いに応じるときは、何を書面にしておけばよいですか。
未払いの総額と内訳、毎回の支払日と金額、支払いが遅れたときの扱い、借主が未払いを認める文言を書き、貸主と借主の双方が署名します。借主が債務を認める書面は、時効の更新(民法152条)の点でも意味があります。
出典(本文で参照している資料)
- 民法(e-Gov法令検索):150条、152条、166条、404条、419条、465条の2、541条
- 法務省「法定利率」
- 弁護士法(e-Gov法令検索):72条
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索):54条
- 司法書士法(e-Gov法令検索):3条
- 裁判所法(e-Gov法令検索):33条
- 消費者契約法(e-Gov法令検索):9条、10条
- 裁判所「支払督促」
- 裁判所「少額訴訟」
- 最高裁昭和39年7月28日判決(民集18巻6号1220頁)
- 最高裁昭和51年12月17日判決(民集30巻11号1036頁)
- 最高裁昭和40年12月7日判決(民集19巻9号2101頁)
- 最高裁令和4年12月12日判決(令和3(受)987)
- 国土交通省「家賃債務保証業者登録制度について」
- 国土交通省「家賃債務保証業者登録規程」
- 日本郵便「内容証明とは、どのような制度ですか?」
- 埼玉県「配達証明付き内容証明郵便について」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
