住宅ローンの提案が担当者によって変わるのは、知識の差よりも、「どの資料で確かめたか」「お客様に何を伝えたか」を残す決まりがないことから起きやすい問題です。金融機関の審査基準は、各金融機関が公開している範囲でしか分かりません。フラット35の基準は住宅金融支援機構が公表しています。宅建業者がローンのあっせんをする場合は、宅建業法35条1項12号の重要事項説明と、37条1項9号の契約書面の記載が必要です。この記事では、確かめる資料、計算の仕方、法令上の手続き、担当者任せにしない仕組みを整理します。
ローン提案が担当者で変わる理由
同じお客様の相談でも、担当者によって勧める金融機関や借入額が違う、ということが起きます。理由として考えられるのは次の3つです。
- 確かめる資料が決まっていない:ある担当者は金融機関の公開情報を読み、別の担当者は以前の取引の記憶で話している、という状態です。記憶は古くなります。
- 聞く項目が決まっていない:勤務の形態、ほかの借入れ、自己資金など、審査に関係する事情を聞くかどうかが担当者次第になっています。
- 伝えた内容が残っていない:試算の前提や、審査の結果について何を伝えたかが記録になく、後で食い違いが起きても確かめられません。
どれも、担当者の能力より仕組みの問題です。担当者が辞めたときに、その人が持っていた判断の材料が会社に残らないことも、同じ原因から起きます。
金融機関の審査について分かること
融資をするかどうか、いくらまで貸すかは、金融機関が審査で決めます。審査の詳しい基準は各金融機関の内部のもので、外から分かるのは、各金融機関がウェブサイトなどで公開している商品の条件(申し込める人の条件、借入期間、完済時の年齢の上限など)の範囲です。提案では、公開されている条件を根拠にし、それ以外のことを「この銀行は通りやすい」のように言わないようにします。
審査でどのような点が考慮されるかの全体像は、国土交通省が毎年公表している「民間住宅ローンの実態に関する調査」で確かめられます。令和7年度の結果報告書(令和8年6月)では、融資を行う際に考慮する項目として、完済時年齢、健康状態、借入時年齢、年収、勤続年数、返済負担率、担保評価などが挙げられ、回答した金融機関の多くがこれらを考慮していると答えています。ほかに、雇用形態、カードローンなどの他の債務の状況や返済履歴といった項目も調査の対象になっています。
この調査は金融機関全体の傾向を示すもので、個別の金融機関の基準を示すものではありません。お客様への説明では「一般にこうした点が見られます」と伝えるにとどめ、具体的な条件は申し込む金融機関の公開情報で確かめます。確かめたときは、資料の名前と確認した日を記録します。
フラット35の利用条件を確かめる
フラット35の利用条件は、住宅金融支援機構のウェブサイトで公表されています。2026年4月1日現在として掲載されている主な条件は次のとおりです(2026年10月7日に確認)。
| 項目 | 公表されている条件(要旨) |
|---|---|
| 申込みできる人 | 申込時の年齢が満70歳未満の人(親子リレー返済を使う場合を除く)。日本国籍の人、永住許可を受けている人、特別永住者 |
| 総返済負担率 | 年収に占める、すべての借入れの年間合計返済額の割合が、年収400万円未満は30%以下、年収400万円以上は35%以下 |
| 総返済負担率に含む借入れ | フラット35のほか、ほかの住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、カードローン(クレジットカードのキャッシング、分割払い・リボ払いによる購入を含む)など |
| 資金の使いみち | 本人または親族が住む新築住宅の建設・購入、または中古住宅の購入 |
| 借入額 | 100万円以上1億2,000万円以下(1万円単位)で、建設費または購入価額以内 |
| 借入期間 | 15年以上(条件により10年以上)で、「80歳−申込時の年齢」と35年のいずれか短いほうが上限 |
| 住宅 | 住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合する住宅。床面積は一戸建てが50㎡以上、マンションが30㎡以上 |
条件は改定されることがあります。お客様に説明する前に、その時点の掲載内容を確かめ、確認した日を提案の記録に残します。物件が技術基準に適合するかは、物件の検査を受けて確かめる必要があります。売買の候補物件を提案する段階で、検査が必要になることと、その手配に時間がかかることを伝えておきます。
投資用の物件は、資金の使いみちの条件から外れるため、フラット35の対象になりません。
返済負担率の計算例
返済負担率は、提案の前にお客様と一緒に確かめておきたい数字です。仮の数字で計算例を示します。
例1 年収500万円の場合
- 希望する住宅ローンの返済額:月11万円(年間132万円)
- いま返している自動車ローン:月2万円(年間24万円)
- 総返済負担率=年間合計返済額÷年収×100=(132万円+24万円)÷500万円×100=31.2%
年収400万円以上の基準である35%以下に収まっています。ただし、自動車ローンを数えずに住宅ローンだけで計算すると26.4%となり、実際より余裕があるように見えます。ほかの借入れを聞き漏らすと、試算と審査の結果が食い違う原因になります。
例2 年収380万円の場合
- 希望する住宅ローンの返済額:月8万5,000円(年間102万円)
- カードの分割払い:月1万5,000円(年間18万円)
- 総返済負担率=(102万円+18万円)÷380万円×100=約31.6%
年収400万円未満の基準である30%以下を上回ります。年収が400万円を境に基準が変わることを知らないと、「35%以下なので大丈夫です」と誤って伝えてしまいます。
この計算は目安です。審査で使われる返済額の計算方法や年収の取り方は、機構や金融機関の案内に従います。お客様には試算であることを伝え、結果を約束する言い方はしません。金利の動きが借入可能額にどう響くかは金利上昇と住宅購入者の借入可能額、ローンの種類の比べ方は住宅ローンの比較で整理しています。
宅建業者がローンのあっせんで守ること
重要事項説明に、あっせんの内容と不成立のときの措置を入れる
宅建業法35条1項12号は、重要事項説明の項目として「代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」を定めています。国土交通省の重要事項説明書の様式例(売買・交換)では、この項目に、業者による金銭貸借のあっせんの有無、融資取扱金融機関、融資額、融資期間、利率、返済方法、保証料、ローン事務手数料、その他、金銭の貸借が成立しないときの措置を書く欄があります。
説明は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士が書面を交付して行います(同条1項)。説明のときは宅建士証を提示し(同条4項)、書面には宅建士が記名します(同条5項)。
契約書面に、不成立のときの措置を書く
宅建業法37条1項9号は、売買・交換の契約書面の記載事項として「代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」を定めています。重要事項説明書に書いた措置と、契約書に書いた措置(いわゆるローン特約の内容)が食い違っていないかを、契約前に照らし合わせます。なお、同条2項が貸借の契約書面の記載事項として挙げる号に、この9号は含まれていません。
広告と勧誘で言い過ぎない
宅建業法32条は、広告をするときに、代金や借賃の支払方法、代金に関する金銭の貸借のあっせんなどについて、著しく事実に相違する表示や、実際より著しく優良・有利であると誤認させる表示を禁じています。ローンを使った月々の支払額を広告に載せるときは、試算の前提を示します。
勧誘の場では、相手の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げない、または事実でないことを告げることが禁じられています(同法47条1号)。重要事項説明の項目であるローンのあっせんの内容や、代金の支払方法もこれに含まれます。手付について貸付けその他の信用の供与をして契約を誘うことも禁じられています(同条3号)。正当な理由なく、判断に必要な時間を与えないことも禁じられています(同法施行規則16条の11第1号ロ)。
審査の結果を決めるのは金融機関です。「この年収なら問題なく通ります」のように、結果を約束する言い方はしません。事前審査の結果についても、その扱いは金融機関ごとの案内で確かめて伝えます。
担当者任せにしない仕組み
ここで示すのは筆者が考える手順の例です。会社の規模に合わせて、できるところから取り入れます。
確かめる資料の一覧を作る
よく扱う金融機関ごとに、公開されている商品の条件のページと、フラット35の利用条件のページを一覧にします。一覧には確認した日を書き、条件が変わっていないかを定期的に確かめる人を決めます。担当者は記憶ではなくこの一覧を見て話します。
聞く項目を決める
勤務の形態と勤続年数、年収とその確かめ方、ほかの借入れ(自動車ローン、カードローン、分割払いを含む)、自己資金、借入時と完済時の年齢など、審査で考慮される項目に対応した聞き取りの用紙を作ります。聞いた内容は、ローンの手続きに必要な範囲で扱い、宅建業法45条の秘密を守る義務に沿って管理します。
試算と説明を記録に残す
試算に使った金利、期間、借入額、ほかの借入れの扱い、お客様に伝えた内容を、日付つきで残します。後で条件が変わったときに、何を前提に話したかを確かめられます。
重要事項説明書と契約書を照らし合わせる
あっせんする場合の融資の条件と、ローンが成立しないときの措置を、重要事項説明書と契約書で一致させます。照らし合わせる人は、作った人とは別の人にします。
月に1回、案件を振り返る
審査が通らなかった案件、条件が変わった案件を中心に、どの資料で何を確かめたか、聞き漏らしがなかったかを振り返ります。結果だけでなく手順を見ることで、次の案件に生かせます。振り返りの進め方は営業プロセス監査を月1回行う方法でも整理しています。
ローン提案の確認表
| 確認すること | 根拠・資料 |
|---|---|
| 金融機関の条件を、公開されている資料で確かめ、確認日を記録したか | 各金融機関の公開情報 |
| フラット35を提案する場合、その時点の利用条件を確かめたか | 住宅金融支援機構の利用条件のページ |
| ほかの借入れを含めて返済負担率を計算したか | お客様からの聞き取り |
| 試算であることと前提を伝えたか | 提案の記録 |
| あっせんの内容と不成立のときの措置を、重要事項説明書に書き、宅建士が説明したか | 宅建業法35条1項12号 |
| 不成立のときの措置を契約書面に書き、重要事項説明書と一致しているか | 同法37条1項9号 |
| 広告の支払例に前提を書いたか | 同法32条 |
| 審査の結果を約束する言い方や、判断を急がせる言い方をしていないか | 同法47条1号、同法施行規則16条の11第1号ロ |
このテーマの全体像は「不動産の業務効率化ガイド2026|5段階の進め方と法令チェックポイント・関連記事一覧」にまとめています。
よくある質問
Q1. お客様に「どの銀行が通りやすいですか」と聞かれたら、どう答えますか。
審査の結果は金融機関が決めるため、通りやすさを約束することはできません。各金融機関が公開している条件を一緒に確かめ、お客様の事情がその条件に合うかを説明します。
Q2. 投資用の物件でもフラット35は使えますか。
住宅金融支援機構が公表している資金の使いみちは、本人または親族が住む住宅の建設・購入です。投資用の物件は対象になりません。投資用のローンは、各金融機関の公開している条件で確かめます。
Q3. 宅建業者がローンをあっせんしない場合も、重要事項説明で触れる必要はありますか。
国土交通省の重要事項説明書の様式例には、業者による金銭貸借のあっせんの有無を書く欄があります。あっせんしない場合も、欄を空けたままにせず、あっせんしないことが分かるようにしておくと、お客様との認識の違いを防げます。お客様がローンを使う予定であれば、契約書のローン特約の内容もあわせて確かめておきます。
Q4. 担当者が辞めた後、お客様から以前の試算について聞かれたらどうしますか。
試算と説明の記録が残っていれば、その前提をもとに説明できます。記録がない場合は、改めて条件を確かめて試算し直し、以前の試算との違いを説明します。こうした場面に備えて、記録を残す決まりを作っておきます。
出典(本文で参照している資料)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第32条・第35条・第37条・第45条・第47条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第16条の11)
- 国土交通省「重要事項説明書の様式例」(令和8年4月1日以降、売買・交換「金銭の貸借のあっせん」欄)
- 国土交通省「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」(令和8年6月)
- 住宅金融支援機構「【フラット35】ご利用条件」
この記事は2026年10月7日時点の情報です。
